新年明け、早々に見ていただいて感謝致します!
蝶屋敷 ――
猗窩座との死闘が終わった夜、
竈門炭十郎、我妻善逸、嘴平伊之助は、血と煤に塗れたまま蝶屋敷へ運び込まれた。
担架に並べられたのは――
二人分の、動かぬ身体。
そして、今にも命が途切れそうな炭十郎と、重傷の二人。
胡蝶しのぶは、一瞬、視界が揺れた。
医師として、
それでも鬼殺隊の柱として、
倒れることは許されなかった。
炭十郎は、一週間、目を覚まさなかった。
胸は微かに上下している。
だが呼吸は浅く、脈は不規則で、
胡蝶ですら何度も手を止めて確認するほどだった。
「……助かったのは、奇跡です」
そう告げたとき、
看病に当たっていた隠たちは、言葉を失った。
そして、意識が戻ったあと――
胡蝶しのぶは、炭十郎の枕元で静かに告げた。
「歩けるようになったら……
産屋敷邸に、呼ばれています」
炭十郎は、弱々しくも確かに頷き、
短く感謝の言葉を述べた。
それ以上は話さず、
再び目を閉じて、身体を休めることを選んだ。
――だが。
目を瞑った瞬間、
彼の意識は、休息とは程遠い場所へと引き戻される。
暗闇の奥から、浮かび上がる顔。
鬼となった家族。
亡くなった妻。
それだけでは…もう、終わらなかった。
小泉の顔。
煉獄杏寿郎の、燃えるような眼差し。
そして――
猗窩座。
何度も、何度も、何度も。
頭の中で、戦いは繰り返された。
剣を振るい、拳を受け、血を流し。
そして、決まって同じ結末に行き着く。
小泉が倒れ、
煉獄が斃れる。
助けられなかった。
届かなかった。
その映像が、逃げ場なく脳裏を満たし、いつしか、炭十郎の心臓は強く…早く脈打つことが常となった。全身は火照り、皮膚の内で、何かが脈打ち始めていた。
――痣。
それは静かに、しかし確実に、
彼の身体中に広がっていた。
最初に気付いたのは胡蝶しのぶ、しかし、だからと言って何が変わったのか、そして対応が分かる訳でもなかった。
もう一つ。
炭十郎は、目を閉じたまま――
誰が、どこにいるのかを感じ取れるようになっていた。
壁の向こうの足音。
廊下を行き交う気配。
庭に立つ人の位置。
そして…身体の内側すら…
まるで、世界そのものが
“透き通って”見えているかのように。
蝶屋敷の縁側にて――
我妻善逸は、座り込んだまま、手元の紙から、視線を離せずにいた。
そこに書かれている名前――小泉寸津浪
隠に調べてもらい鎹鴉…もとい…雀に届けてもらった情報。
調べれば調べるほど、遠い世界の人間だったのだと分かった。
自分たちの立っている場所と、
彼ぎ生きてきた世界との距離。
「……日本政府、だってさ」
声は小さく、掠れていた。
「国会……軍……警察……
全部に口を出せる家らしい」
嘴平伊之助は、黙って聞いていた。
組んでいる腕と荒い息はいつも通りだ。
「俺たちとは住んでる世界が全く違う」
善逸は、喉を鳴らした。
伊之助は鼻を鳴らした
フンスーーー!
