異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―   作:美風慶伍

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〈第十一章/感謝〉大恩人に別れを告げた
壱:果たされた約束 ―弟は姉の元へ―


 俺たちは山から降りてアルヴィアの街へと戻った。戻り着いたのは昼過ぎだったが、まず最初にやることがあった。

 

「セシリアの姐さんは姿を消しといてくれますかい?」

「私が顔を合わせちゃまずい相手かい?」

「――この骨の姉さんです」

「そういうことか」

 

 そう呟くとセシリアは自らをつむじ風に変えた。そして店の入り口で控えてくれていた。俺は店の中に入りイリスの姐さんに声をかけた。

 

「イリスの姐さん。丈之助、ただいま戻りました」

 

 彼女の店の中に俺の声が響けば店の奥から蒼白の表情でやってくる。俺も彼女に歩み寄ると懐の中に入れていたあの白い布を取り出す。丁寧に折りたたんだ布の中には塚の中から拾い上げた古ぼけた骨が数片入っている。

 頭蓋骨の欠片と喉仏、そして肋骨だ。

 

「弟さんでござんす」

 

 そう告げながらそっと差し出した。

 

「姐さん、約束果たしやしたぜ」

 

 姐さんが手を震わせながら布のごと骨を受け取った。姐さんはそれが本当に弟のものなのかとは訪ねては来なかった。ただひたすら無言のまま受け取ったのだ。

 

「あ、あぁ……」

 

 弟さんの骨を受け取るとイリスの姐さんは号泣し崩れ落ちた。

 

「うっ、うっ……わぁああああああっ!」

 

 店の中いっぱいに姐さんの泣き叫ぶ声が響いた。俺は何も言わずに頭を下げると店を後にする。店の入り口で待っていたセシリアも何も言わなかった。俺にそっとやりそうと俺の首筋に抱きつきながら涙を流していた。

 

「まずは休みやしょう。全てはそれからだ」

「うん」

 

 俺は精霊という生き物にも〝心〟があると知って、少なからず安堵したのだった。

 

 

§

 

 

 ホルデンズの旦那の邸宅に帰ってくる。早速に挨拶をしようとしたが様子がおかしかった。集会場を兼ねる食堂の広間、そこで大勢が集まり大声が飛び交っている。ホルデンズの旦那の姿はまだない。そうして騒動を中心にいるのはあのガードナーだった。やつは食堂の広間で誰かが何やら騒いでる。

 

「どうした?」

 

 エライジャの旦那が尋ねてくる声に俺は答える。

 

「ガードナーの野郎ですぜ」

 

 俺たちはドア越しに聞き耳を立てた。

 古株のガードナーが俺たちの行動を批判していたのだ。

 

「だから言ってるだろう! 丈之助は逃げたんだ! あんなよそ者に精霊の力を与えていいと思ってるのか! お前らもそう思うだろ!」

 

 やつの必死な声が轟く。俺たちがいない間に何とか反対派を焚き付けようと言うつもりらしい。誰も返事せず、誰も反応しなかった。

 

「俺たちの縄張りを好き勝手に荒らされていいのか?!」

 

 なぜこんなに焦っているのか俺には読めた。エライジャの旦那も同様だった。

 

「焦ってるな」

「へい、精霊を独占する――、それが川向かいの連中の切り札だったはず。それが崩されたとなれば」

「俺たちがいない間に煽るだけ煽って内部分裂を測ろうって魂胆だろう」

「ご苦労なことです」

 

 だったら最高の頃合いでやつの顔を潰してやるに限る。

 

「行きますぜ」

「おう」

 

 俺は食堂の広間のドアを開けて中へと踏み込んだ。

 

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