ゲットしないと喉笛噛みちぎっちゃうぞ   作:イトシキイタダキ

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14章「テラスタルは使わんといて下さいよ」

 ……テラスタルは使うなよ。

 

 また、研究所で補充するしか無くなるからな。

 

 カインの言葉である。

 

 

 

 ボスゴドラのカナはイシスにより瞬時に落ちた。頑丈により残った首の皮1枚なので、当然である。

 

 ソウスケのパーモットの擬人化、黄色パーカーの少女に繰り出されるのは。

 

「ルナ!」

 

 コーン型黒帽子に箒の魔法学校の女学生。ガラル児童文学の金字塔スロープランターを元に魔女像を練り上げたと考えれば合点の行くアンリのムウマージ。

 

 二人の少女はお互いを見合った。

 

 攻撃は起きず。

 

 イシスは背後に電流を放った。

 

 ルナは虚空の魔法陣から古風の本を取り出した。

 

「悪だくみとは、読み違えましたね、みちづれかと。そちらの火力は死を意味する」

 

「さいきのいのり、ね。初手ほっぺスリスリかと。カナの努力が元の木阿弥」

 

 擬人化2体はお互い緊張を保ちながら、無駄になった思考を開示する。

 

「まずいですね」

 

「まずいわ」

 

 おもむろに箒に腰掛けたままルナは本を開く。中から滔々と黒いオーラが溢れる。彼女の口から聞いたこともない発音の呪文が溢れる。

 

 何が来るかは分からないが次の一手は決めている。

 

「発動させませんよ」

 

 両腕に瞬時に満たされるエネルギー。イシスは稲妻を迸りながら、魔女に迫る。

 

「電光双撃、その体内の電気を使い切るパーモット固有の大技。ここで切りますか。思い切りが良いですね。ルナ! そのまま!」

 

 アンリちゃん、解説ご苦労。だが。

 

「生憎、先延ばし癖があるのさ、俺とイシスには!」

 

「マスターのそれと一緒にしないでください!」

 

 イシスは魔女に肉薄し、電流を手から消す。

 

 魔女帽の下の雪のような色の顔と、パーカーの下の小麦のようなもちもちの肌が接近する。

 

 元々黄色い頬のイシスと今、朱に染まるルナ。

 

 そのままイシスはルナの唇を、奪わなかった。

 

 イシスはその頬をルナの柔らかいそれとくっつけた。

 

 ルナは一瞬、まんざらでもない顔をしたが、直後、箒の上で、痙攣し、詠唱が悲鳴になる。

 

「まあ、ほっぺスリスリなんだよな」

 

 みちづれは素早い相手なら初動を読めずにそのまま、持ってかれる。足を奪うのが最適だ。

 

「やられたけど、想定内、そのまま怖い顔」

 

 アンリの台詞に、魔女ルナはイシスの胸を手で突いて箒で下がり、距離を取る。

 

 足をすくませる精神攻撃。やはりアンリも発想が同じだ。

 

「その可愛い顔がどんな風に怖くなるのか楽しみですね」

 

 頬から残りの電流を迸らせているイシスがサディスティックに言う。

 

 あの、イシスをどのように怯えさせるのか。

 

 ルナは手に小さな魔法陣を展開した。

 

「――情報共有。スロープランター最終7巻「災厄の秘宝」。強化された精神汚染を喰らえ」

 

 それは許されない。

 

 虚空から召喚された児童文学とは名ばかりの分厚いハードカバー。それから黒い霧が溢れイシスを包む。

 

「何です? この禍々しい文字の塊は」

 

 直後、イシスが頭を抱える。

 

「あー、あの子があんなことに! やめてください! 私3巻までしか読んでいなかったんですよ! なんですか、これ、なんなんですかぁ! 章すらバラバラじゃないですかぁ!」

 

 こんな取り乱したイシスは初めて見た。

 

 

 

 外野も騒然としていた。

 

「そのネタバレはエグい、ていうか7巻だと情報量ヤバいだろ、なんで理解できるんだ」

 

「うわあ、私にも効くわ、ヤバい」

 