「ふん!!…世界が違うなんて事あるかよ
どいつもこいつも同じ土の上で生きてるだろーが」
「えーっと…そういうことじゃ無くてさー」
意味を分かってない伊之助への説明をどうしたものかと頭を悩ませる。
しかし、ふと思い出す。
無限列車で見た、小泉の背中。
猗窩座に胸を貫かれても最後まで剣を離さなかった姿。
そして――
もう、戻らないという事実。
胸の奥が、きしむ。
「いや、そう……だよな」
善逸は、拳を握った。
「大切が人がいなくなったら、誰だって悲しい…知ることすら出来ないのは…嫌だよな…伝えなきゃいけない」
伊之助が、首を傾げる
「なに当たり前の事言ってんだ?」
「……はぁ、お前に言われると、悩んでたのが馬鹿みたいだ」
善逸は、正直に言った。
「馬鹿なんだよ、馬鹿にならなきゃ…鬼には勝てねーだろ」
伊之助なりに言葉を探し慰めているつもりなのが伝わった。
「勝たなきゃな…いや、絶対に勝つぞ」
伊之助は、短く頷いた。
「当然だ、少しはマシになったな!及び腰太郎!」
「はぁ!?なんだその名前!完全に馬鹿にしてんじゃん!!」
その声音に、迷いはなかった。
どんな世界でも踏み込むべき場所がある。
二人とも、もう理解していた。
彼らは歩き出す。
完全ではない身体で。
それでも、逃げない心で。
善逸と伊之助もまた重傷だったが、
歩けるようになると、二人は早々に蝶屋敷を後にした。
その背中を見送りながら、
胡蝶しのぶは、炭十郎の診察をしながら小さく息を吐いた。
「……思い詰めた顔をしていました」
言葉には、憂いが滲んでいた。
「目の前で……
二人も実力者が亡くなったのですから……
仕方ないのかもしれませんが……」
視線を落とし、続ける。
「……心配です」
薬草の匂いが、廊下に満ちている。
蝶屋敷には傷を負った者たちの呼吸が、静かに、重なり合っていた。
そこは、上も…下もない空間は、歪んでいた。
柱が上下逆に連なり、床と天井の区別すら曖昧なその場所で、
猗窩座は静かに膝をついていた。
背筋は、異様なほど真っ直ぐだ。
上弦としての矜持が、肉体に染みついている。
だが――
その内側では、怒りが渦を巻いていた。
「…貴様は自慢げに柱ともう1人の鬼殺隊を殺した言うが…全員、殺せなかったようだな?」
鬼舞辻無惨の声は、低く、冷たい。
叱責というより、事実の確認のような響きだった。
感情を削ぎ落とした音。
怒りすら、余計なものと切り捨てる声。
猗窩座は、顔を伏せたまま答える。
「…はい…申し訳ありません」
その言葉を待っていたかのように、
無惨は、ほんの一歩だけ距離を詰めた。
「しかも生き残ったのは竈門炭十郎……」
言葉が落ちるたび、
空気が、重く沈んでいく。
「重ね重ね申し訳ございません。日が鎮まってすぐに首を狩りに行って参ります。十二鬼月・上弦として…」
無惨は猗窩座の話を“斬り捨てた”
「そんな事はどうでも良い、問題は貴様が“失態”したという事実だ」
声は荒れていない。
だが、そこに逃げ場はなかった。
「貴様は、何のために力を与えられている?」
猗窩座の歯が、ギシッ、と音を立てた。
「……戦いに、勝つためです」
「違う」
即答だった。
「私の望む結果を出すためだ」
無惨の視線が、刃のように突き刺さる。
「戦いを楽しむためではない」
「武を誇るためでもない」
「ましてや……相手を評価するためでもない」
一つ一つ、
猗窩座の存在理由を削り落としていく。
「人間は、駒だ」
「鬼殺隊などは、道端の石程度の障害物だ」
「踏み砕くか、無視するか…それだけだ」
無惨の声が、わずかに低くなる。
「それを……貴様は、分かっていない」
猗窩座の拳が、床に触れた。
爪が、石を抉る。
脳裏に浮かぶのは――
燃えるような剣。
命を燃やし尽くす覚悟で、真正面から立つ男。
煉獄杏寿郎。
そして、その横に立っていた存在。
静かで、全盛期を過ぎているくせに…
それでも、すべてを受け止める眼差し。
(……あの剣士)
無惨は、見逃さなかった。
「気に入らないか?」
猗窩座の肩が、わずかに揺れた。
「全盛期をとっくに過ぎたのに…あの力」
「これ以上、伸びることもない」
「それでも、生き残った」
無惨の声には、侮蔑が混じっていた。
「貴様は、なぜ殺せなかった?」
沈黙。
「答えろ、猗窩座」
「……全力で戦っていました」
その瞬間、
空気が、凍りついた。
「戦う?」
無惨が、静かに繰り返す。
「貴様は……“戦う”ために鬼になったのか?」
一歩。
また一歩。
「間違えるな、貴様は私の望みを叶えるために鬼になったのだ。
