ゲットしないと喉笛噛みちぎっちゃうぞ   作:イトシキイタダキ

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4章「マフォクシーの宅配便」

 砂の校庭の壇上の上、

 

「いっくよー!」

 

 雲のような羽を持つ青色基調の美少女がインカムをつけて、集まった生徒達や人外の特徴を持つ制服姿に声を張り上げる。

 

「ホロビ、みんなの心をキュートに落としちゃうぞ!」

 

 チルタリス娘を双眼鏡でフェンス越しにソウスケが眺めている。外套で姿を隠しながら。

 

「カインてめー、よくも逃げやがったな」

 

 先程、キュウコン娘ことイナホをボールに戻したことに端を発する、黒髪JK、Aことアンリとの決闘。いや、アルファベットの一致は偶然なのだが。

 

 その最中見事にフェードアウトし、ソウスケの視界からカインは消えていた。

 

「建前はホロビの回収。本音は社会的な心中に従う気が無かった」

 

 彼はソウスケの方は見ずに腕組みしながらフェンス越しを睨み続ける。今は彼にボール権のあるチルタリス、ホロビを観測し続けているのだ。

 

「おい、本音漏れてんぞ」

 

「お前お得意の道連れを食らうわけにはいかなかったんでな」

 

 全くもって人聞きが悪い。

 

「ユタカさんの忠告で立ち止まるべきだった。完全擬人化をボールで吸うとか犯罪でしか無いだろ」

 

 ドータクン紳士のことだろうか。

 

「お前もワンテンポ指摘が遅かったろ」

 

「後出しの方が相性有利なんだよ」

 

「開き直んな」

 

 ソウスケは分が悪いと判断する。アンリというサムライ女子がポケモンバトルこと、超法規的決裁を選択してくれていて良かった。決闘で勝てば不問にするという不文律はセキエイ圏社会の歪み以外の何ものでも無いと思うが。

 

 閑話休題。

 

「良く許可取れたな」

 

「ちょっと放課後校庭を借りただけだからな」

 

 ホロビの音程を外す歌声が聞こえる。

 

「ちょっとはましになったな」

 

 飼い主が言うが、聴衆の反応は微妙だ。

 

 ホロビが間奏中に空中にふわりと綿のような羽根で舞い上がり、刹那、赤い線がグラウンド上空を割り、終端にホロビが現れる。赤熱するほどの加速だ。ソニックブームがグラウンドを走り、高校生達の髪を揺らす。ホロビはそのまま横向きの竜巻を大量生産するかのごとく、上空を螺鈿に縫い上げた。

 

 その光景を見て偽造高校生達が唖然とする。その威力の高さを察したのだろう。やばくね、あれというトレーナーの声も聞こえる。

 

 ゴッドバードにアクロバット。チルタリスというただの鳥にしか見えない彼女がドラゴンなのは何故なのか。

 

 それはその戦闘力によるものである。

 

 良い仮説かもしれない。研究のネタとして保留しておこう。

 

 間奏が終わった。

 

 見所が終わったので、ソウスケがカインに話しかける。

 

「あの子、元々ゴリゴリのバトルチルタリスだろ?まあ、ナッベジムの彼女ほどでは無いが」

 

 ソウスケの頭の中に、雪山のフィールドで、クリスタルに輝くチルタリスの羽を持つ美少女が思い浮かぶ。後に控える中性的な美しいジムリーダー。

 

 カインが返した。

 

「ああ、お前のトラウマだな。あの子を見ても大丈夫か?」

 

「いや、このアイドル志望残念女子は、あのクールビューティーとは同一視出来ない。見た目もよく見ると変化している」

 

「言えてる。まあ彼女が望んだ方向だからな。そう見えているなら救いだろう。さて、ここからが本番だ」

 

 ホロビが元気に叫んでいる。やや冷めた群衆に向かって。

 

「みんなー! たくさんの人もポケモンもありがとう! 夢に向かってひた走る私をみんな応援してねー!」

 

 さて、ここからが問題だ。頼むぞ。

 

 ホロビがみんなに語りかける。

 

「私はアイドルになりたくて人間になったの!」

 

 そして聞く。

 

「ここでポケモンのみんなに聞きたいんだけど、なんでみんなは何になりたくて人間になったの?」

 

