悪役令嬢、不登校を決める。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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36:後日談ですわ!

 

 

 

さ、“あれから”の話をしましょう。

 

あの悪魔に転移させられた事件からかなりバタバタしてましたからね。ようやく落ち着いてお茶を飲めるくらいになったのです。整理がてら、思い出していくことに致しましょう。

 

 

 

 

 

 

ギャンブルシスターことセラフィナちゃんのおかげですぐに敵を殲滅出来た私達。しかし肝心の彼女が気絶しちゃいまして、ちょっと本気で慌ててしまいました。少々アレな掴まり方でしたが、しっかりと密着してくれていましたし、直前まで魔法を唱え続けてくれていたので大丈夫だと思ったのですが……。どうやら振り回し過ぎたみたいでして。

 

一応呼吸及び心音を確認したところ、特に異常は無し。気絶する直前まで真っ赤だったお顔も徐々に熱が引いて行ったのもあり、確証は持てませんでしたが特に大きく慌てる様な事ではないと判断することに致しました。

 

 

(……でも、これ以上の戦闘は避けた方がいいですわね。気絶した彼女を振り回すわけにはいきませんし。)

 

 

ということでお姫様抱っこのまま、移動を開始。その場から離れ階層の出入り口まで移動することに。

 

あの場にいた集団、30体ほどのアンデッドを破壊することは出来ましたが、現在地である11階層にいるすべての魔物を殲滅できたわけではありません。戦闘の騒音に気が付き寄って来る魔物が居てもおかしくありませんからね、自身の身を護るためにも、気絶してしまったセラフィナちゃんを守るためにも、場所を移す必要があったのです。

 

 

(幸いなことに、大体のルートは覚えています。音を殺し、ちょっと歩けば……、うんうん、あったあった。)

 

 

けれど単に移動するだけでは面白くありません。

 

いやだってそもそも私達、想定外の上級悪魔という存在に遭遇したあと、こっちに飛ばされたわけでしょう? 本来戦わなくてもよい強さの敵と戦わされた上に、生き残るために『スケルトン系で唯一販売できる魔石』を破壊しなくてはならなかったのです。こんなに苦労したのに手に入ったのは経験値のみ。

 

自身としましてはまぁお金が手に入らなくても構わないのですが、タダ働きは滅ぶべき文化です。ということでちょっと寄り道させて頂くことに致しました。

 

ほら、こっちに飛ばされた時に『いい感じの槍がある』って言っていたでしょ? ソレです。

 

 

「と言うわけで御開帳ですわ! ごまだれ~!」

 

 

というわけで手に入れましたのがこの槍、『セイントランス』でござい。

 

物語中盤の後ろの方で店売り品として並び始める武器でして、その性能も結構なもの。細かい性能はゲーム内でのものには成りますが、ATK+15、DEF+2、M.DEF+2、SPD-2、という感じ。レイピアがATK+2のSPD+1でしたから、大幅すぎる強化です。……今の私の単純なATKが20ですから、これを装備した瞬間。2倍弱くらい上がることになります。

 

 

「……ちょっと強すぎますわね、うん。」

 

 

いやスゴクいい品なんですよ? 宝箱で手に入れたこれもかなり良い状態の武器ですし。けれどまぁ……、うん……。

 

これ普段使いしますとね? 強く成り過ぎちゃうんです。

 

自身は確かに強さを求めていますが、その大本は何度も言うように『ダンジョンを楽しむ』ものになります。確かに無双ものもたまには嗜みますが、ずっとそれで遊びたいわけではないのです。『ダンジョンの難易度がプレイヤーの能力値と同じくらい』なゲームでの体験を、この世界でもしてみたいってわけなんですよね。

 

今回は上級悪魔と言うチートみたいな存在によって本来入れない場所に入っちゃったわけですから……。

 

 

「そろそろ武器の更新をしたいと考えていたのですが……、この槍に相応しい存在になるまでお預けですかね? でもせっかく手に入れた品ですので、家に帰ったら壁にでも飾っておこうかしら?」

 

 

とまぁ新しい槍を背中に背負い、セラフィナちゃんを抱っこしながら移動に移動。

 

本来正規の手段で入った場合にのみ発見することの出来る抜け穴を幾つか使用し……。

 

 

 

 

