ゲットしないと喉笛噛みちぎっちゃうぞ   作:イトシキイタダキ

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2章「高いパフェだろ、残させたら俺の罪だ」

 

 キュウコン娘、黄金色の和服を着た少女が口を開き、出した二人の男を伸びた手で指す。

 

「この子達は純粋なポケモンのルンパッパとドータクン」

 

 二人は頭を下げながら言う。

 

「よろしくお願いします」

 

 言い終えた直後に二つのボールのボタンを器用に片手で指で押さえた。二人は赤い光となり、溶けるように吸収される。

 

 なるほど、手持ちがいることを見せる以外の意味は無いと。

 

 しかし、トレーナーとしてその仕草は自然であると、ソウスケは判断した。

 

「分かった? 私はあなたのボールをもらった人間、トレーナーよ。簡単にあなたを屠ることが出来るポケモンの姿も取れるだけ。さっき森で待ち伏せして、あなたを襲ったみたいにね」

 

 ソウスケはその意味を反芻し、マグマのように心が煮える。

 

「わざとかよ!」

 

 野生でうっかり出会い頭の悲劇などでは無かったらしい。計画的な犯行だ。

 

「ちょうど、下僕にするのに良いトレーナーがいたからね。私に手も足も出ないぐらい、かと言って中途半端な強さがある」

 

 いつから狙いを定めていたのだろうか。こんな高レベルにターゲットにされて逃れる術があるとは思えない。

 

 ソウスケの従者であるリーフェがソウスケの脇から飛び出す。凄まじい加速だ。

 

「舐めないで! ハーフ風情が!」

 

 ポケモンが主人の命令を無視しても良いとき、それは主人を侮辱されたときである。いや、そんなことは無い。

 

「おい、馬鹿やめろ!」

 

 ソウスケの静止も間に合わず、彼女はキュウコン娘に迫る。キュウコン娘はリーフェにパッと手をかざし、リーフェの顔が苦痛に歪み全身が炎上する。

 

「物覚えの悪い猫さんね」

 

 ソウスケは燃え盛るリーフェをボールの中に入れる。すでに確実に瀕死だろう。

 

「やめてくれ」

 

「あら、レベルの違いを教えていただけよ、じゃあ私を次の街まで運んでね」

 

 キュウコン娘は人の姿のまま赤い光になりボールに戻る。

 

 ソウスケは虚空に拳骨を下ろす。

 

 俺一人では無理だ。近くにいるヤツと合流しよう。

 

 別のボールを放り投げる。

 

 中から出たのは緑の身体に赤い目、ひし形の翼を持つ竜、フライゴンである。

 

「次の街だ。西に行くぞ」

 

 そう言いつつソウスケは背中に飛び乗る。フライゴンは虫のような鳴き声で応え、フライゴンは翼を激しく振動させる。道路に砂塵を起こしつつ、高度が徐々に上がる。

 

 町が小さくなる。視界の大半を埋める陰鬱とした森と急峻な山、端に見える青く黒い海。

 

 こんな状況でなければ綺麗に見えたであろう。ソウスケはむしろその人の住めないダイナミックさにうんざりしていた。

 

 

 隣町の整備された砂利の正方形、ライドポケモン発着エリア。たくさんの羽根を持つポケモンの中を縫うようにフライゴンは降り立つ。ソウスケが砂利に足を置いた瞬間、キュウコン娘が勝手にボールから出てくる。

 

「じゃ」

 

 といい残してあっという間に発着場から歩き去る。

 

「じゃ、じゃねえよ」

 

 背中にソウスケは呟くことしか出来ない。フライゴンも後を睨みつけ、低く唸った。

 

「お、ソウスケじゃないか」

 

 一人の青年、着こなしたジャケットにジーパン、スラッとした横掛けバッグ。そんな彼は笑いを顔に貼り付けてソウスケに声を投げかける。そんな彼は全身白基調の袖や足首を綿のようなアクセサリーに包んだ女の子に抱きかかえられて降りてくる。空色の二本のアホ毛が目立つ。彼女の背には大きな雲のような羽根がある。