私の邪魔者を排除しろ。それ以外に貴様の喜びはない」
猗窩座の喉が、鳴った。
(そうか、いや違う……)
言い訳が、喉まで込み上げる。
(煉獄より……
あの剣士が死ぬべきだった)
全盛を過ぎている。
それでも、あの強さ。
(なぜ……)
無惨の声が、断ち切る。
「分かっているな?……次は、ない」
その一言が、すべてだった。
猗窩座の指が、床に深く食い込む。
石が、砕ける。
「分かっています、全ては無惨様のために」
声は、低く、抑えられていた。
「分かっていればいい」
無惨は、興味を失ったように背を向ける。
「次に失敗すれば貴様は“必要ない”」
猗窩座の内側で、何かが弾けた。
(……あぁ…あの雑魚どものせいだ……)
脳裏に浮かぶのは、
雷鳴のように駆けた少年。
獣のように裂いた男。
(あいつらさえ……)
血管が、浮き上がる。
怒気が、全身を満たす。
「……次は……」
声にならない声で、呟く。
「必ず、殺す」
それは、誓いではない。
信念でもない。
――ただの、執念だった。
闇が、
その感情を、静かに飲み込んでいった。
数週間後…蝶屋敷の門前。
炭十郎は、足を止めていた。
朝とも昼ともつかぬ淡い光が、庭先に落ちている。
風が吹き抜け、木々の葉擦れが、かすかな音を立てた。
そこは、傷を癒す場所であり、
同時に――
多くの別れを見送る場所でもあった。
身体は、動く。
歩ける。
剣も、握れる。
それでも、足だけが動かなかった。
胸の奥に沈殿したものが、
一歩を重くしている。
そのとき――
足音が、近づいてきた。
振り向くまでもなく分かる存在感。
派手で、強引で、それでいて揺るがない歩調。
音柱・宇髄天元。
彼の肩には、神崎アオイ担がれていた。
小さな身体。
彼女はむくれた顔をして、どこか納得いかない表情をしていた。
そして
音柱の傍には胡蝶しのぶの継子。
名前は確か…
栗花落カナヲ
チラリとこちらを見た気がするが…3人は頷きあって走り去っていく。
彼女達もきっと…また別の地獄へ行くのだろう。
炭十郎は、声をかけなかった。
いや、正確には――
かけられなかった。
言葉が、見つからない。
「気をつけてくれ」
「無事でいてくれ」
どの言葉も軽すぎる。
胸から猗窩座の腕が出ている小泉と煉獄杏寿郎の背中が、脳裏に重なる。
あの夜、確かにそこにあった深みのある男と熱い炎。
守るために燃え尽きた命。
(……自分は)
炭十郎は、拳を握った。
自分は、まだ――
2人の覚悟を、越えられていない。
守れなかった命。
届かなかった剣。
あと一歩、踏み込めなかった自分。
どれほど鍛えても、
どれほど呼吸を研ぎ澄ましても、
あの一瞬は、取り戻せない。
胸に残るのは、喪失感だけ。
それは、時間が解決してくれる類のものではない。
抱え続けるしかないものだと、
炭十郎は、もう理解していた。
宇髄天元と栗花落カナオはこちらを振り返りもしない。肩に抱えられたアオイだけ、視線があった気がした。
それだけだ…
それが鬼殺隊、そして柱という存在の在り方だと知っている。
迷いを背中に見せず、救うべき人のために地獄へ向かう。
炭十郎は、3人をただ見送った。
やがて、足音が遠ざかる。
風の音だけが、庭に残る。
(……行こう)
音柱が何故2人の女性を連れて行くのかは分からないが…
自分には知る権利は無いだろう。
だから、その後ろ姿に礼をする。
せめて、無事に帰ってくる様に。
その後、予定通り現れた隠に目隠しをされ連れて行かれた場所があった。
産屋敷邸。
その静けさは、
人を試すためにあるのではないかと、炭十郎は思う。
音がないからこそ、
心の奥に沈めてきたものが、
一つずつ浮かび上がってくる。
正座したまま、炭十郎は正面を見据えていた。
「――話は、聞いているよ」
産屋敷耀哉の声は、
背後からでも、正面からでもない。
場そのものから滲み出るような声だった。
炭十郎は、微動だにせず息を整えた。
「無限列車で夢を操る鬼に先手を取られました。夢の中で、心が削られ、目が覚めると列車が鬼と化し我妻善逸殿と嘴平伊之助殿のお陰で本体の居場所が分かりました」
一つ一つ、淡々と。
「その後、下弦の壱・魘夢が討たれました。
そして――」
言葉が、わずかに、間を置いた。
「上弦の参、猗窩座と遭遇し、
私の監視役の小泉寸津浪殿と炎柱・煉獄杏寿郎殿はその命を落としました…にも関わらず…鬼は討伐できず、逃しました…それが事実です」
炭十郎の胸が、強く締め付けられる。
「うん…聞いていた通りだ…杏寿郎は本当に、すごい子だね」
