元々はpixivにのみアップしていましたが、
こちらにも掲載する事にしました。
マン島TTレース。
マン島はイギリスのグレートブリテン島とアイルランド島に挟まれている。日本で言えば淡路島ぐらいの大きさの小さな島であり、イギリスではなく独立国でもない。
さらには長い歴史の中で統治権が複雑に移り変わり、独自の文化を築いて来た。
現在はイギリス王室の統治となっているが、1405年から1765年まではイングランド貴族のダービー伯爵の家系が代々統治していた。
そんな政治的には複雑な背景を持つ島。マン島にて、毎年5月最終週から6月第一週にかけてバイクレースとサイドカーレースが行われる。
1907年から120年近い歴史を持つが、
ほぼ毎年死者が出ている事でも知られる。
伝統と危険の舞台。
そこに挑む日本人のウマ娘ライダー、ウオッカ。
トレセン学園卒業から数年経ち、バイクレーサーとして頭角を表しつつもメジャーなMotoGPよりもマン島レースに挑む辺りは"アウトロー"や"常識破りの女帝"と呼ばれたウオッカらしいところでもあるが、度胸試しと呼ぶには余りにも危険なレースである。
その危険度からマン島レースに挑む者はあらかじめ遺書を残す。
しかし多くのモータースポーツは予選と決勝を2日間で行うのに対し、マン島レースはクラス分け等の関係から予選と決勝で2週間もの期間を要する。
仕事との兼ね合いもあるため、家族やかつての仲間やライバル達は日本に残る事になる。
遺言を伝え、この島に来た。
前半の予選ウィークを無事に消化し、決勝当日。
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その頃、日本。ウオッカの実家。
イギリスと日本には8時間の時差があり、夜になっていた。
「いよいよ今日だな。母ちゃん?」
「そうだねアンタ・・・ちょっと、一杯やろうかしらね。」
「ああ。そうだな。」
そして乾杯をする。
「しっかし、母ちゃんは反対すると思ったんだがなぁ。」
「そうは言ってもねぇアンタ。あの子はアンタに似てだらしない所もあるけど、キメる所はキメる子だし、私の現役時よりも大きな戦績を残したんだよ。」
「まぁ、な。もう俺達の手を放れちまった。いつの間にかデカくなったモンだ。」
「だから、出来るだけ自由にさせてやりたかったんだよ。それにレースが危険なのは、トゥインクルシリーズも同じだよ。」
「確かにな。俺達に出来るのはアイツの帰りを待つ事だけ、どんな形であってもな。」
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再びマン島。
イギリスは緯度の関係から日照時間が長く、スタートは夕方。
日射しは明るいが気温は涼しげであり、5月から6月の平均は15度前後である。
スタートに向けてマシンのチェックを行っていく。
ヤマハYZF-R6のBN6型。2017年にモデルチェンジした最終型である。
"凄みをまとった未来感"をコンセプトに生命感のあるデザインを目指し、漫画「うしおととら」の
カウリングやスクリーンの破損、チェーンの伸び代、タイヤの空気圧、ガソリンの残量等、そこまで時間のかかる作業ではない。
スタートまでの時間を持て余し気味だった。
するとそこに。
「おーいウオッカ。応援に来たよー。」
「テイオー!?」
「よう。」
「トレーナー!」
応援にはチームスピカの面々と、トレセン学園OG達が駆け付けた。
「ウオッカちゃん。私の故郷へようこそ。」
「ありがとうございます。ファイン先輩。そういやこっちが地元っすもんね。」
「これから、君達にエールを送るよ。」
「え?どういう事っすか?」
突如として即席のライブステージが組まれ、ファインモーションがマイクを取る。
「皆さんごきげんよう。アイルランド国王殿下、ファインモーションです。アイルランドと日本の親善大使として、皆にエールを送ります。演奏の準備は良いかな?」
「出来てンぞ。」
エアシャカール率いる演奏隊による演奏で日本の国家が斉唱される。
~君が代~
国家斉唱の後、やはり現地の人達から質問が来る。ファインはそれに答える。
「どうして日本の国家なんだ?」
「君が代の意味を現代の言葉で表すと、愛しい君って言葉になるの。それって貴方達のマン島への愛にも繋がるんじゃないかな?」
「確かに、そうかも知れないな。」
「このレースは、今まで多くの犠牲をはらってきました。それでも貴方達は走り続けてきました。とても長い時間をかけて。」
マン島レースは1907年に現在のマウンテンコースを使用した形になり、120年近い歴史の中で260名を越える死者を出して来たが、参加希望者が居続けた事で現代まで続いている。
それが続くのもやはり、レースへの愛が成せる物なのだろう。
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PM18:00
スタートまであと30分。
最終チェックを行う。
フロントスクリーンのフチに貼られた国旗と選手名のステッカー" VODKA"
トゥインクルシリーズ現役時の勝負服カラーのようなブラックのカウリング。イエローのゼッケンに数字は35。
これはダービーの後の低迷期から復活を遂げた安田記念の枠番から取った物だ。
「アタシとのレースからじゃないのね。」
「天皇賞秋か。お前とハナ差2センチでやり合ったあのレースの方がお互いに重要だったかもしれねぇけど、3ケタはイマイチ収まりが悪くてな。」
「あの安田記念は、久しぶりの1着だったものね。」
「ああ。お前が居たから、頑張れた。」
「何よ。改まって。今更怖じ気づいたの?」
「そんなんじゃねぇよ。でも、念のためにな。」
「終わったらお礼でも愚痴でも、いくらでも聞いてあげるわよ。今は走って、勝ってきなさい!」
「ああ!」
このレースの危険度は、バイクに乗った事のないスカーレットでも感じていたが、いつも通り強気に送り出す。
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スタート直前。
レザーのツナギに着替え、ヘルメットを被るウオッカ。
ツナギにはスピカメンバーをイメージした虹のようなラインのペイントが入っている。
ゴールド、ゴールドシップ
エメラルド、メジロマックイーン
ブルー、ダイワスカーレット
ホワイト、トウカイテイオー
グリーン、サイレンススズカ
パープル、スペシャルウィーク
レッド、キタサンブラック
スピカメンバーとハイタッチとハグをし、スタートに備える。
「もう1度言うわ、勝ってきなさい!」
「ああ!もちろんだ。」
(コツン!)
