旧代官邸敷地にある使用人邸。
現在は
「お掛けになってお待ち下さい。 間も無く参ります」
応接室にアリシアとエリオンを案内したハーフリングは、そう言って部屋を後にした。
アリエルがいつもと変わらず
その為エリオンとアリシアはひとまず小人族夫婦の
「気になりますか?」
もの珍しそうにキョロキョロと室内の調度品を
「素敵なお部屋ね」
今彼らが居る部屋を含む
小さな椅子、
置き家具だけではなく至るところが小人族仕様で丁寧に造り上げられたこの部屋の隣、夫婦の居室にはこれまた小さな
それもそのはず、この部屋はピアルノー・アンダマン存命の頃からずっと、その腹心たる小人族夫妻の居室として使われていた。
両親が叔父と
◇◇◇
「大変お待たせしました」
先にアリエルが合流し、それから程なくしてマリオが入室して来た時、普段表情を変えない老執事にしては珍しく、その顔には疲労の色が
「こちらこそ忙しい中呼びつけてすまない。 どうしても直ぐに君達と話す必要があったんだ」
夫婦が一息ついて長椅子に掛けた二人と向かい合うと早速、エリオンはこれまで起こった
つまり、ウィル・オーデンが齎した相続人不明の遺言状のこと。 マリオに対し伏せていた経緯を皮切りに、その奇妙な出自とそこに掛けられた焔の呪いのことを。
そして、呪いに焼かれ、官邸の一室に今も眠るルシャスの存在を。
ただ一つ、アーロン・アンダマンに降りかかった事故については、これまで通り一切を伏せたままにした。
エリオンが話をする間、小人族夫妻とアリシアの三人は
◇◇◇
「幾つか質問をしても宜しいでしょうか」
最初にマリオが沈黙を破った。
「今のお話は先の会議の際にエリオン様が
「それは無関係では無いんだが……」
エリオンがアリシアを見ると彼女が
「叔母上……アリシア・アンダマン様は魔導師なんだ。 いや違う、厳密に言えば未認可だから魔導士では無いが、魔導師級の力を持っている。
いまルシャスが生き永らえているのも、
エリオンがそう答えた
「ピアルノーが私の師匠よ」
アリシア・アンダマンはそう言って髪を掻き上げると、マリオに見える様に片耳を
そこに
「
「ご説明を有難うございます」
マリオの顔はいつもの無表情に戻っていた。
「彼女が魔導師だとは思わなかっただろ?」
「はい。 とは云えピアルノー様のご家族と思えばさほど驚くことはありません」
「そうか」
「官邸にいらっしゃる方は……ルシャス様? ご家族は、
アリエルが
「どうかな……彼については私もあまり知らなくてね。 会ったのもこれが初めてだ。
叔父や父にとっての
「エリオン様、シゼル様とは
マリオが尋ねる。
「全く無いとは言わないが、挨拶程度で……ほぼ無いな。
シゼル叔母上とまともに会話した記憶すら無い」
「しかしルシャス様は
「その通り。
遺言状に対する反応といい、たしかに謎の多い男には違いない。
シゼル・アンダマンの一門が今回の
「しかも、ルシャス様はエリオン様をご存知でいらっしゃった。
アリシア様は
マリオが尋ねると、アリシアは首を振って応えた。
「一度も無いわ。 もう一人の商人はどうなの? エリオン」
「相変わらず官邸で
「確かに、伝えるべきじゃ無いかもしれないわね……。
でももう一度話をしてみた方が良いんじゃない? 彼らの目的を聞き出さないと」
寝台に横たわるルシャスを前に、コルゾ・キーリバに経緯を説明する……エリオンはそんな光景を思い浮かべた。
いやあ目を離したすきに君の雇い主は死にかけてしまったよ。 では、君たちがここに来た目的を話してくれるね?
とでも言えばいいのか。
変わり果てたルシャスを前に、キーリバは冷静でいられるだろうか?
意図せずして、結果的に
無論そうじゃないが、それでも
「……出来ればその前にルシャスを癒すための魔道具が欲しいところです。
話はこれくらいにして、叔母上の応急処置が効いている間に敷地内を徹底的に
「
「宜しく頼む。
そう言ってエリオンが席を立とうとすると、マリオがそれを制した。
「エリオン様、お待ちください」
「どうした」
「
エリオンはその唐突な質問の意味を掴みかね、一瞬沈黙してから答えた。
「そうだ」
「呪いのかかった遺言状の相続人を明らかにする為に、それだけの事であれほどの
「……そうだが?」
「亡きピアルノー様のために、ですか?」
「マリオ……何が言いたい?」
「深い意味は有りません……ただ、ピアルノー様と私共と……皆様とは、長く
……そうなるだけの理由があります」
「……」
「お
「
思わず声を荒げたエリオンが直ぐに恥いって口を噤むと、マリオが再び口を開いた。
「では本当にピアルノー様の為なのですか? 今になって 何故そこまでなさるのですか?」
「
◇◇◇
マリオは立ち上がり、
すぐにアリエルも立ち上がって、夫をお許し下さい、と同じ様にお辞儀をした。
エリオンは無言で席を立つとアリシア・アンダマンの手を取り、彼女を先導しつつ部屋の出口に向かって歩いて行った。
それから部屋を出る直前、扉の前で立ち止まって顔を伏せたままの二人に向かってこう言った。
「……確かに、私たちは疎遠ではあった。 だがその原因は……叔父の
その事は皆分かっている」