電波令嬢とラムネ味   作:大出勤

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#2 準惑星はスペースデブリを巻き取らない

 

 見知らぬ男子生徒から襲われていた女の子を助けたとしてもラブコメが勃発することもなく、朝は変わらずやってくる。

 

 普段と変わらぬ午前7時の10分前に起床すると、僕はゆったりと身支度を整えて早速学校へと向かう。高校までは自転車通学なので途中で雨が降るとどうしても合羽を着なくてはならない。だけど今日は朝起きて窓から外の大降りを見た瞬間、僕は財布の小銭を確認した。今は傘を片手にバス停まで徒歩で向かっている。こんな大雨の中自転車を漕ぐなんで冗談じゃない。

 一応高校のホームページ見てみてみたが休校情報のアナウンスは無かった。どうも通常運営らしい。勤勉な教職員の方々には本当に頭が下がる。無論、嫌味的な意味で。

 

 水溜りを跳ねたり避けたりしつつ、建売住宅の合間に出来た小道を進む。

 これが梅雨前線の影響ではなくただのゲリラ豪雨だというから嫌になるな。本日のお天気ニュースでは梅雨前線は大阪付近を移動中で、来週にも関東一帯を覆い尽くす予報になっている。

 

 雨を避けながらようやくバス停に到着。10分ほど屋根の下で待てば時刻表から少し遅れてバスがやってきた。

 

 バスに乗り込んで発券機から整理券を受け取る。車内を見渡せば、駅とは反対方面に向かうバスだというのに今日は若干普段より混み合っている。恐らく僕と同じように普段は徒歩なり自転車なりバイクなりで通勤通学をしていて、この雨を嫌った同士だろう。分かる。この大降りを前に人類が太刀打ちする手段は公共交通機関しかないのである。

 

 バスの奥側に進むと昨日見た顔があった。色素の薄い銀髪がつむじ辺りでぴょこりと隆起していて、何とも素朴な雰囲気を覚える。秋園さんだ。初めて通学路で見たけどバス通学なのかな。

 

 秋園さんは奥から二列目の二人掛けの席に一人で座っている。社内を見渡せば空いている席はそこだけで、他の座席は埋まっていた。

 でも昨日の出来事があったし、何より元カノというのもあって少し気まずいな。向こうは僕の名前も覚えてないくらいだから全く気にしていないかもしれないけど。

 そのまま見なかったことにしてバスの降り口付近の吊り革に捕まっていようかと思っていれば、不意に秋園さんと目が合った。一応見ないようにしていたつもりだったのに、まるで誘引させられたかのようにこう、ばっちりと。加えて言えば秋園さんは目を合わせながら、無表情のまま自分の席の隣をポンポンと二回叩いた。隣座れよという仕草なのは誤解しようも無い。

 

 認識された上で無視するのは更に厳しいか……。

 

「おはよう秋園さん。バス通学だったんだね」

 

 気まずい気持ちを堪えて秋園さんの下へと行くと、僕は隣のシートに腰を掛けた。秋園さんはコクリと首を縦に振って手元にあった傘を窓側へと退ける。

 

「雨降ってるから乗ろうかなって」

「なるほど。いつもは自転車通学?」

「バス通学だけど、私、散歩って嫌いじゃないの。早起きして、もう少し先のバス停まで歩いてから乗るのが私の日課。でも今日は凄い雨だから最寄りのバス停から乗っちゃった」

 

 登校前にウォーキングだなんて見た目以上にパワフルだ。少なくとも僕なら絶対にやりたいとは思わない。

 

「へー。そっか、なら家もこの辺りなんだ」

「うん。木戸中学って分かる? 私その近くに住んでる」

「え、僕、木戸中出身なんだけど」

「わお」

 

 本当に驚いたみたいに秋園さんは口を大きく開けて、それを右手で隠した。まんまるの瞳は珍しく見開かれている。多分レアな表情だ。

 そうか、秋園さんって僕と同じ中学だったんだ。でも見かけたこともなければ噂すら聞いたことないな。秋園さんなら中学でも有名人になりそうな気がするけど……いや、近くに住んでるとしか秋園さんは言っていないか。僕としたことが早合点するところだった。