「流石アンリちゃん。処刑人と陰口叩かれるだけはある」

 

「あれで一応クラス12位ですからね、序列なんてただの遊びだという証明ですよ」

 

 

 

 うー、と蹲るイシスと。痺れてカチカチに動くルナ。共に素早さ半減だ。

 

「マスター。まずい、シャドーボールが来ます」

 

「まずいな」

 

「うげえ……ですが、何とかします。だからテラスタルは使わんといて下さいよ」

 

 ……テラスタルは使うなよ。ハイパイ大学まで補充出来ないぞ。カインの言葉がソウスケの頭にリフレインする。

 

「分かったテラスタル!」

 

「マスター?」

 

「儚き流星のごとく迸る稲妻よ、夜を照らし続ける無尽蔵な彗星と化せ、テラスタル!」

 

 イシスの制止を無視してソウスケはテラスタルを投げる。

 

「何? この中学生が考えたようなポエムがパルデアで流行っているの?」

 

「言い過ぎよルナ。そういう決まりなのよ多分」

 

「絶対に流行らせる」

 

 そんな中、黄色く輝くイシスが爆誕する。

 

「フリじゃなかったんですが」

 

 ルナが詠唱して出現した八方からの影による攻撃 をイシスは払い除けた。

 

「電光双撃」

 

 イシスは両手に稲妻を迸らせる。加速しながら迫られるルナは脂汗を垂らしながら迎撃態勢を取る。

 

 無意味だ。

 

 魔女は無数の魔法陣を展開するが、全て稲妻の拳で飴ガラスのように破壊される。

 

 そしてルナ自身も両手のラッシュに殴り飛ばされ、ひしゃげた箒と共に海に墜落した。

 

 

 

 ソウスケはイシスに耳打ちする。

 

「違和感あるだろ。あの子、攻撃にかげうちにシャドーボール。みちづれの枠なんてあるか?」

 

 アンリが次のボールを投げる。

 

「ベルン!」

 

 

 

「いったい!」

 

 その少年は現れるや否や悲鳴を上げた。ステルスロックによるダメージだ。

 

 かぶっていたイシスのようなパーカー、顔は見えない。

 

 ミミッキュの擬人化。

 

 ステルスロックですらその皮は外れない。他のタスキ潰しとして十分過ぎる活躍であるが。

 

「ベルン、呪い!」

 

「僕は呪い屋かよ! まあやるけど! 借りられているだけだかんな!」

 

 イシスはその皮を剥ぐべく突進する。

 

「ぐっ。あの衝撃ラストを整理できないから足が縺れる」

 

「ネタバレ爆撃でなんでそうなるんだよ」

 

 ベルンの呪いの波動が先にイシスを貫く。

 

「まじですか! これ呪いじゃありません! 恨みです!」

 

 イナホすら落としたスリップダメージでは無く、技の回数を減らす技。

 

「よし、そのまま電光双撃!」

 

「マスター、そういうことですか!」

 

 イシスは間髪入れずに嬉しそうに返す。

 

 アンリは、自分の髪をクシャリと握りながら言った。

 

「なんで5回しか撃てない大技なのに使えるの? 貧乏性なのに回数増やすポイントアップなんて使えるわけが無い!」

 

「拾ったポイントアップ使って何が悪いんだ!」

 

 凄まじいエネルギーが少年のフードを剥ぎ取るだけに使われる。

 

 縫い目のある整った顔。これも偽物なのだろうか。その顔がニヤニヤ嘲笑う。

 

「ほっぺスリスリなら良かったものを」

 

 イシスは再び突撃し、肉薄する。

 

「わざとですよ。あなたその顔、みちづれしようとしていますね」

 

 そのまま、イシスはベルンに頬ずりした。

 

 

 

「あんなに、ねっとりと羨ましい」

 

「あら、カイン。今度イシスに頼んであげるわ」

 

 

 

 みちづれ状態が途切れるまでの執拗な顔同士の接触の果て、マリオネットのようにカクカクした動きになった少年。

 

「やられた! あいつ、みちづれを出させるために電光双撃してきたんだ! 畜生!」

 

