(仮)豹頭王の物語の一登場人物に憑依する話。   作:Marchhatter

65 / 68
(今回は1話のみ投稿です)
○ご感想をいただきました。ありがとうございました!
・がっちりと固められてきてますね・・これもナリス公の謀略なのでは(違)
 偽イシュトの思い描く開拓村生活(家の外の階段で子供にほら話)と、公女様の固めつつある開拓村生活の実像(全自動足ふきマットつき)の乖離も、気になるところです・・。

・ナリス公、口では気にしてないようでありつつ、わだかまり持たれるとすごいめんどくさそうですよねー。
 自分の勘違いや忠犬の正体への誤解が解けたときの彼の怒りというか照れかくし、いったいどこに向かって爆発するのだろうか・・いやー、怖いですね、想像もつきません・・。

・不透明な状況、キレノア大陸世界、設定が相互矛盾も含め山ほどあるのできれいに解釈しきるのは難しいなー(そこが奥深い?)、と力不足を感じております(ちなみに筆者、設定がなかなか頭に入らず、いまだにグラチウス老の真の年齢がわかってません。実は何度か生き返ったりしている・・?)

・登場人物たちのOSに、かなりの作動不良が・・!
 原作ナリス公やイシュトヴァーンも、アプデで統制効かなくなってしまった感じですよねー。煽り食らったのがレムスで、中興の祖の芽はあるのか(闇王国の祖となるはず?)。
 まあイシュトは、戦乱に満ちた悲惨な運命ってのは予告されてたのでこれは予定どおりなのかも、ですが。
 
○遅くなってしまいました。偽イシュト視点です。


065 サリア号にて

(偽イシュト視点)

 

「大丈夫、グイン、イシュト?」

 

「ああ」「おおよ、ありがとなレムス。もう完璧だぜ!」

 

 レントの海にのりだした僕たちは、さすがに「ガルムの首」号には乗らなかったものの。

 乗った船はガルムの首号と交戦し、さらに流されて「神の棲む島」に漂着してしまった。

 なんとか無事にここを脱出後、原作どおり、アグラーヤのアルミナ姫の御座船である大型船、サリア号と邂逅し。

 パロの双子と、その同行者である僕たち(僕とグインとスニさん)は、サリア号に同乗させてもらうことになった。

(正確な位置もわかり、この後のテラニアまでの航路は大きな問題はない、ということで。

 僕たち一行は、急な話ではあるが船長をはじめ、お世話になった「サリアの首飾り」号のみんなに別れを告げることになった次第。

 十分に別れを惜しむ時間はないが、それでも仲の良かった連中とは肩を叩きあって円満に別れた。

 なんでか知らんが向こうの船乗り連中、別離を惜しみつつも僕をみてニヤニヤしてた。ちょっと思い出すとムカついてきた!)

 

 僕とグインは下層ではあるが船室をあけてもらって転がり込み。

 そこで休息してたグインと僕のところに、レムスが様子を見に来てくれたという次第。

 

「レム坊、そっちはどうだ?」

 

「大丈夫。船室もきれいだし、気を使ってくれてるよ。

 リンダと一緒に、これから船長さんとアルミナ姫との夕食があるんだ」

 

「良かったな!」「楽しんでくるがいい」

 

「うん、がんばってくるよ!」

 

 その後、すこしだけ情報交換し。

 レムスはまだ話したそうで名残惜しげだったけど、服の準備もあるので自分の船室に戻っていった。

 

「なあグイン。俺たちの仕事も、そろそろ終わるなー」

 

「ああ」

 

 グインとそう言葉をかわし、僕はしみじみと感慨にふける。

 

 ──ああ、僕自身は今どんな状況なのか、最後は危機的状況だったよな、って?

 あれ、説明とばしてたかな。いやーバタバタしててさ。すまぬ。

 

 まあね、諸兄には心配かけたと思う。ヴァラキアのイシュトヴァーンのチ○コ、9巻にて散る!とかさ。

 いや、そうなったときのシミュレーションしてみたら、さ。

 それはそれで未来の悲劇が大幅カット。みんなにとっては全然悪くないかも、と思い当たって愕然としたね。

 でも僕の個人的幸福の追求のためには、嫌だよやっぱり。

 僕は牧歌的な開拓村で、フロリーさんみたいな優しくてかわいい子と愛をはぐくんで暮らすんだ!

