鬼滅の刃 〜炭塗りの刀〜   作:サモア リナン

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第16噺「柘榴路の森と凱骨を纏う者」

神楽柱となっての初任務…

 

任務先の森林は、静かだった。音がないわけではない。

虫の羽音も、風に揺れる葉擦れも、確かにある。

 

だが――

人の気配だけが、欠けている。

 

炭十郎は、歩みを止めた。

 

(……臭い)

 

血の臭いだ。

流れたばかりのものではない。

 

染み込み、重なり、

「ここで生きてきた」者の血。

 

鎹鴉・ヤマトが肩に降りる。

 

「任務だ、炭十郎!

 この森に巣食う鬼を討て!」

 

「詳細は?」

 

「不明!

 人が寄り付かなくなって久しい!」

 

炭十郎は短く頷いた。

 

――分からない。

ならば、知りに行けばいい。

 

柱としての初任務は、

いつも命の危険から始まる。

 

一歩、森に踏み入れた瞬間だった。

 

「……あ」

 

子どもの声。

軽く、無邪気で、あまりにも聞き慣れた声だった。

 

「お父ちゃん?」

 

その一言で、

炭十郎の心臓が嫌な音を立てた。

 

木々の隙間から、小さな影が現れる。

 

細い肩。

覚えのある輪郭。

 

「……六太」

 

名を呼ぶ方が、剣を抜くより早かった。

 

影は首を傾げる。

 

「え?」

 

そして、はっきりと否定した。

 

「もう、そんな変な名前じゃないよ」

 

月明かりに顔が晒される。

 

幼い笑顔。

だが、瞳は濁り切っていた。

 

「柘榴路童子(ざくろどうじ)だよ。

 かっこいいでしょ?」

 

胸を張る仕草まで、昔のままだ。

 

「六太は、もういないんだ」

 

その言葉で、

炭十郎の中の何かが、音を立てて崩れた。

 

瞳の奥に刻まれた文字。

上弦――拾弐。

 

(……花子だけじゃない。

 分かっていたはずだ。

 それでも……)

 

「どうして?」

 

柘榴路童子は、不思議そうに聞いた。

 

「どうして、そんな顔するの?」

 

「……六太が、鬼になって、人を食べているからだよ」

 

「え?」

 

きょとん、と目を瞬かせる。

 

「普通なのに?

 だって、生きるためだよ?」

 

足元の血溜まりを指さす。

 

「食べなきゃ死ぬじゃん。

 人間だって、野菜とか魚とか、食べるでしょ?」

 

言葉が、胸を抉る。

 

「……違う」

 

「なにが?」

 

「人は、人を喰わない」

 

柘榴路童子は少し考えてから、笑った。

 

「へー」

 

その瞬間――

地面が、沸騰した。

 

「血鬼術」

 

弾むような声。

 

「血沸キ肉付キ(ちわきにくづき)」

 

地に染みた血が、蠢く。

木に付いた血、石に跳ねた血。

 

それらが一斉に形を持ち、

肉を得て、骨を得て――

 

一体、二体、三体。

 

「教えてあげるね!」

 

自分の腕を引き裂く。

飛び散った血が、地に落ちる。

 

「僕は―」

 

にこりと笑う。

「増えるんだよ」

 

炭十郎は、二刀を抜いた。

 

「……それは、とても恐ろしい術だ」

 

伊邪那岐神楽・壱ノ手

『禊』

 

襲ってきた三体の首が、一息に落ちる。

 

だが――

血が飛ぶ。

血が落ちる。

 

結果、また生まれる。

 

「わあ!」

 

声が重なる。

 

「お父ちゃん、すごい!」

「いっぱい僕ができる!」

 

伊邪那岐神楽・弐ノ手

『天浮橋』

 

跳躍のような踏み込み。

叩き潰し、砕く。

 

だが、肉片が地に落ちるたび――

 

「こんにちは」

 

増えて、笑う。

 

炭十郎の腕に裂傷。

太腿に引っ掻き傷。

 

浅い。

だが、確実に削られている。

 

伊邪那岐神楽・参ノ手

『裏禊』

 

受け流し、返し、断つ。

 

