【完結】あのパンの香りが届かないように   作:八月森

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6話 いずれ倍にして返してやるから覚悟しとけ

 その後は、驚くほどあっさりと決着がついた。

 

 あの赤髪の少女に追いついた私とアルテアさんは、彼女を保護しつつ、周囲に潜んでいた例の集団――悪魔崇拝者たちと対峙。

 

 相変わらず彼ら――特にリーダー格の男の言動は要領を得ず、アルテアさんの降伏勧告にも欠片も耳を貸さずに戦闘に突入。今度は人質に取られたりしないよう私も慎重に行動し、そこへ応援の騎士さんたちが到着したことで趨勢(すうせい)は決した。

 

 アルテアさんをはじめとする騎士の皆さんの実力は本物で、悪魔崇拝者たちは全員捕縛、あるいはその場で斬り捨てられた。

 

 そうして騎士に連行されていく黒ローブの男たちを見ながら、赤髪の少女が呟く。

 

「……貧民街に怪しい連中が出入りしてるって噂は聞いてたが、まさかあんな危ない連中だったなんて……あたしは命を助けられたことになるんだろうな。一応礼は言っとくよ、騎士の姉ちゃん」

 

「礼なら彼女に言ってくれ。この場にあの連中が潜んでいると看破したのは、彼女だからね」

 

 と言って、アルテアさんはこちらに視線を向け、少女も私に向き直る。

 

「あんたが……そうか。礼を言うよ、旅の姉ちゃん。……荷物、盗ろうとして悪かったよ」

 

 最後の台詞だけはボソっと小さく、頬を赤く染めながらだったけど。

 そんな彼女の様子を微笑ましく感じられて、助けられてよかったと心から思う。

 と同時に、思い出したことがある。

 

「そうだ、アルテアさん。お願いばかりで申し訳ないんですけど……この子に、仕事を紹介してあげることって、できますか?」

 

 唐突な私の要求に少し驚いた様子のアルテアさんだったが、次には少し悪戯っぽく微笑む。

 

「それも、『見えた』結果かな?」

 

「え、と……少し違うんですけど、似たようなものといいますか……」

 

 上手く説明できなくてしどろもどろになってしまうが、彼女は快諾してくれる。

 

「分かった。君には助けられたからね。それくらいのお願いなら喜んで聞くさ」

 

 そのやり取りに目を白黒させるのは、当の赤髪の少女だ。

 

「ちょ、ちょっと待てよ! あたしに仕事って、どういう……」

 

「その、食べるのに困っているから、盗みを働いていたんですよね? でもそれなら、ちゃんとした仕事があれば、盗まなくて済みます、よね?」

 

「それは……」

 

 少なくとも二周目の彼女は、仕事を貰える可能性に揺れていた。なら、今回の彼女にとっても――そこに至るまでの経緯は違うとしても――悪くない話なのではないだろうか。

 

「……~~あんた! 名前は!」

 

「へ、は、はい! (たちばな)……いえ、ミレイ・タチバナです!」

 

「ミレイ……ミレイか。あたしはリタだ。命を救われたうえに仕事の世話までされて何も返さないほど、貧民街の住人は恩知らずじゃない。いずれ倍にして返してやるから覚悟しとけ!」

 

 その口上に一瞬呆気に取られてから……

 

「……はい。楽しみにしています」

 

 私は笑顔を浮かべて、少女――リタさんに返答した。

 

 その後、彼女は荷物をまとめるため一度住処に戻るといって別れたのだが、そのタイミングでアルテアさんが私に呼びかけてくる。

 

「自己紹介を省いてしまったけど、ミレイ、でいいんだよね。もう宿は取ってあるのかい? まだ色々と聞きたいこともあるから、差し支えなければ泊まり先を教えてほしいのだけど」

 

「え? あ……」

 

 そうだった。私はこの世界に来たばかりで、今後の生活をどうすればいいかも分かっていないのだった……

 

「宿は、まだ決まっていません。というか、その……私、あまりお金も持ってないというか……これ、この街では使えない、ですよね……?」

 

 スカートのポケットから財布を取り出し、いくつかの硬貨と紙幣を見せてみるが……

 

「……見たことのないものだね。これは、銀貨……? いや、それにしては、ちょっと軽いような……いずれにしろ、どれも精巧な作りだし、ある程度の価値はつくと思うけど……すぐにこの街で使うのは難しいかもしれない。すまないね。私もこの方面にはあまり詳しくなくて」

 

「いえ、そんな……! ……でも、それじゃ……」

 

 これから、どうすればいいんだろう。寄る辺を見出せない不安に押し潰されそうになる。

 

「……ふむ。もし行く当てがないのなら、うちの詰め所に来るかい?」

 

「え?」

 

「うちは基本男所帯なうえに万年人手不足でね。いくらか雑用を引き受けてくれるなら、見返りにうちを使ってくれて構わない」

 

「……いいんですか?」

 

「もちろん。部屋も空いているし、団員のみんなも女の子が増えるのは喜ぶよ。何より、街で困っている誰かを助けるのが、この街の騎士の本懐だからね」

 

 それはこの状況では渡りに船どころか救いの神とも言える提案で……私は一も二もなく飛びついた。

 

「え、と……それでは、ご迷惑でなければ……よろしくお願いします」

 

「ああ、歓迎するよ」

 

 その後、私たちは合流したリタさんと共に一般市街区に戻った。

 

 リタさんは約束通り仕事先を紹介してもらい、そこに住み込みで働くことになったためその場で別れ、私はアルテアさんの案内で騎士団詰め所に招かれた。

 詰め所にはアルテアさん以外の女性の騎士も何人かいたが、一般人の女子が訪れることは珍しいのか、男性は色めき立ち、女性には過剰に可愛がられ、歓迎された。

 

 そうして私はこの異世界で、ひとまずの寝床を確保することができた。与えられたベッドに横になりながら、激動の一日を反芻(はんすう)する。が……

 

(今日は、色々ありすぎて、疲れたなぁ……)

 

 考えるべきことはたくさんあれど、疲労は身体を問答無用で眠らせようとしてくる。それに抗えず、意識はすぐに闇に沈んでいって……

 

 

 

 そうして、私たちが寝静まった深夜。

 

 ――騎士団の詰め所が突如爆発し、建物が炎に包まれた。

 

  ▼▼▼▼▼

 

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