東方煩悩漢   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

今回はぬえちゃんとの決着回です。
あえてぬえちゃんにCVを当てるなら……

少し勝気な感じで佐倉綾音さん
少しおバカな感じで雨宮天さん
少しロリっぽい感じで小倉唯さん

こんなところでしょうか……

それではまたあとがきで。


第九十七話『わたし、あなた、この子たち』

 

「真の姿……?」

 

 鵺の言葉に横島は目を細める。疑っている、と言うよりはその行為の意味を考えているようだ。

 妹紅とレミリアは視線を交わすと、一人の少女の姿を思い浮かべた。幻想郷世界に於ける同一の存在、封獣ぬえ。真の姿とはもしかしたら……? と、二人は考える。

 

「我……ノ、理、性……ガ、アルウ、チニ……セメ、テ……最、期、ハ……」

「……なるほど」

 

 鵺の妖力が急激に高まっていく。横島は鵺の言に納得しつつ、それでも警戒は怠らない。口八丁手八丁など当たり前。特に美神除霊事務所のメンバーからすれば、息をするも同然だ。

 

「グル……ルルルルル……!!」

 

 鵺の身体が紫電を帯びる。やがて高まった妖気は黒雲を呼び、ゴロゴロと今にも雷が落ちてきそうな重低音を響かせている。

 

「天候まで……!?」

 

 天候すら変化させる鵺の底力に西条は戦慄し、冷や汗を流す。極まった鵺の妖気は一本の光の柱となって天へと昇り、雷雲へと姿を変える。そしてその光を受け取った雷雲は、極大の雷を鵺へと降り注がせた。

 

「ヒョオオオオオオオオッッッ!!!」

「うおおおおおおっ!?」

 

 落雷の閃光と轟音に皆は怯む。隙だらけ、とも言える状態であるが、皆一点を凝視し、目を離さない。雷の落ちた場所、もうもうと黒い煙の沸く、鵺のいた場所だ。

 

「────()()()以外にこの姿を見せるのは、初めてのことね」

 

 鈴の音の鳴るような声がした。先程とは違い、流れるようにスムーズな言葉の連なり。

 その声に、横島と幻想郷世界の少女たちには覚えがあった。

 

「この声……!」

「まさか、本当にあいつと同じなのか……?」

 

 疑惑は徐々に確信に変わりつつある。もし本当に同じ姿ならば、既に向こうで友好を築いている横島にはやりにくい相手となるだろう。

 

「……邪魔ね」

 

 その言葉と同時、鵺の身体から暴風のような妖気が吹き荒れ、黒煙を吹き飛ばす。

 

「────っ!!!」

 

 遂に現れたその姿に、皆は目を見張った。

 

「どうやら驚いているようね? ……まあ、無理もないわ」

 

 (せな)から生えたる異形の触手(つばさ)。槍状と鎌状と、三対六(まい)

 身に纏うのは混沌を凝縮したような、あらゆる色を混ぜ合わせたような、黒のワンピース。

 

「……そう、これが私。平安の時代、(みやこ)を恐怖に陥れた大妖怪!!」

 

 ────しかし、眼前の鵺の体格は、横島たちの知る“彼女”のそれとは少し違っていた。

 世界の違い。あるいは存在の違い、その両方か。全てが全て、全くの同じというわけではないらしい。

 

 内側からの圧力によって張り裂けそうな胸元。まるで冷蔵庫を連想させる分厚さは、見る者に要塞のような強靭さ、重厚さを思わせるに容易い大胸筋(おっぱい)だ。

 そこから下に視線をずらせば、服の上からでもはっきりと分かる、見事なまでの腹筋6LDK(おなか)。その艶めかしさすら感じる腹直筋の躍動には感動すら覚える。

 その下も更に凄い。ワンピースのスカート部分を押し上げる大腿筋(ふともも)だ。大地に根を下ろしたが如くどっしりとした安定感を感じさせるその威容。膝を介してまた盛り上がる第二の心臓たる下腿三頭筋(ふくらはぎ)を加え、ピンと伸びた両脚は正に天を衝き上げる世界樹(ユグドラシル)!!

