鬼は強き者

 鬼は自由な者

 鬼は——誰よりも孤独な者

 まじで思いつきそのまま書き殴っただけですので特に深く考えずに読んで頂けると幸いです。

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 特に長々とは書きませんが、まあ、久しぶりに見たある作品に影響されて書きました。


樂生童子

 かつて独りの「鬼」がいた。

 その力は大地を割り、その力は海を割り、果てには嵐すらも割った。

 自分に向かうもの全てを等しく倒し、善悪関係なく歯向かうものに容赦はしなかった。

 呵呵大笑を響かせ、酒を呑む姿は、「鬼」そのものである。

 人はそんな「鬼」を畏れた。動物も、同じ妖も——神々すらも、彼の者を畏れた。

 やがて恐怖は反発心へと変わり、人々は「鬼」に戦いを挑んで、そして後悔した。

 美しい白髪を靡かせて、全てを屠る「鬼」の姿は、もはや一種の神がかりの様にさえ感じられ……。

——目前に迫る拳は、思考さえ許さず脆弱な人間を吹き飛ばす。

 

——あらゆる術で応戦しても、堅牢な肉体には傷一つ着かない。

 

——あらゆる武器を持ってしても、奴の体によって粉砕される。

 金的、目潰し、首を狙った斬撃、胸を狙った一突き、あらゆる急所を狙っても「鬼」は平然と拳を振るう。

 怪力無双

 万夫不当

 人々は、畏怖の念を込めて、「鬼」に一つの通り名を与えた。

 楽しく笑うその様から——樂生童子と呼ばれる様になった。

 

 孤独だ。

 生まれた時から孤独を感じぬ日は無かった。

 気に入らぬことがあれば殴り飛ばし、一切合切葬った。

 人も、妖も、神々も……挙句、生き物の相手に飽きた私は、自然現象でさえ打ち砕いた。

 しかし、そのどれもが孤独を紛らわす事すら出来ない——それ以上の強い孤独を感じさせる事にしかならなかった。

 やがて、挑む者もいなくなり、私は唯一、孤独を紛らわす事のできる酒を呑んだ。

 呑んで、呑んで、呑み尽くして——やがて酒が尽きた頃、山の麓の人里に降りて狩った獣と交換する。そうすると、人は戸惑いながらも私を次第に受け入れてくれた。

 そうして、独りだった私は、1人、また1人と話相手が出来た。

 やがて私が獣を狩り、人里に降りては宴会が開かれた。他者と呑む酒の味は、独りの時とは違って暖かく、優しく体を満たしていった。

 生まれ落ちて百と余年。初めて酒以外で心が埋まる感覚に困惑したが、同時に喜びもした。

——もう寂しく無い。

 

——もう、酒に溺れなくても良い。

 

——もう、孤独じゃ無い。

 そんな日々もやがては終わりを告げる。

 その日はいつも通り獣を狩り、私は人里に向けて歩き出した。そうしてしばらくすると、遠くで火山が噴火するのが見えた。それだけなら何も気にしなかった。

——それによって発生した、火砕流に目を向けなければだが。

 私は獣を投げ捨てた。そして、今まで出した事すらないほど必死になって森を駆け抜けた。

 しかし、人里に着いた時には全て呑まれた後であった。

 私は唖然と立ち尽くすしか出来なかった。

 灰が積もり、火砕流が冷えて尚、私はその場に立ち尽くし、やがては膝を折った。

 あの時、嬉しそうに子供の話を聞かせてくれた親父も。

 あの時、泣きながら女に振られたと話す男も

 夫婦になるんだと、嬉しそうに語っていた娘も。

——皆、皆、私をおいて逝ってしまった。

 分かっていた。人間は寿命というものが備わっているから、いつか別れが来る事も。

——だが、こんな呆気なく終わるだなんて、思わないじゃないか。

 人間の身は脆い。私が指先にほんの少しでも力を入れれば、その身に穴が空くほど脆いと、知っていた。天災を砕ける自分が特別なのだ。

 ふと、視界に小さく煌めく何かが映った。

 私はそれを、何の気無しに拾い上げる。

——それは、小さな簪だった。

 レンゲソウ模様の小さな簪だった。それはかつて、1人の男が作っていた物。確かあの時は未完成だった筈だが……

『知ってるかい?レンゲソウの花言葉……「私の幸福」っていうんだ。出来上がったら、真っ先にあんたに持って行くよ。』

——嗚呼、思い出した。

 思えば、真っ先に私に声を掛けてくれたのは彼だった。

 いつも私の話し相手になり、いつも私と酒を酌み交わしてくれた。

 彼が嬉しそうに話している様子を見て私も不思議と胸が温かくなった。

 結婚してくれと言われた時は困ってしまって、結局今日まで何も言えなかったんだった。

……遅くなってしまったが、せめて返事をしなければならない。

「——遅くなってごめん。私も……お前が、好き、だったよ……!」

 熱い物が頬を伝う。胸がギュウっと締め付けられる。溢れて止まぬ感情に、体を丸めて蹲ることしか出来ない……どうしようもなく苦しい。

 なぜ、あの時返事をすぐ返さなかった。

 なぜ、私は人里から離れてしまった。

——なぜ、好きだと気が付かなかったのだろうか

 けれど時は既に流れて、残酷にも全てを流して彼方へと消えて行く。

 あの時の思い出も

 あの時の喜びも

 あの時の笑顔も

——もう、全てが『過去』の波に攫われて行った。




 此処まで読んで頂きありがとうございます。

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