 

「ソウスケちゃんじゃない」

 

 そんな擬人化少女は歌うように言った。

 

「何か、元気無いが、どうした?フライゴンは元気なようだが、リーフェとメラは元気か?」

 

「リーフェは瀕死、メラ出ておいで」

 

 メラがボールから飛び出し、

 

「カインさん!」

 

 カインはかがみ、メラの頭を撫でる。メラは気持ちよさそうに目を閉じる。

 

「おー、まだ小さくて可愛いなあ。ていうか、まだウルガモスに進化しないのか……かなり高レベルなのに」

 

「本当に進化するんだろうか」

 

「もー。リーフェにも勝てるのに私」

 

「相性があるからな」

 

 ソウスケはリーフェを嗜虐的に燃やすキュウコンを思い出しながら言う。

 

「ところで、貴重な枠を取られて困っていてな。自称トレーナーでハーフのメスキュウコンに勝手にボールに入られたんだ。何か知っているか?」

 

「お前も変なもの引き寄せるんだな。野良の捨てキュウコンじゃないのか?または最大まで懐いた主人と死に別れたとか」

 

 カインは二本の指でこめかみを押さえている。考えを回しているのだろう。その考えはソウスケも思い至る可能性であったが、その論は潰さざるを得ない。

 

「それは無い。擬人化ポケモン二匹を手持ちにしていた。純粋なポケモンなら無理だし、出来て一匹だ」

 

 カインの眉間に皺が寄るが、もしかしたらと言う。

 

「まじか、ここクワトロ地方は人型ロコンキュウコンが神職を務めているという噂がある。ジョウトとホウエンの間の小さな地方だから、あり得なくは無い。まじでハーフかもな。で、どういう経緯なんだ?」

 

 ソウスケは一瞬首を捻った。簡潔に言うならば。

 

「道端で待ち伏せされて、キュウコン姿で襲われ人の姿で喉笛に甘噛みされた」

 

「は?」

 

 カインの眉間の皺が左右で縦ずれする。

 

 ソウスケはこいつもこんな風に思考が止まるのかと感心した。

 

 メラが吐き捨てるように言う。

 

「ほんとう」

 

 翼の生えた少女が呆れたように言った。

 

「うわあ、はしたない……」

 

 カインは手を軽くパンパン叩き、場を切り替えながら言う。

 

「ソウスケのハイパイ大での研究テーマとしては損は無いだろ、親密に人間と交わったポケモンが人の姿を形どる。その例外の研究」

 

「ハーフなら完全な人間の姿を取れて当然だろ」

 

 ソウスケは興味なさそうにぼやく。

 

「その混血も最近ようやく報告が出始めたんだからな、神話にしかいないはずだったのに、自覚無自覚、結構いることがわかり始めた」

 

「そうかも知れないが、例外のオンパレードを預かるお前に言われてもな」

 

 翼の生えた少女は口笛を吹きそっぽを向く。その口笛はあまりにも外れたメロディーだった。

 

「俺も望んだわけでは無いのだが……」

 

「そうだ、カイン、頼みがある。俺のたった4つしか無いボール枠を取り戻す為にお願いしたい」

 

 ソウスケはカインに頭を下げ、ある内容を伝える。それを聞いた彼はニヤリと笑った。

 

「まあ、さっさとポケセンで回復しろよ。それから作戦立てようぜ」

 

 

「カインさんはどう思う? あの女狐のこと」

 

「リーフェちゃんが勝てないほどの速度とか、どれだけの高レベルだ?キュウコンでそれならリーグレベルを軽く超えるぞ」

 

「正直、あんなのレベルが違うと思った。でもその振る舞いは人間そのものに見える。やっぱり私達とは違う」

 