 

「もしかして同じ中学だった?」

「ううん、中学は全寮制の別のところ。でも辛かったから帰ってきた」

「全寮制ね。この辺じゃ聞かないな」

「隣県だよ。白州(はくす)学院って知ってる?」

 

 僕は首を振った。白州ね。この辺りの地名じゃないのは分かる。

 秋園さんは僕が知らないことを予見していたように「だよね」と言う。

 

「中学試験してたの。中高一貫の女子校よ。制服がね、古めかしい大正モダンな様式で可愛いの。でもそれ以外は駄目。女子社会にありがちなアルファシンドロームが蔓延っていて治安はお世辞にも良いとは言えなかったから」

「受験が必要な中学校なのに?」

「中学受験が必要な学校が全部賢い訳じゃない」

 

 でもエスカレーターで上がれる高校を蹴ってこの西賀南の一般受験で入れるなら、秋園さん自身は相当勉強が出来るはずだ。秋園さんが言うほど白州学院とやらもそう悪い学校じゃないに違いない。

 そんなことを考えていれば秋園さんの唇が動いた。

 

「それに所詮、どれだけ構成要素が聡くとも、社会って人が群れて出来るだけの集まりだもの。ほら、社会は歪み無しに運営できないでしょ。その歪みによって便益が生まれて、その甘い蜜を誰かが享受する。今だってそう」

 

 静かに言葉を沈ませながら、無聊を紛らわせるように自分の爪を撫でる。一瞬理解が遅れたけど、恐らく自分が校内で陰口を叩かれていることを言っているのだろう。

 確かにその観点で言えば秋園さんはこの学年における人柱だ。学内きっての変人としてその容姿とは裏腹に同級生の嘲りの対象となっている秋園さんは、自身を会話の種として消費される経験をずっとしてきたはずだ。

 欠片も悲壮感の無いその綺麗な横顔を一瞥して、僕は聞かずにはいられなかった。

 

「秋園さんはそれでいいの?」

 

 秋園さんは琴みたいに粒立った声で言った。

 

「地底人はステレオタイプな地球人に迎合しないもの」

 

 

 

 

 

─── ─── ───

 

 

 

 

 秋園さんとの会話はそれ以降、一昨日の話のリプレイになった。お得意の地底論だ。僕は乗ってあげることはできるけど熱意を誤魔化すことは出来ない。僕の具合が悪いのを悟ったのか秋園さんも黙ってしまい、事前の予想と違わず気まずい時間を過ごすことになってしまった。地底が無ければただのミステリアス電波少女なんだけどな……。

 いや電波が致命的か。

 

「噂になってるぞ、お前の元カノ」

 

 昼休みになって早々、二輪がそんなことを言いにわざわざ僕の席までやってきた。弁当箱からウインナーを箸で掴んで、口の中に放り込もうとしていた僕の手が止まる。

 

 ……ううむ。唐突に噂とか言われてもな。

 

「噂には毎日なってるんじゃないかな。あと僕を秋園さんの元カレ扱いするのはそろそろ時効にしてくれ」

「悪かったよ。で、噂の件だが」

 

 全く反省していないように二輪は平然と言葉を続ける。

 

「俺が聞いた話だと秋園が告白されたらしいな。世の中には変人がいれば奇人もいるらしい」

「まあ可愛いからね、秋園さんって」

「容姿が好みだったとしても地球人じゃなきゃ彼女は難しいだろう。だがそこはどうでもいいんだ。話は秋園がその告白を断ったってことだよ」

 

 僕は平然とした微笑を心掛けながら二輪の軽薄な話題をやり過ごす。

 一応その場には僕もいたし、なんなら実力行使に出た男子生徒を見兼ねて介入までしてしまっている。あんまり下手なことを言える立場にはないな。

 