 そしてお待ちかね、僧帽筋から三角筋、上腕筋群へと続くラインは美しくも凶悪だ。

 隆起した山脈を思わせる優艶さと雄大さといったらどうだ。腕の太さは女性のウエストどころではない。それはヘラクレス、否、世界を支えるアトラスを彷彿とさせる超・剛腕!!

 まさに『肩に小っちゃい重機乗せてんのかい!!』と称えたくなる力強さ!! 逞しさ!!!

 周囲を睥睨する双眸は怜悧な輝きを湛えている。

 短めの黒髪。日本の妖怪にしては彫りの深い顔立ち。巌のような厳めしさを感じさせるがしかし、それと同時に美しいと思わせる容姿をしている。

 

「これが“私”!! これが“鵺”!! 正体不明の────美しき獣よ!!!」

 

 今までの物ともまた違う、強く、しなやかな妖力。彼女が身動ぎするたびに、その肢体(きんにく)からは“ムキッ♡ ムキッ♡”と音が鳴り、その身体からは絶えず妖気が“ムッワァアァ……♡”と、蒸気のように溢れ出ている。

 

 

 

 

 

 

 

第九十七話

『わたし、あなた、この子たち』

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

 誰も彼も、声を出すことが出来なかった。

 予想とはまるで違う……というか予想出来てたまるかこんなもんと言いたくなる姿だ。

 鵺は『ニコッ』と白い歯を見せて笑みを浮かべ、反応したくても出来ずに戸惑っている横島たちを見やる。

 

「ふふ……流石のあなたたちも戸惑いを隠せないようね。分かるわ、突然絶世の美女が現れたんだもの……」

「い、いや……そういう意味で戸惑ってるわけじゃ……」

「でもね、昔の私はこの姿が嫌いだった……。そう、“あの方”と出逢うまでは……」

 

 西条の言葉はまるっと無視された。とにかく見た目と声のギャップが凄まじい。

 いや、鵺の獣形態時の鳴き声はトラツグミという鳥の鳴き声と同じであり、それが意外に可愛い感じの鳴き声なので人型になればこうなるのかもしれないが……。

 

「“あの方”と私の出逢い。それは私が京の都でブイブイ言わせてた頃にまで遡る────」

「……え!? もしかしてこのまま回想に入るの!?」

「ほわんほわんほわんぬえぬえ~」

「急にやりたい放題だなコイツ!?」

 

 妹紅やレミリアのツッコミなど物ともしない。鵺の回想はそうやって強引に始まりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 あれは今から遥か昔────えーっと……ま、まあ、私が都を騒がせて遊んでた頃よ。私も若かったわ……ちょっとね、何か面白い暇つぶしはないかなーなんて思っていたの。

 で、考え付いたのが「人間の偉い人にちょっかいかけに行くか」なんてことだったのね? ふふ……若さって怖いわ……その時面白ければそれで良くて、その行動の結果、未来がどうなるかなんて考えもしなかったんだもの。

 でも、あの時のことは今の私にとっても良い思い出として心に残り続けているわ……結果は、最悪なんだけれどもね?

 ────私は人間のお偉いさんの家に入り込んだの。とにかく大きくて……なんか清浄な雰囲気だったわ。妖怪の私でも意外と大丈夫だったけど。さすが大妖怪って感じかしら? それはともかく、そこで面白そうなものは何かないかって色々物色してみたんだけど……離れって言うの? 庭園の中に小さな部屋があったの。そこを覗いて見れば、中には一人の人間がいたわ。

 その方はね、“白”かったの。髪も、肌も、身に着けている着物も。そんな中で、目だけが赤く瞬いていた。

 ────なんて美しい。私は一目で心を奪われたわ。ただ、じっと。ずっと“あの方”を見つめていたの。

 そうしたら、私のことがあの方にばれちゃってね。「そこに居るのは誰か?」なんて声を掛けられちゃって。迷った結果、私は見付けられたことが嬉しかったのか、それとも悔しかったのか。なぜか意地悪したくなっちゃったの。変でしょ?

