蹄鉄の軌跡~あるいは馬(俺)の調教マニュアル~   作:斉宮 柴野

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※この物語はフィクションです。
実際の競馬界や調教現場とは大きく異なる描写がありますので、「ギャグ漫画補正」としてお楽しみください。
今回はついに「この世界はマキバオー原作だった!」という大発見。ブリンガーがCEOとして本多社長と繋がる大きな転機回になりました。笑いつつ、競馬知識もしれっと盛り込んでいるので、その辺もニヤリとしていただければ。


馴致より商談!ブリンガー経営快進撃

俺の馴致は順調に進んだ。いや、順調っていうか、もはや茶番だな。

普通なら馬は臆病だから、人間を信頼させるために何日もかけてやるもんだ。

でもこの世界じゃ馬と人間が会話できる。

 

「暴れないから鞍を乗せろ」

「わかった」

 

――はい終了。

「馴致」ってより「説明会」だよこれ。

 

騎乗馴致も同じだ。

「背中に乗るぞ」

「いいぞ」

「おお、安定感ある!」

「そりゃ体幹鍛えてっからな!」

……ただの筋トレ現場じゃねえか。

 

それでも一つだけ現実を突きつけられた瞬間があった。

ハミを口に含んだ時だ。

冷たさとわずかな痛みがあって、

「ああ、俺はもう逃げられない。競走馬になるんだ」

って思った。……いや逃げないけど。

 

幸いなことに、うちに出入りしてる若手の装蹄師が有能だった。

繊細な俺の蹄を丁寧に削り、きっちり鉄を打ちつけてくれた。

 

「おお、ピッタリだな!」

「でしょ?俺、最近免許取ったばっかですけどね」

「お前有能だな!このチームで一番信用できるぞ!」

「馬に褒められるって、俺のキャリア大丈夫かな」

「むしろ誇れ!」

 

母ちゃんが横からにやにやしながら覗き込む。

「似合ってるわよ、坊や。かっこいい」

「いや蹄鉄に似合うとかある?」

「ピカピカでオシャレじゃない」

「靴じゃねえんだぞ!」

 

でもこれで蹄叉腐爛の心配も減った。専門家は財産だ。

……その財産、ポンコツ一家には理解されてねえけど。

 

そんな矢先、あの悪徳業者が再びやってきた。

前に繁殖牝馬や1歳馬を二束三文で持ってったあの連中だ。

「いやまた来んのかよ!」

 

オーナーはあっさり事務所に通してた。

「こんにちは〜。また売却のお話なんですが」

「帰れ!」って俺が叫んだ瞬間、全員がスルー。

「馬が怒ってるね〜」とか笑ってる場合じゃねえだろ!

 

俺は蹄音を響かせて事務所に乱入し、先代の社長椅子にドカッと座った。

「ご提示いただいた資産評価額ですが――」

業者がびくっとする。

 

「近隣の土地取引の坪単価、そして現存繁殖牝馬の期待繁殖成績を考慮すると、明らかに市場価格と乖離しています。これは不当な買い叩きです。ご見解は?」

 

ビジネス用語を流暢に操る黒鹿毛。

我ながらシュールすぎる光景だったろうな。

 

業者の顔が真っ青になる。

「え、ええと……」

「説明してみろ。できないなら即刻退場だ」

「ひ、ひいぃ!」

 

業者は尻尾を巻いて逃げていった。

 

オーナーがぽかんとしてた。

「え?すごい!黒鹿毛くんって、経営のプロ?」

「最初から知っとけ!」

「じゃあ、私のレポートも書いてくれる?」

「書くかバカ!」

 

牧場長も感心してた。

「いやぁ〜馬が商談して相手が逃げていくなんて初めて見た」

「普通見ねえよ!」

「すごいなあ、牧場長より立派だなあ」

「お前牧場長やめろ!」

 

母ちゃんは相変わらず草をモグモグしながら、のんきに言った。

「坊や、立派になったわね〜」

「母ちゃん、経営も蹄鉄も俺がやるってどういう状況だよ!」

「馬にできるなら、人間にできないことなんてないわよ」

「いや逆!逆だから!」

 

こうして俺はまた一歩「影の牧場長」としての役割を強めてしまった。

馴致?茶番だったけど終わった。

蹄鉄?完璧だ。

悪徳業者?撃退した。

 

……でも。

「これ、競走馬の仕事じゃなくね?」

 

俺は社長椅子に座ったまま、天を仰いだ。

「神様……俺、ほんとに走れるんですよね?」

 

母ちゃんがケロッと言った。

「大丈夫よ。坊やなら三冠獲れるわ」

「その根拠、どこから来んの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

平穏なんて長続きするわけがない。俺が牧場長室で経営書類と格闘していると、オーナーがスマホを持って駆け込んできた。

「大変!未来ちゃん(新人調教師)からSOSだよ!」

「はい来たよ、早速のトラブル!」

 

受話器を俺の口元に当ててもらうと、電話の向こうから悲鳴みたいな声が聞こえた。

『ど、どうしよう!管理馬の調子が悪いの!』

「落ち着け未来ちゃん!詳しく言え!」

『朝から晩まで一杯に追ってたら、なんかフラフラしてて…』

 

「はあああああ!?何やってんだ!」

俺は思わず絶叫した。

 

デビュー前の若駒に、朝から晩まで一杯に追うような調教を繰り返してたら、潰れるに決まってんだろ!