 風の音が良く聞こえる。

 

「……えーと、パートナーが好きで人間になった子は?」

 

 ホロビが手にずっしりとした紙束を持っている。アンケート用紙だ。

 

 会場の半分くらいから手が上がる。人外全員からだろう。収穫が無いことが収穫だ。カインの利益にもなるとは言え、彼には感謝しなければならない。

 

「ソウスケ、早く行けよ。アンリちゃんに見つかったら八つ裂きにされるぞ」

 

 カインはそう言うが。

 

「大丈夫だ。もっと旅支度を整えてから」

 

 丸刈りの高校生がフェンスの穴からボールを持って飛び出してきた。

 

「静寂なる海面、モリハヤシ、イナホをかどわかすものにバトルを申し込む」

 

 だからセキエイ圏は嫌いなんだ。

 

 

 

 バトルは佳境であった。

 

「お前やるな。どこ高だ」

 

 モリは5体もやられたのに楽しそうだ。海面などという名前に反して水タイプ以外も多い。

 

「グレープだ」

 

「なるほど、知らん。だが、訛はパルデアか」

 

「答える義理は無い」

 

 いや、本当に無い。

 

 しかし、彼は強かった。メラが倒れ、トルーネンも手負い。リーフェは温存。

 

「静寂なる海面、モリハヤシ、高校1年3組序列6位。名前のギャップでウケを狙っている」

 

 イナホが後ろのベンチで語っている。

 

 何解説しているんだ。ていうかセキエイ圏は3年制と聞くから単純計算こいつより上が最低でも50近くいることになるのだが。

 

 トルーネンをボールに戻す。

 

「おい、君なんでポケモンに道具を持たせない」

 

 これはソウスケの疑問であった。仮に手持ちのうち1匹でも気合のタスキやオボンを持っていれば、ソウスケは壊滅していたかもしれない。

 

「校則で禁止されている。高校生のうちから浪費癖は良くない」

 

「なら仕方ないな」

 

 いや、コート以外のバトル自体を禁止しろよ。それ以前に許可制にしろよ。

 

「それよりお前、何故ボールを4つしか持たない。こだわりか?」

 

 不味い。それは誤魔化さなければ。袋叩きにされては困る。

 

「こだわりだ」

 

「なら仕方ないな。ところで、実は許可されている道具がある。それはZクリスタルと」

 

 ボールを投げるモリの腕から似合わない輝きが放たれる。

 

「メガストーンだ」

 

「ここ、ジムリーダー養成施設か何か?」

 

 イナホが何故か答える。

 

「入り口に書いていたでしょう? 公立普通科よ」

 

 ハハハ。あり得ない。

 

 いや。グレープにも伝説よりたちの悪い合体ポケモンや敗者の山を積み上げるチャンピオンランクがいた。だから似たようなものかもしれない。

 

「行きましょうかハヤシ」

 

 出てきた黄色のヒレがある、青のワンピースの美少女。

 

「行くぞ、メガ進化!」

 

 彼女は輝き、ヒレが鋭くなり、服は身体に張り付き、競泳水着のような光沢を得る。

 

「メガラグラージ」

 

 ソウスケの呟きに彼は言う。

 

「出しなよ、お前の、テラスタルを」

 

 そんな、彼女を通りすがりの緑髪の女子高生が肩パンする。

 

「あ、ごめん」

 

 メガラグラージは謝罪する。

 

「それより、お花に気をつけなさいね」

 

 甘ったるい声で彼女は言った。

 

 メガラグラージは足元を確認した。花でも踏んでいないか見たのだろう。

 

 緑髪の少女はソウスケのそばにまでテクテク歩く。実に日常的な風景だ、とソウスケは考えた。

 

 ソウスケが言う。

 

「マスカーニャって知っているか」

 

 ハヤシは返した。

 

「パルデアのフシギバナだろ」

 

 正しい返答だ。だが、満足いく回答だ。

 

「ああ、そうだ。そのポケモンは」

 

 女子高生はその制服の質感を洗い流すかのように緑のマントへと変えていく。

 

「草炎タイプの爆弾魔だ。ちなみに俺はリーフェと呼んでいる」

 

