ゲットしないと喉笛噛みちぎっちゃうぞ   作:イトシキイタダキ

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22章「分かるわけないじゃない」

 人外の特徴を持つ者と、持たない者――持たない方が大半だが――が、人間たちが横に座る、椅子とは言えない段差の前に集まっていた。

 

 コンクリートの前を駆ける女学生がいる。彼女の服は一部焦げ付いている。

 

 彼女は一人分のスペースを一丁前に占領している鞄の前に立った。

 

「やっと着いた。対抗戦どうなった?」

 

「惨敗。午後までかかるはずなのに、もう終わっちゃった」

 

 鞄の持ち主の女は鞄をどけ、座るように促した。

 

「じゃあ、スタジアムのあの二人は何?」

 

「エキシビションマッチという体でパルデア出身ハイパイ大生同士の喧嘩」

 

「テーブルシティでやれよ」

 

「それより、あんた大丈夫だった? スタジアム外で、また携帯獣学研究棟が吹っ飛んだらしいけど。人的被害は重症者一名だけだって」

 

「後は軽症一名ね」

 

 彼女は破れた袖を示した。

 

「あら、擦り傷。よく洗いなさいよ」

 

「マスカーニャの職員さんに助けてもらったの」

 

「珍しい社会進出ね。それにしても良かったわね。さっさと警察に被害申告に行きなさい」

 

「行きたかったけど、なんか盛り上がってない? 喧嘩でこんな盛り上がるの?」

 

「そりゃ、今回の重症者一名のパルデアチャンピオンランクとそのライバルだからね」

 

「なんでうちの隠れ最強二人が対抗戦選出から外れてんだ。二人いれば午後まで持ってたでしょう」

 

「本当ね」

 

 女学生二人はオペラグラスでスタジアムの中心をのぞき込む。

 

「は? 何あのイケメン二人。片方はもはやポケモン並よね。ていうかカインさんバキバキに骨折していない? なんで立ててんの」

 

「やはり精神力が違うのよ」

 

「ていうか、ポケモンカウンセラーのカインさん、チャンピオンだったの? パルデアでタイトル守っている様子無いのに」

 

「パルデアは違うのよ、チャンピオンのリーダーに一度でも勝てたら、チャンピオンランクと認定されてそのまま。厳密にはチャンピオンでは無いけど、その実力は」

 

 彼女は言葉をそこで切った。

 

「――チャンピオンに、準ずる」

 

 

 


 

 

 

 そうか俺は泣いていたのか、笑っていたのか。

 

 もう何も分かんねえんだよ。

 

 うるせえよ、カイン。集中させろ。

 

「トルーネン!」

 

「さあ、始めよう、セルロード」

 

 緑色の服とゴーグルメイド、フライゴンのトルーネン。

 

 対するは、コットンのような短髪しかしふわふわ髪キャミソール美少女。

 

 欲求不満だった会場が沸く。

 

 キャミソール少女の後ろから風が吹く。

 

「何考えているんですか、カインさん、あのときのワタッコなんて出してきて」

 

 ソウスケを特急列車の前に突き飛ばし、商店街に放火しようとしたあげく、イシスとリーフェによる拷問とカインの尋問を受けた異常個体。

 

 俺への当てつけに決まっている。殺処分と軽口を叩いた結果だ。

 

 メイドがこめかみに静脈を浮かべながら、翼の羽ばたきでフィールドから小石を撒き散らす。

 

「いやあ、こいつなら一番」

 

 カインがいつものニヤニヤ顔で言う。

 

 ワタッコことセルロードがキャハハと笑いながら話を継ぐ。

 

「ソウスケに合法的に楽しく嫌がらせができる。はい! アンコール、はい! アンコール!」

 

 呪詛のような拍手により、ステルスロックを撒くマシーンと化したトルーネン。

 

 まあ、なるわな。

 

「てめえは後でぶっ飛ばす」

 

 メイドは引き攣った笑顔で悪態をつく。

 

 ソウスケはいつも通り苛つくことを自覚した。こいつはいつもそういうことをしてくる奴だった。

 

 手持ちを選べず、俺より力押しが苦手だったあいつだ。

 