「オーバーワークだバカ!追い切りは週に一本!それ以外は馬なりでキャンター調整だ!常識だろ!」

『ええ!?そうなの!?』

「そうだよ!何を教わってきたんだ免許取立て調教師!」

『え、だって漫画で“根性を叩き込め”って…』

「その漫画燃やせ!」

 

オーナーは横でオロオロしてた。

「ねえ、なんか難しい話してるけど大丈夫?」

「大丈夫じゃねえ!俺が今から計画立てる!」

 

結局その日のうちに俺が緊急で調教メニューを作ることになった。

【ブリンガー式・若駒再生プラン】

・キャンター中心で基礎体力回復

・週1本だけ軽めの追い切り

・プールと坂路は交互、負荷分散

 

俺が蹄で地面に書いたメニューを、未来ちゃんは涙目でメモしてた。

「すごい…わかりやすい…」

「だから最初から俺に相談しろ!」

「ごめんなさい!」

 

後日、その先輩馬と初めてちゃんと会った。

栗毛の穏やかな馬で、俺を見るなりため息をついた。

「君がマストブリンガー君か。命拾いしたよ…ありがとう」

「お、おう……しゃべれるんだな」

「まあね、この世界だし」

……やっぱり茶番の世界だ。

 

それでも彼の疲弊ぶりはひどかった。歩き方は重いし、毛ヅヤも悪い。

「どんだけ無茶させられてたんだよ」

「朝から晩まで走らされて、もうダメかと思った…」

「そりゃ死ぬわ!」

 

でも走りを少し見せてもらった瞬間、俺はハッとした。

(……お?フォーム悪くない。背中も柔らかいし、脚の回転にキレがある)

 

声に出して呟いた。

「瞬発力はある。気性も素直。こいつなら重賞のひとつやふたつ……G3くらいは勝てる器だ」

 

先輩は驚いた顔でこっちを見た。

「そんな評価をしてくれるなんて初めてだ」

「お前はやれる。ただしオーナーと未来ちゃんに潰されなければな!」

「それが一番の問題だね」

 

未来ちゃんは後日また電話をかけてきた。

『あの子、すごく元気になったよ!ありがとう!』

「当たり前だ!常識的なメニューにしただけだ!」

『でも私、もっと勉強しなきゃだめだね…』

「そうだ!漫画読んで調教するな!俺に相談しろ!」

『はーい…』

 

オーナーは横でケロッとした顔をしてた。

「なんかうまくいったんだね?よかった〜」

「他人事か!」

 

こうして俺はまた一頭の馬を救ってしまった。

経営だけじゃなく調教の相談まで回ってくる俺、完全に影の総帥だ。

 

でも正直、悪くない気分だった。

自分の相馬眼が、ちゃんと役に立ったんだからな。

 

……ただ一言だけ言わせてくれ。

「俺、まだデビュー前なんですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

経営を立て直すため、俺は新たな収入源を探していた。

「もう馬を売るのはなしだ。繁殖牝馬を買い足すのもリスクが高すぎる」

オーナーに言うと、ケロッとした顔でこう返ってきた。

「えー?じゃあどうするの?」

「決まってんだろ。この豪華施設を観光牧場として開放するんだ!」

 

坂路、プール、温泉、屋内トラック……金にモノを言わせた先代の遺産。これを活かさない手はない。

「うちの強みは遊園地レベルの設備!馬好きからファミリー層まで呼べる!」

「えっ、じゃあ私たちも売店やっていいの?」と牧場長一家。

「勝手に模擬店計画立てんな!」

「カレーライス売るよ!」

「二度とその単語出すな!」

 

俺は真剣に調査を始めた。近隣の有力牧場をリストアップし、収支や観光コンテンツを洗い出す。すると――ひときわ異彩を放つ名前に目が留まった。

 

『本多リッチファーム』

 

……本多?リッチファーム?

まさか……まさか!?

 

慌てて資料を読み漁る。そこには信じられない文言が並んでいた。

「社長・本多平八」「名物馬マキバオー」「名勝負の再現イベント開催」

 

俺は頭を抱えた。

「嘘だろ……ここ、まさかの……『みどりのマキバオー』の世界!?」

 

パチモン血統にイラついてたのに、違った。ここは原作世界だったのだ。

「じゃあ馬が喋るのも……母ちゃんが二足歩行するのも……全部仕様か!」

母ちゃんが草を食いながら言った。

「今さら気づいたの?」

「早く言えよ!!」

 

でもこれはチャンスだ。本多リッチファームが成功してるなら、観光牧場モデルは実証済みってことだ。

「よし、パクろう!」

「え、パクるの?」とオーナー。

「学ぶって言え!学ぶって!」

 

企画会議を開いた。

「乗馬体験は?」「温泉ツアーは?」「馬ヨガは?」

「最後のはやめろ!」

 