拳をぶつけ合う。
PM18:30
レーススタート。
マン島は10秒間隔で1台ずつスタートを切る独自の方式を取っているため、予選10番手のウオッカはトップから100秒後のスタートとなる。
スターターが肩に手を付き、それが離れたらスタートの合図である。
スロットルを小刻みに捻り回転数を落とさないようにキープ。
スターターが手を離し、クラッチを繋いで飛び出していく。
「ああは言ったけど、100秒差を巻き返すなんて、出来るのかしら?」
「俺はバイクの事はよく分からんが、このレースに使われるコースは一周60kmもある。ウオッカの出るクラスでは4周回るそうだ。予選より速いタイムを出せれば不可能じゃないかもしれんぞ。」
アラフォーになり少しシワと白髪の増えた沖野トレーナーだが、レースに対しての観察眼は相変わらず鋭い。
「え?でもボクはよくレースゲームやるけど、予選は目一杯走るんじゃないの?」
「それはお前達ウマ娘にも、先行や差しがあるのと同じでな、追っかける対象が居ないと実力を発揮出来ないヤツも居るって話だ。現役時の走りを見る限り、ウオッカはそういうタイプなんだろう。」
その頃ウオッカは、ブレイヒルと呼ばれるV字に下って上る区間からブラダンブリッジと呼ばれる木が途中に生えている名物コーナーを抜け、雑木林に挟まれた高速区間に突入する。
(ここでタイムを稼ぎてぇな。)
ウオッカのエントリーしている600ccのバイクを使用するクラス「スーパースポーツTT」でも瞬間的には300kmに迫る。
その後10km地点にある低速コーナー「バラクレーン」を抜けその後の低速区間で1台パス。
「ここまでで3分を切ってンな。悪くねェ。」
「シャカール。ウオッカちゃんのタイム計ってるの?」
「アァ。ツナギのポケットにGPS発信器を仕込んでおいたンだ。」
バイクは市街地カークマイケルを抜け名物ジャンプスポット、バラフブリッジを飛ぶ。
ここから島の北側へ向けてハイスピード区間が続く。
「ねぇシャカール。この島は昔、ダービー伯爵が統治していたのは知ってるかな?」
「アァ。一応この島の歴史も調べた。」
「ウオッカちゃんはダービーウマ娘だし、何かご加護があるかな?」
「ロジカルじゃねェな。」
島の北東部にある低速区間を抜け、コース後半に突入する。
シャカールのPCに表示されたコースマップとウオッカの座標を見ながら、無事に帰ってくるのを待つ。
「ありがとうなシャカール。これならもしもの時にも発見しやすい。」
「別にアンタのためじゃねェが、出来る事をしねェのは、なんとなく後味が悪ィからな。それと、トレーナーが縁起でもねェ事言ってンじゃねェぞ。」
島の北東部から、南西部にあるスタート/ゴールへ向かい平原に囲まれたワインディングを抜ける区間のグースネックコーナーの立ち上がりで2台目をパス。
スタート/ゴール地点。
「ありゃあゾーンに入ってンな。」
「ああ。間違いない。これなら行けるか?」
「どうだろうな。上の連中はさらに速ェ。」
その後2周目で3台、3周目で2台抜き3位でファイナルラップへ突入していく。
アドレナリンの過剰分泌により、トゥインクルシリーズ時の「ゾーン」のような状態にウオッカは入っていた。
(遂にファイナルラップ。あと2台、行くぜ!)
しかしトップグループは、既にマン島での優勝経験のあるベテラン達。新参のウオッカはやや分が悪いか。
「あと一周か。無事と勝利を、祈ろうじゃないか。」
「今度はアタシも参戦すっかなー。」
「ええ。」
「そうだネー。」
「そうですわね。」
「はい!」
「そうですね。」
「帰って来たらお祭りですね!」
(ワアァァァァァァァァァー!)