 それでテンパっちゃったのかな? 気付いたら私はこの人間の姿を取っていたの。当時の美女の価値観とはかけ離れた、私ですら醜いと思っていたこの姿をね。

 そんな私を見て……あの方、なんて言ったと思う? 白い頬を赤く染めて「美しい」だなんて。

 笑っちゃうわね。一目惚れとは────お互いに、一目惚れだったとは。

 その時は逃げ出しちゃったんだけど、それからあの方にちょくちょく会いに行ってね。私があの方を“白の君”だなんて呼んでみれば、あの方は私のことを“黒の君”なんて呼んで。

 ────あの頃は楽しかった。逢うたびに思いが募って、愛を語り合って。こんな日々が続けば、本気でそう思ってた。

 でもね、それと同じく私たちは覚悟もしていたの。人と(あやかし)が結ばれるということ。それが、どんな結末を招くのかということを。愛を知って、私も大人になったということよ。そう、色んな意味で。ポッ♡

 ま、それから少しして私は人間にしてはそこそこ強そうな武士に追い立てられてね。だってあの方を人質に取られたんですもの。仕方がないわ。

 ……二人とも、どんな結末を辿ることになるのかは覚悟していたわ。人間たちは私を封印することを選んだ。人間たちに私は殺せない。それが理解出来てたんでしょうね。私も大人しく封印されることにしたの。それが、あの方と私の最後の時間。

 何か言葉を交わせればよかったんでしょうけど、そんなことしちゃったらあの方が殺されかねないからね。何も出来なかった。ただ視線を交わして……それでおしまい。私は封印された。

 ……で、長ーい眠りから覚めてみれば、目の前にはめちゃくちゃに興奮したおじさんがいたのよ。何でも歴史の研究家? とか何とか。そいつが私の封印を解いてくれたみたいでね。お礼にそいつの質問に色々と答えてあげてたのよ。

 そいつは私が活躍してた時代を専門としてるとか言っててね? じゃあ色々答えてあげたし私からも質問したのよ。「あの方はその後どうなったのか?」って。

 答えはね。ふふ……答えはね、「そんな人物の記録は存在していない」だったのよ。どうしてかしら。この私、鵺という存在は色々脚色されていながらも記録されているのに、あの方のことは一切残されていなかったの。何も。何も。

 その時よ。私を復活させるのに使ったっていう土蜘蛛の欠片から莫大な妖力が流れてきてね。私に力を貸してくれるって。……その割には私の理性を吹っ飛ばすくらいには強烈な怨念も流し込んできやがったけどね。

 ……ああ、あの男? あいつならそこら辺の森で倒れたままなんじゃない? 私にも色々教えてくれたからね。命は奪ってないわ。

 

 

 

 

 

「……ま、そんな感じよ。結局、さっきまで私が暴れていたのはこの子たちと同調出来るくらいには世界を憎んでいるからってことなの」

 

 鵺は自分の想いを語りながら、もはや現在の己の核となってしまった土蜘蛛の欠片に優しく手を当てる。相変わらず禍々しい妖気が漏れ続け、それは徐々に鵺の身体を侵食していっている。

 鵺の口元が歪に歪んでいく。それは笑みだ。憎々し気に、世界を呪う昏い笑み。

 

「でもしょうがないじゃない? だって、この世界はあの方のことを“忘れ去って”しまったのですもの。あの方のことを“なかったこと”にしたのですもの。世界がこの子たちを人からそれ以外のモノにしたように、世界がそうしてしまったのですもの」

 

 世界とは歴史。歴史とは人の積み重ね。彼らは、その“世界”から摘まみだされたストレンジャー。

 鵺の顔に、侵食の黒い線が刻まれる。それは彼女の目にまで延び、横島にはそれがまるで血涙のようだと思えた。

 鵺の過去に誰も、何も言うことが出来ない。何かを言ったところで今更どうしようもなく、何かを言ったところで慰めにはならない。何より、彼女(ぬえ)の瞳が何も言うなと語っている。