血の刃が逸れ、木を裂く。

切り口から血が滲む。

 

――そこから、また一体。

 

「ねえ、お父ちゃん」

 

本体が近づく。

 

「楽しいね」

「壊れても増えるし」

「泣かなくていいし」

「殺しても、悪くない」

 

炭十郎の喉が鳴った。

 

「……もう、戻れないのだな」

 

「戻る?」

 

首を傾げる。

 

「どこに?」

 

伊邪那岐神楽・肆ノ手

『潮返し』

 

波のような連撃。

数を削る。削る。削る。

 

「人にだ!」

呼吸が重くなる。

 

伊邪那岐神楽・伍ノ手

『波分け』

 

“増えない視線”。

本体を捉える。

 

踏み込む。

 

――首へ。

 

思い出される、家族と囲んだ食卓。

 

「……六太……っ」

 

躊躇し、刃が鈍る。

 

その一瞬で、

柘榴路童子は跳び退いた。

 

「すごい!!

 お父ちゃん強い、無理!」

 

笑顔のまま。

「逃げよっかな!」

 

炭十郎は追う。

 

「六太!もう人を喰うな!約束できるなら――」

 

「無理だよ」

 

楽しそうに。

 

「“あの人”怖いし、生きたいし。

 それに……美味しいんだもん」

 

群がる分体。

 

炭十郎は、本体へ刃を向ける。

 

「……そう…か…」

 

伊邪那岐神楽・捌ノ手

『間渡り』

 

間合いが、消える。

 

「え……?」

「ならば……これは、私の罪だ」

 

伊邪那岐神楽・玖ノ手

『迦具土討ち』

 

迷いを抱いたまま2刀が舞う

 

―水龍の牙が、

 

火龍の爪が―

 

 

柘榴路童子の頸を断った。

 

それは形容する言葉を探したならば“二薙一閃”の軌跡。

 

消え際、柘榴路童子は笑う。

「え?嫌だ……」

 

静寂。

 

血も、肉も、消える。

 

 

サアァァァ…

 

 

柘榴路童子…いや、六太だった者の灰が風に吹かれ散らばっていく。

 

炭十郎は、しばらく動けなかった。

 

膝をついたまま、

自分の掌を見つめている。

 

血は、もう付いていない。

それでも、まだ温度が残っている気がした。

 

「…こんなに…辛いのか…斬りたく、ない」

 

声に出しても、森は何も返さない。

 

斬った、勝った、救えなかった。

 

それだけが、確かな事実だった。

 

鎹鴉・ヤマトが、音もなく降り立つ。

 

「タンジューロー……」

 

声が、少しだけ低い。

 

「上弦の拾弐。

 柘榴路童子――討伐完了だ…カァアアアア!」

 

報告は、大きく羽ばたきながら為されていた。上弦の討伐ならば当然なのかもしれない…だが、その最後に、一拍の間があった。

 

炭十郎は、立ち上がる。

 

足に、力が入らない。

呼吸は整っているはずなのに、

胸の奥が、やけに重い。

 

「……やはり、人には戻せないのか」

 

独り言のように呟く。

 

ヤマトは答えない。

答えられない。

 

炭十郎は、木に肩を預け、目を閉じた。

 

六太の声。

笑顔。

最後に見た、濁った瞳。

 

(分かっていたはずだ)

 

今まで出会った鬼と同じだ…“鬼”になった者は、もう“戻れない”。

 

それでも――

 

その時、遠くで金属がぶつかる音がした。

 

次いで、地を叩く衝撃。

 

炭十郎は、目を開く。

 

「……戦闘音?」

 

ヤマトが、羽を震わせる。

 

「タンジューロー!!

 近場で交戦中だ!」

 

声が、切迫している。

 

「鬼殺隊と――

 鬼だ!」

 

一瞬、胸が跳ねた。

 

(まだ……いる?)

