13話です!お楽しみいただければ幸いです
銃口が、揺れていた。
少年達の手。
少女達の指。
恐怖と欲望と諦めが、入り混じった震え。
「撃てばいいんだろ……!」
「生き残るのは一人だけだ…」
「夢の続き……見せてくれるって言った……」
「コイツら殺したら…次はお前らだ…」
その銃口は鬼殺隊に向いているが、彼らの殺意は隣の彼・彼女達にも向いている。
魘夢は、満足そうに笑う。
「そうそう……いいよ……人間って、そうだよね
現実より、夢を選ぶ……それは愚かで唯一、キレイな選択だよ」
伊之助が、一歩踏み出そうとして――止まった。
「……ちっ」
善逸は、歯を食いしばり、叫ぶ。
「君たち!やめなよ!鬼は絶対に約束を守らない!」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね〜」
魘夢は、ニヤニヤしながら即答した。
「それでも僕の夢に縋るしかないんだよ……楽しいなぁ〜」
空気が、冷える。
少しでも戦意を見せれば彼・彼女達は引き金を引くだろう。
だが、それは…決してさせてはいけないことだった。
だから炭十郎は刀を納めたまま、優しく…ゆっくり前に出た。
「……銃を、下ろしてくれないだろうか?」
静かな声だった。
少年少女が、戸惑う。
「なんで、あんたの言う事聞かなきゃいけないのよ!」
「あんたら殺して夢の続き見せてもらうんだ!」
炭十郎は、ゆっくりと視線を合わせた。
「君たちは優しい…人の痛みを知る者達だ…撃てば心が深く傷つく」
沈黙。
「な、なんだよ!それ…意味わかんない!」
「そんな事、分かるもんか!頭おかしいのか!」
「銃を向けられてるのに何言ってるのよ!?」
「はぁ!?知った風なこと言うなぁ!」
魘夢が、楽しげに口を挟む。
「あはは、何言ってるのかな?…君たちは人殺しはダメだもんね?必死なんだろうけど…無駄だよ」
「鬼よ、お前は間違えている」
「なに?」
炭十郎は、即座に否定し4人の少年少女に向きなおる。
「君たちは私達に向き合って、すぐに撃てば良いのに撃っていない…今もだ。それは…撃てばどうなるか分かっているからだ。そして…私達にそんな思いをして欲しくない気持ちがあるからだ……だから言っている。君たちは“優しい”…と」
少年の指が、引き金から少し浮く。
「生きたいと…夢を見たいと願うことと、
他人を踏み台にすることは、違う」
魘夢の笑みが、わずかに歪んだ。
「……綺麗事だね……」
「そうだ」
炭十郎は、認めた。
「綺麗事だ。
だが――彼らはそれを捨てていない」
炭十郎は、背後を振り返る。
「煉獄殿」
「うむ」
煉獄杏寿郎は、一歩前へ。
炎のような眼差しで、少年少女を見る。
「君たちは、鬼ではない。
守られるべき人間だ、大丈夫だ。守ってやる!」
その言葉に、
少年少女の肩が、かすかに揺れた。
小泉が、静かに続ける。
「……夢でも現実でも結局は“自分”で考えて選択しなければいけない…だが…あなた達が“ここで人を殺す理由”は、どこにもない」
伊之助が腕を組みフンスーと鼻息を荒くしながら続ける。
「ちっ……気に食わねぇが……
鬼じゃねぇから守ってやるしかねぇ」
善逸は、震える声で叫んだ。
「音で分かる…君たち本当は誰も傷付けたくないんだ!!」
「うぅ……死んだお母さんに会いたいの…それだけなの…」
「結核なんだ……クソォ…死にたくない…」
「弟が行方不明なの…たった1人の家族…会いたいの…」
「クズみたいな親に捨てられた…どう生きれば良いのか分かんねーんだよ!!」
4人は泣きながら、各々の不安や恐怖を吐露し泣きながら銃を下した
魘夢の表情が、初めて曇る。
「…つまらないなぁ、夢はもっと、輝いていないとね。そうじゃないと…叶えられなかった時の顔が歪まないじゃないかあぁぁぁ!!」
魘夢が咆哮し身体中に“ビキビキ!”と血管が盛り上がる。
炭十郎は、刀を抜いた。
――今度は、迷いなく。
「鬼よ」
名を呼ばれ、鬼は微笑む。
「なんだよ?」
「貴様の夢を壊す」
炭十郎の声が、低く響いた。
その瞬間――空間が、歪んだ…気がした。
空が軋み、地が波打つ。
自分たちのいる空間が、まるで生き物の腹の中のように蠢き始める。
「……来るぞ」
煉獄杏寿郎が、短く告げた。
次の瞬間、地面から鬼が溢れ出した。
「あはははは!さぁ…夢鬼達よ!
