異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―   作:美風慶伍

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参:果たし合い、リカルドという男 ―刃はまだ笑わない―

 だが、リカルドというこの男、その足の運びにただならぬものを感じた。足先で土や埃を蹴り上げないのだ。

 

(――足運びが玄人だ。どんな場数を踏んでるんだ?――)

 

 剣さばきの勝負は半分は足腰で決まる。腰の座ったやつの剣は重いのだ。さらに――

 

――シャッ――

 

 リカルドが抜いた剣は恐ろしく肉厚だった。いや、そればかりじゃない。

 

(――片刃にして両刃? 斬ることも刺すこともできるのか?――)

 

 片手用の剣だが、剣の先から4分の1は両刃になっていて、刺してよし、斬ってよしの使い勝手の良さがあった。なにより片手で自在に動かせる大きさ、これとあの足運びが加わったら剣さばきの範囲は尋常じゃなく広がる。見れば見るほど只者じゃない。

 俺とリカルドは道の往来に陣取って向かい合った。俺の背後にはホルデンズの旦那たちが、リカルドの背後にはあのゴロツキたちが居た。完全に果たし合いの様相だ。店の中からは人足仲間が不安げに眺めている。

 肉厚な剣にあの身のこなし――まともに打ち合ったら圧倒的に不利だ。ならば――

 

「行きやすぜ」

「おう」

 

 俺とリカルドは睨み合う。リカルドは抜刀した剣を右手で突き出すように持ち、右の半身を前にする。対して俺は腰を低く落として左腰に刀を納めたまま居合抜刀の構えを取る。そして、そのまま互いに沈黙する。お互いの空気を読み合っているのだ。

 

(――勝負は一瞬! 初合で決まる!――)

 

――ヒュオッ――

 

 一瞬、冷たい風が吹き抜けた。それを合図に俺達は動く。

 

――チッ! シュッ!――

 

 右足を踏み出し突進しながら鯉口を切る。素早く敵の懐に飛び込んで脇腹を狙う。

 

(――もらった!――)

 

 だが、敵は驚く動きを見せた。右手の剣を軽く振り上げながら後方へと下がる。と、同時に手首の返しだけで振り下ろす動きから瞬間的に剣先をヒザ下のあたりまで下げた。さらに剣を裏返す動きで下から上へと切り上げてきたのだ。飛び込んだ俺の眼前に奴の肉厚な剣の切っ先が迫っていた。

 

(――上等だ!――)

 

 俺を舐めるな。上品な剣士でも騎士様でもねぇ。ここにいるのは役人7人殺しの凶状持ちだ! リカルドの剣は俺の左目のこめかみを切り裂いた。だが傷をものともせずに抜刀して長脇差を振り抜く。

 

――ザシュッ!――

 

 リカルドのシャツが赤く滲む。手傷は負わせたが傷は浅い。とっさに距離を取り構え直す。

 

「肉を切らせて骨を断つってか? とんでもねぇ玉だなてめぇ」

「兄さんこそ、大した剣さばきですぜ」

 

 軽口をたたき合いながら、俺達は睨み合った。

 

「兄さん、名前は?」

「――荒海のリカルド、海賊だ」

 

 合点がいった。船乗りなのだ。ならば足元の不自由な甲板上で歩き慣れていて当然だった。名乗られたら名乗り返すのが礼儀だ。

 

「渡世人、疾風の丈之助――お見知りおきを」

 

 俺は長脇差を両手で構え直すとリカルドを睨む。リカルドも鬼の形相で睨んでいたが、不意にニヤリと笑った。

 

「まぁ、こんなもんか! 義理立ては」

 

 そう笑って剣を腰に収めた。身を翻しながらリカルドは言った。

 

「お前みたいなよそ者がどこまでやれるか、見ていてやるよ」

「ありがてぇ話だ。だが、勝手に見下されるのは気に入りませんぜ」

 

 だがリカルドは笑みを浮かべたまま去っていった。リカルドがあっさり手を引いたので、ゴロツキたちも慌てて逃げていった。

 人足頭のグスタフがぼやきながら出てくる。

 

「なんなんだありゃ? さっさと行っちまった」

 

 俺は長脇差をしまいながら答える。

 

「勝負した、そして、俺に手傷を負わせた――そういう〝事実〟が必要だったんでしょうぜ。向こうも向こうでメンツがございやすでしょう」

「だろうな」

 

 ホルデンズの旦那が腕を組んで俺達の果たしあいを見届けていた。

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