翌朝
氷牙が部屋に戻った後、玉藻とジャンヌは結界の見回りと言って部屋から出て行ったきり帰ってこず、メーヤもいったんバチカンに戻ると言って成田行きの最終バスに乗って帰っていった。アリアの容態もメーヤが処置した後はすぐに落ち着いてレキが様子を見たときには「ももまん・・・」なんて寝言を言いながらにやけ顔でよだれを垂らしてたらしい・・・
玉藻も結界があるとは言っていたが、念のためにと昨夜は俺とレキも自室のソファーに座ったまま仮眠をとって警戒態勢を取っていたが結局何もないまま朝になった。
「もう朝か・・・どうやら眷属の連中は本当に全員引き上げたらしいな・・・」
そう安堵して朝食の準備でもするかと立ち上がると
『なっ・・・なぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???』
隣から響いてきたアリアの叫び声で
「「――――――ッ!!??」」
俺とレキはすぐにキンジの部屋に駆け付けた
「アリア、キンジ!!敵襲か!?」
氷牙とレキがキンジの部屋のリビングに駆け付けると
「こ・・・この・・・バカキンジィィィッッ!!!!!!!!!!!」
そう言いながらアリアはキンジの顔面に蹴りを入れていた
「なんであんたと二人きりでもう朝なのよ!!あたしに何したか包み隠さず詳らかに白状しなさい!!」
「「・・・え?」」
何言って・・・いや、まさか・・・
「アリア?お前昨日のこと覚えてないのか?」
「あ!?氷牙!?ええそうよ!あたしには昨日の記憶がない!そしてリビングにはこんなに酒瓶が散乱してる!!これはたらしの常套手段よ!!よくもやってくれたわね!!風穴!!風穴20連射!!」
そう言いながら酒瓶の散らかったリビングを指して顔を真っ赤にしてキンジにつかみかかる昨日の記憶が抜けてると言うアリア、そして救いを求める目でこちらを見るキンジを見て、アリアがどんな思い込みをしてるのか俺は察した・・・
なので・・・
「いや?お前のガバメントじゃ2丁合わせても16発しかないだろ?残りの4発はどこから出すんだ?」
と先ほどの会話で気になった事を聞いた
「お前そんなの聞く事よりも大事なことがあるだろ!!事情を説明してアリアを止めてくれ!!」
「そうよ氷牙!!包み隠さず答えなさい!!昨日何があったの!?」
そしてアリアが俺に問い詰めてきたので
「昨日?キンジのせいでアリアが傷ついて、俺がキンジを思いきりぶん殴ったくらいだな」
正直に、かつ明らかに誤解しかされないニュアンスで答えた
「え?傷!?」
アリアがそう言うとレキが手鏡を差し出し
「首の所です」
「く、首!?ま・・・まさか・・・」
そしてアリアは顔面蒼白になるとレキが差し出した手鏡をすかさずひったくり鏡に写った自分の首筋にあるヒルダによって噛まれた傷跡を見て
「ぎゃーーーーーー!!!!!!!」
悲鳴を上げその直後には赤鬼よりも恐ろしく真っ赤な形相でキンジを睨み
「セイッッ!!!」
そのままハイキックでキンジの体を打ち上げ
「何てこと!してくれたのよ!これじゃあ!今日!学校!行けない!じゃないっ!」
そう言いながらキンジを宙に浮かせたまま「!」一つにつきキンジに蹴りを一回入れてゆく
「付けるなら!もっと!後先考えて!つけなさいよ!この!エロ!バカ!キンジ!E!B!K!」
後先考えてって・・・てかそれなら後先考えていれば付けてもいいってことかよ?