 

炭十郎は、即座に刀を握り直した。

 

「行かねば」

 

思考よりも、身体が先に動く。

 

「救援に向かう!」

 

それは、他に縋りたいがために出た言葉だった。

 

走り出す。

 

枝を跳ね、斜面を踏み越え、夜を裂く。

 

身体は動く。呼吸も乱れない。

 

だが――力が入りすぎているのを自覚する。

 

(いかん…落ち着け……)

 

そう言い聞かせても、

足は速まり、踏み込みは深くなる。

 

無意識に、“最善”を急いでいる。

 

―早ければ速いほど、助けられるものが、増えるかもしれない。

 

それだけが、胸の奥で消えずに燃えていた。

 

 

 

 

山に入った瞬間、異変はすぐに分かった。

 

空気が変わった。

 

 

血の匂い。

だが、腐臭ではない。

 

生々しい、

まだ温度を持った匂い。

 

さらに進むと、火花と衝撃音。

 

――戦闘音。

 

炭十郎が木々を越えて視界を切り開いた瞬間、爆ぜるような光が走った。

 

燃える血。

跳ね上がる鎖。

凍りついた地面を砕く衝撃。

 

そこには三者がいた。

 

一体の鬼。

そして二人の剣士。

 

二人とも、顔を覆う仮面を着けている。

だが、その動きを見た瞬間、炭十郎の脳裏に名前が浮かんだ。

 

(あれは……灰崎殿と朽土殿!?)

 

「鎖の呼吸」の使い手――灰崎壱華。

「氷の呼吸」の使い手――朽土由羅。

 

かつて、同じ戦場に立ったことのある剣士たち。

 

彼女たちも同時に、こちらに気づいた。

 

戦闘の最中だというのに、二人の声が重なる。

 

「「炭十郎さん(殿)!?」」

 

仮面の奥の驚きが、はっきりと伝わってきた。

 

「話は後だ!」

 

炭十郎は即座に距離を詰める。

 

ギィィン!!!

 

 

2人を襲う女鬼

 

刀で弾く。

 

 

鬼は――禰豆子だった。

 

「な!?…禰豆子!」

「うがああああぁぁぁ!!」

 

血鬼術が炎のように燃え上がっている。

 

ドオォォ……ドォン…ドォン…

 

血が爆発するが木々は燃えていない

 

(不思議な血鬼術だ…対象を選べるのか?)

 

それにしては理性は見えない。

ただ破壊衝動だけが形になっているようで、違和感が強く残る。

 

「前面に出る!」

 

炭十郎の一声に、二人は即応した。

 

連携は一瞬だった。

 

「鎖の呼吸…唯一ノ型!!断鎖・月牙衝!!」

 

「氷の呼吸 伍ノ型 絶華凍結(ぜっかとうけつ)!」

 

鎖が拘束し、氷が動きを鈍らせ、その隙を縫って炭十郎が斬り込む。

 

自分も含めて2人は強くなった。

それこそ鬼になった禰豆子を

 

――大した時間もかけず、仲間も失わず

 

「伊邪那岐神楽 陸ノ手 寄り潮…」

 

討ててしまうほどに…

 

 

その確信が生まれた瞬間だった。

 

“ゾワリ”

 

空気が、歪んだ。

 

 

禰豆子の血が…爆炎が今までとは比較ならない広大さで逆巻いた。

 

だが――

 

木々は燃えない。

地も焦げない。

 

血は爆ぜるが、破壊は限定されている。

 

今、頸を切ろうとした“自分達”ですら対象ではなかった。

 

(……殺意が、違う)

 

炭十郎は理解した。

 

あの血鬼術は弱いのではない。

“人を殺すために作られていない”

 

対象以外に直接的な殺傷能力がない。

 

そう、人に対しては――押し返すだけのようだ。

 

とは言え、その衝撃たるや油断して良い類のものではなかった。

 

更に…その間隙を狙ったのように横合いから飛び込んできた影が、三人をまとめて弾き飛ばす。

衝撃で、肺の空気が抜ける。

 

「……っ!」

 

3人は地面を転がりながら、体勢を立て直し、襲ってきた新手を睨んだ。

 

そこに立っていたのは――

少年。

 

骨のようなものが体表を覆い、

背からは下に掛けて長く長く…尾のような白い骨が伸びている。

 

だが、間違えようがなかった。

 

「……炭治郎」

 

人とは思えない四つ這いになっているが、その佇まいは静かだった。

涎も出ていなければ呼吸も乱れていない。

 

だが、放つ圧が異質だった。

 

(この圧…まるで時透兄弟や不死川殿のような柱級……いや)

 

 

シュン……

 

 

ガキィン!!