(それにしても、心ひそかにあざわらってたカル=モルと同じ目に会うとは。人を呪わば穴二つ、だね。)

 

 それで、どうだったって?

 そりゃ、蹴られてすごい痛かったっす。

 だって鍛えようのない、内臓が直接体外に出てるような構造だよねアレ。正直、欠陥っすよ。

 それで一時とはいえ、僕がのたうち回り醜態をさらしたのは残念ながら事実。

 

 ただあのときは、アグラーヤの御座船との接舷を行わないといけない状況。

 僕(イシュトヴァーン)はしかたなく、リンダへのフォローとか、仲間への抗弁とか、ろくにできないまま業務復帰。

(言ってはなんだけどこの船の乗組員の中でも、まあ僕(イシュトヴァーン)は若いけどみっちり操船技術は仕込まれてるし。オルニウス号をカメロンと2人だけで操って帰ってきたしね、──命がけで、さ(悲)。)

 

 荒れた外洋でも船の位置を感じ取ってぴたりと接舷できる、繊細なイシュトヴァーンのかじとりの技術を期待され。

 気合いで立ち上がってがんばりましたよ、痛かったけど。グインたちの視線も痛かったけど。

 それで実際、期待にこたえる働きはしたと思う。とりつくろえるくらいには痛みも減じてきた。

 

 ちなみに僕らが遭遇したのは、原作同様にアグラーヤ王女のアルミナ姫をのせた御座船、サリア号。

 自力で航行している場合は通常なら相互不干渉、旗であいさつして通りすぎる、というのが相場なんだが。

 先方の船長、トール・ダリウが何かを感じ取ってくれて、こちらの救援要請の信号旗に応えてくれた。

 原作と違って、僕たちの船があからさまな難破船、ってわけじゃないけど関心を示してくれたのは。

 風雨に痛めつけられてやっぱり外見がヨレヨレだったのと、ここが航路から外れた海域だ、ってことがあったかららしい。

 

 ともかくこちらの信号を受けて、船足を緩めて交信し。 

 さらにパロの双子がいる、ということを伝えると、接弦、乗船と王女との謁見まで許してくれたという次第。

 

 それにしても、そんなところにアルミナ姫がなんの用事だったんだろう。

 船長のトール・ダリウはアグラーヤ海軍提督で、相当の大物。アルミナ姫は若干12歳の少女。

 そんな少女を遣わす理由、原作ではあんまり詳しく書いてなかったから覚えてない。

 外洋航海なので相当危険性もあるのにな。海洋調査の一環か、アルミナ姫への教育の一環だったのかな?

 

「イシュトヴァーンよ。俺は沿海州のことを詳しくは知らぬ。

 お前の知っている範囲で、おおまかな情勢を教えてくれ」

 

 レムスが去り、しばらくの沈黙の後。

 珍しく、そう、グインの方から振ってきた。

 

「おうよ、一応教えとくぜ。ただ、俺の知識はちょっと古いと思ってくれ。

 お前のその便利な豹あたまで、ぴょこっと思い出したりしたら逆に訂正してくれよな?」

 

 そう応えながら、僕も現在の沿海州の情勢について思い出そうとする。

 

 ──────

 

 沿海州は、6か国に1つの勢力を加えた7勢力から成る。

 6か国とは、東からレンティア(女王ヨオ・イロナ)、ライゴール(議長アンダヌス)、トラキア自治領(オルロック伯爵)、アグラーヤ(ボルゴ・ヴァレン王)、ヴァラキア(ロータス・トレヴァーン公)、イフリキア(コルヴィヌス総督)。

 これに1つの勢力として、海の民たちが自由開拓民であるアムラシュ(市長=族長、ハズリック・ケンドル)とマガダ(領主ケイン・ケンドル)周辺に海人村がある。

 海軍を持つのは上記の6か国のみ(沿海州海軍)。アムラシュとかの海の民は、海軍を持たない。

 

 6か国の筆頭格が、大国アグラーヤ。王のボルゴ・ヴァレンも若いが英明とされる。

 アグラーヤ王族はもともとパロと縁戚関係にある*1。王族は少なくとも金髪だったり青い目だったりする描写があり、沿海州の人々と多少違うのかもしれない。

(おそらく、パロとの結びつきが強いためか、アルゴスーカウロスーパロへと続くアルゴ航路を牛耳っていることをうかがわせる描写がある*2。)