そう思っているとアリアは最後にソファーを蹴って飛び上がり
「風穴ミサイルッ!!!!」
その名のとおりミサイルのようなドロップキックをキンジの顔面に炸裂させた・・・てか今の連撃、数えたら確かに20連入ってたな
そしてアリアは着地と同時に
―――どどどどどどっ、ばたん!!―――
そのまま部屋に引きこもってしまった・・・
そしてアリアの空中殺法の餌食になったキンジは・・・
「・・・・・・・・・・・」
最後のキックが顔面にまともに入ったのか・・・完全に伸びていた
氷牙はアリアの部屋のドアのノックすると
「アリア―?お前今日学校休む気か?」
『当たり前じゃない!!こんなので学校行けないわよ!!』
と聞こえてきた・・・こりゃ今日は完全にひきこもる気だ・・・
「仕方ないか・・・レキ、悪いけど今日は学校休んでアリアと一緒にいてやってくれないか?今は一人にするのは危険だし・・・同じ女子同士の方が何かと相談しやすそうだしな・・・」
「わかりました、アリアさんの事はお任せください」
「じゃあアリア?俺達はもう行くから、朝食はテーブルの上に用意しとくから冷める前に食えよ?後スペアマガジン補給しとけ?」
そう言うと氷牙は朝食をテーブルに用意しておくと伸びたキンジの足を持ちそのままズルズルと引きずって部屋を出た
その際にアリアの部屋から
『え?あれ?いつ撃ったっけ?』
と言う声が聞こえてきた
やっぱりあの時の記憶が無いのか・・・だが今は・・・その方がいいのかもしれないな・・・
そして学校に着くと
「・・・なあ氷牙?」
武藤が声をかけてきた
「あ?武藤?どうした?」
「今日はアリアもレキも休みか?」
「ああ、ちょっと事情があってな」
ちなみに理子もいない、まあアイツのサボりは今に始まったことじゃない
「・・・それはもしかしてキンジがあんな奇天烈な事になってることに何か関係あるのか?」
そう言ってキンジを見れば・・・
体中ボロボロで背中に箒を突っ込んで背筋を固定され、目はセロテープで無理矢理開かれ白目を剥いた状態で席に座っていた
「・・・何でキンジの奴ズダボロになって背中に箒突っ込んで白目向いて座ってるんだ?」
「さあ?新手の健康法じゃねえの?」
「ていうか朝お前がキンジを引きずって登校して来たのを見た奴がいるそうなんだが・・・」
「何かの見間違いだろ?」
「・・・逆に何をどう見間違えばそう見えるのか教えてほしいぜ・・・」
と、他愛ない(?)朝の会話をしていると
「みなさんおはようございます」
高天原先生が入ってきたので
「ほらHR始まるぞ?」
俺達は会話を止め席に戻った
「ええと・・・遠山君?どうして背中に箒なんか入れてるのかしら?」
「最近流行りの健康法だそうです、気にしないでください」
「そ、そうですか・・・最近の流行は変わってますね・・・」
そして気を取り直すと
「今日から転校生がいます、本当は2人いるんですが1人は手続きの関係で数日遅れて来るそうなので先に1人を紹介します」
とHRで高天原先生のサプライズが飛び出した
この時期に転校生?それも2人も?なんか嫌な予感しかしないな・・・
そう思ってると教室のドアが開き転校生が入ってきて
「おっ!すっげえ可愛い娘じゃん!!」
武藤を初めとした男子は転校生を見て嬉しそうだが・・・
「―――ッ!!」
氷牙は顔をしかめるほかなかった・・・なぜならその娘は・・・
「えーとそれでは自己紹介を―――あ、あらっ?」
転校生の少女を見たと同時に氷牙は立ちあがり前に出るとそのまま少女の前に立った
「く、九狂君?いきなりどうしたんですか?」
高天原先生は驚いているが氷牙は気にせず少女に問いかけた
「・・・本当に・・・お前なのか?」
「うん、言ったでしょ?君に会いに来たんだって、それに玉藻様にも伝言お願いしたけど聞いてない?」
「いや、聞いてるよ。まさかこんな形で会いに来るとは思わなかったけどな・・・」
「驚いた?」
「まあな・・・俺もずっとお前に会いたくて仕方がなかったんだ・・・なのにすれ違うばかりでまともに話もできなかったんだ・・・」
そして・・・
「で?わざわざ武偵校に編入して何のつもりだ?――凛香」
氷牙がその桜髪の少女の名前を口にした瞬間、凛香は驚いて目を見開いた
「―――っ!?私の名前・・・やっぱり思い出していたんだ・・・」
「え?九狂君?どうして彼女の名前を知っているんですか?」
「知っているに決まってんだろこいつに――ッ!?」