コイツら全員殺せ!逆らったガキ共もだ!!
首を切って僕に差しだせぇ!!!」
「「「「ひぃ!?!?」」」」
多くの異形の鬼の出現と魘夢の言葉で、少年少女達は身を竦ませる。
しかし
「大丈夫だ!君たちは守る!!絶対にだ!!!」
煉獄杏寿郎の力強い言葉と背中は安心感を
「問題はない。何故なら、私たちは強い!つまり勝つ、だから問題はない!絶対だ!!」
小泉の繰り返される大切な言葉に頷き、震えながらも目を閉じない子供達
「二人とも流石だ、我妻殿と嘴平殿は私と突破口を開くぞ!」
竈門炭十郎は具体的な指示を出し、2刀を構えた。
しかし……
戦闘を開始するために士気を高めようとした炭十郎と対象的に静かに黙っている2人。
その姿勢に自分は何か思い違いをしているのではないかと一種の不安を感じた。
「どうしたのだ……?」
尋ねる炭十郎。
伊之助は眉ををひそめて首を傾げる。
「…なんだなんだ?
なーんか、違う気がするぜ…こいつら鬼か?」
善逸は、目を見開いた。
「え…?あ!!!待って!違う、斬っちゃダメだ!
この鬼達…人間の音がする!
偽物の鬼…鬼に化けさせられてる!
これ……俺達に人間を斬らせようとしてるんだ!!」
「なに!?」
「なんだと!?」
「そう言うことか!」
煉獄と小泉はその言葉に驚愕する。あと数瞬遅ければ斬ってしまうところだったのだ。
そしてよくみるとその鬼に見える人々の顔は無表情だった。
だが、その目だけが、異様に光っている。
「どけ…お前達を殺せば、夢に戻れる…」
「邪魔よ、私は死んだ子供と会う夢をみるのよ…」
「返せ…妻と子が病で死んだんだ…だから、夢のほうが良いんだ!」
低く、揃った声。
魘夢の声が、空間に滲む。
「あれあれあれ〜…おかしいなぁ、全部殺されてから教えてあげようと思ったのに…面白くないなぁ、まぁ良いけどさ…、結局やることは変わらないし。…その通り……全員、人間だよ……?」
くすくすと、笑う気配。
「さあ……どうする……?
斬る……?
それとも……潰される……?」
乗客たちが、一斉に襲いかかってきた。
腕を伸ばし、首に、足に、しがみつく。
「ぐっ……!」
小泉が、体勢を崩す。
「数が……多すぎる……!」
炭十郎は、歯を食いしばる。
(斬れない……
斬れば、人を殺すことになる……)
煉獄は、刀を構えたまま動かない。
「……くっ」
その時――
「待てぇぇぇ!!」
伊之助の叫びが、空気を裂いた。
「違う!!
混じってる!!」
善逸も叫び全員が彼を見る。
彼は耳を押さえ、顔を歪めていた。
「音が……変だ……!!
ほとんどは人間の音……でも!!」
善逸は、指を突き出す。
「三体!!
違う音がする!!
心臓の音が……歪んでる!!」」
同時に、伊之助が吠えた。
「右奥!!
あの集団!!見た感じ何かが違ぇ!!
なんて言やいいのか……鬼が人間の皮を被って……鬼に化けてる感じだぜぇ!!」
瞬間。
煉獄が、動いた。
「素晴らしい!炎の呼吸――」
刃が、燃え上がる。
「壱ノ型
不知火!!」
一直線の炎が、“鬼だけ”を斬り裂いた。
断末魔が響く。
「ぎゃぁぁぁ!!」
魘夢の声が、苛立ちを帯びた。
「……あれー?…
気付くの……早すぎじゃない?…弱いのに厄介なのがいるなぁ」
次の瞬間――
さらに、別の“乗客”が牙を剥いた。
「――っ!!」
炭十郎が、反射的に庇う。
その刃は、確かな手応えを持って肉を裂いた。
「本物だ……!」
「まだ本物の鬼が…混じってる!!」
善逸が叫ぶ。
「魘夢だっけ?あいつ自分は偽物って言ってたけど…本物だ!」
伊之助が笑う。
「はっ!!なるほど、嘘ばっかりだ、だが
やっと分かりやすくなったじゃねぇかァ!!猪突猛進ー!」
獣のように、突っ込む。
「獣の呼吸――
伍ノ牙・狂い裂き!!」
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃!!」
我妻と嘴平伊は幻影を避け、本物の鬼だけを的確に斬り捨てる。
魘夢の舌打ちが、はっきり聞こえた。
「……面倒だなぁ……」
その隙を、炭十郎は逃さなかった。
視線の先――逃げようとする魘夢
(惑わされていた…あれが……本当は本体……!)
