心を探し求める水瓶座   作:リコレクションでも嬉しい

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第38話

 その報せは久しぶりの休日を部屋で過ごしていたスバルにとって正しく青天の霹靂だった。

 

 

「──シオナが引っ越す!?」

 

 

 ウォーロックとうだうだ雑談しながら、片手間に趣味の機械弄りをしていたところにあかねから齎された衝撃の報せ。スバルは工具を放り出し慌てて家を飛び出した。

 

 お隣さんであるシオナの家の前には一台の引っ越しトラックが停まっていた。あかねの言葉は事実らしく、今も引っ越し業者の人間が荷物を荷台へと積み込んでいる。

 

 次から次へと荷物が運び出されていく光景を呆然と見ているスバル。その視界に、見覚えのある小柄な人影が映った。トラックの側で所在なさげに佇んでいるシオナだ。

 

「──シオナ!」

 

 いつになく大きな声を上げてスバルはシオナに駆け寄り、その華奢な両肩に手を載せた。そして有無を言わさぬ剣幕で口を開く。

 

「シオナ! 引っ越しするってどういうこと!? 帰ってくるんじゃなかったの!?」

 

「お、落ち着いて……」

 

「落ち着けないよこんなの。なんでシオナが引っ越さなくちゃいけないんだ……!?」

 

「あ、あぅ……スバル、お願いだから……ちょっと」

 

 スバルの剣幕にたじたじとなりながらも、シオナはか細い声で呼び掛ける。答えようにもこんな勢いで詰められては答えようがないのだ。

 

 ハッと我に返りスバルはシオナから離れる。余りにも寝耳に水な話であったとしても、幼馴染の女の子相手に取っていい態度ではなかった。現に追いかけてきたあかねがスバルの乱暴な態度を見てダッシュで駆け寄ってきている。

 

「……ごめん、乱暴だった」

 

「大丈夫……相談しなかった、私が悪い。だから、あの……あかねさん、あんまり怒らないで」

 

「スバル、後でお話があります」

 

「はい……」

 

 いつの間にか背後に立っていたあかねの低い声に、スバルは反抗することなく素直に頷きを返した。基本的に優しい母であるあかねだが、悪いことをした時はきちんと叱るのだ。大吾がいなくなって女手一つでスバルを育ててきた手腕は伊達ではない。

 

 しょぼんと肩を落とすスバルを気の毒に思いながら、シオナは改めて目の前の二人と向き合った。

 

「急な話で、ごめんなさい……今の家族と離れて、養子になったから……この家には、居られない」

 

「養子……」

 

 色んな意味で難しい単語が出てきてスバルは何を聞けばいいのか分からなくなる。養子の意味自体は理解できているが、果たして迂闊に切り込んでいいものか判断がつかなかったのだ。

 

 海鳴家の家庭環境があまりよろしくないことに関してはスバルも察していた。あの日の問答と後にあかねから聞いた話で、シオナと両親が決定的な決裂に至ってしまっていたことも知っていた。

 

 だからシオナが家を出て他の家族の養子になるというのは理解もできるし納得もする。だがそれはそれとして余りにも話が急であるし、せめて一言くらいという思いが湧き出てしまう。

 

 やり場のないもやもやを抱えて無言になってしまったスバルに代わり、あかねが屈んで目線を合わせて会話を引き継ぐ。

 

「とても急な話だけど、相手の人とは仲良くやっていけそう?」

 

「ん、大丈夫……すごく、優しい人だから」

 

「そう。それならよかった」

 

 そう言って優しく頭を撫でてくるあかねに、シオナは照れ臭そうに頬を赤くして俯く。同時に、以前と変わらない態度で接してくれるあかねの優しさに心の中で感謝していた。

 

 あかねはシオナの異質な姿を病院で目の当たりにした。恐らくはサテラポリスから掻い摘んだ事情の説明はあった筈だが、だとしても己の常識外の出来事に対して何かしら態度が変わって然るべきだろう。

 

 しかしあかねは変わらなかった。何一つ変わりなく、息子の幼馴染でお隣さんの娘として見てくれている。優しくて芯の強い女性だった。

 

「あかねさん……また、お料理教わりにきても、いい……?」

 

「もちろん。お料理だけじゃなくて、いつでも遊びにいらっしゃい」

 

「……ありがと」

 