スタート直後のブレイヒル、住宅街の中を下っていく中、ファイナルラップだけあって大きな歓声が上がる。
(ジャリ!)
その後下りから上り、一気に勾配が切り替わるためカウリング下部を擦るほどである。
低速コーナーのクォーターブリッジ、ブラダンブリッジを抜けて高速コーナー、ユニオンミルズ。
路面が傾いているため難しいコーナーであるが、タイヤがある程度これまでの走行で温まっているため上手く抜ける。
(よし!)
そして再び森林の高速区間へ。
「ラップを重ねる毎にタイムが上がってンのはどういう事だァ?普通は集中力が持たねェハズだが。」
「路面とタイヤの温度かもしれないな。」
「どういう意味だァ?」
「タイヤってのはある程度高い温度にならないと食い付きが悪いらしくてな。マン島の涼しい気候ではなかなか温めにくいのかもしれんが、周回を重ねる事で温まったのかもな。」
「なるほどねェ。」
10km地点のバラクレーンを通過。しかし前走者は見えず。
(さすがにベテランの先輩達は速いや。背中を拝ませてもくれねぇのか。でも諦めねぇぞ。)
その後グレンヘレンと呼ばれるコーナーの先で森林を抜ける。平原の向こうにアイリッシュ海を望む素晴らしい景色の中を抜けていく。
「しかしこの島の事は色々と下調べもしたが、ホントに景色が良いな。」
「今度はレースがない時に、観光で来て欲しいな。」
「おいおい、殿下サマ直々に観光案内かァ?」
「確かに気候も涼しくて快適だが、日本とは地球の裏側ってのがな。」
コースは住宅街に挟まれた高速区間、カークマイケルに突入。
バラフブリッジを飛び、景色は再び森林に挟まれる。
「そういえば、マン島って料理はどうなんだ?イギリス料理はあまり良い評判を聞かないが。」
「マン島の伝統料理は、スパッズ・アンド・ヘリンって言ってね。燻製ニシンの開きとジャガイモの料理だよ。」
「やっぱり島国だけあって、魚が多いのか。」
木々に挟まれた高速区間、サルビーストレート。
ここもマシンによっては300kmに達する高速区間である。
ようやく2位の背中が見え始め、スリップストリームを狙う。
(よーし。この先のワインディングで勝負だぜ。)
「料理は魚や魚介類、あとは島のなかで畑や牧場もやっている。か。酒のツマミにも良さそうだな。」
「お酒は地ビールが有名かな。」
「ふむ。今度は、おハナさんも誘って来たいな。」
サルビーストレート先のサルビーブリッジからジンジャーホールを抜けワインディング区間で2位争いを繰り広げる。
コースは再び市街地に戻り、普段は交差点として使用されているパーラメントスクエアで2位を抜く。
コースは後半に突入し、峠道へ向けて上っていく。
「あと10数分で、アイツが帰って来ンぞ。」
「そうか、出迎えの準備だな。」
「初参戦で表彰台とは、やるじゃねェか。」
上りコーナーのグースネックを抜けて、平原に囲まれたワインディング区間を走る。
しかしなかなかトップは見えない。
コースはブラックハットと呼ばれるコーナーを抜け高速コーナーが続き、コースの中で最も標高の高い422mの地点を通過、下りへと転じ最終セクションへ。
ようやくトップが見え始める。
(くそー。追い付くには距離が足りねぇ。)
そしてゴール。ウオッカは初参戦ながら2位の大健闘。
スピカメンバーの前でマシンを止め、降りた瞬間にへたり込んでしまった。
アドレナリンの過剰分泌と緊張状態から抜けたマン島ライダーにありがちな事である。
ヘルメットを脱いだ瞬間、涙が溢れてしまったが、それはスピカメンバーも同じ事であった。
泣き止んで表彰式を終えると、ファインモーションが君が代を歌ったライブステージに、ダイワスカーレットとトウカイテイオーが登壇する。
「どうしたんだ?」
「ウオッカ、歌えるかしら?アンタにセンターに立って欲しいのよ。」
「クタクタだけど、エンディングライブってんなら、オレはやるぜ。」
ウオッカはレースを戦ったツナギ、スカーレットとテイオーは現役時の勝負服で、特別ライブが始まる。
エアシャカールがキーボードを演奏し、ファインモーションがバイオリンを演奏する。
~Everlasting BEATS~
導かれていたように
辿り着いた
一人じゃ出会えないまま過ぎた
どれだけの想いの果てに
夢見てるんだろう
震えかける体の奥で叫ぶエナジー
(
私、ここに立っている
(
今も呼吸を重ねて
(
なにを遺してゆける?
(
駆け抜けてく
鼓動のなかで
いくつもの魂が揺らめいている
道の先へ 一瞬を
繋いでいきたい
ハイタッチからのハグは、メタルギアソリッド2のスネークとオタコンのオマージュ。