 女子高生は黒いマスクをつけた。完璧な嘘八百も決まると楽しい。

 

「そんなタイプいるわけねえだろ」

 

 パルデアにはいるんだよなあ。

 

「だからなによ、その前に吹き飛ばす!」

 

 メガラグラージ少女は、両手を結び、雨がポツポツ降りはじめる。そして、リーフェに迫る。

 

 リーフェは拳を握った。

 

「ああ、リーフェはもうそいつに爆弾を設置している!」

 

 爆発が生じた。

 

「ハヤシイイ!」

 

 ラグラージ少女は、断末魔をあげながら赤い光に還った。

 

「いけよ、敗者に声をかけるな」

 

 ハヤシはそう言った。もしかして偽情報を共有してくれないタイプか。

 

 イナホはベンチの上でひっくり返りながら涙を流していた。あれは笑い過ぎたのだろう。

 

 

 モリの襲撃の間、ソウスケは自販機を見つけていた。ソウスケはリーフェのごとく自販機に迫る。

 

 ソウスケは並走するイナホにコインを渡す。

 

「買い込むぞ!」

 

 イナホが言う。

 

「すごい傷薬とかもっているじゃない、あんた」

 

 だから、若者は困る。

 

「そんな贅沢品を使えるか! ミックスオレとサイコソーダを買い込め!」

 

「こんな緊急事態なんだから貧乏性やめなさいよ」

 

 ガコンガコンと小気味よい音が響く。

 

 ソウスケは逃走用にリーフェと入れ替えにフライゴンを出した。

 

「ほら飲め」

 

 フライゴンはミックスオレをがぶ飲みする。3つ指で飲んでおり器用だ。

 

「あ、当たった」

 

 自販機のくじでもう一本を当てたそんなイナホに対して。

 

「こんなところで運を浪費するな!他にとっておけ!」

 

「理不尽!」

 

 そんな中だった。

 

 学ランと改造学帽を被った長身の男が現れる。彼はボールを握っている。その傍らには紺基調に赤と黄色も混ざり、ジェットエンジンのついた薄手の強化外骨格を着た美女がいる。

 

「全校序列5位サミダレ。そして相棒のフカ。セキエイリーグ挑戦歴あり」

 

 彼は無言で睨んでくる。

 

 ソウスケの判断は。

 

「失礼しました!」

 

 自販機の当たりを無視してイナホの手を引きフライゴンに飛び乗る。

 

「あら、あなたのレベルなら勝てない相手じゃないと思うけど」

 

「仮に一人のしても、連戦は無理じゃあ!」

 

 ソウスケの泣き言を聞いてフライゴンが地面を蹴り動き出すと。

 

「おい、待て!」

 

 サミダレは叫び。直後、彼の従者が頭にジェットエンジンのような構造物を持つ大地の竜と化す。

 

「普通にガブリアスかよ。やべえよこの高校」

 

 非常に強いが凶暴で育てにくいと評判の地のドラゴン。ソウスケが今乗っているトルーネン、フライゴンもマイルドな見た目に反して大概であるが。

 

 トルーネンがグラウンドの砂を巻き上げ進むその後ろ、サミダレがアローラ種のライチュウのようにそのパートナーをボードとして飛んでいた。

 

 それ、一朝一夕で身に付く技じゃないだろ。

 

 しょんぼりするホロビの横を通り過ぎる。滑走路ことグラウンドは半分過ぎてもまだ高度が上がらない。ガブリアスとサミダレが迫る。

 

 やばい、バトルを仕掛けられたら拒否出来ない。

 

 ところで、フライゴンはガブリアスと比較するとある点で優れている。

 

 フライゴンは自在に空を舞い砂塵に身を隠す種である。一方で、ガブリアスは大地を飛び回るが、彼らは地表や海面の空気の流れを使う。大地や海面の間で揚力を得るのだ。地面効果である。……その割にあのボーマンダと空中でやりあうのだが。

 

 何が言いたいのかと言うと上昇率なら勝てる。それを知るトルーネンはわざと地を這うように飛び続けているのである。

 

 フェンスギリギリで、トルーネンは急に高度を上げ、首だけで後ろを見ながらニヤリと笑った。

 