 ワタッコはさらに自分の周りを綿で満たしていく。綿の防護壁だ。

 

 ソウスケはトルーネンを回収し、6枚羽の美女をボールから出す。

 

「マスター、行くよ」

 

 歓声。

 

 美しい、ウルガモスすげえ、良いもの見れたなどの声が上がる。

 

 メラは炎を纏いながら優美に、しかし苛烈に回転を始める。

 

 セルロードは。

 

「うわあ、やばい!」

 

 キャハハと異様な音が鳴った。

 

「なーんてね、さあおいでませ! アコ!」

 

 バトンタッチ。セルロードの姿が切り替わり、エクレアのようなチョコレート色の巨大な両生生物が現れる――ドオーだ。ただし、その鋭い目付きは一般的な同種個体と一線を画す。何よりも、その背中の棘が初めから展開していた。

 

 それがぱっふんと宙返りした。

 

 チョコレート色のゆったりしたコートを着た、包容力のある美少女に姿を変える。

 

「はーい」

 

 彼女は艶やかに手を振った。

 

「アコ! なんでここにいるの! あなたのような殺人装置が!」

 

 メラがその姿に絶叫した。

 

「おい、メラ! それ以上はやめろ! おいお前、カイン、出しちまっていいのかよ!」

 

 カインのガチでやべー奴の筆頭。パルデアのサイレントアサシン、ドオーのアコ。

 

 カインが幾度と無く毒殺されかけながらも救出したパルデアの闇。ソウスケもその作戦に関与したため、よく知っている。

 

 無垢な魂を凶器に改造したワーストケース。

 

「失礼ねえ」

 

 アコはメラの業火を正面から容易に耐え抜く。ドオーという種の特徴だ。さらに、彼女はセルロードの残した物理防御壁である綿により、難攻不落の要塞と化している。

 

 メラの火力はさらに増し、さらに舞のような炎が叩き込まれる。

 

「ふふ。まだ、余裕よ」

 

 アコは追い風に乗って震脚でフィールドを割り、メラに叩きつける。

 

「こんな派手なのに暗殺と呼べるの?」

 

 背中から肋骨のような棘が突き出ている。

 

 メラはその羽根で、土の圧を躱そうと試みる。

 

「過去の私なんてどうでも良いのよ、メラ! このアコは、いいや、私達は楽しみに来た!」

 

 アイアンメイデンのように弯曲した棘がメラの両脇から迫る。

 

 

 

 オペラグラスを覗きながら観客席で話す大学生2人。

 

「パルデアのサイレントアサシンよ、あれ」

 

「何それ」

 

「自分で調べてよ」

 

「さっきスマホ粉砕しちゃって、ほらポケット焦げてる」

 

「こんなところにいる場合じゃないのでは」

 

「別にいいでしょう。盗まれたわけじゃないし、それよりどういう意味なのパルデアのサイレントアサシンって」

 

「パルデア黒社会の暗殺者。擬人化で得た可愛らしい姿で、ターゲットと仲良くして、毒針をプスッと」

 

「こんなところにいていいの?」

 

「多分良くない」

 

「何のポケモン?」

 

「ドオー」

 

「え、あの間抜けなヌオーの変種?」

 

 

 

「教えて、ねえ!」

 

 その伸びた棘の途中をメラはその小さな手で鷲掴みにする。

 

「ねえ、私はさっき、他人を焼き殺そうとした。でも驚くほど何も感じなかった。教えてアコ! あなたは何を感じてきたの?」

 

 伸びた肋骨を軋ませながら彼女は返した。

 

「辛気臭い話ね。あなたやソウスケの行動を非難出来る人はいないわ。断言する。いたらそいつは平和ボケ。ただ一人、カインを除いてね!」

 

 伸びた棘が紫色に染まっていく。

 

「ちなみに私は涎が出るわね。そうなるように育てられたから。まあ、そんなことよりも」

 

 棘が軋み金切り声をあげる。

 

「メラもう無理だ! 離せ!」

 

 アイアンメイデンのような棘の列が開いた。

 

「あなたのやるべきことは。今を楽しむことよ!」

 

 メラの腕が離れた瞬間、それは横に開いた巨大クチートの口のように閉じられた。

 