 

 このアグラーヤは沿海州国家の中では、頭ひとつ抜きんでた国力を持つ。

 基本的に交易で立国している沿海州の一部なのは事実だけど、そのなかでは陸地の領土も広い。6か国の中で王政はアグラーヤとレンティアのみ(ヴァラキアは、おそらくアグラーヤから叙爵されてるんじゃないかな)。

 ただ、あくまでどんぐりの背比べの中での話だ。もっとも、アグラーヤ自身は「海の覇者」を自任してるけどな*3。

 

 ちなみにグインには言わないけど、史実では、ボルゴ・ヴァレンはただものならずとみたレムスにアルミナ姫を嫁がせている。ただ、アルミナ姫は結構悲惨な運命をたどる。いわゆるホヒィ姫だな。

 この娘もどうにかしてやりたいが、今のところできることはあまりない。

 っていうか、レムスがカル・モル憑依ルートに乗らないと、そっちには行かないだろう。──あれ、ボルゴ・ヴァレンは頼りねーなこいつ、とレムスを見限って、アルミナ姫を嫁に出さなかったりなんか、あるのか?

 

 ヴァラキアは、アグラーヤと盟友関係にある。

 君主ロータス・トレヴァーン公も名君とされているが、弟のオリー・トレヴァーンは愚物。兄の命を狙ってるんじゃないか、という描写もあった。

 ヴァラキア人(ロータス公も)は黒髪、黒い目、浅黒い肌。享楽的。

(南部イタリアみたいな陽気なラテン系の人たちのイメージだろう、と僕は思っている。)

 

 イフリキアは、ヴァラキアの属領。総督も、形式上はヴァラキア公が任命する。

(なお、イフリキアはすきをみてヴァラキアへの下克上を狙っているという描写がある。)

 イフリキア、ヴァラキアは、クム・ユラニアと交易上の結びつきが強い。

 

 レンティアは、おそらく国力でアグラーヤに次ぐのではないかと思う。レント海軍は強力という描写がある。

 位置的に東側だからなのかわからないが、西方のアルゴ航路には乗り入れていないことをうかがわせる描写も。

 

 自由貿易都市ライゴールは、レンティアから独立した都市である。傑物であり大商人のアンダヌス評議長のもと躍進している。僕なりにみたところ、マレーシアとシンガポールの関係に近いのかもしれない。

 ライゴールは、モンゴールとの貿易を一手におさめ、巨利を挙げているとされている。

 

 おおまかな情勢図としては、アグラーヤ(国力トップ)、次いでヴァラキア(アグラーヤの友邦)あたりがパロの友好国だな。

 対してモンゴールの友好国が、ライゴール。ライゴールとレンティアは微妙な緊張関係にあるが、「紅の密使」の中では反アグラーヤ勢力として緊密な関係であると描写されている。

 

 そんな話を、グインに話す。あー、もちろん原作知識は抜きでね。

 グインの脳はちょっと特異で、記憶が復活したり新しくダウンロード(?)されたりする。

 だが今回僕が話した内容についてはそうした形での知識獲得はまだなかったらしく、興味深げに聞いていた。

 

 ──────

 

「イシュトヴァーンよ」

 

「なんだいグイン」

 

 その後、僕たちは簡単な食事をとり、船室に戻った。

 レムス、アルミナ姫のことをどう思ったのかな。原作では政略結婚ながら仲睦まじかったと思うのだけど。

 グインは寝台に腰かけ、僕はハンモックにのんびりと揺られながら会話を交わしていた。

 グインがその話題を出してきたのは、他の話題が尽きてからだったと思う。

 

「結局のところ、誓言は解けたのか?」

 

「あー、それな」

 

 僕はくちごもる。実のところ、まだ解けたと言い切れない状態。

 どういうことをすれば誓言が成立し、どういうことをすれば解けたといえるのか、実はよく僕にはわからないんだ。

 グインも分からない、と言っていた。

 もし、パロの暗部、影の支配者みたいな連中に知られたら不味い、消される!ってだけだったら、単にリンダたちに黙っててもらうだけで僕は安全。セフセフ。

 そうじゃなくて、あの言葉自体に謎の神秘的な力がある、というのなら、これは何か解除手段を取らないといけない。

 

 僕の推測としては、後者かなー。

 あのリンダにときどき憑依する神霊。あれが誓言の呪いの正体じゃないだろうか。

 んでもって、僕は一応それを解約できたんだよな?なあ、グイン?