 

 

 

「10階層に戻って来たわけですわねぇ。」

 

「……帰って来た後に伺いましたが、心臓が止まりそうになりました。」

 

「あらグレタ。ごめん遊ばせ?」

 

 

自身の屋敷で茶を飲みながらそう返すと、結構強めに睨まれてしまいます。

 

うぐ、いやまぁメイドのグレタの言うように“公爵令嬢”としてはあの場で自分の身を優先し、セラフィナちゃんを助けに行くムーブなどすべきではないのは理解してるのですが……。ほら私って“こう”でしょう? あのまま見捨てていればセラちゃんは確実に死んでいました。だったら助ける以外の選択肢はありませんし、そもそもわたくしは誰かの屍の上でのうのうと生きる気なんてないのです。

 

だから勘弁してくださいまし~!

 

 

「……はぁ、まぁお嬢様のことです。お止めしても本当にイヤなことは無視なさりますものね。生まれる前から仕えているのです、それぐらい理解していますとも。ただまぁ、流石に今回は“やりすぎ”です。事態が完全に収束するまでお屋敷から出ないよう願います。」

 

「わ、わかってますって……。」

 

 

10階層で護衛の皆様から保護されたあと。全身引っぺがされて傷がないか確認された私ですが、その際に腕を骨折しちゃったらしいベリアンヌから色々と報告を受けたのです。

 

上級悪魔が出現した理由や、その召喚者について。

 

残念なことに『それを証明する証拠』は一切出て来ませんでしたが、彼女の能力と私への忠誠。そして百合への愛は絶対です。まぁ私がセラちゃんを抱きかかえて帰って来ちゃったせいで『百合が百合が』と頭を抱えながら苦しみ歓喜すると意味不明なことをしていましたが……。私に対する彼女の言葉に嘘はありませんし、彼女が言うのなら実際にそうなのでしょう。

 

なので色々と調べる必要があったんですよねぇ。

 

 

(私がセラフィナちゃんの借金先である裏組織、それを破壊した時に出てしまった“あまりもの”による犯行。ですが残党でしかない彼らが『上級悪魔』を召喚できるとは思えません。)

 

 

ウチの優秀なベリアンヌに瞬殺されてしまった上級悪魔ですが、『ゲームが現実になったこの世界』においてその強さは圧倒的と言ってもいいでしょう。

 

限界まで鍛え上げている彼女や、最後まで遊びきったゲームの視点を持つ私からすれば雑魚ですが、一般市民からすれば物語に出てくるような強大な敵。もし単身で打ち破ったものがいれば特例で爵位を貰えたり、列聖されるような功績です。

 

そんな強大な敵を、まだ物語が始まって間もないこの時期。それも壊滅した裏組織の存在如きが呼び出せる、もしくはそれに必要なアイテムを持っているなど、考えられない“異常”と言う他ありません。

 

 

(我が公爵家と敵対する貴族家の密偵、程度ならまだ良かったのですが今回の“事故”に関わる貴族家はどれだけ洗っても0。まるでその裏組織が“たまたま召喚に必要な悪魔像を持っていた”かのような状況です。ゲームのイベントでもそのようなことはありませんでしたし……。)

 

 

想定よりも早く奴らが、この世界の敵とも呼べる魔王軍が動き出しているのかもしれません。

 

 

「でも、“ブツ”が出てきてないのよねぇ。」

 

「お嬢様?」

 

「……“おブツ”?」

 

「物証でよろしいかと。」

 

 

あ、そうそう。それね。

 

主人公が倒すべき世界の敵、魔王。もしそれが“まだ復活していないこの時期”に動き出していたとなれば、此方も手早く準備を進めなければなりません。

 

一応もしそうだとしても、なりふり構わず主人公を拉致してブートキャンプ、レベルカンストまで一気に成長させた後に魔王とぶつければまぁ何とかなるとは思うのですが、普通に拉致は犯罪ですし、ブートキャンプは効率を優先するあまり人道に配慮することは出来ないでしょう。つまりそうそう出来ないんですよね。

 

故に、相手の動きも知りたいということもあり、人員と予算を増やして全力で探ってもらっているのですが……。証拠は一切無し。代わりに知りたくもない敵対貴族の不祥事とかは出てくるんですが、魔王軍に関することは全くなんですよ。

