異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―   作:美風慶伍

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十:道祖神と山間の村 ―この土地の理(ことわり)―

 俺は彼女に問いかける。

 

「しかし、この辺り。あんなのが彷徨(うろつ)いてるんですかい?」

「ええ、(いくさ)が終わって行き場を失った兵士たちが、みな盗賊になるんです」

「戦?」

「はい、数年前に謀反が起きて土地のご領主がお倒れになったんです。それで貴族様や騎士様が割れて争いあったんです」

「穏やかじゃござんせんね」

「はい」

 

 彼女は静かに答える。

 

「それ以来、兵士崩れや傭兵たちが――」

「山賊まがいの悪さをしていると」

「はい――」

 

 いかにもやるせないような吐息が漏れた。

 その言葉に、この世界の“現実”を見た気がした。

 

「あの……私、リーアと申します。お名前をお聞かせください」

「丈之助と申しやす」

 

 道中合羽を拾い上げ、三度笠をかぶり直す。

 リーアは微笑を浮かべて言った。

 

「ジョウノスケ様、これもご縁です。

 どうか、私の村にお越しください。命を救っていただいたお礼をさせてください」

 

 断る理由はなかった。

 俺は頷いて答えた。

 

「喜んで」

 

 俺の答えに彼女は笑みを浮かべたのだった。

 

 

 リーアは山賊が投げた丸太のせいで転んで足に怪我をしていた。骨は折れていないが、自力で長く歩くのは無理だろう。

 俺は懐の中にいつも忍ばせてある手ぬぐいをで傷を手当すると彼女を背負って歩き始めた。まだ大人になりきれていない年頃らしく背丈も大きくはなく、そう重くもないので苦にもならない。

 

「そんな、申し訳ないです」

「怪我をしている娘さんを歩かせるほうが申し訳ありませんぜ」

 

 男に背負われることに気恥ずかしさを覚えて居るためなのはすぐに分かるが、俺は彼女を言いくるめると背中に背負って歩き出した。

 俺が山賊どもを仕留めた場所から、リーアが暮らす村は、そこから一山越えたところにあった。彼女は山に自生している薬草を取りに来たのだと言う。

 

「妹が熱を出してまして」

「それで薬草が必要で?」

「はい。医者を呼べば薬が手に入りますが、医者を呼ぶのには遠くの街から呼ばなければなりません」

 

 遠くの医者を呼ぶには金が居るだろう。山間の貧しい村には当然、そんな金はない。

 

「医者を呼ぶにも足代がかかりやすからね」

「はい、最近は良い医者はこの領地を離れてしまったので」

 

 気になる一言だった。良い医者が減ったと言うなら普通に有り得る話だ。だが、領地を離れたと言うのはどういう意味だろう? 俺はその件は深堀りしなかった。あとで名のある人に聞くとしよう。

 途中、切り株のあるところで腰を下ろし一休みし、小川を横目に見て山筋を降りていく。そして、道端に石塔が建っている。彼女はそこで下ろしてくれるように求めてきた。

 

「少々お待ちを」

 

 そう言いつつ彼女は石塔に手を合わせて何やらつぶやいている。

 

「道切りの道祖神ですかい?」

 

 俺の言葉に彼女は意外そうな表情を浮かべつつ頷いた。

 

「はい、村の土地を守護してくださる土地神様です。村に通じる入り口に土地神様を祀る石塔があります。村に出入りする時は必ず挨拶するんです」

 

 そういう事か。ならば、郷に入れば郷に従えだ。

 

「そいじゃあっしも」

 

 流れ旅をしていると運不運に命を救われることは茶飯事だ。ここで不礼を働くよりは礼儀を通すのは道理だろう。彼女の作法に習い、俺も手を合わせた。村という括りに足を踏み入れるのだ、そのための作法を守るのは当然のことだ。そして、村が見えてくるとリーアは語る。

 

「今、村の方を呼んでまいります。丈之助さんはここでお待ち下さい」

 

 やがて、村の若者や年寄が数人現れる。

 

「ようこそ、コルゲ村へ」

 

 こうして俺は異界の山間の村へと足を踏み入れたのだった。

 




落とした命を拾った先は――
作法もわからぬ異境の村
男、丈之助、そこれで何を知る



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