ゲットしないと喉笛噛みちぎっちゃうぞ   作:イトシキイタダキ

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13章「サレンダーなんて存在しないんですよ?」

 ソウスケは波打ち際から引いた砂浜に立ち、手のボールを見つめた。炎天下の中、曲面が照り返す。

 

「ああ、分かっているよ、お前らが出てこなかった理由。バトルで黙らせろ、だよな。結局やるべきことは変わらないんだよ」

 

 外洋の波が砂浜を登り力尽きる音がする。磯の香りと味が霧散していく。

 

 制服の女学生が現れた。黒髪その両腕に輝く石のブレスレットを付けている。その二つは異なるものだ。メガバングルにZリング。女子高生とは最強の種族かもしれない。

 

「……30分前ですよ、ソウスケさん、なんで昨日より早かったんですか」

 

「さっさとイナホを引き渡したかったんだ」

 

 彼はハハハと笑った。

 

「良い冗談ですね、だってゴージャスボール今無いじゃないですか」

 

「嘘では無いんだ。理屈で考えれば、イナホをアンリちゃんに渡しさえすれば俺の苦労の大半は終わる。この奴隷生活は終わる。だが」

 

 ソウスケは黒い透明の珠を弄んだ。内側に仄かなエネルギーが溜まっている。

 

 ……テラスタルは大事に使えよ。そのカインの警告が頭に響く。

 

「分かるんだよ、俺は戦わなければいけない、君を全力で捻じ伏せないといけない。馬鹿だろ?」

 

 彼は笑わずに続けた。

 

「笑えてくるだろ?」

 

 アンリが鼻を啜りながら言った。

 

「私も分かっているんですよ。私が間違っていることぐらい。でも、魂に引き摺られてしまったんですよ」

 

 

 

 ビーチパラソルの下で、タブレットを持ったカイン。タブレットの画面に狐耳の少女が映る。

 

「我々の計画通りだな。これで腑抜けたあいつを立て直す。お互い損は無いだろう?」

 

「共犯者にしないでくれる?」

 

「お嬢ちゃん、君が元凶じゃないか。お前が偽高校生活エンジョイしなければこうならなかったんだ。野生キュウコンに執着する女学生と挫折した上に寄生された青年のバトルなんてな」

 

「でもこうはならんでしょ」

 

「なっとるやろがい」

 

「あんた、なんで取りなさなかったの。もしこれ、ソウスケ負けたら彼、再起不能になるかもよ」

 

「ソウスケが負けるわけないじゃないか、勝ってくれないと困る」

 

「ちょっと。友達じゃないの?」

 

 カインは笑いながら言った。タブレットを睨みつけながら。

 

「お前にソウスケの何が分かるんだ?」

 

 

 

「ねえ、ソウスケさん」

 

 アンリは手を差し出した。

 

「今日は後の握手を先にしましょう。どちらが勝っても片方はそんなこと出来なくなっているでしょうから」

 

「ああ、俺は君をリスペクトを持って完全に叩き潰そう」

 

「私はあなたに挑戦します、己の全てを出し尽くすことを誓います」

 

 青年と少女はその手を重ねた。

 

「カイン。開始の合図を頼む」

 

 砂地の線に下がった二人にカインが叫ぶ。

 

「勝ち抜きフルバトルだ。試合、開始!」

 

 

 

 ソウスケは把握していた。アンリの手の震えを。しかし、俺は役者にならねばならない。恋人を奪い去る残酷な悪役を。

 

 この挫折者の心を折らねばならない。

 

 ソウスケはトルーネンのボールを握った。

 

 南の海の街ハイナレ。それはリゾート地である。美しい砂浜、豊かな幸、果てしない大海。

 

 アンリの震えがピシリと止まった。そして予備動作に入る。

 

 ヤシの木を背景に制服の少女が咆哮しながら、横回転で黒と黄のボールを投げる。

 

「イナホをかえせぇぇ!」

 

 ソウスケはその爆音波を浴びて、揺れる。

 

 このJKは己を狂戦士にするべく叫んだのだろう。

 

 そして、ソウスケは確信していた。脳内でクワトロの休暇と一生リンクするのはこのダム底女ことアンリだなと。

 

「蹂躙して、フカ!」

 

 ハイパーボールから、地の音速竜ガブリアス、そしてまた咆哮。

 

 学園序列5位の主力。ああ、俺の相手は一人じゃない。仲間の思いまで彼女は背負い立っている。

 

 勘弁してくれよ。

 

 放たれたソウスケのボールから緑の竜、フライゴンが現れる。

 

 アンリ側の竜がその姿を変える。紺基調に赤と黄色も混ざったボディスーツにヒレのような強化外骨格、ヘッドギアにはジェットエンジン。尾てい骨についた金属のテール。その顔と身体のラインの曲線はあまりにも黄金比であった。アンリというただの人間と比較するとその理想の完成が分かりやすい。

 

 彼女はトルーネンの拳をその手で受け止めながら言った。

 

「……アンリ、自分より強い相手を蹂躙することは不可能」

 

「知っている!」

 

 彼女は叫びながら、手で前を払うジェスチャーをした。

 