 

「俺には分からぬ、イシュトヴァーンよ。

 王女に聞くしかないだろうな」

 

 それなんだよなー。あれ以来、リンダとは話せてない。ちょっと気まずいなー。

 でもさ、3年経ったら迎えにいくかも、でもリンダか僕が心変わりすればナシで。僕がその間に王様になれなくてもナシで、って。ほとんど解約同然じゃん。

 最後はリンダも笑ってたから、きっと許してくれたんだよな?な?

 

「だから俺に女心を尋ねるなというのに。お前の方が良く知れよう」

 

 いやそんなことはないぞグイン。お前結構モテモテなんだぞ。ネタは上がってるんだ。

 セムやラゴンの女たち、ほらあのラゴン娘のラナとかもさ!

 それはそうとして、グインの女の好みを俺は知っているぞ。

 

「何だと?」

 

 いやグイン、何、豆鉄砲喰ったような顔をしてるんだ。

 さてはお前、自覚ないな。

 まず、リンダ。ばっちり、お前の好みだろう。

 

「いやまてイシュトヴァーン。あの娘は俺にとって、そういう対象ではなくてだな」

 

 ほう、全く好みではないと?

 

「まあ、愛らしいと思うが──待て、なぜそういう話になる」

 

 そういう話をしてるんだよ!それとさ、アルミナ姫だが。

 

「イシュトヴァーン。その話はやめておけ」

 

 珍しく動揺しているように思えるグインのトパーズの目を覗き込みながら。

 僕はかねて、そう、前世でグインの物語を読んでいたときから思っていたことを口にのぼせる。

 

 ──まあ聞けよ。

 俺の思うところ、グイン。お前はそのでっけーガタイに似合わず、ちょっと小柄でほっそりした、かわいい感じの娘が好きなんだ!

 庇護欲ってやつ?つまり、守りたくなっちゃうんだな、お前は!

 しっかりぱつぱつぽんきゅっぽん、ばいんばいんのお姉さんとかよりさ、妹タイプのイカ体型というか。

 まあ、あれだな、人は自分にないものを求めるってやつだな!

 

「──イシュトヴァーン、その、だな」

 

 つまりだ、あのアルミナ姫さまだよ!どう思った?

 お前、遠目にみて超そそられただろ?キリキリ白状するんだ。

 マジ、すっげー好みなんじゃないか?

 まだいかにも年端のいかない少女なところとか、威厳はありつつ青い大きな目で上目づかい、とか。

 泣きつかれたら、よっしゃ俺に任せとけ、なんて口にするぞお前。ヤーンにかけて!

 

 だがな、ふふ、残念ながらあきらめるんだな、グイン。

 たぶん、──強力な競争相手(ライバル)がいる。レムスの坊やだ。

 きっとレム坊、あの姫様のことぞっこんになると思うぜ。この「魔戦士」イシュトヴァーンさまの直感がそう云ってる!

 それに、あの姫様もおそらくレム坊を憎からず思うんじゃないか?

 ほら、ずいぶんいい男になってきたじゃねえか。まだちょっと鍛え方が足りねえけど、さ。

 

 話を戻すと、要はお前、子供っぽい娘が好きなんだろ?

 大丈夫大丈夫、そんなに必死に否定すんな。俺、娼館育ちだからな、いろんな好み(多様性)にめっちゃ理解ある人なんだぜ。

 それにな、まあなんだ。

 きっとそのうちお前、すっげーお前好みのお姫様を娶ることになる。心配なら、リンダに予言してもらえ!

 しかもさ、それにあきたらず愛妾まで抱えることになるぞ。間違いない!

 

 だけどさ、そこでひとつ心配があるんだ。

 あまりに慣れてなくて、お前の未来の奥さんが変な男に誘惑されて逃げられたりしちゃまずいじゃん。

 だから、良かったら。ヴァーレンででも、ちょっと女の子のいる酒場にでも見学に行かね?