 それにしても、どうもあの男子生徒は口が軽いみたいだ。この告白の顛末を知っているのは僕と秋園さんと男子生徒の三人だけ。それで今この噂話が校内に流布されているとなれば、必然的に疑うべきは男子生徒だ。僕は人の恋路を垂れ流す趣味は無いし、秋園さんは失礼ながら噂を流す相手がいない気がする。

 

 ともあれ、僕が出来るのは無干渉を貫くことだけ。藪蛇にはなりたくない。

 

「へえ、そうだったんだ。でも秋園さんだって誰でも彼でも告白してるわけじゃないんじゃないかな。好みに合わなければ断るのは当然の話だと僕は思うよ」

「気にならないのか?」

「だから言ってるだろ。僕はもう振られてる」

 

 肩を竦めて自虐的に言って見せる。

 大体、僕としては何故二輪がその話に食いつくのかが不思議でならない。僕の反応が面白くて引き合いにだしているのか?

 

 二輪は僕を見て溜息を吐きそうな顔で腕を組んだ。

 

「振られる確信があったから付き合ったんだろ」

「変人みたいな言い方をしないでほしいな」

「なら変人扱いされない行動を心掛けるこったな」

 

 暗に"お前には出来ないだろうが"と言いたげな口調なのが癪に障る。そっちだってクラスメイトの失恋話を擦り続けるくらいには自由奔放で厚顔無恥のはずなのに。

 抗議をすべき半目で睨もうとすると二輪は教室の外を指差した。反射的にその方向へと視線が向く。教室の外で、秋園さんが立っていた。

 

「行ってやれよ元カレ。愛しの元カノが待ってるぜ」

 

 僕は人生で初めて本気で人を殴ろうかと暴力を検討した。

 

 なんとか拳の熱を抑え込めると、僕はちょっと考えた。

 待てよ。二輪は他人事だと思って勝手に秋園さんが僕に用があると恣意的に考えたようだけど、秋園さんはただ僕のクラスの前に立っているだけだ。つまり用件があるのは僕以外の人間という可能性もある。ここで下手に動いて注目を浴びて、さながら噂の男子生徒との間男みたいに思われるのは僕としても遺憾だ。

 

 僕は凡そ2秒ほどでその結論に至ると、もう一度秋園さんを盗み見た。用件があるのは僕じゃない可能性は多分にある。それこそ例の如く告白をする気なら呼び出す相手は僕以外の別の男子だ。そうだ。二輪なんてどうだろう。二輪も僕と同じく木戸中学で付近の住民、よって秋園さんと家も近いはず。もしかしたら幼馴染なんて可能性も……だったら冥王星人なんて蔑称を振り回さないか。

 

 仮説を却下している間にも僕の瞳を秋園さんのライトグリーンの虹彩が捉えた。仄かに相好を崩すように口角を上げると、そのままパタパタと無言で右手を振る。僕に向けて

 ……さいで。僕ですか。

 

 呼ばれたのに無視するのもまた無駄に精神力を削られると思い腰を上げる。今更気付いたのが、二輪は僕に要らぬ気を遣ったのか既に僕の席から離れ別のクラスメイトと歓談をしている。かと思えばノールックで僕に文字通り後ろ手を振った。全く訳が分からない奴だ。初めて会った中学一年の頃はもっと普通の奴だったと記憶してるんだけどな。中学二年の時に所属していたサッカー部を辞めてからは以来ずっとあんな感じで、断然たる物言いとは裏腹に掴みどころがない。

 

 一旦、二輪のことは無視するとして僕は秋園さんの元へと歩く。今日も見た目だけなら精霊然とした美少女っぷりだが、中身は歴とした地底人なのだろう。

 ……いや、歴とした地底人ってなんだよ。

 どうも僕も電波干渉を受けているのかもしれない。

 

 頭を軽く振って余念を消し去ると、僕は秋園さんを見遣る。

 

「どうしたの秋園さん」

「私、確信したの」

「何を?」

「兎角こっちに来て」

 

 秋園さんは感情の読み取れない相貌のまま歩き出す。こっちって言われても昼飯食べたいんだけど……などと俊巡する間にも距離は開いていく。背後など一切気にかけない確かな足取りだ。僕は諦めて早足になると、秋園さんを追いかけた。

