異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―   作:美風慶伍

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弐:神落としの答え ―100年―

 その後、身支度を整えてある場所へと向かう。セシリアとフレイヤも、体に纏う物の形を普段の胸と腰だけの物から、ドレスのように体と脚をくまなく纏う物に変えた。

 エリザの姐さんには2人のその衣装の変化が面白かったらしい。

 

「あら、着ているものを自由に変えられるのね」

「ええ、その日の気分でね。まぁ自分の精霊としての体の一部を形を変えているだけだから」

 

 するとカイラが穏やかな声で言葉を添える。

 

「まぁ、こうやって人間の衣類の真似をするようになったのはここ100年くらいです。それより昔は精霊の生息領域に人間が入ってくるということ自体が滅多になかったんです」

「100年――、そういう変化が」

「ええ、人間が精霊を積極的に狩るようになったのその頃だと言います。精霊の森のような秘境に人間が入ってくるようになり、捕まえられたり戒めをつけられた精霊たちが、人間に命じられて衣類というものを真似るようになったんです」

「それが精霊たちの間で広がって行ったってことか」

「そうです」

 

 俺は2人の会話を耳にして時代の流れというものがやはりこちら側の世界にもあったのだと思わずにはいられなかった。

 

「そうすると過去100年よりも前は、まだそんなに人間と精霊の間柄が今ほどひどくなかったってわけですかい?」

「はい、私がこの地上に生まれたのは1500年前です、それからこの地上世界で人間と向き合いながら生きてきましたけど、どの時代も今ほどひどくはなかった。精霊たちは誰もが自由にならない身の上を嘆きつつも、人間の声に従う事を当然のこととして受け入れてきました。なぜならどの時代でも今ほどひどくはなかったからです」

 

 エライジャが頷きつつ言葉を返した。

 

「つまりはこの100年で、こっちの世界の人間たちは神様に与えられた〝精霊を見守るという役目〟の意味を忘れて、好き勝手やり始めたってわけか」

「おそらくそう言う事かと」

 

 カイラの言葉――100年という数字が俺の脳裏に妙に強く引っかかった。

 

「そうすると、あっしには引っかかることがありやす」

「どうした? 丈之助」

 

 問いかけてくるエライジャに俺は告げる。

 

「もしかすると神落としの存在が世の中に知られるようになったのは100年前じゃござんせんか?」

「えっ?」

 

 エリザの姐さんもいかにも驚いたような声を漏らす。カイラも否定はしない。

 

「そのとおりです。大体、今から100年くらいから、人間による精霊の強制的な使役と、神落としと言う存在の出現は、始まったと言われています」

「やっぱりそうですかい」

 

 俺は頭の中でモヤモヤしているものが1つ形をなして繋がった。

 エライジャが俺に聞いてくる。

 

「何か気づいたようだな」

「へい、もしかするとですが――、こちら側の世界の神様とかが〝神落とし〟などと言う存在を認めたのは、人間の奴隷になりつつある精霊たちを哀れんで救いの手を差し伸べ、人間たちに戒めを与えるためだったんじゃないのか? そんな風にふと思いましてね」

 

 その言葉は、今回の俺たちの振る舞いも相まって、精霊の3人にも、エリザの姐さんにも気づかせるものがあったようだ。

 

「なるほどそういうことだったのかい」

「まぁ、証拠は何もござんせんがね」

 

 がもしそうならば――

 

――いずれ俺たち〝神落とし〟はもっと大きな面倒に巻き込まれるかもしれねえ――

 

 そんな予感を俺は自らの胸の中に感じ、そのまましまい込んだのだった。

 

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