異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―   作:美風慶伍

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弐:城塞都市アルヴィア ―鉄壁の城門は人の心も閉ざす―

 それから3つの夜を過ぎて、街道を歩いていくと、枝道から集まった人影や荷馬車がさらに増えていく。軽い坂道を登り、丘を超えて下り道に差し掛かる。通りすがる他の旅人たちからもアルヴィアの街の名が聞こえつつあった。 

 

「そら、見えてきた! 父さん、アルヴィアだ!」

「ご領主のおられる街か」

「さぁ、先を急ごう」

 

 俺を追い越すように馬にまたがった親子が先を急ぎ、それを視線で追えば、そこから先には目指すべきアルヴィアの街がいよいよ見えようとしていた。そして、俺は驚くような光景を目の当たりにしたのだ。

 

「あれは――壁? 石壁か?」

 

 壁が果てしなく伸びていた。そして、一つの街を丸ごと石壁で囲っているのだ。

 

「こいつは驚いた」

 

 これには俺も流石に呆気にとられた。古くの戦さの世から続く石垣のある城は知っているが、街そのものが城壁で囲われていると言うのは見たことがないからだ。と、同時に――

 

「やっぱりここは〝日ノ本〟の国じゃねえんですね」

 

 その事をあらためて突きつけられたような気がした。もう、この世界に俺の故郷はないのだと。だが――

 

「よし」

 

 ならばもう迷うことはない。命果てるまで前に進むだけだ。俺はアルヴィアの街へと足を進めたのだった。

 

 

§

 

 

 夕暮れ近くの空の下、アルヴィアの街へと近づいていくたびに見えてくるのは、その堅牢そうな石造りの壁だった。所々に見張り台となるような張り出しがあり、そのまま大戦(おおいくさ)に備えられるような迫力がある。

 

「たしか〝惣構(そうがま)え〟と言ったか」

 

 昔、どこかで話好きの親分に酒の肴に聞かされた話だったが、西の日本に有岡城と言う城があり、それが城下町を丸ごと土塁で囲んだ作りだったと言われている。戦さの世の英傑である信長公がかなり手を焼いた城だったと言う。だとすると――

 

「街の出入り口には〝見張り〟が居るんでしょうね」

 

 当然の話だ。街の中に〝異物〟を持ち込まないようにさせる必要がある。俺は最新の注意をはらいながら、アルヴィアの街へと歩みを進める。一歩一歩進むたびに堅牢な石の壁が目の前に迫ってくる。人や荷馬車の往来を横目に見つつ、街への出入り口の大門が俺の前に迫ってきていた。

 

「よし――」

 

 俺は腹をくくった。三度笠を目深に被り、人目を避けるように前かがみに一気に歩き抜こうとする。だが、世の中はそう上手くは回らないらしい。

 無言で大門を通ろうとする俺に声がかけられた。

 

「そこの男、待て」

 

 俺は足を止めた。横目で視線を向ければ、金属製の鎧甲冑に身を固め、槍を持った門番だった。年齢的にはまだ若そうだ。

 

「何でござんしょう、だんな?」

「見慣れない服装だな。どこから来た?」

 

 俺は言葉を選んだ。

 

「北の方から」

「旅人か?」

「へい」

 

 正直言うと、これ以上は掘り下げられたくなかった。俺の〝神落とし〟と言う身の上がバレると厄介だからだ。最悪、コルゲ村の連中に迷惑がかかるかもしれない。俺はどう振る舞おうか思案していたが、そのとき、門番の男の背後から別な門番が声をかけてきた。先の門番よりも歳のいった老齢の男だ。

 

「お前、行っていいぞ」

「へい、ありがとうござんす」

 

 俺はその門番に向けて一礼する。こう言うときにイキった態度をとってもなんの益もないからだ。足早に通り過ぎようとするときに二人の会話が聞こえた。

 

「なんで、逃すんですか?」

「馬鹿、あれはおそらく〝神落とし〟だ。下手に関わると俺たちまで疑われるぞ! コルゲ村の若者の一件をしらんのか?」

 

 その言葉に若い門番が言葉を失っている。この界隈ではそれほどまでに神落としに関わることはヤバいのだ。

 

「どんだけ、ご領主がご執心なんでしょうねぇ」

 

 俺は内心ため息をつくと、アルヴィアの街に足を踏み入れたのだった。

 

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