氷牙はそこで言葉を止めざるを得なかった
なぜなら・・・
凛香が氷牙に抱き着いてきたのだ
「お、おい・・・」
「うれしいよ・・・やっと私の名前・・・呼んでくれた・・・」
「・・・まあ・・・思い出したのはつい最近だけどな・・・とりあえず離れてくれないか?俺、嫁いるんでな・・・」
「あ!ご、ごめん・・・うれしくて・・・」
そして凛香は氷牙から離れると
「それで?・・・何でわざわざ編入なんてしてきたんだ?」
「うーん・・・話したいけど話すと長くなるから・・・続きは休み時間でいい?」
「まあ・・・いいけど・・・それよりもだ・・・」
氷牙が目で「周りを見て見ろ」と言うので凜香も周りを見回すと
「え!?なに!?九狂君、転校生と知り合い!?」「会話からして・・・あの子、九狂に会いに転校してきたみたいだけど・・・」「名前呼ばれただけで抱きついたりして・・・まさか元カノとか!?」「レキ一筋のあいつに!?」「あの子、レキから九狂を略奪する気!?」「いや・・・九狂の奴も会いたかったって言ってるからあいつがあの子をものにする気じゃ・・・」「これから二股する気!?」「九狂にも遠山のたらしが感染したのか・・・」「レキかわいそう・・・」「ますますキンジ×氷牙が遠くなっちゃうじゃない・・・」
クラスメイト達はざわつきまくっていた・・・そりゃあんなことすればあたり前だ・・・
「あんなマネまでしたせいで収拾つかなくなっちまったぞ・・・どうする気だ?」
「あ・・・ごめんね・・・感激してつい・・・私が何とかするから席戻ってて」
「これ・・・何とかできんのか?」
「うん、これくらいなら任せて」
「ならどうするかお手並み拝見させてもらうよ・・・」
氷牙はそう言って席に戻った
そんな氷牙に「ありがとう」と言う目を向けると
「改めまして・・・姫神 凛香です。専門は衛生科。よろしくお願いします」
と聞くだけで癒されるような優しい声で凛香は自己紹介をした
そして・・・
「見苦しいところを見せてすいません。『今のは気にしないでください』」
と最後辺りを頭に響くような強い口調で言うと・・・
「おお、わかった!そんじゃ質問!!彼氏はいますか!?」
「うーん・・・気になる人はいるけど今はいないかな?」
と武藤を初めクラスの連中は先程のやり取りなどまるでなかったかのように質問した
(――ッ!?みんなどうしたんだよ!?さっきのはいそうですかって流すところじゃないだろ!!)
キンジはどうなんだ!?と思ってキンジを見るが・・・
「・・・・・・・・・・・・」
キンジはいまだに気絶中だった・・・
クソッ!役立たずの女たらしが!!
そして自己紹介と質問を終えると
「ええと、それじゃあ席は・・・あ、あら?姫神さん?」
高天原先生を無視して凛香はこちらに、正確には氷牙の隣(レキとは反対側)の席に座っていた男子の前に立つと・・・
「ねえ君?」
「は、はい?何ですか?」
「『席、換わって』」
とまた頭に響くような声で尋ねると
「はい、どうぞ」
その男子は何の疑問さえ持つことはなく席を移動していった
そして空席になった俺の隣の席に着くと・・・
「じゃあ改めて、よろしくね?」
と挨拶をしてきた
「・・・後で今何をしたかも含めて全部聞かせてもらうからな・・・」
それだけ言うと氷牙は何も言うことはなく教科書を出した
そして休み時間になると氷牙はすぐさま立ち上がり・・・
「じゃあ凛香・・・付き合ってもらうぞ・・・」
「うん、いいよ。じゃあどこに行く?」
「屋上だ、あそこならこの時間は人はいない」
そう言って氷牙が教室を出ると凛香は素直に後ろをついてきた
そして教室を出ると
「おい氷牙?姫神さん連れてどこ行くんだ?」
武藤が訪ねてきたので
「ちょっと話をしてくるだけだから『気にしないで』」
凛香がそう言うと
「そっか、次はLHRで体育館集合だから間違えるなよ?」
と言って武藤は一足先に体育館へ向かった
それを見て俺はこいつの力が何なのか確信した
「・・・お前・・・声で人を操るのか・・・」
「・・・うん・・・と言っても複雑な命令は出来ないし、その人が本当にしたくないことはやらせられないし、相当力を消費するからあまり使い勝手は良くないんだけどね・・・特に君達みたいな強い精神力や魔力耐性を持つ人には効かないから尚更だね・・・」
と、凛香の持つ力の説明を受けながら俺達は屋上へと向かっていった
そして屋上の給水タンクの裏で話すことにした、ここなら人はまず来ないから密談をするなら最適だ