「人間になりきれないことを気にしているなら念の為に言うが、気の持ちようだからな。重要なのはボール数では無く。ましてや知能や振る舞いでも無い」

 

 彼はゴージャスボール片手に反応を辿るソウスケを見ながら言った。

 

 カインのやつ、またポケモンを口説いているよ。

 

 ソウスケは内心呟いた。

 

 

 

 ショーウィンドウに並ぶ豪華絢爛なパフェの並び。その入り口の前で、男2人がボールを掲げていた。対象は店内の和服の少女。彼女は2人をチラチラ見ながらゆっくりとパフェを平らげた後、悠々と出てきて溜息と共にボールを袖から取り出した。

 

「パフェを食べる時間をくれてありがとう。だけど急かしたのは許さないわ」

 

「高いパフェだろ、残させたら俺の罪だ」

 

「なあ、この貧乏性に寄生するのはまじで考えた方が良いぞ、お嬢ちゃん」

 

 キュウコン娘がソウスケ、カインと対峙する。パフェ店の前は地面から直接噴き出すタイプの噴水広場となっていた。店から出たキュウコン娘にボールを掲げて正々堂々2人がかりでバトルを申し込んだのだ。ソウスケはパルデアでは無いこの文化を野蛮に感じたが、キュウコン娘の反応を見るに普通の対応らしい。

 

「数でかかれば勝てるとでも?」

 

 面倒くさそうにキュウコン娘がソンブレロ姿の伊達男を出す。

 

「ミノル、行きなさい」

 

「いけ、マホイップ」

 

 カインが白いふわふわの髪の毛をして真っ白なウェディングドレスのような純白を纏う美少女をボールから出す。パフェ店と噴水にぴったりのスイーツの妖精。その毛量のある髪の毛には妖精の羽根が付いていた。

 

「私は暴力を望まない」

 

 伊達男は手を伸ばし、掌を見せながら確かにそう言った。その様はまさに愛の伝道師であった。

 

「私は好きよ! 暴力!」

 

 マホイップ少女が獰猛にガラス細工のような歯を剥き出しにして殴りかかる。

 

「マホイップ?」

 

 キュウコン娘がぎょっとする。

 

「ああ、紛れもなくマホイップだ。俺は知っている」

 

 こいつも想定外の反応をするのか。ソウスケは感心した。

 

「さて、生身で相手してもらおうか、認めさせてやるよキュウコン。行くぞリーフェ」

 

 ソウスケの手のボールから緑の美少女が一礼しながら出てくる。まともな観客はいないが、これは彼女の習性である。ソウスケも前までは真似て演出していた。

 

「もちろん!」

 

「あら、2回も、丸焼きにしてあげたのに、まだやる気なのかしら?」

 

 キュウコン娘はその黄金色の耳と9本の尻尾を出した。ホウエン海底洞窟で伝説のポケモンに挑むならこんな緊張感だろうかとソウスケは考える。街中なのに。

 

 ソウスケはその挑発口調を聞いてほくそ笑む。行けるかもしれない。

 

 一方でマホイップ美少女の拳をルンパッパイケメンがいなしている。

 

 小さい子供が離れたところから見ているが、親が避難させている。それは日常の風景であった。

 

 嫌な日常だなと雑念を帯びつつ、ソウスケが光り輝くボールを出す。それはモンスターボールと似ても似つかぬもの。

 

「ありがとうカイン! 行くぞ」

 

 ソウスケの手でボールの光が増幅する。

 

「新緑よ流転せよ揺れる青の水面に!」

 

 振動を両手で受け止めながら、ソウスケは淀みなく詠唱する。怪訝な顔する通行人の前で。

 

 ソウスケは両手でそれを投げ光を溢れさせ、リーフェに光を注ぐ。彼女は結晶化の音を響かせ青く光り輝く。

 

「まさか、テラスタル!」

 