 ────それが、紫には気に食わない。

 

「だから、お願いよ、強きあなた。私がこの世界を……あの方が生きた世界を壊す前に────私を、殺して?」

 

 鵺は横島に笑い掛ける。どこまでも澄んだ、透明で美しい────悲しい笑み。横島はそれに応える。

 

「……分かった。今すぐ、終わらせてやるよ」

「横島君……!?」

 

 横島の身体から、強大な霊力が噴き上がった。令子をして目を見張るほどの超然の霊波。それは人を超えた領域にある、まさに神魔に等しい霊圧だ。

 鵺の霊核と土蜘蛛の欠片は完全に融合し、もはや切除することも出来ない。鵺を止めるにはつまり、鵺の命を絶つしかないのである。

 横島の両腕を翡翠の装甲が覆う。栄光の手(ハンズオブグローリー)・プラスを展開したのだ。それぞれが今の彼が生み出す文珠にも匹敵しうる霊力の鎧。

 横島は構えを取る。それは拳法にしてはやや歪な、しかし横島にとっては自然なそれ。どこか、剣の構えにも似た立ち姿。

 

「……感謝、すル、ワ……強キ、アナタ……」

 

 鵺の目が黒く染まってゆく。意識が、思考が、心が、破壊の衝動に呑み込まれていく。

 迸る雷光。荒れ狂う妖気。全てを打ち壊さんと鵺が一歩を踏み出し────既に横島が間合いの中で、輝く剣と化した右腕を振り上げていた。

 

 

 

 ────決着は、一瞬だった。

 

 

 

「断命剣────冥想ォオオオ斬ッ!!!」

「ガッ────ッッッ!!?」

 

 鵺が防ごうと動く間も無く、一直線に胸を切り裂かれる。分厚い肉を断ち、現れるは混沌の霊核、土蜘蛛の欠片。地を砕かんばかりの震脚と共に、横島の左拳が霊核に突き刺さる────!!

 

「撃符────大鵬ォオオオオオ拳ッ!!!」

「────ッッッ!!?」

 

 もはや悲鳴すらも上げられず、鵺の身体は矢のような勢いで上空に吹き飛ばされる。()()()()()()()()。鵺の斃すには、まだもう一手が足りない。

 ────ガン、と。硬質な音が響く。横島が鎧に覆われた両手を合わせたのだ。それは柏手を打つように、場に神聖な霊波を波立たせる。

 事実、それは祈りだ。両の手の間には【槍】の文珠が輝いている。その文珠を核に、栄光の手・プラスは(ほど)け、()り集まり、一本の長大な槍へと化した。

 翡翠の輝きが場を満たす。……が、その輝きは徐々に色を異にしていき、鮮烈な彩を放射する。

 赤く。朱く。紅く────!! その槍は、遂に()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()!!

 

「な……っ!?」

 

 令子が、西条が、驚愕の声を上げた。それも当然だ。霊波の色は通常変わることはない。何故ならば霊波とは魂が放つ波動。魂の色そのものであるからだ。例え長い時が経ったとしても、魂の本質は変わらない。魂とは基本的には不滅であるからだ。

 しかし、横島はその常識を打ち破った。その領域を踏破した。ただ(ひとえ)に────

 

 

 

 ────レミリア・スカーレットへの純粋な信仰心によって!!!!!