 あかねの返事にシオナは嬉しそうに目尻を下げた。

 

 あかねとの会話に一区切りを付け、シオナはスバルと改めて向き合う。物言いたげな顔のスバルにシオナは常と変わらないトーンで話を切り出した。

 

「スバル。これからも、学校でよろしく……」

 

「……ん? あれ、もしかして学校は変わらないの?」

 

「ん……変わらないように、してくれた」

 

 養子に入るため海鳴夫妻が所有する家に居られなくなるのは仕方ない。しかし大切な友人達と離れ離れになるのは辛いだろうと、養母になってくれた相手が色々と便宜を図ってくれたのだ。

 

「そっか……そっかぁ……」

 

 急な引っ越し話でぐちゃぐちゃになっていた心が冷静さを取り戻していく。引っ越すことで関係性が疎遠になってしまう可能性がなくなり、スバルは胸中でほっと安堵の息を吐いたのだった。

 

 幾らかもやもやが晴れたスバルの顔色を窺いながら、シオナが恐る恐る言葉を続ける。

 

「あの……アクエリアスと話して、これからのことを決めた」

 

「うん」

 

「犯した過ちからは、逃げない……私達なりに、胸を張って生きられるように……頑張る」

 

「うん、応援するし、困った時はいつでも相談してよ」

 

「それから……」

 

 そこでシオナは言葉を区切ると不安そうに視線を泳がせ、微かに唇を震わせながら問い掛ける。

 

「お隣さんじゃなくなるけど……これからも、スバルの幼馴染でいても、いい……?」

 

 それはシオナなりに精一杯の勇気を振り絞って口にした言葉。滅多に表に出すことのなかった細やかな我儘(願い)だった。

 

 不安混じりのシオナの問い掛けにスバルは一瞬の迷いもなく頷きを返す。もじもじと落ち着きなく揺れていたシオナの両手を取り、真っ直ぐ目を見て宣言する。

 

「当たり前だよ。今も昔も、これからも。シオナは大切な幼馴染だ」

 

 人目も憚らずスバルは想いを告げた。それはもう、シオナが抱えていた不安を吹き飛ばして余りある宣言だった。

 

 いつになく男らしいスバルの言葉を真正面から受けてシオナは面食らう。ド直球にも程がある想いを出し抜けにぶつけられて、割と不測の事態に弱いシオナは頭が真っ白になってしまった。

 

 しばしシオナはぽけーっと惚けていたがどうにか意識を取り戻し、スバルの言葉をきちんと受け入れ噛み締めるように俯く。そして次に顔を上げると──

 

「──ありがと、スバル」

 

 長らく閉ざされていた(無表情)が、春を迎えた花のように咲き誇った。

 

 いったいいつ振りの笑顔だろうか。久しく見ることができなかったシオナの衒いない笑顔は、無表情とのギャップも相まって凄まじい破壊力を秘めていた。それはもう、幼馴染として長く付き合ってきたスバルですら思わず見惚れてしまう程に。

 

 元々小動物染みた可愛らしいさが魅力的な女の子であったが、家族関係に踏ん切りがついたことで凍り付いてしまっていた感情表現が戻りつつあるのだろう。スバルの剣幕に戸惑ったり、あかねの優しさに照れたりと、その兆候は既にあった。

 

 回復しつつある感情表現、その記念すべき第一発目を盛大に受けたスバルの心中はあまり穏やかではなかった。

 

 物言わぬ彫像と化してしまったスバルにシオナは首を傾げる。両親との関係や今までの失態が故に自己評価がゼロを突き抜けてマイナスに突入してしまっているため、スバルの意識が飛んでしまっている原因が自分にあることを理解できていなかった。

 

 再起動にまだ時間がかかりそうなスバルと首を傾げて疑問符を浮かべるシオナ。以前までとは少し変わっただろう少年少女の関係性を、あかねが微笑ましげに見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 星河宅の屋根上。普通の人間には姿を見ることのできない電波生命体が三人、少年少女の微笑ましいやり取りを眺めていた。ご存知ウォーロックとハープ、そしてアクエリアスの三名だ。

 

『あらら、随分と可愛らしい顔をするようになったじゃない』

 

『ええ、本当に。これも全て、皆さんがシオナを助けてくれたからです。証言の件も含めて、お礼を言わせてください。ありがとうございます』

 