 棘がガシャンガシャンと閉じられながら進行してくる。

 

「ソウスケ! このアコはあなたを救いにここに立っているわ!」

 

「ねえ、聞いてよ! ずっと勘違いされていたのよ、アコは。人を消すためにウパーを育てていたクソ野郎を愛していたとね!」

 

「やめてくれ、言わなくて良い!」

 

 ソウスケが制止するが。

 

「良いや、ソウスケ、お前には聞く義務が、いや権利がある!」

 

 張り上げたカインの叫び。

 

「擬人化のトリガーとは大きな感情そのもの、そうでしょう!」

 

 アコが止まり、棘を引っ込めた。

 

 観客がざわめき始めた。

 

「あなたの研究が証明してくれた! 私が人になり、声帯を得たのは! 愛を嘯き、心を欺き、命を奪い! ただ、飢えを凌ぐためと! 私が愛していたのはただの餌よ!」

 

「アコ、ごめん、嫌なことを話して」

 

 観客席から怒号が飛ぶ。

 

「早く、戦え! 暗殺者がなんだ!」

 

「罪がなんだ!」

 

 アコは続けた。

 

「嫌なこと? 違うわ」

 

 野次が飛ぶ。

 

「どうでも良いんだよ! 御託なんて!」

 

「楽しめよお前ら!」

 

 ソウスケはカインが涙を拭うのを眺めていた。

 

「アコは感謝している。(たま)さか得た声帯が、派手に戦おうとする魂を叫べることに! まさに歓喜で満ち溢れているの! 見て、このみんなの祝福を! あなたはどうメラ!」

 

 多数の棘が地面を突き刺す。その少女はその顔立ちに似合わぬ大きな口を広げる。

 

「このアコはもはや、暗殺者では無い。戦いを求める一匹の派手なドオーとして、今ここに立っている!」

 

 棘の振動と歓声が地面を震わす。

 

「ソウスケ! 他のみんなもそう。ハズレ者達が皆感謝している。この戦いはみんなによるあなたへの正当な報酬よ。ありがとう。派手に楽しみましょう!」

 

 ソウスケの前に立つ少女が一瞬鎮まる。直後、その炎を幾層にも滾らせる。

 

「ありがとう、アコ! マスターも行くよ!」

 

 どう、受け止めれば良いんだ。どんな顔をすれば良いんだ。

 

 俺はホリゼを回収するため⋯⋯

 

「マスター、笑ってる」

 

 紅い翼をバラバラに羽ばたかせ、少女は飛び立つ。しかし、せり上がってくるスタジアムの隆起から逃れきれない。

 

「無理に躱しきるな!」

 

 ソウスケの指示に体勢を整え、メラは全身に炎を纏い迎え撃つ。

 

「ド派手に効いたでしょう?」

 

 そんな、アコの台詞に応えるように、メラは太陽の光を両手を広げて受ける。傷がみるみる消えていく。

 

「美しい」

 

「私の心も回復した」

 

「うちのドクケイルオスが尊さで失神した」

 

 変な野次が飛んでいる。

 

「あら、回復ね、ワンモア華やかに」

 

 メラにぶち当たる隆起。しかし、メラは傷一つ無く、出てきた。

 

「仕方ないわね。喰らいなさい。私の本性を」

 

 刺さった棘が外れ、水平にフィールドを埋め尽くす。それは突如として、大皿を目指し、スタジアムを埋め尽くした。

 

 哀れ、一匹の蛾はスタジアムの大半を包む虫籠に捕らえられ、内側の棘の嵐に巻き込まれる。

 

「あっ」

 

 メラのその美しい羽根の間の素肌に一本の細い棘が刺さり、トクトクと、液体が流し込まれる。

 

「いやあっ」

 

 彼女は息を荒げながら、回転で引きちぎる。加速した炎の回転をアコにぶち当たる。

 

「ちょっと、何この地味じゃない火力!」

 

 アコは毒づきながら鳥籠の底を振動で揺らす。しかし、メラは。

 

「にゃんきゃ、いった?」

 