 

 いや、だからお前は抱いたりってのはナシでいい。ただ俺、行きたいところがあってさ。

 なんだったかな、たしか「ウミネコ亭」*4とかいう、イカした酒場があってだな──

 

「ふふ、お客人はずいぶん面白い話をされていますのね。さきほどから聞いていますと」

 

「ぐわっ」

 

 いたずらっぽい、鈴を鳴らすような声に僕は凍りついた。

 話に熱中しすぎてて、警戒を怠ってたんだ。

 ゆっくりと、頭をめぐらして扉の方をみやる。

 あ、やべえ。話題のアルミナ姫さまだ。

 僕は顔から血の気がひき、変な汗がにじみでるのを感じた。

 

「お、王女殿下!?うへえっ、これは気づかずご無礼をばっ!」

 

 ジャンピング土下座ってこんな感じかな。いや軽業めいてるけど、イシュトの体って超高性能だからさ。

 脂汗をかきながらも、超速で平伏。

 

「すごいです!なんと身軽な!」

 

「──王女殿下。しもじもの会話でのお耳汚し、許されよ」

 

 グインもおそらく困惑というか苦渋の面もちなんだろうけど、外見上は悠々と立ち上がり、おもむろに片膝をついて礼をとってみせている。

 

「よいのです。私が無理を言って、お忍びできてつい聞こえてしまったのですから。

 あなた方は、あのおそろしいノスフェラスの荒野から、未知の外洋にいたるまで。

 レムスさまとリンダ姉さまのことを、身に代えて守ってくださったとか」

 

「はっ」

 

「その礼を言いたくて。

 さきほどの食事会では、本当に面白いお話をおふたりからうかがったのです。

 ──これからも、変わらぬご忠義をお願いしますね」

 

「へへー」

 

 少なくとも表面上は機嫌よく、アルミナ姫さまは僕たちにねぎらいの言葉をくれて、場を去る。

 うわー、マジかよ。腹の中、にえたぎったりしてないだろうなー、と戦々恐々としていた僕の動揺が面白かったのか。

 あまり堅物じゃなさそうな、でも足取りからかなりの腕利きとわかる護衛が去りぎわに、僕たちに片目をつぶってにやっと笑ってくれた。さすが、海の兄弟だぜ。

 あー、心臓に悪かったが、きっとそこまで悪いことはなかったんだよな。

 僕のせいで不敬罪とかで船倉に放り込まれたり、一行が船から放り出されたりしねえよな、グイン?

 

 グインは無表情なすまし顔に戻ったが、トパーズの目が面白そうにきらめいた。

 

「まあアルミナ姫も寛大であられるようだ。問題はなかろう。

 しかしお前は俺の嗜好について、俺以上に良く知っているようではないか、イシュトヴァーン?

 

「うっ、──忘れてくれ」

 

「──まあいい、今日も遅い。そろそろ明かりを消すとしようか」

 

「あー、すまねえ。ほんと悪かった、口はわざわいの元だな!

 じゃあまた明日な、グイン」

 

 僕はついつい口がすべって、お姫様とグインに強烈な悪印象を残した可能性のある自分の軽率さを猛反省しながら。

 船室の明かりを消し、これからのことに思いを馳せる。

 

 これからいくつかのイベントがあるはず。

 

 ──ミアイル暗殺事件。

 

 原作より日程は早く進めてる。だから、まだ間に合うはず。

 ただ心配だ、早くヴァーレンに着いて情報収集したい。

 

 ──沿海州の重鎮たちがパロへの対応方針をめぐって論戦を交わす、ヴァーレン会議。

 

 これ、僕にできることはあんまりない。まあすったもんだはあるが、パロ支持でまとまるだろう。

 問題は、後のライゴールの陰謀をどうするか、だよな。

 

 ──ヴァラキアの、カメロン提督。

 

 イシュトを心配してくれてる、父親みたいな存在だ。いぶし銀のおっさん。

 原作ではヴァーレンでは会えず、すれちがいで終わったんだよな。でも、連絡した方がいいかな?

 義理もあるしなー、でも原作どおりが手堅いのか?

 

 ──モンゴールの密偵、レグルス。

 

 レグルスはモンゴールの密偵だ。工作任務中にアグラーヤ側の手で重傷を負い、その死に際に密書がイシュトに託される。

 これ、原作どおりパロに届けてやんねえといけないのか?まあいい、どのみちアストリアスの闇落ち防止のために行くつもりだけどさ。

 ただ、敵とはいえ人が死ぬのはなー。死ぬ前に、ぶんなぐって奪い取る方が親切か?