 深々とアクエリアスはハープとウォーロックに頭を下げた。

 

 ロックマンとハープ・ノートが居なければシオナは取り返しのつかないところまで堕ちていた。孤独と絶望に一生苛まれ、アンドロメダに操られるがまま全てを壊してしまっていただろう。

 

 加えてハープとウォーロックは、シオナとアクエリアスのためにサテラポリスに証言までしてくれた。地球を救ったヒーロー達の相棒が二人揃って証言したという事実は、当人達が思っている以上に大きな影響を齎したのだ。

 

『ケッ……助けられっぱなしは趣味じゃねーからな。これで貸し借りなしだ』

 

 アクア・レディの正体が不明だった時から、ロックマンは幾度となく危機を助けられてきた。あくまでその借りを返しただけだと、ウォーロックは主張する。

 

『意地っ張りな男はこれだから嫌になっちゃうわ。素直にアクエリアスを心配したって言えばいいでしょうに』

 

『する訳ねぇだろうが!? 自分のストーカーを庇うヤツがどこにいるんだよ!?』

 

『ストーカーだなんてそんな……私はただ、愛する人のおはようからお休みに、揺り籠から墓場まで寄り添いたいだけの善良な恋する乙女ですよ』

 

『こわっ!? そんな台詞、あかねが見てるドラマでも出てこなかったぞ!?』

 

『ドラマ見てるのね、ウォーロック……』

 

 地球にすっかり馴染んだ様子のウォーロックに呆れるハープ。音楽の女神を自称してミソラに取り入った自分のことはすっかり忘れてしまっているようだ。

 

『これ以上付き合ってられるか! オレは先に帰らせてもらうぜ!』

 

 殺人鬼に殺されてしまいそうな台詞を残して星河家に引っ込むウォーロック。がさつなウォーロックでも今のスバルとシオナのやり取りに水を差すのが野暮であることは理解していたようだ。

 

 喧しくこの場を去ったウォーロック。アクエリアスとハープは互いに顔を見合わせ、呆れたように肩を竦めた。

 

 アクエリアスとハープの視線は再び眼下の少年少女に向けられる。眼下では丁度、再起動したスバルが若干挙動不審になりながらも言葉を絞り出しているところだった。

 

 外野から見てる分には微笑ましく心温まるやり取りを眺めつつ、ハープは世間話でもするかのように切り出した。

 

『結局、あなたは私を憎んでいるのかしら?』

 

『…………』

 

 ハープの問い掛けにアクエリアスは僅かに目を伏せて沈黙。微笑ましい眼下のやり取りが急に遠ざかり、神妙な空気が場を支配した。

 

『……憎んでいなかったと言えば嘘になるでしょう。ハープさんに限らず、FM星人は例外なく憎悪の対象でした』

 

 静かに語り始めるアクエリアス。その言葉に心を焦がすような憎悪の炎は感じられないが、さりとて一切の熱が失われた訳でもない。静かな激情が声音に込められていた。

 

『ですが先日の言葉に嘘偽りはありません。大勢いるFM星人の中でハープさんのことは気に入っていました。憎むべき相手だと理解していながら、友人としてのやり取りに少なからず安らぎを覚えていました。虫の良い話ですね』

 

 忘れてください、と最後に付け加えてアクエリアスは寂し気に笑った。

 

 秘めていた憎しみを明かしてしまった以上、今まで通りの友人関係を続けることはできないだろう。惜しいとは思うが、全ては身から出た錆だ。受け入れる他ないだろう。

 

 友人関係の崩壊を予感してしんみりとしているアクエリアスだが、しかし一方のハープはあっけらかんとした様子で言い放つ。

 

『じゃあ今まで通りで何も問題ないわね』

 

『……は?』

 

『ちゃんと友人だと思っていたのなら、これまでと変わらずにいればいいじゃない。私はこれっぽっちも気にしないもの』

 

『はぁ……』

 

『だいたいねぇ、あなたには私を唆して母星を裏切らせた責任を取ってもらわなくちゃいけないのよ。私もあなたも今更戻れやしないんだから、裏切り者同士仲良くやるのは当然じゃなくて?』

 

『そうですね……』

 

『あとねぇ、ミソラとシオナが友達なんだから、顔を合わせる度にギクシャクなんてしていられないでしょ。違う?』

 

