クソォ…映画見たせいだ!(笑
薪を割る音が、冬の澄んだ空気を鋭く震わせた。
乾いた木の破片が弾け、白い雪に散る。炭十郎の掌には長年の労働で重なった厚い皮膚。そのひび割れに沁み込んだ黒炭の粉はもう落ちることがなかった。
「父さん、俺も手伝うよ」
息を白くして駆けてくる炭治郎。まだ幼さの残る顔に浮かぶのは強い意志。
「ありがとう。でも、家で待っていなさい」
炭十郎は斧を下ろし、優しく息子の肩に手を置く。
「山道は雪で危ない。転んで怪我をしたら母さんも弟妹も悲しむ」
「でも……」
「家を守るのも大事な仕事だ。母さんを助けてくれないか?」
炭治郎は悔しそうに口を結んだが、やがて「わかった」と頷いた。
その背中を見送り、炭十郎は胸の奥でひとつ深い息をつく。――優しい子だ。だからこそ守らねばならない。
炭を焼き、俵に詰め、雪を踏みしめて山を降りる。
町は冬支度に追われる人々で賑わっていた。
「おお、竈門さん! 待ってたよ」
顔馴染みの魚売りが声を上げる。
「今年は雪が深いからな、炭がなきゃ煮炊きもできん。助かるよ」
「こちらこそ、買っていただけることに感謝します」
炭十郎は深々と頭を下げた。
別の老婦人は米と交換してくれる。
「炭十郎さんの炭は火持ちがいいから安心だよ。おかげで孫たちも寒さをしのげる」
「ふふ、代々受け継がれた方法を使っているんです。ヒノカミ様のご加護かもしれませんね」
そう言いながらも胸の奥は温かく満たされる。――家族も、この町も、守れている。それが誇りだった。
銭袋は予想以上に重くなった。これで米も味噌も買える。子供たちに腹いっぱい食べさせられる。
足は自然と軽くなった。
だが、帰路についた頃、胸にざわつきが生まれた。
冷たい風が頬を切り裂き、心臓が早鐘を打つ。理由はわからない。ただ――嫌な予感がした。
雪を蹴り、駆ける。雪に足を取られない様に道を観察して、ヒノカミ神楽を応用した走法で息が切れないように最短で家路に着く。
どうか、気のせいであれ。そう願った。
けれど家に着いた瞬間、鼻を突いたのはむせかえる血の匂い。
耳に届いたのは、ぐちゃぐちゃと肉を咀嚼する音。
「……なんだ……?」
扉を開いた。
そこに広がっていたのは、悪夢。
妻・葵枝が床に押し倒され、幼い子らが群がっていた。小さな手、小さな口が、母の肉を引き裂き、喰らっていた。
「…は?
…あ……あああああああああああ!!!」
最初は何が起こっているのか分からなかった。
だが徐々に目の前の現実に理解が追いついた時、彼は己の口から出る慟哭を止める事はできなかった。
炭十郎の叫びが、夜を裂く。
首を振り、後ずさる。
否定したい。
これは夢だ。悪い夢に違いない。だが鉄の匂いが、現実を突きつける。
目の前の光景を理解したくなかった。
――子供たちが、妻に群がりその頭を腹、腕、足に齧り付く。
ぐちゃり、ぐちゃりと、肉を咀嚼する湿った音が夜気を深くする。
「やめろ……やめてくれぇっ!」
炭十郎は喉が裂けるほど叫び、子らに駆け寄る。
返事はなかった。ただ血に濡れた顔が一斉に振り向く。眼は紅く濁り、瞳は縦に裂け、牙を剥き、喉からは低い唸り声が漏れる。
「炭治郎、禰豆子、竹雄(たけお)、花子(はなこ)、茂(しげる)六太(ろくた)……正気に戻れ! 父さんだ!」
炭十郎は必死に声を張り上げ、子供たちの動きに合わせて後退と回避を繰り返し声をかける。
襲ってくる爪を、牙を紙一重で避け続ける。
炭治郎は骨のような尾を背から伸ばし、予測不能な軌跡で地を蹴って禰 豆子と共に接近戦で襲ってくる。
