エリオンが再びテーブルに顔を向けると、アリシアとマリオもそれに釣られて彼の目線の先に置かれた魔道具に注目した。
「防衛の役にも立ちそうですね」
「役に立つどころか、これなんて飲血の魔法使いの署名入りよ? ピアルノーってば、こんな場所に何てものを隠してるのかしら!」
彼女の言う通りだ。
アリシア・アンダマンが口に出した飲血の魔法使いことロット・ドレイコンは大昔に活躍した魔導士で、あの〝囀りの鈴〟の製作者でもある。
当時の帝国に仕えていた魔導師の一人だったドレイコンは
そう言った事情から一部の
「エリオン、これにはどんな効果があるの?」
アリシアは小柄な折りたたみ式の
「ドレイコンの作品で確か……〝
そのまま一方の手でテーブルに置いてあった木のスプーンを拾い上げ、一箇所をその剃刀で軽く
テーブルに落ちたスプーンは切断面を下に向けたままトスッ、と小さな音を立てて木製テーブルの天板に刺さり直立していた。
「このように
そう言ってエリオンが剃刀の塔の
彼女が自分でもその効果を試そうと折り畳まれていた刀身を再び開くと、エリオンは咄嗟に釘を刺した。
「気を付けて下さい。 誤って指を切ってしまうと断面が刃物になって、更に傷が拡がりますよ」
「まあまあ使えそうね」
忠告を受けたアリシアは即座に刃を仕舞い、魔道具をテーブルに戻した。
「
「これはもういいわ。 こっちは?」
そう言って今度は細長い棒の先端に輪っかが付いた石の道具をエリオンに差し出した。
「
つまりは水源を作り出す魔道具ですね」
エリオンは魔道具を指輪のようにして自身の指に通すと、その突起を倉庫棟の床に敷かれた材木の隙間から地面にズブリと突き刺した。
間も無く周囲の土が
「んー……この様に、
「なるほどね。 じゃあ、これは?」
内側に
「それは確か〝
たしか、これを身に付けている間に使用者が受けた傷を……この棘が首に刺さって血を吸うんだったか……とにかく、血を対価に癒しの魔術が発動して、外傷を
「? それって肩代わりできてるのかしら……試す?」
「遠慮しておきます」
「そう。 じゃ、こっちの気持ち悪い人形は?」
「これは……! 帝国外地の辺境でも特に危険な
「どんな効果を持っているの?」
「
いやあ凄い、こんな
「それって、つまりどんな効果なの?」
「? ああ、これは魔道具じゃありませんよ。
「ゴミじゃないの!
「それをすてるなんてとんでもない!」
「
マリオが微笑を浮かべて言った。
「ありがとう」
「ピアルノー様もよくエリオン様のことを褒めてらっしゃっいました。
「嬉しい事を言ってくれるが、残念ながら私にその
「……
「事実だよ。 魔道具を満足に扱えない程度の者では、まず選ばれない」
するとマリオは
「そんな事はありません。 魔力と
感情を
「いや、ありがとうマリオ。 昔はそんな夢もあったがもう良いんだ。 だいたい辺境探索は命懸けの仕事だろ?
だいたい誰であろうと
「そんな事はありません! ……もしも私に選ぶ権利があるのなら、きっと貴方を選抜します」
マリオは
それはエリオンがここに来て以来……
「そうよ!