「で?凜香?今になって武偵校に編入してきて俺の前に現れて、一体どういうつもりなんだ?それに玉藻から聞いたけどお前・・・神の血が流れてるんだろ?悪魔の俺はどちらかと言えば敵なんじゃないのか?なのになんで俺を助ける?・・・そもそも・・・なんで俺を悪魔にしてまで力を与えて・・・この世界に転生させた?」
「そうだね・・・一つずつ答えていくよ。
まず私がここに現れたのは君を支えるために・・・君が悪魔の力に目覚めたとき、私は君の前に現れて君の力になろうと決めてたからだよ。それに玉藻様から聞いたなら分かると思うけど神と悪魔は全てが敵対してる訳じゃないよ、当然、魔族とも共存しようと考えている神族だっているよ。最も私はその中でも飛びぬけた共存派なんだけどね・・・」
「なるほどね・・・でもそれは悪魔を助けるという理由で俺個人を助ける理由じゃないだろ?俺個人にこだわる理由は何だ?」
「・・・私が君を助けるのは・・・私なりのせめてもの償いなんだ・・・」
「償い?なんの?」
「・・・一から説明するよ・・・私も・・・この世界に転生してきたんだ・・・」
「え!?」
「私は元々、輪廻を管理する女神だったんだ・・・生を終え還ってくる魂を浄化して再び現世に再誕させる、それが私の役目だった・・・けどある時、予期せぬ出来事が起きた・・・一つの魂が・・・完全に浄化される事なくこの世界に生まれ落ちてしまった・・・」
「・・・それが俺か・・・」
凛香は頷いて
「・・・本来なら君は武偵にすらなることはなく平穏な人生を送るはずだったんだ。
でも私のせいで君の魂は完全にリセットされることなくこの世界に生まれ落ちた。そのせいで君の運命は大きく歪まされてしまい・・・彼らと共に武偵として戦い続ける運命を強いられてしまった・・・
だから君を助けるのは私のせめてもの償いなんだ・・・君にこんな過酷な半生を送らせてしまったこと・・・そして人間ですら無くしてしまったこと・・・この先も何度も過酷な戦いに巻き込んでいく運命を背負わせてしまったことの・・・償いなんだ・・・」
「・・・償いか・・・そんなのお前が気にする必要は無いさ・・・だってこんな過酷な半生になるようにしたのは・・・他でもない俺自身なんだしな・・・」
「――っ!?それも思い出したの!?」
「ああ、と言ってもそこまでだ。それ以前の記憶、前世については何も覚えてないし・・・今さら知ろうとも思わない」
「え?」
「前世の俺は元の世界に絶望したままで死んだようだがそれは知った事じゃない。それに今さら知ったところで何の意味もない。俺の人生は俺だけのものだ。たとえそれが誰かに決められていたことでもそれが自分の意思と力で切り開いていった結果なら仕組まれたなんて誰にも言わせない!!」
「・・・それは大丈夫だよ・・・私たちが仕組んだのは君がこの武偵校に入学するところまで。元々の君には彼らと共に戦えるだけの力は無かった、だから前世の君と話し合った結果、君に戦う力を与えて彼らと出会うまでの運命を捻じ曲げて十分な技術と経験を積める半生を仕組んだんだ。それからの人生は紛れもなく君自身の手で切り開いた結果だよ」
「ならいいさ・・・それに・・・この力のおかげで俺は今まで戦えてきた、イ・ウーとも藍幇とも・・・そしてこれからも・・・眷属の連中とも戦える・・・皆を守れる・・・ならこの力を手にしたことも人間をやめたことも何も悔いはないさ。だからお前が気にする必要も何かを償う必要もない。この仕組まれた半生も決着を着けた今なら・・・戦うために必要だったんだって理解してるよ」
「・・・君は本当に優しいね・・・」
「割り切ってるかと言えばまた別の話になるがな。それに・・・素直に全部話してくれてよかったよ・・・もし逃げたり渋ったりしたら捕まえて拷問してでも聞き出すつもりだったからな」
「もう逃げたりも隠したりもしないよ・・・元々君が私の事を思い出した時はこうして君の前に現れて全てを話すつもりだった・・・そのために私もこの世界に転生して君をずっと影で見守っていた・・・そしてこれからは君の目の前で君の力になる・・・だから・・・」
「だから?どうする気だ?」
そう聞くと凛香は顔を赤くしながらもまっすぐ俺の目を見て
「だから・・・お願い・・・」
「私を・・・君のドレイにしてください!!」
いつかどこかで聞いた誰かの宣言とまったく逆の宣言をした
「・・・・・・・はぁ!?」