 ビーチパラソルの横に影が現れる。学ランに学帽。ある意味逸脱した高校生。

 

「イナホさん、私はあなたに惹かれていた。だが、アンリちゃんはそれより上だった。わかってやってください」

 

「サミダレ」

 

 タブレットの中のイナホが返した。

 

「サミダレパイセン、イナホちゃんで良いっすよ。だって偽造生徒証だったんすから。だから」

 

 空から鋼の巨鳥、エアームドから飛び降りた丸刈りの青年。

 

「……0年生としていつでも歓迎するっすイナホちゃん」

 

「モリハヤシ」

 

 サミダレは「考査対策」と書かれたノートを丸めメガホンにして叫んだ。

 

「フカ、頑張れ!」

 

 

 

 イナホの奴、なんか慕われていそうじゃないか。なんで俺に寄生したんだよ。

 

 ソウスケはいきなり出てきた超バトル用ポケモン、ガブリアスを相手に面倒臭さを覚えていた。

 

「ステロの余裕は無い!」

 

 主の発言を理解した緑の竜はその団扇のような尻尾を振るう。

 

 一手遅れて、敵の少女もその金属のテールを振るう。

 

 ドラゴンの尾同士が交差し、閃光が光り、砂浜が同心円状に抉れる。

 

 少女の顔が歪んだ。一方、緑の竜は弾き飛ばされ、彼方から牽引するような赤い光になり、ボールに戻る。

 

 ソウスケのボールからランダムに代理が飛び出す。ドラゴンテール。ガブリアスの強制入れ替え技。

 

「しまった」

 

 ソウスケは一瞬、自分を見失いかけた。出てきたのは赤いふわふわの美少女メラ。まだ安静中の幼虫。戦わせてはいけない。

 

 ソウスケは手を挙げた。

 

「アンリちゃん、俺のま……」

 

「続行!」

 

 幼い声が叫び、火を纏い、目の前に突っ込んでゆく。それはあまりにも向こう見ずな制御を気にしない加速。砂をドロドロに融かしゆくそれをフカは機械音を響かせ、躱した。

 

 躱してくれて良かった。それはフリージオ戦でも封印していた高火力の物理炎技。そして、確実に反動の発生する諸刃の切り札、フレアドライブ。

 

 この馬鹿野郎。当たったらどうするつもりだったんだ。相性も悪いからわざとやったろお前。

 

「アンリちゃん、気にしないでくれるか」

 

 ありがとう。そしてすまない。ああ、逃げちゃ駄目なんだ。どんな残酷な結末になろうとも。

 

 アンリは、あらぬ方向から息を切らしフカに向き直すメラを見据えた。

 

「気にするも何もパルデア以外、サレンダーなんて存在しないんですよ?」

 

 今度は機械竜人に幼虫少女が飛びついた。迫り口を大きく開けるそれに対して、フカは手に光を溜める。

 

 無数の光のネットワークが形成したそれをフカが突き出す。彼女の首元にかぶりつくメラの腹に。その柔らかい肌を貫く直前、彼女は消えるように跳ねた。

 

「剣の舞、形成完了。フライゴンのワイドブレイカーによるダメージ残存」

 

 電装竜人が光輝く刃を構えた。

 

 剣の舞。トルーネンがフカの攻撃力を下げてくれていなかったら、致命傷だったかもしれない。刃毀れを見つけたソウスケは考えた。

 

「行くよマスター!」

 

 刀を持つ敵に素手で幼虫少女は突っ込んだ。

 

 

 

「ガブリアスが剣の舞してメラルバと戦う。弱いものいじめみたいで辛いっすね、パイセン」

 

「モリ、それは冗談のつもりなのか?」

 

「冗談っすよ。だってあの子俺の手持ちのうち3体を持っていった娘ですからね。パイセンならフカよりレベル上だと分かっているっすよね」

 

 

 

 刀が振動が纏い、周囲の大地を震わす。全身ボディスーツに覆われた少女の首筋にドレスの女の子が噛み付く。それは袈裟懸けに切り払われる。

 

「つうっ!」

 

 メラは距離を取りつつ、血こそ出ないが、刃の走った場所を抑える。

 

 フカも無表情のまま首から溢れるエネルギーを手で抑える。

 

「進化の輝石、中途半端な強化じゃ仕留めきれない」

 

 フカの淡々とした報告にアンリが頷く。

 

 メラのわずかにはだけた胸元から輝く石が見えた。

 

「メラ、回復しろ!」

 

 ソウスケの掛け声に合わせてメラに光が注ぐ。

 

 メラの服の破れや顔の汚れが消えていく。

 

 

 

「朝の陽射し、だな。この太陽光の強さに吸血と合わせて、ほぼ全快。刀持ちのフカ相手に互角以上か」

 

「あれ、厄介でしょう。パイセン?」

 

 サミダレにモリハヤシが楽しむように言った。

 

 

 

「ストーンエッジ!」

 

 アンリの叫びに呼応し、フカは刀を砂に突き刺す。無数の石柱が生え、光の中息を整えるメラに向かって発射されていく。

 