 

 秋園さんはそのまま一階に下りると渡り廊下を進み、体育館棟の階段を上って、三階と四階の中間地点にある踊り場で足を止めた。当然誰もが昼を喫食する時間帯であるから人気は無い。精々が一階にある学食から喧騒が漏れ聞こえる程度だ。

 

 一体全体、こんな場所まで誘い込んで秋園さんは何を密談する気なのだろう。しかも相手はこの僕だ。自分の事を無知蒙昧と見下げる気は無いけれど、元カレという肩書きは相談相手として不適格に思える。

 いよいよ訝しんでいれば、秋園さんは前置きをせず本題を口にした。

 

「充清くん、手伝って欲しいことがあるの」

「それは地球人でもできることかな」

 

 お昼を食べ損ねている当て付けで、思わず言葉を針でコーティングしてしまった。だが秋園さんは気にしない。さらりと生糸みたいに艷やかな髪を目から払って、僕を見上げる。瞳は爛と光っているのに不思議と生命力の薄い印象を覚える。

 

「うん。地球人だからこそ」

 

 指で滲ませれば掻き消えそうな声音と共に秋園が頷く。皮肉を真っ向から返されると僕も面を食らうしかない。

 まあ、いいや。用件は手っ取り早く済ませるに過ぎる。

 

「……頼みって何かな」

「ボディーガードをお願いしたいの」

「ボディーガード?」

「うん。少し怖い人がいてね、身体も私より大きいし筋力も強いの。だから身の安全を確保するために充清くんが欲しいの」

 

 不覚にもドキリと心臓が跳ねかけた。

 文脈的にそういう意味じゃないことを理解してはいても、そうやって言葉を並べられると高揚しそうになる自分に思春期を感じて嫌になる。勘違いして青春に散るのだけは絶対に勘弁だ。

 

 息を小さく吸って、平常心を取り戻して。

 さて、身の安全とはなんだろう。

 

「状況を教えてほしいんだけど。誰かに付き纏われてるとか、何か被害を被ってるってことかな」

「かも?」

「かもって……」

「具体的に何かをされてる訳じゃないの。ただ目が合う回数が多く感じて。あ、また私を見てるって分かるの。偶然も考えたけど、それにしては頻度が流石に気になるなって、何か邪な考えの下で私は観察されてるんじゃないかって、そう思うと授業中しか集中出来ないの」

「授業中は集中出来てるんだ」

「先生に失礼だし。これでも成績は良いのよ、私」

 

 秋園さんの不満を訴えかける視線が僕へと殺到した。ごめんと軽く謝辞を述べる。

 

「相手は誰だろう。授業中にも視線が来るってことはクラスメイト?」

「授業中にも私を見てるかは知らないけど、そうよ。昨日、充清くんが助けてくれた時に私に告白して、私の肩を触った人。あの人が視線の犯人なのは一目で分かったわ」

「それでボディーガードを僕に?」

 

 再び首を小さく縦に振った。

 試しに僕は昨日のことを思い返してみる。

 確かに男子生徒のガタイは同い年の男子生徒と比較しても一見して、中々鍛えられたものだった。もし何かの間違いで喧嘩でもしようものなら、拳の一発で勝負が決まるだろう。勿論僕の気絶という結果で。我ながら情けないことだけど、これが帰宅部を中学から突き通す僕の現実である。

 

「人材のミスマッチも甚だしいと思うよ。もし急襲されたとしても僕じゃ彼には敵わない」

「うん、それは知ってる」

「ならもっと相応しい人がいるんじゃないかな。秋園さんもシンプルにそう思わない?」

「学校の中で信頼できる人がいないもの、私」

 

 そこはかとなく悲しい事実を口にされると僕も表情に困る。自然と笑顔を作って、そんな困った内心を僕は誤魔化した。

 秋園さんに友人がいないというのは何となく分かる話だ。自称地底人は伊達では名乗れない。でもちょっとだけ彼氏だった(実際は恋人関係ですらなかった気もするけど)僕しか信頼できる人がいないとか面と面を向かって言われれば僕だって同情心が湧く。