耀哉の声は、静かに、しかし確かに温度を帯びた。
その言葉だけで、
炭十郎の喉が、詰まる。
「寸津浪からは、こまめに連絡が来ていたよ。
任務の進捗だけじゃない。
君のことも、何度も書いてあった」
炭十郎は、思わず拳を握った。
「『竈門炭十郎は、信じるに値する人物です』
――そう、何度も」
胸の奥で、何かが軋む。
「剣の腕だけではない。
判断の速さでもない。
人を見捨てないという、その在り方がだよ」
耀哉は、微かに微笑んだ。
「とても、惜しい子達を亡くした」
その言葉は、嘆きではなかった。
事実としての、喪失だった。
「だからこそ、お願いがある」
炭十郎は、顔をそらさない。
耀哉は、まっすぐこちらを見ていた。
「煉獄杏寿郎と、小泉寸津浪。
この二人の想いを背負って――
これからも、人のために動いてくれないだろうか」
それは、命令ではなかった。
選択肢を、与える言い方だった。
「私は、君を柱に任命したい」
空気が、わずかに震えた。
その瞬間、
炭十郎の胸に湧き上がったのは――
誇りではなかった。
「……お待ちください」
炭十郎は頭を下げ、声を絞り出した。
「私は……
煉獄殿と小泉殿を、守れませんでした」
言葉が、重い。
「私が、もっと強ければ……」
拳が、砂利に敷かれた藁に触れる。
「私はただ、生き残っただけなのです。
それだけで……
柱に相応しいなどと、言えるのでしょうか」
声が、わずかに震えた。
「背負っていい人間なのでしょうか」
その問いは、
許可を求めるものではなかった。
自分自身への、告発だった。
しばらく、沈黙が落ちる。
やがて、耀哉は、穏やかに答えた。
「自分が相応しいかと、問える者はね」
一拍。
「すでに、相応しい場所に立っている」
炭十郎の呼吸が、止まる。
「自責を抱え、
それでも前へ進もうとする者だけが、
人の命を預かる資格を持つ」
優しいが、逃げ場のない言葉だった。
「君が迷う限り、
君は、間違え続けるだろう」
そして――
「迷わなくなったときこそ、君は自分を見失う」
炭十郎の目に、熱が滲んだ。
「竈門炭十郎」
耀哉は、はっきりと告げた。
「戦闘能力だけの話じゃないんだ。私は、矛盾を力に変えると言って多くの悩みと迷いを持ちながらも前に進んでいる貴方を柱として迎えたいんだ」
静寂が、再び邸を満たす。
炭十郎は、深く、深く頭を下げた。
「はい、謹んで…お受けいたします」
逃げないために。
背負うために。
そして――
煉獄と、小泉の想いを、
未来へ運ぶために…
竈門炭十郎は今、この時をもって「神楽柱」となった。
再度、隠に目隠しをされる。
しかし炭十郎は隠達に手で制して首を振った。
柱になったのだ…また一つ覚悟を背負うために…
小さく息を吸う。
「ありがとう…世話になった」
そして、彼は目隠しと耳栓と鼻に詰め物をしながら木々に当たる事なく、道なき道を恐ろしいスピードで走り去り姿を消した。
「ウッソだぁ……」
隠達は目の前の光景を、ただただ信じられず、呆然と炭十郎が消えた先を見つめていた。
目隠しを外したのは煉獄家の前に立ってからだ。
この家の当主に伝えなければならない言葉がある。
戦果ではない。
勝利でもない。
「守れなかった」という事実と、
「確かに戦った」という証を。
辛い役目だ、自分が報告される側だと思えば胸が締め付けられ誰とも会いたくないだろう。
だが、逃げることは許されない。
炭十郎は、ゆっくりと歩き出した。
戦いは、終わらない。
命を落とした者たちの時間は止まり、
生き残った者だけが、歩き続ける。
それは…とても残酷な事だ。
身体の奥で、何かが芽吹いているのを感じる。
痛みを知ったからこそ、
折れなかったからこそ、
以前とは違う“強さ”が、静かに根を張り始めている。
喪失を抱えたまま。
後悔を消せないまま。
それでも、人は歩く。
歩くことでしか、
前に進めないと知ったから。
等と、炭十郎は色々と考えてしまう。
余りにも、その一歩が重かったからだ。
また…自分に甘えてしまった。
「(柱になって初日とはいえ、この様子では…いかんな)」
ここは――
自分が立つべき場所だ。
これは、
剣で守れなかった者が、言葉で背負う責任だ。
「(行くか)」
そう決心して一歩を踏み出した。
しかし
いつまでも佇んでいたからだろう――唐突に門は内側から破られた。
怒号と共に。
煉獄槇寿郎。
かつて炎柱であった男。
その眼は、酒に濁り、
それ以上に――
喪失で荒れ果てていた。
「良い大人が、いつまで門の前で呆けているつもりだ!!