 ソウスケに抱き着くように乗るイナホがトルーネンに言った。

 

「いい性格しているわね、あんた」

 

 そのときだった。

 

「受け取れ!」

 

 サミダレの声だ。

 

 ソウスケは下から飛んできたものを思わず受け取る。

 

 サミダレは親指を上に突き上げながら泣いていた。そして、何かを言った。

 

 フライゴンに跨るソウスケの手にはサイコソーダ。回収を諦めた当たりの1本。

 

 幸せになれよ。

 

 読唇術は鍛えていないが、ソウスケはサミダレがそう言っているように見えた。

 

 多分色々と彼は勘違いしている。

 

 高度を上げていく中、サミダレのフカが無数のポケモン達、アンリのオーダイルもいる、に集中砲火され、倒れゆく様を見た。

 

 多分彼女も色々と勘違いしている。だがありがとう。君の犠牲を無駄にはしない。とソウスケは何となく決意した。

 

 

 

 殿を務めてくれたサミダレ君の尊い犠牲により離陸に成功したトルーネンは高度を上げていく。山の中に沈みゆく太陽がオレンジがかっていく。

 

 無数のヤミカラスやオニスズメの群れの高度を抜けるとそこは空のハイウェイだ。

 

「元気だせよ、トルーネン。あの状況でそんな好意は想定出来ねえよ」

 

 トルーネンのその長い首はやや垂れているように見える。フカに対して煽ったことを後悔しているのだろう。こいつも一応メスだったな、とソウスケは思い出していた。

 

 ソウスケはバッグから、小型のスピーカーを出す。

 

 それをトルーネンの首にワンタッチで括り付けると、軽快な音楽が流れ始める。

 

 そのまま思い出したかのようにソウスケはゴーグルのついた半ヘルを被る。

 

「ああ、そうだお前、ニケツするのは良いけど、見られると困るから耳と尻尾出しておいてくれ」

 

「ポケモンなら良いなんてせせこましい」

 

 イナホから大きな耳とさらに大きな9本の尻尾が溢れる。トルーネンが鬱陶しそうに呻いた。

 

 日が落ちる中、軽快な曲調の曲が空に流れる。上空をピジョットの甲高い鳴き声が通り抜ける。立体的に交差したのだろう。

 

「あ、この曲、ムウマージの宅配便じゃない」

 

「知っているのか」

 

 ソウスケの小さい頃から金曜の夜にたまに放映されているアニメ作品だ。オープニングで主人公が夜に飛び立ち、ラジオから流れるこの軽快な曲と一緒に大都会を目指す。

 

「ええ、一般教養よ」

 

 巨大なジェット輸送機の轟音とフラッシュが上空を遮りソウスケは若干肝を冷やす。

 

「イナホ、といったか。このフラッシュライトをフライゴンの尻尾に括り付けてくれ」

 

 法令の問題である。そろそろ点灯しなければ違反となる。

 

「いらないわ」

 

 彼女はソウスケから腕を離し、フライゴンの背で立ち上がる。

 

 ソウスケの景色が急に開けた。彼女が指の先に灯台のようなオレンジの炎を生成したのだ。熱は無い。これが鬼火か。

 

「これでマフォクシーの宅配便」

 

 ソウスケは気づいた。暗くなっていく背景。その中に浮かぶ町の明かりが、後ろに流れていき、足元にゆっくり動くドットのような高速道路の車の群れがある。

 

 海には黄色い灯りがぼんやりと浮かび始めている。ランターンだろう。内海を橋渡す巨大な二重トラス構造も見える。遠くをセスナの灯りが並走する。

 

 トルーネンに乗り始めてからこんな美しい夜景は見たことが無かった。気づいていなかっただけか。

 

「勝手にマフォクシーに変えるなよ」

 

 ソウスケは笑いながら言った。セキエイ圏の伝統衣装にフォッコ系統のカロス風味は合わない気がしたが、そのギャップも面白い。魔術であるマジカルフレイムじゃなくて呪術系統の鬼火であるあたりも。

 

「サイコソーダ開けようぜ」

 

 当然、上空で盛大に噴き出し、彼はトルーネンにじっとりとした目で睨められた。

 

 イナホは笑い、トルーネンは唸った。

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