気が付けば私は、路地裏の入り口に立っていた。
顔を下に向け、剣を突き刺されたはずの胸元を見る。そこには傷痕も、滲んだ血の汚れもない。いや、
どうやら、今回も無事にループできたみたいだ。不意に与えられたこの能力がいつまで使えるかは分からない。いつかまた、不意に消えてしまうかもしれない。が、ひとまずは狙い通りに機能してくれたことに、ホっとする。
傍にはここまで荷を運んでくれた馬のミルトちゃん。少し離れた路上にはたくさんの人が行き交って、荷馬車と共に立ち呆けている私に視線を投げかけながら通り過ぎていき……
(――! マリナさんは!?)
ハっと気づき、辺りを見回してみるが、彼女の姿はない。ということは今は……
(もう、テレサさんの家に向かって、路地裏に入り込んだ後……!?)
私は即座に駆け出し、薄暗い路地裏に飛び込んだ。
「はっ……! はっ……! はっ……!」
全速力で走りながら、ループする前の光景を思い出す。
相手は悪魔崇拝者が三人。一人は武器を持ち、一人は体格のいい荒っぽい男性だった。女性も交じっていたが、魔術や法術が存在するこの世界では女性だからと言って油断できない。
一人一人でも警戒すべき相手なのだ。私が駆け付けたところでどうにもならないかもしれない。
(でも、急がないとマリナさんが……!)
何か、手はないだろうか。何か……何かあった時は――
――「これから私たちも見回りに――」
――「何かあったら遠慮なく助けを――」
(――! そうだ!)
いよいよ前回私たちが殺害された空き地に辿り着いた――と同時に彼女の言葉を思い出した私は、そこで精一杯の大声を上げた。
「――アルテアさーん!! 騎士団の皆さーん!! 不審者です!! 助けてください!!」
必死だったからか、自分でも驚くほどの声量だった。通りの表にも届いたのではないだろうか。
ひとしきり叫んでから、空き地の奥に視線をやる。
マリナさんは前回のループで見たのと同様、壁に背を預け地面に座らされていた。その姿と、眼鏡の男が携えた抜き身の長剣が視界に入り、一瞬血の気が引くが、まだ剣は突き立てられていない。ただ、彼女は身じろぎせず俯き、こちらの声に反応を示していなかった。それが、一抹の不安を残す。
彼女の周囲を、やはり悪魔崇拝者の三人が囲んでいる。この場に乱入するなり大声で叫ぶ私にギョっとし、戸惑いながらも
「な――なんだ、誰だ、君は! いきなり何を叫んで――」
こちらへ向き直り、詰め寄ろうとしてくる三人。私は反射的にギュっと身を縮こまらせる。そこへ――
「不審者はここかー!」
「ミレイの嬢ちゃん無事か!?」
ガシャガシャと鎧が擦れる音を響かせながら、通りの表側から数名の騎士が裏通りへ雪崩れ込んでくる。
「騎士団か!」
眼鏡の男が忌々しそうに叫び、手にした剣を構えようとしたのを見て、私は再び声を上げた。
「皆さん、気を付けてください! この人たち、悪魔崇拝者です!」
「!? なぜそれを知って……!? 君は――」
「悪魔崇拝者だとぉ!? そいつは逃がすわけにはいかねぇなぁ!」
「てめぇらは見つけ次第とっ捕まえることになってるからなぁ!」
「……くっ! 僕らには為すべきことがある! ここで捕まるわけには……!」
そう言うと、彼らは即座に騎士たちが来たのとは反対側(=私たちが入ってきた側)へ駆け出し、この場を離れようとするが……
「――お前たちが悪魔崇拝者だというなら、遠慮はいらないな」
そちらからは剣を抜いたアルテアさんとディルクさんが現れ、悪魔崇拝者たちの逃げ道を塞いでいた。つまり挟み撃ちにした形になる。
逃げ場を失った悪魔崇拝者たちは、しかし大人しく捕まることはせずに抵抗し……騎士たちもそれに応戦する。
数でも、おそらく実力でも騎士団側が優勢。この状況にまで持ち込めば、もう心配はないはずだ。あとの問題は――
「マリナさん……」
私は、いまだ地べたに座り込んだまま反応を見せないマリナさんに近づき、目の前で膝をつく。外傷はないはずだが、意識がないのか目は虚ろで、視線も定まっていない。私は彼女の肩を掴み、必死に呼びかける。
「マリナさん……マリナさん……。――マリナさん!」