 

 

「ま、“お掃除”が捗るからいいのだけれど。」

 

「……いくらお嬢様が殿下の婚約者としても、少々やり過ぎている気がするのですが、大丈夫なのですか?」

 

「大丈夫でしょ。パパ上にゴーサイン貰ってお名前貸してもらってますし、やっていることは“お願い”だけですもの。」

 

 

パパ上は私に激アマなので、私が何してるか全く気にせずOKしてる可能性がありますが……。

 

やってることは簡単なことです。悪事の証拠を集めて、それを父の名前で送り付けて『解ってるよね?』とメッセージを添えるというもの。早い話脅迫ですが、これほど良い試金石はありません。こちらを気にせずまだ悪事を続けるのなら適当に排除し、此方にすり寄って来るのなら飼ってあげる。

 

こういうのは不得意で嫌いなのですが、貴族として当たり前の作法の一つになります。

 

 

(そもそもの話、民を食い物にする貴族など風上にも置けないでしょう? 眼に付いてしまった以上、お掃除する以外の選択肢はありませんわ。)

 

 

まぁグレタの言うように、少々取り込み過ぎて派閥を大きくし過ぎている気もしますが……。

 

これも『もしも』を考えれば必要なんですよねぇ。何かの弾みで主人公と王子がストーリー通り私と我が家を破滅させてくる可能性は未だ残っています。一応そうならないよう不登校になってイベントを進めないようにしたり、ダンジョンに潜って楽しみながら自己の強化に励んでいますが、“起きた後”のことも考えねばなりません。

 

つまりもしもに備えて、王子が王家の強権を振りかざした際、貴族の数の力で反発できるようにして置くって感じです。配下の貴族や、それまでお付き合いのあった貴族との関係強化もしてますしね~。

 

 

「表向きには未だ私は“体調不良”、頂いたお見舞い品の返礼として色々送ったり、闘病中なのに相手を気にかけるお手紙とか色々してますからねぇ。……嘘ついてますから気分めっちゃ悪いですけど。」

 

「手紙書かれている際、すごいお顔してますものね。しかめっ面と言いますか。」

 

 

そういう教育も受けているのでできなくはないのですが、嘘きらいなんですもの……。え、だったら体調不良偽って不登校するなって? おほほ! それとこれとは話が別ですわ~!!!

 

 

(ま、そんな感じですかね?)

 

 

それまで回していた思考を一旦収めながら、グレタの入れてくれた茶を口に運びます。

 

色々と暗躍みたいなことをしていた私ですが、無論学生らしいことや、『ヴァル』としての活動もしていました。

 

まず学生ですが、なんと数日前に中間試験がございまして、それに向けての勉強とテストを受けていた感じになります。お陰様で事件の翌日から机に齧りつくはめになったのですが……。まぁ終わったのでヨシとしましょう。幸いなことに学園側も配慮してくれたのか、教員を屋敷に派遣しての『自宅受験』をさせてくださいましたからね。

 

偽装の為にわざわざベッドを病室の机付き寝台みたいに改造して受けたのですが、まぁいい感じに出来たとは思います。というか一応わたくし公爵令嬢ですし、未だ殿下の婚約者ですから酷い点数取れないんですよね……。

 

 

(体調不良と言う事で少しは配慮してもらえるかもですけど、上から数えて早い方じゃないとちょっと不味いんですのよね……。赤点とかもってのほかですわ。)

 

 

んま、学業の方はそんな感じです。

 

それで次は『ヴァル』の方ですが……、グレタに『上級悪魔関連の詳細がわかるまで外出禁止』と言われてしまったため、あまり大きな動きは出来ていない感じとなっています。

 

まぁそもそも護衛として傍に付いてくれるベリアンヌこと『アンヌ』が骨折で休養中ですし、そうそうダンジョンに行くことは出来ません。ということで王都にある我が公爵家で抑えている他の屋敷、それを『ヴァル用』のものとして軽く改造したものにセラフィナちゃんをお呼びするぐらいでした。

 

冒険者としての活動はちょっとお休みするけど、君のことは忘れてないしまた今度、絶対一緒に冒険しようね~。って感じの奴です。

 

 

(でもまぁ、なんかずっと顔真っ赤にして碌に話せてないんですけど。)