「煉獄殿!!」
「承知している!!」
二人が、同時に踏み込む。
魘夢が、笑った。
「……来ると思った……
でも……追いつける……?」
空間が、再び歪む。
だが――
炭十郎は舞う。
「伊邪那岐(いざなぎ)神楽 弐ノ手 天浮橋(あめのうきはし)」
静かに…それは気づけば足下に波が近づいているかのような静かな走法で間を渡る。火はまだ振らずに“在るだけ”。
神楽の足運び…
それは、まるで近づいた足跡を波がさらうかのようだった。
「早い…とは違う…なんだよ、これ!?く…」
初めて焦る魘夢。身体を膨張させて肉で押し潰そうと攻めてくる。
「壱ノ手 禊(みそぎ)」
水で受け、火で払う。刀で斬られた以上の範囲が焼け落ちる。
だが、
「あ…ははは!使いこなしてないぞ?隙だらけだ!」
魘夢は技の繋ぎに身を晒した炭十郎を嘲笑う
「参ノ手 裏禊(うらみそぎ)」
しかし、それは舞の一部だった。
一度、あえて身を晒し、
攻撃を誘い最小限の動きで斬り伏せる。
これは
禊の逆手、攻めに転じる所作だった。
「な!?卑怯者!」
「いや、卑怯者はお前だ」
「そうだ、お前だけが卑怯者で私達は正しい、つまりお前が悪い」
次いで煉獄と小泉の刃が、魘夢を捉えて、頸が飛ぶ。
すると、空間に――ヒビが、入った。
「あ〜ぁ…僕の夢が…」
その隙を見逃さない煉獄が、追撃に吠えた。
「炎の呼吸――
肆ノ型・盛炎のうねり!!」
炎が、ヒビを押し広げる。
「深呼吸 捌ノ型 逆真っ向(ぎゃくまっこう)!」
小泉の下から上への真っ直ぐな垂直斬り上げが夢の壁を深く裂く
空間が悲鳴を上げた。
魘夢は、後退する。
「……っ……
この3人……!」
その背後で、
幻影の乗客たちが、崩れ落ちていく。
夢が、壊れた
――そして。
魘夢は、確信する。
「…コイツらは……危険だ。“彼の方”の障害になりうる…絶対に殺す」
空間が脈を打った。
――目が、覚めた。
最初に戻ってきたのは、音だった。
鉄が軋む音。
肉が蠢く音。
そして――無数の人間の鼓動。
「……っ!」
善逸は、息を呑んだ。
視界が現実に戻った瞬間、
無限列車は――列車ではなくなっていた。
床も、壁も、天井も。
すべてが脈打つ肉に覆われている。
「う、うわあああああ!!
なにこれ!?
きっっっっっしょ!!」
「落ち着け!!」
煉獄の声が響く。
「乗客を守れ!!
鬼は――列車そのものだ!!」
悲鳴が、あちこちから上がる。
肉の壁から、触手のような腕が伸び、
眠りから覚めたばかりの乗客を捕えようとする。
「――させるものか」
炭十郎が前に出る。
「伊邪那岐(いざなぎ)神楽 伍ノ手 波分け(なみわけ)」
舞うような動きで2刀が振るわれる。
水が道を割り、
火がそこを真っ直ぐ通る。二刀の役割が明確に分かれる型だった。
ミズカミ刀で攻撃しヒノカミ刀で乗客を守る。
一薙毎に肉の触手が、斬り払われ、乗客が救われていく。
煉獄も、続く。
「素晴らしいな!!炎の呼吸
弐ノ型・昇り炎天!!」
炎が壁を焼き切り、通路を作る。
「隊士は乗客誘導!!