 その女神のような顔で青いイボイボの実――回復の果実ウイを貪っていた。しかもただでさえ優美なドレスに紅い羽衣が追加されている。炎の舞の余剰火力の析出である。

 

「もう1回だ!」

 

「さあ、もう1回踊るよ!」

 

 ソウスケの掛け声にメラは再び炎を纏う。

 

「派手には派手で応えるのが礼儀よね!」

 

 アコは棘でカーテンを作る。しかし、相手は最強クラスの火力を持つウルガモス、しかも強化されたそれである。棘のカーテンを侵食し、回りながら炎でそれを喰い破る。

 

「ふっ。私もみんなも派手に楽しめたかしら」

 

 そう言い残したアコは炎に焼かれる。

 

 歓声が響いた。

 

「ありがとう!」

 

「良くやったゆっくり休め!」

 

 

 

「アコ、お疲れ様だ。さあホロビ、ライブの時間だ!」

 

 歓声を浴びながら、彼はボールを放った。

 

「はーい! ホロビも想い届けちゃうよー!」

 

 ホウエンのコンテストライブライクの衣装の少女がゆるーくボールから飛び出す。

 

 ソウスケが間髪無く命令する。

 

「メラ、オーバーヒート」

 

「分かった!」

 

 二重の羽衣を纏うメラから莫大な火が溢れ出す。フィールドが深紅に染まり、炎の海がホロビに向かう。

 

「えー!?」

 

 ホロビが気の抜けた声を上げながら飲み込まれる。

 

 まあ、耐えはするだろうが、あの化物ホロビ相手なら十分だ。

 

 ウルガモスの二段階バフ後のオーバーヒートは本来過剰火力である。

 

 ホロビが炎からその雲のような羽根を焦がしながらマイク片手に出てくる。

 

「全くもー、こんなのホロビじゃなければ耐えられないぞ! こう見えて耐火性なんだから! さあ行くよ! 届け私の感謝の想い!」

 

 ホロビの歌は聞こえなくなる。

 

「ちょっと! やめてよメラちゃん。虫のさざめきノイズキャンセリングとか」

 

 メラは迫りながら翅から音波を照射してぶつけていた。攻撃用途ではない。

 

「嬉しいけど、聴きたくないよ!」

 

 メラは空中で白いエネルギーを吸収し始めたホロビに突進する。

 

「そのノイズ! お歌上手なトルーネンに矯正してもらって!」

 

 ソウスケはその暴言に苦笑するが、カインもニヤニヤ笑っていた。

 

 滅びの歌では無い呪詛を奏でるホロビはニヤリと笑って、緑の何かを口に運んだ。

 

 メラはその自称歌姫の喉を燃え盛る腕で握撃する。

 

 間に合わないか。

 

「――私の生き様、そのこころに」

 

 握られた喉から絞り出すようなフレーズ。

 

「きいざめっ」

 

 その発声の最後。二人は消滅した。

 

 フィールドの対側、音速を超えた、いや、超えさせられたメラは己の運命を悟ったのか、もう意識がないのか、目を閉じていた。

 

 直後、轟音がフィールドの壁から響く。

 

 ソウスケは土煙の中から赤い光を回収した。

 

 はるか上空から擁護できない歌声のような何かが響いた。歓声のおかげでまだましになっている。

 

「お疲れ、十分だメラ」

 

「ゴッドバード、パワフルハーブ。さあどうする? ソウスケ」

 

「行け、リーフェ」

 

 緑色の影が視界を駆け抜けた。直後、宙のホロビの首元に線が走り、翼人は揚力を喪失する。

 

 地面に現れたリーフェは観客に一礼。マスクごと顔を上げた瞬間に土煙が上がった。

 

 落下する敵ポケモンを効果音にするとは。

 

「流石マジシャンだ!」

 

「よっ、ヒール決まってんねえ!」

 

 分かっているじゃねえか野次馬ども。

 

 

 

「あー!」

 

 ポケットが焼けた学生が叫ぶ。

 

「どうした急に」

 

 相方が怪訝に尋ねる

 

「やっぱりあれヨウさんだ! マスカーニャだった職員さん!」

 

 

 

「来たなリーフェちゃん。君に挑みたいものがいる! いけ! クルーザー!」

 