目障りだ!さっさと去ねぇ!!!」
低く、擦れた大声。
「柱になったばかりの行き遅れが!!一体、何の用だ!!」
確かに刀を置く様な年に刀を持ち、更には柱になるには遅い年齢ではあるが…何故、そこまで罵倒されなければいけないのか、と炭十郎は心に憤りが生まれる。
しかし喧嘩をしに来たのではない、すぐにでも帰りたくなったが炭十郎は、逃げなかった。
「杏寿郎殿は――」
その名を口にした瞬間、
空気が裂けた。
「最後に、笑っていました」
拳が、飛んだ。
地面に叩きつけられ、
背中に鈍い痛みが走る。
それでも炭十郎は、立ち上がった。
「人を守ることを、後輩を導くのを役目だと…誇りだと言って――」
「貴様に何が分かる!!」
煉獄槇寿郎の怒声は、
怒りという仮面を被った悲鳴だった。
「貴様…!?その痣…その耳飾り…歴代様からの書物で見た
才能ある者か!!だからその年でも柱になれたという事か!
俺達の様な凡夫が多くの時間を費やし努力し、やっと辿り着く場所に…いとも簡単に!!上弦と戦い…生き残り…嘆いた振りをして…もう、俺達を馬鹿にするなぁ!!」
拳が、震えている。
「妻を失い、子も失ったこの身に、もう…何が残るというのか!!!」
黙って聞いていたが、流石に炭十郎の中で、何かが切れた。
「分かるものか、と?」
声は、荒れていた。
だが、嘘はなかった。
「私は――愛する妻を鬼になった実の子供達に喰われている最中に、呑気に炭売りをしていた!!そして!!その様を見て…何も出来なかったのだ!!」
空気が、凍る。
「鬼殺隊になって一度、鬼となった子と会った!!」
ブチ…
唇が、噛み潰されて血が滴る。
「鬼から人間に戻す手段を見つける…それが出来なければこの手で!!
そう誓った!!はずだったのだ!!!…なのに!!!……刃を向けられず、情けない私の代わりに水柱と蟲柱に、討ってもらったのだ!」
視線が、ぶつかる。
「これほど情けないことがあるか!?それでも生きねばならぬ私の…妻の仇の鬼となった我が子を討たねばならぬ親の気持ちが――あなたに、分かるとでも言うのかぁ!!」
「ッ……!?」
言葉では、足りなかった。
「黙れ…黙れ黙れー!!」
取っ組み合いの殴り合い。
互いに、血まみれになるまで。
怒りは、同じ場所から生まれていたからだ。
⸻
蝶屋敷 ――火は、消えていなかった
目を覚ましたのは、蝶屋敷だった。
並んで寝かされていることに、
二人は、苦虫を噛み潰した様な表情となった。
後輩の規範となるべき大人が余りにも稚拙なやり取りをしてしまったことにいたたまれない気持ちになったのだ。
煉獄槇寿郎は、立ち上がり、背を向けた。
しばらく、何も言わない。
そして、低く、短く告げた。
「すまなかった……私は…自分のことばかりだ……貴方とのやり取りで思う所があった…。恥を忍んで、鬼殺隊へ戻る事とする。許されればだがな」
その言葉に頷く。
返事の言葉すら不要だった。
炭十郎には、それが槇寿郎の心に再び火が灯された言葉だと分かった。
新年早々なのにネガティブな展開!!
タイミングが……
すいません。