「二人羽織のみちづれとはやりますね。ですが、策士策に溺れるってことですよ。吹き飛んでください」

 

 麻痺した状態でパーモットの速さに勝てるはずが無い。

 

 そのまま、ベルンもイシスのラッシュで海に落ちた。

 

 

 

 命中確定、あのピカチュウライチュウのボルテッカー相当の火力。そしてテラスタルによる使用制限の解除。それがイシスの本領。

 

 

 

「さあ、逆転だ。アンリちゃん。そちらは2体だ」

 

「畜生! 畜生!」

 

「バッジ6個にしてはクレイジーなほど強いよ、君」

 

 ソウスケの本音であった。

 

「私達もバッジ4個集めてから、ホウエンに繰り出したカイナ組。クワトロの外で一度力尽きているんだ! だから、だから知った口を聞くな!」

 

 

 

「カイナ組ってなんだ? イナホちゃん」

 

「クワトロにはバッジが4個しか無いの。だからその先はホウエン、ジョウトに出るしかない。だからカイナ、アサギなどに船で出る。そこのモリもカイナ組よ」

 

 その彼がニコニコ笑った。

 

「よし、来るぞ、うちの子が」

 

 

 

「力を貸して! モリ君のラグラージ!」

 

 黄色のヒレのある青ワンピースの少女。メガストーンすら光る。なんつー助っ人だ。

 

「メガ進化!」

 

 アンリがメガバングルを掲げ、彼女が姿を変える。

 

「行くわ! メガラグラージ! 勝ちきってみせる!」

 

 鋭くなったヒレ、水中に適した生地のスーツ。

 

 厄介としか言いようが無い。前はリーフェの不意討ち爆破で突破しただけである。

 

「きついですね! 正直」

 

 

 

 水ではあるが、地面でもある彼女の弱点は草しか無い。その優れた耐久、パワー。実に厳しい。

 

「行きます!」

 

 イシスは突っ込んでいく。

 

「雨よ来て!」

 

 メガラグラージは不動のまま合掌した。

 

 イシスの拳による多段連撃。下からくるそれを躱しもしない。自分より高レベルのインファイトを。

 

 世界が変わった。

 

 そこはもう、のどかなビーチでは無い。

 

 降り注ぐ雨、どこまでも続く水たまりのような地面。

 

 イシスの最後の一撃を腹筋で受け止めた後、彼女はスイーと、雨の中を浮かんだ。

 

 

 

「雨の中、倍速の僕の相棒に届くものか」

 

 モリハヤシは得意気であった。

 

 

 

「ここからは私達の世界」

 

 すいすい。彼女はこの世界を支配する。

 

 

 

 くそっ。イナホなんて熨斗つけて渡してやりたいんだ。だが、勝ちたい。勝ち切りたい。そうしないと俺が壊れてしまう。ああ、これは再帰を賭けたデスマッチかもしれない。

 

 しかし、アンリは泣いている、いや、雨でそう見えるだけか。

 

「速い!」

 

 イシスの拳が乙姫に躱される。

 

 拳を流しながら彼女は美しく呟いた。

 

「ああ、アンリ。もはや言葉による指示は必要無いのですね」

 

 雨音に紛れてアンリの悲痛な声が響く。

 

「私だって主人公だった」

 

「私だって――」

 

 ああ、レンタル先主人の言外の想いを感じ取っているのか。敵ながら素晴らしいポケモンだ。

 

「イナホに喉甘噛みされて、ゲットしないと喉笛噛み千切っちゃうぞ、と言われたかった!」

 

 何言ってんだこのトレーナー。

 

「マスター!」

 

 イシスの拳が、掌で受け止められた。

 

「おやすみなさい」

 

 そのまま彼女は水たまりに叩き込まれた。振動でクレーターが出来る。

 

 

 

 地震攻撃により、パーモットイシス、戦闘不能。

 

 

 

「リーフェ!」

 

「分かってる!」

 

 リーフェは消えるように雨の中を縫う。

 

「今度は追えますよ」

 