魔法の力なんか無くたってあなたは優秀だと思う」
気不味い沈黙のあと、アリシアが声を上げた。
マリオは瞬時にいつもの無表情に戻り、それからゆっくりと頷いた。
「ええ。 〝
「お褒め頂き光栄の至り……」
エリオンはそう言って
(
「どうしました?」
「マリオ、それは……何だったかな? 聞き覚えがある」
「何がですか?」
「いや、その物読みというのはどういう意味なのかと」
「ああ……覚えていませんか? エリオン様がまだずっと小さかった頃にピアルノー様とよく話されていました。
もしも貴方が魔法使いになったら、その
「「〝
「そう、それです。 思い出しましたか?」
「……うん」
思い出した。 そして、
◇◇◇
……アエル・アンダマンとリアンノン・アンダマンの二男にして、
イズーダン領主 アーロン・アンダマンの
〝
◇◇◇
一番最初の手紙。
密偵からの定期報告の終わりに書き込まれていた、
気付かなくて当然だ。 〝物読み〟は暗号や
この言葉に聞き覚えがあったのは、それがずっと私の思い出の中に
差出人不明の手紙の主は……やはりピアルノー・アンダマンだったんだ。
それだけじゃ無い。 その後に続いて届けられた一連の手紙も……。
破られた手紙も、ウィル・オーデンがもたらした燃える封筒も、便箋も、その全てがピアルノー叔父さんからの……?
「どうしたの?」
アリシアの声でエリオンの思考が打ち切られ、彼は
「いや……もしかしたら旧代官邸は叔父上にとっては呪物や
何も考えずにこう言ってから、次に、
それから三人ともお互いの顔を見合わせて、声を出して笑った。
◇◇◇
こうして倉庫内の調査を終え、全員で一度官邸へと戻る事にした。
籠いっぱいの魔道具をアララックに預けて先を行く二人に大きく遅れながら一人、エリオンは倉庫の出口に向かってゆっくりと
頭の隅で先程の答えを追いかけながら。
一見して無意味で、読み解いたとしても意味不明な内容の手紙。
全部で三通。
そのうち内容が確認出来るものは二通。
一通目が〝物読み〟エリオン。
イズーダンにいる家族と叔父とマリオとアリエルしか知らない〝物読み〟の真の意味。
そして追伸文に書かれている、意味深な〝鍵〟について。
これはつまり、ピアルノー・アンダマン自ら、彼が私の預けている鍵をとりに来る旨を伝える、そういう意味の手紙だったのだ。
そして二通目は……特別な植物紙の封筒に入っていた、
破られ、半分になった文章。
◆◆◆
私の
君に
我が兄弟との
この
その
今こそ、役目を
◆◆◆
……箱と鍵。
これは父の葬儀の日、叔父が私に一度だけ見せた
しかし、あんな
十年以上前に一度話をしたきりの約束だぞ?
これは
そもそも叔父の遺族は、アリシア叔母上と彼らの嫡男は、鍵と小箱の事を知っているのだろうか?
しかしその後、何らかの事情でイズーダンを訪れる事が叶わなくなった。
そうしてピアルノー・アンダマンは彼の鍵を預かるエリオン・アンダマンに二通目の手紙……破られた手紙を送った。
この不可解な暗号もどきの手紙は、
恐らく秘密裏に、叔父個人によって作成されたこれらの内容には、遺言書作成に立ち会ったオーデン一族でさえ
そして、この手紙の片割れは一体どこに……いや、誰が持っている?
これらを踏まえて、叔父上は私に何を
この様に情報を暗号化する場合、それは
そして分たれた手紙は全ての破片が揃って初めて意味が生まれる暗号であると同時に……最終的にその持ち主同士を引き合わせる。
つまり、
「エリオン?」
甥の様子に気付いたアリシアが振り返って心配そうに声を掛けた。
その気遣いに応える様に、エリオンはぎこちなく頷き返す。
(……これ以上は考えるだけ無駄か)
疲労で身体が重い。 頭もうまく働かない。
ルシャスの治療という最低限の目的は
だが、アーロンに掛けられたあの複雑に
一度休憩して、それから他の場所に保管してある魔道具を
せめてウィル・オーデンの問題さえ
「いてっ!?」
とそこで目の前を歩くアララックの抱えた木箱の中身、その
頭を撫でながらそれを拾い上げると、それは黒い塊で出来た人形……
木の
それとほぼ同時に、アリシアの
次にエリオンが目にしたのは、真っ黒い