 

 

 

「神槍────スピア・ザ・グングニルッッッ!!!」

 

 緋色の槍が宙で足掻く鵺へと投擲され、狙い能わず霊核へと直撃する。

 

「キィヤァアアアァァァアアァァアアアアァッッッ!!!???」

 

 霊核に纏わりつく瘴気によるほんの僅かな抵抗。しかしそれもあっけなく突破され、土蜘蛛の破片は欠片も残さず神槍によって貫通・消滅させられた。

 数秒の後、鵺の身体は地面へと墜落する。胸に大穴が開いているが、それでもまだかろうじて息がある。しかしそれも時間の問題だろう。末端から、徐々に身体が妖気の粒子へと還ってしまっている。

 

「容赦……ない、のね。もう……す、こし、優しく、して、くれても……バチは、当た、らない、わよ……?」

「あんた相手に無茶言うなよ」

 

 息も絶え絶えな鵺からの抗議を、横島は一言で切って捨てる。相手が鵺ほどの大妖怪だからこそ、全力を尽くさねば倒すことが出来ない。そこに手加減が入る余地などは存在しえないのだ。

 

「でも……あり、がとう。強き、あなた……。これで、私も、あの方の、ところに……いえ、それは無理、か」

「……」

 

 鵺は妖怪だ。その生の中で多くの人間を脅かし、陥れ、喰らってきただろう。死して後、同じ場所に逝けるかなど、考えるまでもない。

 だが、鵺はそれでも良かった。あの方が愛し、あの方が生きた世界を壊さずに済んだ。それは確実に鵺の救いとなっている。地獄へ堕ち、永遠の責め苦を得ようとも、その事実があれば鵺は心から罪を償っていけるだろう。

 だから、そう。鵺に未練はもう存在しては────。

 

 

 

「────あなた、いつか幻想郷へいらっしゃい」

 

 

 

 その声は、不思議なほどに鵺の耳に響いた。声のした方に視線をやれば、そこにいたのは可愛らしい金髪の少女。日傘を差し、しゃがみこんで己へと話し掛けてきている。

 

「……なに、を?」

「幻想郷と外の世界を隔てるもの。それは常識と非常識。現実と幻想。────こちらで消えたもの、忘れ去られたもの、存在を否定されたもの。幻想郷は全てを受け入れる」

「────……」

 

 金髪の少女、八雲紫の言葉に、鵺は呼吸を忘れた。消えたもの、忘れ去られたもの、存在を否定されたもの。それは。だって、それは。それが意味することは。

 

「いつか、幻想郷へいらっしゃい」

 

 柔らかな笑みと共に紡がれたその言葉に涙が溢れた。その言葉が本当かは分からない。だが、希望を得た。再会の機会を得られた。共に生きる未来を夢見ることが出来るのだ。

 

「……そう、ね。いつか……あなたの言う、幻想郷へ。私と、あの方と────そして、()()()()()と一緒に……」

 

 鵺は胸に空いた穴に手を添える。己を侵食した者たち。しかし、その怒りと悲しみから同調した者たち。既に我らは一蓮托生。死ぬも生きるも同じ存在だ。だからこそ、共に行きたいと思う。少女が言う幻想郷へ。少女が謳う楽園へ。

 

「いつか……みんなと……いっしょに……」

 

 その言葉を最後に、鵺は消えた。昏い妖気の痕跡も残さず、天へと還ったのだ。

 

「紫さん……」

 

 横島は紫の名を呼ぶが、後には何も言えなかった。鵺に語った言葉の真意を聞きたかったが、それは無粋に思えた。慰めのつもりだったのか、などと。きっと、紫は本気で言ってくれたのだろう。誤解されやすい彼女ではあるが、本当は心優しい少女である。少なくとも横島ただ一人だけはそう思っている。

 だから、これでいいのだ。

 

「横島」

「妹紅。お嬢様も」

 

 佇む紫に声を掛けられないままの横島に、妹紅たちが歩み寄ってきた。妹紅は心配そうな顔をしているが、レミリアはどこかニヤニヤとした笑みを湛えている。横島が自分の必殺技を使用したことが嬉しかったのだろう。

 

「だが横島。あのグングニルは少し鮮やかに過ぎる。もっと闇を秘めたような、昏い紅色でだな……」

「勉強になります、お嬢様……!!」

「昏い紅色……褐色……?」

「うーん、確かに赤いと言えば赤いですけれど……それはもうレミリアの求める色じゃないですわ」

 