花子と茂は鷹かトンビのような大翼が背から生えて空中から襲いかかり竹雄は遠くから硬い“ナニカ”を恐ろしく早く弾き飛ばしてくる。
六太は何人にも増えて飛びかかってきて視界を埋め尽くす。
「なんだ、これは…なんなんだ!!やめてくれ、皆っ……!」
必死に避けながら、炭十郎は涙で視界を曇らせた。何度も呼びかけても届かない。己を喰わんと鬼気迫る勢いに…息が詰まる。
ヒノカミ神楽で疲労を最小限にしてかわしながら呼びかけ続けた。
いつまでそんなやり取りをしていたのか、気付けば喉が枯れ空は白んできていた。
ふと、知らない気配がした――
「なんという鬼達…よくぞ無事で…鬼殺隊士 冨岡義勇、助太刀する。水の呼吸、参ノ型 流流舞い」
鋭い声が闇を裂く。
影が走り込み、波打つ青い剣線が閃く。
群がる子鬼たちの間に割って入った男。鋭い眼差しの剣士が竹雄・花子・茂・六太を斬り伏せながら立ちふさがった。
「ちっ…浅いか、翼持ちが厄介だな」
「なっ!!?誰だ、やめてくれ!」
炭十郎は声を張るが、男は耳を貸さない。
剣が唸り、子供たちに斬りかかる。
「やめてくれぇっ!!」
炭十郎はその腕を掴み、押し止めた。だが次の瞬間、鬼となった炭治郎が牙を剥いて襲いかかる。
「…水の呼吸…肆ノ型 打ち潮」
男は咄嗟に刀を振るうも、炭治郎の跳躍は鋭く、わずかに切り込みを入れただけに留まる。さらに反撃の蹴りで男の体は吹き飛ばされた。
地を転がり、血を吐く剣士。その表情は驚愕に染まる。
「成り立ての鬼のはず……なのに、これほどか……!」
息を荒げながら立ち上がる。
炭十郎は震える声で縋った。
「やめてくれ! 斬らないでくれ! あれは……俺の子供達なんだ!」
剣士は鋭く言い放つ。
「そうか…その心情…お察しする。だが、アレはもう鬼なのだ」
心臓を突き刺す言葉。それでも炭十郎は怒鳴り返す。
「鬼?何を言っているんだ!…俺の子だと言っているだろう!人間だ!」
「違う。鬼にされた、人を喰う化け物にされたんだ!」
そんなやり取りを子鬼達と戦いながらしていると朝日が昇ってくる。
「「「「があぁぁぁ!!!」」」」
わずかな陽光に照らされ鬼となった子供たちは低い苦しみの唸り声を上げ、夜の山へ散り散りに逃げ去る。
「逃がさない!」
追おうとする剣士の腕を、炭十郎は必死に掴んだ。
「待て、何をする気だ!」
剣士は役目を果たす
「決まっている、首を落とす」
「なんだって?殺すのか、俺の子を!」
止めようと剣士の前に出ようとした、その時
「がるるるるる!」
炭治郎が朝日で焼けた肌を再生していた。
光の中で四つ這いで敵意を剥き出しにし、涎をたらし睨みつけてくる。
まるで弟と妹を守る兄の様に炭十郎達の前に立ちはだかっていた。
「炭治郎……」
複雑な心境の炭十郎。
あまりの出来事に焦る冨岡義勇
「な、そんな馬鹿な…太陽を克服した鬼が生まれたというのか!!!」
この鬼を逃してはこの先、更に悲しみと絶望が増える。ここで討ち取るが最善…しかし、
兄弟が見えなくなるまで炭治郎は炭十郎と冨岡と戦い、機をみて逃してしまった。
「…己は…愚か者だ…」
吐き捨てるように言いながらも、剣士は刀を下ろす。
…逃してはいけない鬼を逃がしてしまった。
己の罪は大きい
だが…目の前の相手の実力を知った、この人物を引き入れることができれば自分が切腹しても鬼殺隊は自分以上の実力者を手に入れることになる。
「鬼殺隊……冨岡義勇だ」
「鬼殺隊……?」
炭十郎が問うと、義勇は言葉を選ぶように続けた。
「鬼は、人に戻らない。少なくとも……俺たちは一度も見たことがない」