『仰る通りですが……』

 

 殆ど一方的に捲し立てられてアクエリアスは戸惑いと困惑を隠せない。

 

 憎んでいたことを公言されながら、気にも留めず今まで通りの友人関係を維持しようとするハープ。言っていることは筋が通っているが、感情が納得できるかと言えば微妙なところである。

 

 ただアクエリアスとしても顔を合わせる度に気不味い空気になってはシオナとミソラに申し訳がないし、変わらず友好的に付き合えるならば否はない。ハープを友人として気に入っているという想いに嘘偽りはないのだから。

 

『……ありがとうございます、ハープさん』

 

『いいのよ。それより私としてはあの男と今後どうするかの方が気になるわ。今までのあれ、半分は本気でしょ?』

 

 ちらっと自分達の真下の屋根を見やり、ハープは愉しげに話を切り替える。しんみりとした空気が霧散し、アクエリアスも期待に応えるように微笑を浮かべた。

 

『ふふっ、まあ余り追い詰め過ぎて逃げられても困りますので、しばらくは大人しくしようかと』

 

『あら、随分と殊勝な心がけね? 今までみたいに影からこっそり監視……じゃなくて、見守らなくてもいいのかしら』

 

『ええ、押してばかりではなく、時には引くことも戦略の内ですから。それに彼も私からは目を離せないと言ってくれましたから、たまには見守られる側も悪くないかと』

 

『マジで!? まさかの進展なの!?』

 

 

 ──言ってねえ!? オレは一言も言ってねえぞ!?

 

 

 この場に残っていれば声を大にして否定していただろう。しかし残念、ウォーロックは既に戦略的撤退済み。アクエリアスが意図的に偏向報道をしたところで止められる存在はいなかった。

 

 星河宅の屋根上で心は乙女な電波生命体二人が恋バナで盛り上がり、その真下で妙な悪寒に襲われ背筋を震わせる電波生命体が一人。実に平和な昼下がりの光景だった。

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 

 

 コダマタウンの中心に聳え立つ電波塔の頂上。肉眼では捉えることのできない白黒の電波生命体が、足元に広がる復興途中の街並みを見下ろしていた。

 

『ちっ、世界中回ってこの程度か……』

 

 手元で揺れるアンドロメダの鍵を苛立たしげに睨み、ジェミニは吐き捨てるように呟く。修復された鍵のガラス球内部では失われたはずの負のエネルギーが揺れていた。

 

 ロックマンからアンドロメダの鍵を奪い取ったジェミニ・スパークはすぐに鍵の破損部位を修復、失われた負のエネルギーを掻き集めるために世界各地を飛び回った。

 

 シオナを取り込んだアンドロメダが齎した地球規模の電波災害。それに伴って世界各地で人々から噴出した負の感情エネルギー量は莫大なもの。

 

 特にFM星人とアンドロメダが暴れたことで爆心地となった日本。直接的な被害を受けた人々から蒐集したエネルギー量は相当なものだった。

 

 しかし世界中を駆けずり回って蒐集したエネルギー量は、アンドロメダを再び召喚するのに必要なエネルギー量の半分にも満たない。これではFM王に叛旗を翻してFM星を支配するなど夢のまた夢だ。

 

「それだけ集められたのなら上出来だと思うべきだよ、ジェミニ。欲を掻くとろくなことにならないからね」

 

 苛立つジェミニを宥めたのはツカサだ。

 

 世界中を巡って蒐集したエネルギー量が半分に満たない状況に、ツカサはジェミニと違って憤りや焦燥の類は見せない。落ち着いた様子でジェミニの手の中で揺れる鍵を眺めている。

 

「負のエネルギーを集める術も時間も幾らでもある。焦りは禁物だよ」

 

『軽々しく言ってくれるな、ツカサ』

 

 眉間に皺を寄せながらジェミニはツカサを睨む。

 

 ジェミニからしてみれば、あと一歩まで迫っていた野望の成就が大幅に遠ざかってしまったのだ。運命共同体であるツカサももっと当事者として焦りや怒りを見せるべきだろうと思ってしまうのも仕方ないだろう。

 

「軽く聞こえたのなら謝るよ。でもこれはチャンスでもあるんだ」

 

『チャンスだと?』

 