 カインがボールから出したのはモーターボート、いや、本体は上に乗ったグラサンライフジャケットで操舵輪を握る美女か。

 

 会場がどよめく。

 

「あれ武器扱いかよ、どうなっているんだ」

 

 リーフェがすかさず、花爆弾をモーターボートで爆破するが。

 

「ふっ。我の甲羅を撃破出来るとは思わないことね」

 

 船長部分がそう笑った。

 

 モーターボートの舳先に青白い光がたまり、前方に伸び、フィールドに突き刺さる。

 

 

 

 リーフェの登場にテンションを上げていた女学生。

 

「ヨウさんの相手、あれ何?」

 

「そりゃ乗り物ポケモンのラプラスでしょう。見てわからないの?」

 

「分かるわけないじゃない」

 

「シェルアーマーをモーターボートとして擬人化したのね。どんな精神状態ならそうなるのかしら」

 

 

 

「あなた、なんなの?」

 

「なんか、我は憧れてしまったらしい。大海を渡す船乗りを。海にエンジン響かせていたが、気が付いたら幽霊船扱いさ!」

 

 禁足地からの撤退時にカインが用意したモーターボートとその女船頭。その正体は擬人化ラプラスであった。

 

「感謝するぞ君のマスターに! 人には懐いた覚えなんぞ無くて、憧れが歪んでいたからな!」

 

「いや、知らないけど」

 

 必ず急所に当てるトリックフラワー、急所が無いシェルアーマー。

 

 船体の強度の証明。

 

 船乗りとしてそれで良いのかは哲学である。

 

 ちなみに急所を防がれるであろうリーフェ不利とソウスケは判定した。あくまで、相性である。

 

 放射状に放たれる冷凍ビームを潜るリーフェだが、薙ぎ祓いに間に合わずに掠ってしまう。

 

「ヒヤッ!」

 

 タイツやマントが凍結したリーフェは宙から出現させた果実――オボンを齧る。

 

 しかし、そんな彼女の目の前にモーターボートの先端が瞬時に現れ、轢き飛ばされる。

 

「アクアジェットでぶっ飛べ!」

 

「舐めないで!」

 

 リーフェは逆立ちで場外に飛ぶ身体を蔓で留め、空中で体勢を維持した。

 

 それに舳先を向けようと旋回するモーターボートの周りに、浮かぶ花が咲いていく。

 

「やれ、360度トリックフラワー」

 

 ただのゴリ押しである。

 

「うん、進路は見えないな! だが、港は君達を待っているぞ!」

 

 爆風により、ボートは女船頭ごと転覆した。

 

「いいぞー!」

 

「もっと芸人集団を出してくれ!」

 

 

 

 セルロードが現れた。

 

「痛い! あのメイド野郎!」

 

 ボールから出た直後、ステルスロックに直撃したらしく悪態をつきながらそいつは現れた。

 

 ラプラスよりもタイプ的にトリックフラワー対策になるワタッコ。なにせ半減二回である。

 

 それでもカインがクルーザーを先にぶつけたのは、彼女自身がリーフェに挑みたかったのだろう。とソウスケは考察した。

 

 本当か? 何を考えているんだカイン。そのニヤニヤ面で。

 

「あれでもトルーネンは女の子よ!」

 

「知っているけどね! それあなた言葉狩りジュンサーだからねもはや!」

 

 ワタッコ少女の腕に透明な蔓が巻き付き、細い腕が絞られる。直後、彼女は下に引っ張られる。

 

 緑の猫が空中に現れた。敵を利用した空中浮遊。

 

「小癪な!」

 

 ワタッコは纏わりついたそれを手刀で切り、距離を離す。

 

「離さないよ」

 

 リーフェは蔓で彼女の右足を引っ張り、上空から爪を煌めかせた。

 

「あ、これ無理、速い! 追い風無しじゃ無理」

 

 緑と緑が交差する瞬間。

 

 セルロードが消えた。

 

「どこを見ているのかな?」

 

 にくたらしく。彼女は笑う。

 

 上空に暗雲が瞬時に出現する。吹き荒れる暴風雨を引き連れて。

 

 そういうことか!

