異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―   作:美風慶伍

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参:エマの笑顔 ―不穏な記憶は夢として消える―

 日が沈んだ後の南側の街を歩いて俺たちはイリスの姐さんの飲み屋へと足を運んだ。店の入り口では見慣れた顔が俺たちを待っていた。

 

「来た! 丈之助さん! エライジャさん!」

 

 俺たちは今回助け出した、刀鍛冶のエマだ。女らしいシュミーズドレスを身につけて髪飾りをつけ、女として目いっぱいの装いを着飾って俺たちを待っていたのだ。

 

「エマさん、もうお体はいいんですかい?」

「はい、リカルドさんのお連れになっている精霊のマリネアさんにすっかり良くしてもらいました」

 

 答える彼女の表情は心の底からはつらつとしていた。リカルドの話だとあのマルクスのところに監禁されていた時にひどい目にあったというが、そんな様子は微塵も感じられなかった。

 

「それは、ようござんした」

「はい!」

 

 エライジャも彼女に問いかける。

 

「それで俺たちを店の入り口で待っててくれたって待ってわけか」

「はい、そろそろ来るはずだってホルデンズの親分さんのお身内の方に教えてもらったんです」

「そうか、待たせてすまなかったな」

「いえ――あ、でも1つ気になることはあるんです」

「なんだ?」

 

 口を変えて聞いてきた彼女の言葉は予想通りのものだった。

 

「私、マルクスのところに連行されて行ってから、その途中から記憶が全くないんです。私は一体何をされたんでしょうか?」

 

 リカルドのところのマリネアは言った。治療と記憶操作が得意だと。マルクスのところでひどい目に遭わされた時の記憶はみんな消されている。しかし、覚えていないことがあるということになれば気になるのは当然の話だ。

 俺は彼女の頭を撫でながら優しく言った。

 

「エマさん、夢でも見てたと思って忘れていた方がいいこともあるんでござんすよ。それに今日はあんたがやっと自由になれて、街も救われためでたい日です。わざわざ忘れた方がいいことを思い出す必要もねえでしょう」

 

 彼女の肩越しに店の中を眺めれば店の一番奥のカウンターでリカルドのやつが俺に視線を向けて頷いてた。やつも同じ気持ちなのだ。

 

「うんわかった――、夢を見ていた――それで納得するよ」

 

 エマは頭の良い聡明な女の子だ。変にこだわって事実を封印を開けて苦しむ必要もない。そして見てはならないものを目を背けると別の話題を切り出してきた。

 

「そうだ、私の工房、焼けちゃったあと整理してくれてたんですね。道具とかまだ使える材料とか色々残ってました。焼け跡もすっかり綺麗になってたから町のみんなも手を貸してくれて明日から工房を再建することにします」

「それがいい」

 

 俺は腰に下げていた長脇差を抜く。

 

「片付けの最中に床下から見つけたものです。悪いとは思いましたが勝手に使わせていただきやした」

 

 俺は一呼吸おいて、彼女に告げた。

 

「見事な業物ですぜ」

 

 月明かりを受けて昇り雲竜の長脇差はまさに天に登る勢いの輝きを放っていた。

 

「今回のマルクスの仇討ちの時にもいい仕事をしてもらいました。切れ味、丈夫さ、取り回し、それに何より精霊の技との相性――、どれをとっても逸品ですぜ」

「本当ですか?」

「ええ、これなら同じものを作ってもエマさんの刀鍛冶としても技の証になるでしょうぜ」

 

 そう言いながら長脇差を鞘へと戻す。

 

――シュッ――パチンッ――

 

 鞘に収める時の空気の抜け、そして鯉口をはめる時の音、どれもが耳に心地よく響くのは、それだけ作りがしっかりしている証拠だ。

 

「ありがとうございます――これからもその子を使ってあげてください」

「ええ、喜んで」

 

 ようやくまぎれもない笑顔をエマは浮かべた。エライジャも彼女に告げた。

 

「行こうか、みんなが待ってる」

「はい!」

 

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