 

 

一応簡単な会話は成立するのですが、ずっと心ここにあらずと言うか、熱に魘されているというか、何か期待しているというか……。

 

見てて可愛くはあるのですが、あまり踏み込んだお話が出来ない様な状況だったのです。まぁ急にお屋敷に呼んじゃったわけですし、平民の出でしかない彼女からすれば委縮しちゃうのも理解できます。でもやっぱりわたくしとしては、もうちょっと楽しいお話がしたかったんですのよねぇ。

 

隠してはいますが同性ですし、彼女が賭け事を楽しんでいる際に何を考えているのかとか、とっても興味があるのです。ですが無理強いをして嫌われるのは勘弁なので、今は我慢するしかないでしょう。

 

時間経過でいつかちゃんとお話しできるように成るでしょうし、ダンジョンに行けるようになるまで今後も度々お呼びして緊張を和らげてもらうことに致しましょ、って感じですわねぇ~。

 

 

「うん、こんなかんじですわね。グレター?」

 

「お茶のお代わりですね、すぐに。それとそろそろ茶菓子が焼き上がります。ご用意いたしましょうか?」

 

「お願い。」

 

 

メイドのグレタ、ずっと私の傍にいてくれる母替わりのような彼女に甘えながら、背もたれにぐっと体を預けます。

 

まぁ、何と言いますか……。ちょっと気が抜けてる感じなんですわよね。

 

無論ダンジョンへの熱は冷めてませんし、剣や槍を振り回したいという感情は色あせてません。ただまぁ諜報活動だったり、中間試験だったり、そういうのが一気に終わりましたのでちょっと休息が必要と言いますか。ゆっくりしたい気分なんです。

 

 

「ま、学園の方ではそろそろ武闘会のイベントがありますし。それが終わるまでダンジョン攻略はお休みするつもりでしたから、ちょうどいいかもしれませんわねぇ。」

 

 

ゲームでは中間試験後に行われるイベント、学園を上げてその魔法や戦闘能力を磨き上げるトーナメント戦みたいなものです。

 

攻略キャラによりますが、勝てば勝つほど好感度が上がりますし、固有のイベントもあったりします。ゲーム的にも結構重要ですし、この世界的にも成績だったり卒業後の進路に影響しますので大事な奴です。主人公も優勝目指してダンジョンでのレベリングに邁進するでしょうから……。

 

出会っちゃうのを避けるため、ちょっと時期を開ける感じになります。

 

 

(ま、先日の戦闘で相当レベル上がりましたし、SPを振り切ったせいで大幅に能力が上がったのです。屋敷で今の能力に合わせた新しい戦術を構築する時間と考えれば……。問題はないでしょう。)

 

 

そんなことを考えながら、グレタが持って来てくれた茶菓子を齧り、茶を口に含みます。

 

ん~! おいし! やっぱ腕いいですわよねぇ彼女! 前世じゃ全くお茶の味とか気に成りませんでしたが、グレタが優秀過ぎて舌が肥えすぎちゃいましたわ。これが嬉しい悲鳴ってやつ……

 

 

「あ、あの。お嬢様!」

 

 

急にこちらに走って来て、私に声を上げるメイドの一人。

 

確かパーラーメイド、来客対応の役割を任された子で、ルマセちゃんだったと思うのですが、どうしたのでしょう? 彼女が飛んできた時点で、急な来客だとは思うのですが、今日そんな予約入ってなかったと思うのですが……?

 

 

「どうかしましたか?」

 

「ノ、ノエルを名乗る少女が急に現れ、門の前に居座っておりますっ!」

 

 

のえる?

 

どっかで聞いたことのある名前ですわね。

 

のえる、のえる、のえる……。

 

 

 

 

主人公やんけッ!? 

 

はぁ!?!?!?

 

なんで!?!?!?!?!?

 

 

 

 

 








ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
これにて第一章はひとまず完結となります。

今後の展開につきましては、皆さまからのご感想や応援の声を拝見しながら第二章の執筆を検討していく予定です。
もし少しでも続きが気になると感じていただけましたら、評価や感想。お気に入り登録をいただけると嬉しく思います。

ではまたお会いできる日を楽しみにしております。
もしくは、ミアレシティでお会いしましょう。



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