 

 ソウスケはそれを瞬時に理解した。

 

「残念でしたー!」

 

 セルロードは風を纏い加速度的に落下する。リーフェは風に巻き込まれ。

 

「自分は負けていないと思っていたでしょ? こんな雑魚に負けるわけ無いと思ったでしょ? 真剣勝負での嫌がらせは最高!」

 

「あ」

 

「負けて落ちろ!」

 

 緑の猫は目に涙を浮かべながら地面に迫り、その最後を待った。

 

 

 


 

 

 

「ヨウさん、痛そう」

 

「暴風直撃時点でマスカーニャならかなりリーサルよ」

 

「戦闘学は風情が無いわね。それにしても、流石いたずらごころね。攻撃技すら先制出来るんだ」

 

「もしかして、あの子をエルフーンだと勘違いしている? 違うわ、あれワタッコよ」

 

「え、嘘? 速すぎない?」

 

「追い風も切れているし、葉緑体関連としても、強い太陽光も無い。なんでかしら」

 

「純粋に速かったのよ、マスカーニャよりね」

 

 その脇の通路に車椅子が現れた。その人物が備える長い耳がピクピクうねっている。

 

 どなたですか、あれ、さっきの、という学生の言葉を無視して、彼女は続ける。

 

「油断しすぎよ、あのバカ。ワタッコが速さに全てを捧げていたことに気づきなさいよ。不意討ちぐらいあれば手傷の一つぐらい負わせられたでしょうに」

 

「はいはい。戦えるからって嫉妬しちゃって可愛いなイナホちゃんは」

 

 車椅子を押すのは黒髪の女子校生。両隣に紫髪制服姿の女の子ムウマージと海パン姿のイケメンオーダイルがいる。

 

 イケメンはアンリがイナホの耳を揉んでいるのを見て、顔を引き攣らせている。

 

「足になってくれたのは助かるけど、無心に揉むのやめなさい。怖いから」

 

「尻尾じゃなければ良いんでしょう? 可愛いわ。イナホちゃん。どう思うクリスちゃん」

 

 後を追尾する段ボールがスーと動いて車椅子の側で止まる。

 

 上がパカっと開き、中からゲルが現れる。中に女の子の頭が入っている。

 

「尻尾の方がマシじゃない?」

 

 クリスが答えた直後、蓋がパタパタと折り畳まれ、彼女はまた隠れた。

 

「まあ、良いのよ。私達も決着をつけましょう。行くわよ、アンリ」

 

「いた、座席の配置、そこ! やっと座標を特定した!」

 

 紫の魔女、ルナが水晶玉を示す。

 

「ワラコ。そしてカラタチ。あんたら落とし前を寄越せ」

 

 

 


 

 

 

 カカカ。

 

 なるほどあの野郎。リーフェを仮想敵としてセルロードを育て上げたのか。

 

 オー、オー。

 

 観客の歓声が響く。

 

 地面に伏せ、動かなくなった相棒。

 

 カカカ。

 

 青年の不気味な声。

 

 涙に濡れているはずのマスカーニャの顔が、確かに嗤いに歪んだ。刹那、彼女はボールに返っていく。

 

 彼は口角を吊り上げた。その足元に闇が収束していく。

 

 敵対する少女と青年の影が引っ張られ捻じられ、渦となり、彼に収束する。

 

「舞い戻れトルーネン」

 

 高いところに投げられたボールから、飛び降りたドラゴンメイド。

 

 フライゴンの種族特性は大地からの解放、「浮遊」。そのブーツは汚さなくてもよい。

 

 しかし、彼女は振り下ろした。

 

 敵二人の影の交点、重なった頭部が踏み抜かれた。

 

「昂り過ぎだぞ、ソウスケ」

 

 カインは嬉しさを隠さない。

 

 いけない、いけない。公式戦でやると退場クラスだ。 

 

 オー、オー。

 

「あ、悪い、悪い、セルロード。交代したかったのなら影踏み解除してやるから変わって良いぞ。それぐらい待てるよな、トルーネン」

 

 青年は笑っていた。

 

 思い出してきた。だからバトルは最高なんだよ。

 

 オー、オー。

 

 カカカ。

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