異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―   作:美風慶伍

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六:切り落とされる右腕 ―解放の時―

 戦闘指揮官のウォルフガングを追っていたエライジャの方も片付いたようだ。その事実にマルクスは愕然とした表情だ。

 

「ウォルフガングが――死んだ?」

「あぁ、カイラの生み出す炎で骨まで焼かれてな」

「ま、まさか本当に負けたのか?」

 

 なおも現実を信じられないマルクスの野郎は、言葉をどもらせながらさらに問い返してきた。それに対して半ばあきれ美味にエライジャは吐き捨てた。

 

「馬鹿か、お前。始末し終えたから、俺がカイラを連れてここに来たんじゃねえかよ」

 

 エライジャは否定しなかった。椅子から立ち上がり必死に後ずさるマルクス。すると、顔に苦痛と懇願を浮かべながらライディナは俺に叫ぶように問いかけて来た。

 

「剣士様! お慈悲を! 私をお助けください!」

「な? ライディナ! 何を言う!」

「お願い! 助けて! もうこいつに使われるのは嫌なの!」

「ライディナ?! 貴様、可愛がってやった恩を忘れおって!」

「うるさい! 金の亡者の人殺し!」

 

 マルクスは大きなテラスの有る窓際の方へと逃げようと後ずさる。土壇場で裏切ったライディナへの非難の声を叫びつつも、それ以上のことは何もできない。

 

「安心しなせぇ、そいつさえ始末すればいいんです。もうじきですぜ」

 

 そして、なによりこのマルクスと言う男、戦闘は人頼み、精霊頼みで。自力では何もできないのだ。俺は長脇差を頭上に掲げて勢いよく振るう。

 

――ブォッ!――

 

 その風切り音がマルクスの心胆を寒からしめた。その顔は明らかにひきつっていた。だがその時――

 

「死ねぇ! 神落とし!」

 

 怒号で叫んだのはマルクスだった。ローブコート衣装の懐に腕をとっさに忍ばせると、何かを引き抜こうとする。

 

――!!――

 

 俺はその動作に気付くものがあった。セシリアの姐さんとの阿吽の呼吸で風の力を得てとっさに飛び出すと下から上へと抜ける軌道で長脇差を振り抜く。マルクスは懐の中に隠していた小型の銃――拳銃を抜いて俺に向けて撃とうとしたのだ。

 だが、構えきる前に俺はマルクスの懐に飛び込み、その右腕を狙って一気に斬りつける。

 

――ヒュッ!――

 

 鋭い風切り音が鳴り、剣先が振り抜かれる。俺は身を翻してマルクスに背を向けつつ長脇差を鞘に納める。

 

――シュッ――チンッ!――

 

 次の瞬間――

 

――ズッ――

 

 鈍い音がしたと思うと――

 

――ドサッ――

 

 肘の上あたりで樹を構えた手を根本からバッサリと切り落とした。銃が腕ごと床に落ちると、その根本からどす黒い血が一気に吹き出した。

 

――ブッシュウゥ!――

 

「ぎゃぁああああっ!!」

 

 マルクスは斬られた手を抑えながらのたうち回る。恥も外聞もへったくれもない無様さだ。

 

「腕が! 腕がぁああ!」

 

 だがそれに同情するやつは誰も居ない。マルクスを一瞥するとライディナへと歩み寄る。

 

「ゴミはほっといて、あんたを自由にしてやりやしょう」

「え? 助けてくれるの?」

「へい――」

 

 俺は笑みを浮かべてライディナの警戒心を和らげながら告げた。

 

「そのためにここに来たんでござんすよ」

 

 俺は右手を彼女に向けてかざして唱える。開放のあの言葉を――

 

「我、疾風の丈之助の名において、汝ライディナの戒めを解く」

 

 俺は気合い入れて告げた。

 

「――外法!――」

 

 次の瞬間、セシリアの時と同じように、ライディナの首の周りにも光の輪のようなものが浮かんだかと思うと、

 

――パキィイン!――

 

 ガラスが砕けるようにその光の輪は砕けて散った。今こそ、雷精の少女は解放されたのだった。

 

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