 その反応はソウスケにとって意外だった。メガ進化ならともかく、パルデア固有のテラスタルすら知っているのかと。セキエイ圏ならキタカミもあるが。

 

「ああ、俺のは切れているからカインから借りた!やれ、リーフェ!テラバースト!」

 

 リーフェが光を収束させ放ち、キュウコン娘に青の奔流が襲いかかる。

 

「きゃー!」

 

 威厳もない絹を裂くような声で彼女は叫んだ。

 

「やりすぎたか。まあ、お前のレベルなら倒れるまでもいかないだろ」

 

 ソウスケは憑き物を落とした気分だった。

 

 光が消えた直後、

 

「舐めやがって!」

 

 キュウコン娘がキュウコンの姿になり、念動力でリーフェを浮かべ、もみくちゃにし、地面に叩きつけ一撃で、雑巾のように伸ばした。

 

 エスパー技だ。そんなこともできたのか。

 

 広場全体の太陽光が急速に増大する。炎タイプ最大の理不尽、ひでり。

 

 こいつあれでも加減していたのか。

 

 急速に濡れた足元が乾き、陽炎の中からキュウコンが口に炎を蓄え突進する。

 

「焼き尽くしてやる!」

 

 獣の口でそう叫ばれ、突っ込まれたソウスケは。

 

「やめてくれ」

 

 そう淡々と言った。

 

 一方の暴力マホイップサイド。「暴力は良くないやめなさい」と言い続けながらマホイップにマウントを取られるルンパッパ。それを見る女児は泣いていた。スイーツの妖精としてあまりにも悲惨な姿であった。加害者側として。

 

 そんな惨状を見ていたカインがキュウコンの方を見て声をいきなり張り上げた。

 

「おい、キュウコンハーフ! やめろ! それはマズイ! おい、ソウスケもやめさせろ!」

 

 とキュウコンサイドに叫ぶ。普段の軽薄さは消え、その声は危機感に満ちている。

 

 キュウコンの口に、噴水を瞬時に蒸発させる炎が凝集していく。しかしマホイップの光の炸裂が早かった。即座に直撃するルンパッパ以外にもキュウコンとソウスケに流れ弾が飛んでいく。

 

 キュウコンは炎を口に蓄えつつ言う。

 

「こんなの、余裕で耐えてやる」

 

 一方、ソウスケはぼやいた。

 

「あ、やべ」

 

 そのまま2人は無差別な聖なる妖精の光に包まれる。

 

 片方、キュウコンは少し顔を歪める。

 

 もう片方、ソウスケから光が収束反転反射し、指向性を持ってマホイップに返っていく。

 

 マホイップは伊達男へのマウント態勢のまま光の矢に気づかず、貫かれて。

 

「きゅー」

 

 と可愛く鳴いて、そのまま前に倒れていく。

 

 ルンパッパは自分に覆い被さりゆく気絶したマホイップの両脇を押さえしっかり受け止めた。

 

「うわあ、暴力反対」

 

 と喚いた。紳士の鑑である。

 

「ごめん」

 

「気にするな、今回はあの子が悪い」

 

 ソウスケの謝罪にカインはため息交じりにそう返した。

 

 そんな中、キュウコンは、放心し、炎を霧散させ、半獣体に戻る。

 

「ミラーコート……あのまま炎吐いていたら、死んでいたのは私……」

 

 そう上の空で言った。

 

 今がチャンスだ。ソウスケはゴージャスボールのボタンを押して、キュウコン娘を光にして吸い取った。

 

 ソウスケは従える手持ち、特にリーフェの強さを彼女に分からせたかっただけで、ソウスケ自身への恐怖心を与えるつもりは毛頭無かった。

 

 ……ただ瀕死になるだけなのに、なぜこんなに怯えているんだ。

 

 まともにコンクリートから出るようになった水流。パフェの前の広場やパフェ店の被害はほぼ無い。

 

「まあ、よし、としよう」

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