 彼女は静かに海の中を泳ぐように追尾してくる。

 

 リーフェの先制技には不意討ちがある。しかし、落としきれない可能性が高く、反撃は必至。

 

 やはり、トリックフラワーを決めるしかない。

 

 メガラグラージの手に青白い光が溜まっていく。

 

 やはりあるか氷技。一撃なら耐えられるという希望は捨てるべきだ。

 

 彼女の手が動き、水たまりが衝撃波で吹き飛ぶ。

 

 リーフェの迷彩マントが描出されている。

 

「ふぶき」

 

 氷雪が瞬時に吹き荒れ、湿地を瞬時に凍てつかせる。目に見える全てが白い氷に覆われる。

 

「後、一匹」

 

 彼女が呟いたとき。

 

 離れたところで伏せていたのか、泥まみれのリーフェが腕を引いた。

 

 ヨーヨーの原理。それは彼女の項に当たり、爆破した。

 

 草技急所一撃、トリックフラワー。

 

「誇りなさい、私を泥にまみれさせたことを」

 

 

 

「おい、見たかモリ。あのマスカーニャ、雨のメガラグラージに速度で上回っていたぞ。ふぶきは外れたんじゃない、逃げ切っていたんだ」

 

「嘘みたいすっね。どんな鍛え方してるんすかソウスケさん。もうアンリに勝ち筋は無いっすよ」

 

 

 

 アァー!

 

 アンリが雨の中吠えた。

 

 荒れ狂いながら赤と白のボールが飛ぶ。

 

 彼女のラストワンは名前すら呼ばれない。

 

 海パン、腕に牙の男。そしてZ石。

 

 ウオー!

 

 彼も吠えた。

 

 

 

「大丈夫っすか、アンリパイセンまともな思考出来ていますか」

 

「大丈夫だ、モリハヤシ君。あれは全てのリソースをつぎ込んだ姿だ。今の彼女は完璧なバトルマシーンだよ」

 

 モリハヤシの至極真っ当な疑問にカインが答えた。

 

「アンリ」

 

 サミダレが不安げに呟く。

 

 

 

 海パン男は駆ける。水たまりの中、泥に塗れた怪盗の元へ。

 

 彼の腕に光が収束する。それはガントレットを形成していく。そのガントレットから後ろに水を排出しさらに加速していく。

 

 何故だ。何故このタイミングで龍の舞をした。リーフェがそんな隙を与えるとでも思っているのか。

 

 彼の首が締まる。まるで透明な手が握るがごとく。

 

「トリックフラワー!」

 

 そのまま爆破。

 

 彼はそのまま泥中に倒れた。

 

 

 

 カイン、早く終わりの合図を出せ。もう終わってくれ。

 

「嘘!」

 

 カインの持つ、タブレットの中から声がした。

 

 オーダイルが動き出したのだ。

 

 イナホですら驚く事態。

 

「おい、何故まだ倒れていない」

 

「なんで、あれを喰らって耐えているんだ」

 

 奇跡を信じて起こしたというのか。

 

 ソウスケの口から滔々と言葉が漏れる。

 

「レベルが違うんだぞ。相性が良いんだぞ」

 

 オーダイルがガントレットを握る。

 

「ああ、アンリ、俺はまだいける」

 

 ソウスケは反応してしまう。

 

 嘘だろ、それだけはあってほしくない。こんなクソみたいなバトルで。

 

「まだ戦えるだと。お前の体力は無くなったはずだ。たすきか。たすきは潰したはずだ。そもそもあり得ない。その首にZがある。頑丈か。ちがうそんな特性はあり得ない。防御を上げたのか、いや、トリックフラワーの前では意味をなさない。こらえてもいなかったはずだ」

 

 

「ああ、行くぞ、俺はまだ立ち上がれる」

 

 彼がガントレットを手に立ち上がる。

 

「何故立ち上がれるんだ! その現象はなんだ、なんなんだよ!」

 

 そんなご都合主義があるものか!

 

「俺たちの絆でまだ戦える!」

 

 オーダイルはアンリを悲しませまいと持ち堪えた!

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