「そう、チャンスだ」

 

 ふっと酷薄な笑みを口元に浮かべ、ツカサは眼下に広がる街並みを見下ろす。

 

「キグナス以外のFM星人はボクらの裏切りを知らず、最大の異分子(イレギュラー)であるアクア・レディの立場は明確になった。この状況を利用しない手はないよ」

 

『なるほど。他の連中を唆して負のエネルギーを集めつつ、俺達はロックマン達を確実に潰せる機会を窺う訳か』

 

「それだけじゃダメだ。アクア・レディと一対一で勝ち切れなかった以上、ボク達自身も強くなる必要がある」

 

 先の戦闘において、ジェミニ・スパークはアクア・レディを倒すことができなかった。相性的に圧倒的に有利であった筈にも拘わらずだ。

 

 復讐のためにアクア・レディが隠していた本来の実力が、雷神と謳われていたジェミニのそれを上回っていた。自身の実力に自負を持っていたジェミニとしては業腹だが、認めざるを得ないだろう。

 

 そこにスターフォースなる力を手にしたロックマンも加わる。シオナを取り込んで暴走していたとはいえ、ほぼ単独でアンドロメダを鎮圧してみせたのだ。今のジェミニでは真正面から戦ったとしても勝ち目は薄いだろう。

 

「ボク達も強くならないといけない。でないと、アンドロメダを召喚したところで邪魔をされて終わりだよ」

 

 ロックマンにアンドロメダを抑えられ、アクア・レディに敗北して終わる。容易く想像できる未来絵図だ。

 

 ツカサの懸念はジェミニも大いに同意できるものだったのだろう。真剣な顔付きで悩み始める。

 

『強くなると言ってもな。多少技を磨いたところでどうにかなるのか?』

 

「実力を磨くのは不可欠だけど、それだけじゃ足りない。だから、ボクらも別の力を手に入れよう」

 

『あのなぁ、誰もがロックマンのように都合良く新たな力を得られる訳じゃないんだぞ?』

 

 ツカサの発言にジェミニは呆れた態度を隠そうともしない。望むだけでぽこぽこと新たな力に目覚められるのならば、アンドロメダなんて兵器に頼ったりはしていないという話だ。

 

 馬鹿にするようなジェミニの態度に対してツカサは不敵な笑みのまま、徐に指でアンドロメダの鍵を指し示した。

 

「アンドロメダはアクア・レディを取り込み、見たこともない姿に電波変換した。その力は星を滅ぼす兵器の名に恥じないものだった……」

 

『おい、ツカサ……気は確かか?』

 

 ツカサの目論見を悟ったジェミニは顔を引き攣らせる。人ならざるものであるジェミニをもってしても、その選択は正気を疑うような代物だった。

 

「暴走した海鳴さんに意識はなかった。でも、あの力を意のままに操ることができたら? ロックマンもアクア・レディも目じゃないさ」

 

 アクア・レディを取り込んだ怪物は掟破りのダブルクロスの力の前に敗れた。しかしアンドロメダの力を完全に御した状態の怪物ならば、果たして勝負の行方はどうなったのか。それもFM星で雷神とまで謳われたジェミニが、その力を物にしたのならばどうなるか。

 

「AM星人であるアクエリアスにできて、FM星人である君にできない道理はない。それとも、怖気づいたのかい?」

 

『……ふはっ。我ながら、つくづくイカれた奴を宿主(相棒)にしたものだ』

 

 試すようなツカサの物言いにジェミニは口端を笑みに歪めた。宿主の狂気に釣られるように、ジェミニも正気や常識を捨てる決意をした。

 

『いいだろう、やってやる。兵器に命じるだけというのも性に合わないと思っていたからな。俺自身の手で全てを支配してやる』

 

「それでこそだよ」

 

 乗り気となったジェミニからツカサは眼下の景色に目を向ける。今頃は穏やかな日常に戻っているだろう少年少女の姿を脳裏に描き、皮肉交じりの笑みを零した。

 

「束の間の安らぎを噛み締めるといいよ、スバル君。それから、海鳴さん──」

 

 

 




これにて書き溜め終了!
不穏な種を最後に撒くだけ撒いて、またしばらく書き溜め期間に入ります。
次は多分、リコレクション発売の前後くらいになるかなぁ……お待たせして申し訳ないです。
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