我々が道を作る!!」
だが――
善逸は、異変に気付いていた。
(違う……)
(これ……
あいつじゃない……)
耳を澄ます。
列車全体が鬼になっている。
だが――心臓の音が、無い。
「……いない」
善逸が、呟いた。
「…魘夢が…ここにいない!!」
伊之助が、床に手をつく。
「……ちっ」
「分かるか?」
我妻の問いに伊之助の瞳が、猪の被り物の奥で細くなる。
「この列車……
ただの“外側”だ」
拳を握る。
「本体は……
もっと前だ!!」
善逸が、顔を上げる。
「……先頭車両」
「音が……
全部、そこに吸われてる!!」
その言葉を聞いた瞬間、
煉獄が頷いた。
「よし…雷の少年!猪頭の少年!」
二人を見る。「君たちは先頭車両へ行け!!我々は後方で人々を守る!」
「信じるぞ!つまり君達を信用している!」
小泉は頷きながら横薙ぎを繰り出している。
炭十郎も、頷く。
「……任せたぞ」
「ひひひ…おうよ!!」
伊之助が、歯を剥く。
「全部ぶっ壊してやる!!」
「うぅ……
こ、怖いけど……
やるしかない…だって期待されたら答えなきゃダメじゃん!」
善逸と伊之助は、肉の列車を蹴り、先頭へと走った。
先頭車両。
そこは、異様に静かだった。
「……音が、重なってる」
善逸は、汗を流しながら呟く。
「列車の音……
肉の音……
人の音……」
そして――
「心臓が二つ」
伊之助が、鼻を鳴らす。
「一つはデカい……
列車の核」
「もう一つは――
ちっせぇ」
二人の前で、
肉の塊が、ゆっくりと人型を取った。
「……あれ……?」
「もう……終わり……?」
魘夢だった。
頸に、無数の管を繋げた姿。
「うわ……
きも……」
善逸が、震える声で言う。
魘夢は、微笑んだ。
「……君たち……
よく……来たね……」
「でも……
列車自体が…僕だよ……?」
伊之助が、鼻で笑う。
「違うなァ」
一歩、踏み出す。
「お前は……
寄生虫だ」
魘夢の目が、見開かれる。
善逸が、刀を構える。
「……聞こえてる」
「お前の心臓の音……
ここだ!!」
雷が、迸る。
「雷の呼吸
壱ノ型――」
踏み込み。
「霹靂一閃!!」
魘夢が、叫ぶ。
「――っ!!
早……!」
だが、斬れない。
肉の壁が、即座に再生する。
「ちっ……!」
伊之助が、飛び込む。
「獣の呼吸
漆ノ牙・空間識覚!!」
視界が、研ぎ澄まされる。
「――見えたァ!!」
管の奥。
列車の核の裏。
「首は……
ここだ!!」
伊之助が、叫ぶ。
善逸が、歯を食いしばる。
(怖い……
でも……)
(音は、嘘をつかない!!)
二度目の踏み込み。
「雷の呼吸
壱ノ型――霹靂一閃…縮(しゅく)」
それは2閃の霹靂だった。2回振り払い、元の位置に戻る善逸。
その佇まいは、まるで…そこから一歩も動いていないかのようだった。
しかし確実に道は開けた。
彼はもう一度構え、伊之助が跳んだ
「はえー!やるな全逸朗、なんで戻ってきた?
獣の呼吸 捌ノ牙・爆裂猛進!!」
「合わせないと首に届かないからだ!…雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃!」
雷と獣が、交差する。
「させないよ」
肉が更に盛り上がり善逸と伊之助を空中に投げ出す。
しかし彼らはその肉すらも足場とした。
次々に
肉の壁を、抉り、
管を断ち切り、
その奥へ――
「「――見つけた!!」」
二人の刃が、同時に振るわれる。
「ぎいぃぃやあぁぁあ!」
ズバン!!!
……
魘夢の頸が、確かな手応えで落ちる。
「……あ……」
魘夢の声が、掠れた。
「……夢……
だったのに…なんで、なんで、お前らのせいで…
人間なんて大っ嫌いだ…」
列車全体が、悲鳴を上げる。
肉が崩れ、鉄が露わになり、
列車は――横転した。
静寂。
そして。
「……生きてるか?」
「……生きてる!!」
乗客の声が聞こえる。
誰も、死んでいなかった。
遅れて、炭十郎と煉獄と小泉が駆けつける。
煉獄は、力強く言った。
「見事!!」
炭十郎は、静かに頷く。
「……よくやった」
善逸は、その場に座り込む。
「……死ぬかと思った……」
伊之助は、笑った。
「楽勝だな!!」
「油断してはいけない!勝って兜の尾を絞めるのだ!」
小泉も笑顔で2人に近づいていく
――その時。
空気が、変わった。
「邪魔だ」
「ぐ!」
キン……
ズブ…
「ごふ……」
小泉がいた方向から刀が折れた音と
くぐもった音が聞こえた。
「え?」
炭十郎が、顔を向ける
煉獄が、素早く刀を握る。
「おのれ!!まだいたか!!」
闇の中。
ブン…
どしゃあ……
胸に風穴を開けられて、投げられた。
誰が?
小泉寸津浪は伏せたまま動かない…
パチパチパチ…
聞こえてくるのは不釣り合いな拍手の音。
「素晴らしい」
男にしては高く響く声。
「成り立ての拾壱とは言え上弦を人間の分際で……
ここまでやるとはな、成長が楽しみだ」
月明かりの下。
上弦の参と目に描かれている鬼は左手を小泉の血で濡らしてニヤけていた。
――戦いは、終わらない。