「あはっ」

 

 虫の少女はそれを跳ね、次に迫るそれを海老反りになって躱していく。

 

「笑っている、あなたも楽しんでいる、なるほど来て良かった」

 

 竜の少女も淡々と呟いた。

 

 完全に回復したメラは自分より遥かに大きい相手に突っ込んでいく。

 

 フカは無表情のまま、刀を振るい、衝撃波と石柱の波状攻撃を発生させる。

 

「岩重複弱点は無理だけど、地震なら耐えられる!」

 

 メラは衝撃波に突っ込みながら、震源地の首に食らいつく。

 

「アンリ、ごめんなさい、確実にこの子は落とす」

 

 メラの背に石柱。

 

 唖然とするメラ。その目の前には苦悶に顔を歪める顔。

 

「なん……で。自分も巻き込んで……まで」

 

 フカ自身にも八方から石柱が刺さっていた。

 

「確実に遂行する、アンリの真似」

 

 二者は石柱に貫かれたまま倒れた。

 

 

 

「フカ。よく頑張った」

 

 サミダレは目頭を押さえていた。

 

 

 

 最強格のポケモン、ガブリアスは落ちた。能力的にはソウスケの手持ち最弱の進化前、メラルバを生贄にして。

 

 メラの安静期間がまた伸びた。間違いない。さぞ、いい気分だろうなお相手は。

 

 ソウスケはアンリを見た。

 

 クソ苦いドリの実を噛み潰すような顔。

 

「……誰がそこまで痛い思いして仕留めろと言ったのよ。私をなんだと思って」

 

 彼女にも痛みは蓄積している。

 

 両者紅白のボールを持つ、

 

「カナ!」

 

「トルーネン!」

 

 ボスゴドラの擬人化甲冑騎士が跪いた姿から剣を手に立ち上がる。

 

 手負いの翼竜、フライゴンが上空から騎士を睨む。

 

 流石ガブリアスだ。しっかりとトルーネンの体力を持って行っている。メラの功績は大きい。

 

「いざ、参らん、アイアンヘッド!」

 

 彼女は重い甲冑を鳴らしながら、飛び跳ね、上段で斬りかかる。

 

 トルーネンはその剣を尾で受け流しつつ急降下し、ビーチにへばりつくように飛ぶ。空も大地も彼女の支配域だ。

 

「ステルスロックですアンリ!」

 

 騎士は緊迫した声で報告した。

 

「やられた。本命のメタルバースト無駄撃ちね」

 

 危ない。もし、トルーネンに地震を撃たせていた場合、そのまま返り討ちだった。相変わらず怖すぎる。

 

 アンリが呟く一方で、騎士は飛ぶフライゴンに足でしがみついていた。

 

 しかし、竜は嗤う。急降下し、騎士を地面を引き摺り回し、それ自体を震源にして衝撃波を砂に叩き込む。

 

「ガァッ」

 

 激烈な振動に引き摺られる騎士は分裂するように見えるが、その中、剣を構える。

 

 それは知っている。彼女は頑丈だからな。

 

 その剣に青いエネルギーを纏わせる。

 

 マジか。

 

「冷凍パンチ!」

 

 彼女は引き摺り回され、振動しながら、フライゴンの首に冷気の斬撃を浴びせる。

 

 ヘッドとは、パンチとはなんなのか。

 

 ついに接地して横滑りするフライゴン。その両足が砂地を削っていく。

 

 オレンジのアイカバーの中、目を閉じていた。その細長い首の凍結が広がっていく。重複弱点の一撃。しかも元々半分の体力。そのまま目を開けることは不可能。

 

 砂浜の着陸跡は途絶えた。その砂にまみれたアイカバーの奥から眼光が光り、甲冑女騎士を睨む。

 

「まさか、ヤチェ!」

 

 アンリの声に御名答と言うがごとく、トルーネンは青い皮のついたきのみのヘタを吐き捨てた。氷のダメージを和らげる果実である。

 

「ただの弱点でもトルーネンちゃん硬すぎですけどね」

 

 凹み割れ、千切れかけた甲冑をボロのように纏う騎士は息を整えながら感心する。

 

 体勢を整え、騎士に溢れんばかりの闘志を燃やす竜。満身創痍のトルーネンから地響きが始まる。砂の隆起が広がっていく。

 

 ああ、沈め。やれ、地震だ。

 

 くすんでしまった銀色が突進する。もちろん、その敵に向かって。

 

 ボスゴドラの速度で俺のフライゴンに届くものか。

 

 ソウスケの瞬きの間であった。

 

 届いていた。

 

 竜の彼女はアイカバーの中から、自分の首から広がる凍結を見ていた。

 

 カナはトルーネンから剣を引き抜く。

 

 柄にぶら下がった紐。その先にあるのは爪のような何か。

 

 まさか、それは。敵を上回る速度を得ることがあるお守り。

 

「先制の爪」

 

「御名答です、ソウスケさん」

 

 騎士が息を整えながら丁寧に言った。

 

 砂浜に竜が倒れ伏し、ざらついた音が響く。

 

 おいおい、後2体で5体かよ。

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