牧場長の息子が手を挙げた。

「じゃあ僕がガイドやる!馬体の見方教えるんだ!」

「おお、それはいいな!観光客に人気出るぞ!」

「えへへ!」

……小学生が一番頼りになる現実。

 

未来ちゃん(新人調教師)も参加。

「じゃあ私はグッズ作ります!“未来ちゃんと学ぶ調教漫画”!」

「お前は漫画から卒業しろ!」

 

母ちゃんはマイペースに言った。

「私、二足歩行で観光客に草の食べ方教えるわ」

「いやホラーだろ!」

「人気出るわよ?」

「出るか!」

 

俺は真剣に数字を叩き出した。

「入場料は大人1500円、子供500円。年間来場者2万人なら3億円の売上!」

オーナーが目を輝かせる。

「わー!大儲けじゃん!」

「計算合ってる?」と牧場長。

「そこは気にすんな!」

 

こうして観光牧場計画『緑の牧場』が始動した。

本多リッチファームに対抗するには、俺たちも本気でやるしかない。

 

……ただ、心のどこかで俺は震えていた。

「この世界、原作通りなら……俺もいつかマキバオーに会うんじゃ……」

 

母ちゃんがケロッと笑って言った。

「いいじゃない、坊や。マキバオーと走りなさい」

「簡単に言うな!あいつ主役だぞ!」

 

観光牧場として稼ぎながら、俺は競走馬としての道を進む。

俺の戦いは、ますますカオスになってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の立ち位置が明確になった。

俺は92年生まれ。つまり、マキバオーやカスケードより1歳上。

「アマゴワクチンの兄貴で、ピーターⅡやトゥーカッターの同期」

この事実に、俺は軽く震えた。

 

ピーターⅡ。二冠馬。

原作では描写が少ないが、ダービー制覇までに15戦も走ってたって情報がある。

「それはタフネスの怪物か、陣営が無茶したか、どっちかだろ」

どちらにせよ、世代の頂点。俺にとって最初の壁だ。

 

母ちゃんに話したらこう返ってきた。

「じゃあその壁をぶっ壊せばいいのね」

「いや簡単に言うな!」

「坊やならできるわよ」

「根拠どこから来るんだよ!」

 

とはいえ、いきなりピーターⅡに挑めるわけじゃない。

まずは基盤固めだ。俺はオーナーに指示した。

「本多社長とのアポを取ってこい!」

「え、本多社長ってあの?」

「そう、リッチファームのボス!」

 

さすが本多社長。アポはすぐ通った。

「先代には世話になったからな」と、気さくに受け入れてくれた。

……原作きっての常識人だな。

 

俺はオーナーに付き添われて会談に臨んだ。

重厚なオフィスに入ると、本多社長が豪快に迎えてくれた。

「やあ、君がマストブリンガーか!」

「はい、マストファームCEOです」

「CEO!?」とオーナーが横でずっこけた。

 

会談は和やかに進んだ。

観光牧場計画の話、競馬界の展望、設備活用のノウハウ……。

本多社長は真剣に聞いてくれた。

「面白いな。君の牧場、まだ伸びしろがある」

「ありがとうございます!」

 

そして会談の最後、俺は蹄でスッと一枚差し出した。

 

【マストファーム CEO マストブリンガー】

 

名刺だ。

本多社長は一瞬目を丸くしたが、すぐに豪快に笑った。

「はははは!これは面白い!馬から名刺をもらうとは!よろしく頼むよ、マストブリンガー君!」

ガシッと蹄と手を合わせる。

ああ、これは太いパイプだ。

 

オーナーは後ろでひそひそ。

「ねえ、馬がCEOっておかしくない?」

「おかしくない!俺がいなきゃ潰れてるだろ!」

「うーん……まあそうか」

「納得するな!」

 

ちなみに俺の名前はもう決まってる。

幼名なんてまどろっこしいものは無し。血統登録の時点で――

 

「マストブリンガー」

 

どうだ、カッコいいだろ?

未来ちゃん(調教師)は言った。

「厨二っぽい!」

「黙れ!」

母ちゃんは笑ってた。

「坊や、いい名前じゃない。強そう」

「それは素直に嬉しい!」

 

帰り道、俺はオーナーに言った。

「これで俺はただの馬じゃない。世代の代表として走るんだ」

「世代?」

「そうだ。マキバオー、カスケード、ピーターⅡ……その中で俺が頂点に立つ!」

「へえ〜。でもまずはデビューしないとね」

「それ言うな!!」

 

こうして俺は、マキバオー世界の有力者・本多社長と一本の太いパイプを築いた。

次にやることは決まってる。

「走る準備だ。世代の戦いに備える!」

 

俺は蹄を鳴らした。

「ピーターⅡ、待ってろよ!その壁、ぶっ壊してやる!」

 

……でもまずは名刺を増刷しなきゃな。




馬が経営書類と格闘して、悪徳業者を撃退して、名刺交換する。
……冷静に振り返ると、もう完全に「走る前に企業戦士」ですね。
でもこういう無茶苦茶な路線こそ、マキバオー好きの方には響くのではないかと思っています。


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