 

 ──うみねこ亭のミリア。

 

 レグルスの水晶符をイシュトがお礼に渡したばっかりに、モンゴールの密偵と勘違いされてコロコロされるんだよな、この娘。それだけは避けたい。

 あー、むしろまったく接触しない方がいいのか?

 だけどな、気になる。ちょっと客として行く、そして遠巻きに観察しよう。そう、さっきは話が途中になったけど、グインの奴にちょっと免疫ってやつを付けてやらないとさ、──

 

 そんな完全に余計なことを考えながら、僕はすぐに夢もない眠りに落ちていったのだった。

 

*1:
第12巻「紅の密使」18頁

*2:
同19頁。

*3:
第9巻「紅蓮の島」266頁(『わがアグラーヤは海の覇者ですぞ。大軍船団を擁し、タルーアンのヴァイキングとさえ対等にわたりあう』。)

*4:
イシュトヴァーンのせいで死ぬことになる、ミリアのいる酒場である。




(覚書)

○交易路(海路)の謎
 パロは文化の中心であり、気候も温暖で(しかし自信はないが、地図をみる限り、地理的には乾燥地域になりそうに思う。それに高地にて常春との描写もあったが、四季変動がないなら温帯地域でなく熱帯地域の高山帯ということなのか?)、経済活動や交易も活発なはず。ところがこのパロ、どことどのような交通路で交易を行っているかが実は判然とはしないのだ。
 加えて「紅の密使」では沿海州が交易の中心地だという記述があるが、これがどうも噴飯ものに思えて仕方がない。沿海州には後背地が乏しいうえに、大消費地であるゴーラ、ケイロニア、そしてパロとすら交通の便が非常に悪いように思えるからだ(というより、ケイロニアは別として、ゴーラとパロはなぜか罰ゲームじゃないのかというくらい、内陸の交通不便なところに押し込まれている気がする。とても大国とは思えない)。
 というより、この巻の航路の記述がどうにもよくわからないのだ(もっとも、あまり本筋とは関係ない)。

・ケス河は交易路か?(「西まわり航路」)
 まず、沿海州が海に面していて海洋を行き来できるのはたしかだ。ところが、モンゴールに行くにはケス河を使わねばならないはずだ。このケス河が交易路としてそんなにたやすく利用できるのなら苦労はしない、スタフォロスやアルヴォンに港が併設されていたことだろう。そうなっていないのは、そもそもケス河が交易路としては使い勝手がよくない(というかぶっちゃけ毛皮を巻いてないとケス河の怪物たちに攻撃される)からだ。

 ちなみに、ケス河をさかのぼってモンゴールを攻撃できる、とアグラーヤ王ボルゴ=ヴァレンは発言しているが、大いに疑わしい。軍船がこのルートが使えるのなら、ロスもモンゴールのケス河沿いももっと発展しているように思えるのだ。
 (参考)「ロスよりさかのぼり、トーラスの背後をつけばモンゴールをおとすはやすかろうし、──」(第9巻「紅蓮の島」266頁)

 もっとも、グイン・サーガ・ハンドブックによると、モンゴールはこのケス河をも交易路としていると述べられている。また、「紅の密使」では、はっきりとはしないが、このロスまわりのルートが「西回り航路」と呼ばれているように思える(どうして西回りなのだろう?東回りではないか?もしかするとキレノア大陸は南半球にある・・?)。
 (参考)「草原と中原の流通は、むしろいったんこの沿海州を経てからのものがほとんどである。」「その、最も重要視されるのがケス河の河口のロス港を中継地とする西回り航路であり、──」(第12巻「紅の密使」16頁)

 「中継地」がロス港ということは、そこから先に港があるということだと思う。地図をみるかぎり、ケス河をさかのぼった地点にあるツーリードくらいしか見当たらない。
 もしかすると、ケス河もツーリードあたりまでは怪物が少なく渡航できるのかもしれない。だが、そうだとしたらモンゴールのノスフェラス遠征もツーリードから行われていたのではないだろうか。それとも、「中継地がロス港」は書き間違いで、「目的地がロス港」、そこから先は陸路?
 史実でのノスフェラス遠征部隊は、ケス河を超えるのに大損害を蒙っている。そのケス河を、苦もなく(とは言わないまでも)交易に使っているモンゴールの農民たちと沿海州の水夫たち。──きっとこの連中、モンゴールの騎士よりはるかに屈強なのに違いない。