 とはいえ、だからと言って例えば「もう一度、今度は偽カップルとして付き合ってくれ」と言われたら僕も断固拒否するけども。僕は秋園さんの告白がインスタントである前提を知っていたから告白を受け入れただけで、偽でも真でも学生生活に支障が出るような関係性を持ちたくはない。人間関係で思考や行動を縛り上げられるのは僕が最も苦手とするところだ。友人は生活に困らない最低人数に、恋人は無闇矢鱈に作らない。それが僕の矜持であり、等身大な表現をすれば事なかれ主義ってやつである。

 

 一先ず、ボディーガードという単語を一般的に解釈するならば僕の矜持を犯すことはないはず。

 そんな確信を持って僕は秋園さんに寄り添う形で返答をする。

 

「そっか。まあ、僕に出来ることなら手に負える範囲で手伝うけど、ボディーガードっていうのはただ一緒に登下校するってこと?」

「出来れば校内でもずっと一緒にいたい」

 

 んな無茶な。

 

「それは無理だよ。僕にも自分の学生生活があるしクラスも違う。まさか学校にいる間はペットみたいにずっと隣に座ってろなんて意味で言ってないよね」

「くぅ」

 

 秋園さんは正論を言われたとばかりに吐息を漏らした。

 あと言葉にすることはなかったけど、僕にそこまでする義理もないと思う。僕と秋園さんの今の関係性を定義すれば高く見積もっても精々が知人程度、自分の損にならない程度には手を貸すがそれ以上は素知らぬふりして「それは大変だったねえ、じゃあ頑張って。僕は影ながら応援しているよ」と笑って幸運を願うくらいの距離感でしかない。寧ろ隣人の範疇としては最大値まで僕は対応していると思ったりもする。

 

 秋園さんは不承不承といった面持ちながらも僕の言い分に納得したようで、口を小さくしながら言う。

 

「……じゃあそれでお願い」

「いいけど、いつまでやるのかな。まさかその……えっと、男子生徒の名前はなんて?」

「杉沢……だったと思う」

「そう、じゃあ杉沢くん。彼が諦めるまで僕は秋園さんと一緒に登下校しなきゃならないのかな。それってかなり高いハードルだし労力も使うから、出来れば期限を定めたいんだけど」

「分かった、一ヶ月でいい」

 

 妙に歯切れの良い即答だった。

 一ヶ月……?

 ああ、そういうことか。

 

「夏休みに突入するまでってことだね」

「そう」

 

 秋園さんは泰然自若とした佇まいのまま肯定した。

 西賀南高校の夏休みは約一カ月。期末試験が執り行われる7月末日から9月の上旬まで。それだけの期間が空けば杉沢くんの熱意も冷めて、また平時通りの平穏な日常が返ってくると秋園さんは予測を立てているのだろう。

 つまり問題を先送りにして有耶無耶にしようという魂胆だ。希望的観測と言うには現実的だけど、やや牽強付会とした見方であるのが気にがかる。果たしてそう都合よく杉沢くんの恋心は冷めるのか。そもそもアレは恋心と呼べるものなのだろうか。思い出してみれば、やけに昨日の杉沢くんの秋園さんに対する態度は告白と称するには頑なで、強引さが目立っていた。

 

 ……僕としては一カ月登下校を共にするだけだから良いけど、それで秋園さんの抱える問題が解消されるというと一考の余地があるように思える。

 事情に深入りするのは嫌だけど頼み事を断るほどでもない、かと言って秋園さんの不利益を見過ごすとそれこそ"おためごかし"みたくなってそれも収まりが悪い。

 

 ニコニコ笑顔のまま僕は固まる。

 悩ましい。非常に悩ましいぞ。どうするかなぁ……。

 

 視線を窓の外に投げやる。大降りだった雨はいつの間にかポトポトと小雨になっていて、雨粒がコンクリへと落ちる音がヒーリングミュージックのように耳朶を打つ。

 僕の言葉を待つ秋園さんに、諦めて僕は投げやりに頷いた。

 

 

 

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