炭十郎の顔色が変わる。震える声が漏れた。
「……手は、ないのか……? 何か、道は……」
義勇は一瞬だけ視線を伏せ、そして突き放すように答えた。
「あるかもしれない。だが、分かっていない。……鬼そのものなら知っているかもしれん。だが、奴らが人に知恵を授けるはずもない」
絶望が胸を締め付ける。
炭十郎は言葉を失い、ただ夜明けの光の中に立ち尽くした。
夜が明けると、義勇は低く告げた。
「鬼は人に戻らない。アナタは何も知らない。……だから、知ればいい」
そこで語られたのは「鬼」という存在。そして「鬼舞辻無惨」という名。
永劫に続く人の敵。人を喰らい続ける存在。
炭十郎の胸に絶望が広がった。
「……そんな、馬鹿な……」
声がかすれ、涙が頬を伝う。信じれば、もう子供たちを取り戻せなくなる。
夜が明け、義勇が再び口を開いた。
「鬼を討ちたいのなら……剣を取れ。アナタは強い」
炭十郎は顔を上げた。
「……刀を、人に向けたことなどない」
腰の炭刀を思わず見下ろす。炭焼きの山で獣を追い払うために持つだけの道具。
血を吸わせるための刃ではなかった。
「あれは子供たちだ。鬼でも……俺の血を分けた子らだ。次に会った時本当に刀を振るえるだろうか……」
唇を噛み、拳を握りしめる。
義勇は冷たく告げた。
「出来なければ、お前は喰われる。
善良な民が無差別に喰われる。
鬼に情けは通じない」
その言葉が胸を貫く。だが炭十郎は静かに答えた。
「手は…ないのだな」
義勇の瞳が一瞬だけ揺らぐ。だが彼は振り返ることなく、去っていった。
残されたのは、寒風と、土に染みついた血の匂い。
炭十郎はひとり立ち上がる。
こうして四十歳にして、炭十郎の戦いは始まった。
それは鬼舞辻無惨を討つための戦いであり、そして同時に――鬼と化した我が子を救うための旅でもあった。
この手は人を守るための手だった。炭を割り、火を熾し、子供を抱くための手だった。
人に刃を向けたことは一度もない。
だが今、その刀は鬼となった子供に向けることになる。
「……俺は……父親なのに……」
声が震えた。
それでも、炭十郎は刀を握った。手は震え、涙で視界は霞んでいた。
「残りの命、すべてを賭ける。鬼を討ち、無惨を討ち……子供たちを終わらせる」
四十歳。鬼殺隊では異例の年齢。剣を振るには遅すぎる。体は衰える一方。
それでも決めた。父として夫としての責任を、最後まで果たすと。
崩れた家屋の中、血塗れの屋内。
「…もうここには…戻れない」
声が掠れ、涙が頬を濡らす。
守ると誓った家族。だが、その約束は無残にも打ち砕かれた。
彼は庭先に穴を掘り始めた。
冬の山土は固く、鍬など使わず素手で掘った。指は裂け、爪は剥がれ、血が滲んでもやめなかった。
小さな墓標を立て、妻と共に自らの髪を斬り埋める。
炭十郎は土に額を押し付けて祈った。
「許せ葵枝。これで今までの俺は……死んだ。ここからは刀を持ち、鬼を討つ者となる。俺が必ず……たとえ人に戻せなくても……子供を救う、無惨を、この世から消す」
山を下る道は、いつになく重かった。
頭に浮かぶのは、子供たちの鬼と化した姿
「……俺には、もう…これしか残されていない」
炭十郎は、鬼と戦う決意を宿した顔だった。
炭十郎は夜空を仰ぎ、深く息を吸った。
涙と血と土で汚れた掌を強く握る
――人としての残りの人生すべてを、鬼を討つために。
そして、鬼と化した我が子らにけじめをつけるために。
こうして、四十歳の父・竈門炭十郎の、絶望と決意の旅が始まった。
やべ!
鬼強くしすぎた