・パロと沿海州、草原の間の交易路
 パロと沿海州の間に河川があれば、あるいは百歩譲って赤い街道などの整備された街道があればまだわかる。しかしどうみてもこの間は天山ウィレンで隔てられている。街道も非常に遠回りだ。だったら、なぜ沿海州はパロと中原の交易で栄えていられるのだ、何をどうやってどこに運んでいるのだろう?という疑問が生じてくる。
 (参考)「ダネイン大湿原とウィレン山脈によってへだてられている草原と中原の流通は、むしろいったんこの沿海州をへてからのものがほとんどである。」(第12巻「紅の密使」16頁)

 しかし、どう考えても中原のうちパロと草原の交易であれば、直接ダネインを渡るだけの方がいいように思える。地図を見る限り、パロと草原(アルゴス、カウロス、トルース)との交易の最短ルートは、ダネインを超えるルートである(「アルゴ川の河口アルカンド経由のアルゴ航路」)。アルゴスとカウロスという敵対国を抜けていく政治的に不安定なルートであり、そしてどうやら魔境に近いダネイン湿地帯を押しわたる必要がある、という点に目をつぶれば。これ、グイン世界でのホルムズ海峡とかバベルマンデブ海峡みたいなものかもしれない。
 ちなみにこのルートは、史実でアグラーヤ宰相ダゴン・ヴォルフがパロの「死の婚礼」からアグラーヤ帰国のために使った最速ルートである。
 ただもしこのルートがちゃんと栄えているなら、パロの経済の中心地は、カラヴィアあたりになってなけりゃ変だよなー、と思う。

 ただこのアルゴ航路をとる場合、パロからみて、沿海州は草原よりさらに遠い。沿海州をパロー草原の交易のため経由する意味はないのだ。
 あとケイロニアも中原なのだが、これも、いったん沿海州を経由する意味はない(アルゴ河からそのまま南→西→北とまわって直接ケイロニアに向かった方がいい)。
 そして中原東部のモンゴールやクムと草原の交易という意味であれば、たしかに沿海州を中継する意味がある。ただし、ここで問題となるのはそもそも西まわり航路が存在するのかということである(前述)。ツーリードみたいな辺境に港があっても、モンゴール国内ならともかく、そこからクム、ユラニア、パロやケイロニアに荷は流れないだろう。

 思うに、「いったんこの沿海州をへてから」とあった先の引用部は、「いったんこの沿海州の業者の手をへてから」くらいの意味なのかもしれない。

・ケイロニア海路から運河に出るルート(「ケイロニア航路」?)
 「紅蓮の島」でボルゴ・ヴァレンが示唆したルートであるが、これが地図にみあたらない。だいたい、パロとケイロニアの間には山脈が走っており、この間に運河などあるのか?というと非常に疑わしい。そんな便利なものがあるという描写がない。もしかするとノルン海からケイロニア南部への運河があるのか?それとも、ハイナム(パロの西側の空白地帯)が、そんな便利な運河を作ってるのか・・?

・貿易立国としてのクム
 地図を見る限り、中原でもっとも発達しやすいのはケイロニア(これはそうだ)とタリア、内陸国でいえばクムだと思う。特に、クムは交易面では四方に広がる水路があるせいで、非常に有利だ。ケイロニア、ユラニア、パロといった強国との間に、すべて便利な水路を備えているのだ!これはもう強いと思う。商人の国、というのは間違っていない。

 しかし、クムは同時にゴーラでは新しい国で、キタイからの移住者の建てた国とされている。こんな有利な土地を占拠できたというのは、よほどに強力だったのだろう。しかし、キタイからどのルートでやってきたのだろう?
 陸路、ノスフェラスを越えてやってきたとすれば、あっさり毒水で全滅しかけたスカール麾下のグル族より、はるかにクムの祖先たちは強靭、あるいは幸運だったのだろう。

 それとも、海路で?海路ルートでのキタイ人の流入も示唆されてはいるのだが、どうやってその孤立しまくった沿海州からこの中原中央部に進出できたのだろうか、という疑問もある。おそらくそれこそ天山ウィレンあたりを超えたのだろう。──やはりキレノア大陸の商人たち、屈強と言わざるを得ない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。