 和気藹々と話す四人に、令子たちは声を掛けられない。シロもタマモも、そしてキヌも。自分たちが知らないところで、ともすれば自分たちよりも強固な絆を結んでいるように見えて、胸に醜い嫉妬の炎が宿ってしまう。

 そうして令子たちが動けぬ間に、一人の男が横島に声を掛ける。誰あろう、西条だ。

 

「横島君……」

「西条」

 

 西条の視線が横島を射抜く。真っ直ぐに向けられたその視線は、まるで横島の何もかもを見抜いているかのように冷静な輝きを宿している。

 

「横島君、君は……随分と、変わってしまったね」

「あー……」

「そこの、彼女がその理由なのかな」

「……っ!」

 

 その言葉は疑問ではなく、断定だった。西条の目はしっかりと妹紅を見ている。横島は思わず息を呑んだ。まさか、そこまで見抜かれるとは思わなかったのだ。紫も、レミリアも。当然、妹紅も同様に驚いている。

 

「西条、俺は……」

「いや、いい。大丈夫だ横島君。皆まで言わずとも、ちゃんと分かっているよ」

 

 西条は横島の言葉を手を翳すことで止め、自らも黙った。少しの沈黙。令子やキヌ、シロやタマモですら入ることの出来ない、妙な緊張感が漂う。

 ふ、と。西条は笑みを浮かべた。今まで横島には見せたことの無い、柔らかく、優しい笑みだ。

 閉じられていた西条の口が開き、言葉が紡がれる。

 

「横島君。君は────

 

 

 

 

 

 

 

 ────童貞を捨てたね?

「────は?」

「~~~~~~っっっ!!!???」

 

 西条のその言葉に、横島は間の抜けた声しか出せず、妹紅は比喩表現抜きに顔から炎を吹いた。

 

 

 

 

 

第九十七話

『わたし、あなた、この子たち』

~了~

 

 

 

 

※おまけ※

 

鵺(真の姿)

筋肉美女。妖怪なのに人間らしい感性をしており、平安時代の美的感覚からあまりにもかけ離れていた真の姿がコンプレックスであったが、“あの方”と出逢うことによって払拭された。

あの方が美しいと言ってくれたのだから、私はこの世界で一番美しいのだ。あの方の見る目が間違っていないのだと、私は胸を張って言うことが出来る。

鵺の封印に関する話はそのほとんどが脚色されてしまっているらしい。

何となく、横島は鵺に共感を覚えている。それはもしかしたらの未来の自分の姿であったかもしれないからだ。

 

 

 

“あの方”

平安の日本で一番尊い御方の邸宅の、庭の端の端にある小さな小屋に隔離(かんきん)されていた男性。

いわゆるアルビノであり、毛髪や肌が白く、目が赤く染まっている。

筋肉フェチ……というわけではなく、自分が持っていない物を完璧なまでに備えている鵺の姿を見て、嫉妬よりも先に感動を覚えた。

鵺が封印された後に処刑された。

この人物に関する記録は何一つ残っておらず、世界からその存在を抹消されている。




お疲れ様でした。
皆さんはぬえちゃんにどんなCVを当てましたか?


鵺ちゃんは平安の女華姫様枠です。女華姫様は人間、織姫(七夕の方)は神族、なので妖怪枠に鵺ちゃんを当てさせてもらいました。
真の姿の見た目は女華姫様たちよりもシュッとした感じであり、ハンターハンターのビスケ(真の姿)みたいな感じですね。
つまり本当に筋肉美女です。なので刺さる人にはぶっ刺さる外見をしている……という感じ。

ぬえちゃんはもうずっと早く出したかったキャラですね。捏造しまくりですが上手く絡ませることが出来た……かどうかは分かりませんが、幻想郷の設定も上手く活かせた……かどうかも分かりませんが、満足はしました。

はたして西条の言葉は真実なのか?
横島は大人の階段を上ったのか?

それではまた次回。
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