 

(…それ以上だ!!)

 

姿が消えたかと思えば一瞬で死地に“踏み込まされた”

 

刃を交えた瞬間、理解する。

 

技ではない。

力でもない。

 

――執念だ。

 

一合で、腕が痺れ後退を余儀なくされ.、押し込まれる。

 

もう一つ理解したことがある。

 

 

実力差だ。

 

 

…炭治郎は本気ではない、なのに……勝てる気がしない…

 

 

それは手心だった。

父である自分を、まるで認識しているかのようだった。

 

「炭治郎……!」

 

呼びかけても、返ってくるのは咆哮。

 

「「うぐ!!?」」

 

その、ただの咆哮が無視できない衝撃を乗せ、灰崎と朽土を弾いた。

 

だが、炭十郎は踏み込めてしまう。

 

 

伊邪那岐神楽・壱ノ手

『禊』

初動が極めて小さい型である『禊』は致命となる頸を狩る軌道を描く。

 

骨が覆われている腕で受けられ、刃が通らない。

 

だが…炭治郎の動きが、確かに鈍った。

 

炭治郎は炭十郎を見て苦しそうに呻いている。

 

(炭治郎…まさか…お前も戦っているのか?)

 

その疑念が生まれた瞬間。

 

ズン!!!

 

炭治郎の圧が、跳ね上がった。

 

ガァン!!

 

尻尾による力任せの一撃。

だが、狙う場所は正確だった。

 

刀の背で受けるが炭十郎は弾かれ、後退する。

 

(急になにがあった!!?

身体能力が……今までの比ではない!!)

 

跳躍。

踏み込み。

反応速度。

 

どれも今まで会った柱を超えている。

 

 

その隙に、禰豆子が再び暴れ出す。

 

血が爆ぜる。

 

しかし

壱華の鎖が絡み、由羅の氷が関節を封じる。

 

「拘束する!」

「一瞬でいい、止める!」

 

完璧な連携。

 

炭十郎が、炭治郎に邪魔される前に禰豆子側に踏み込んだ。

 

伊邪那岐神楽――

参ノ手『裏禊』

 

「禊」よりも、さらに“間”を深く沈め、技の“おこり”を錯覚させる。

 

そう…深く…深く……呼吸を整える。

 

血が散り、禰豆子の動きを完璧に捉えた。

 

炭治郎は吹き飛ばした炭十郎が禰豆子に向かうと思わなかったのか、焦ったように見える。

 

いかに早くとも、刀が禰豆子の頸を落とすまでに身体も尾も決して届かない距離。

 

「「行ける!!」」

 

灰崎壱華と朽土由羅は声を揃え

 

(くぅ……すまぬ…禰豆子!!!)

 

炭十郎は心で禰豆子に謝りながら、その刃が頸に…触れた。

 

その瞬間――

 

「―…ッ!!…―ガアァァァ!!!」

 

 

キイィィーー…ー…ーーィィイン………

 

 

炭治郎による四つ這いからの咆哮

 

聞こえるより早く、衝撃が来た。

 

 

ズガアアアァァァァン!!!

 

 

「「「…っ!?っあ……!??」」」

 

抵抗する暇もなく3人が吹き飛ばされる。

 

 

炭治郎の口から全方位に向けて“なにか”強力な衝撃が広がった。

 

比喩じゃない。

明確に、格が違う。

 

 

強すぎる。

 

 

灰崎と朽土は仮面を壊されながら、刀を杖にして立ち上がる。

 

「いかん!!」

 

2人に迫る炭治郎。

咄嗟にボロボロとなった炭十郎が前に出て、刃と尾骨がぶつかる。

 

ギィン――!!

 

衝撃で、腕が悲鳴を上げる。

 

ズシャ!!!

 

「きゃ!!」

「おの…れぇ!!」

 

と、同時に肩にあった外骨が灰崎と朽土に射出され彼女達は浅くない傷を負う

 

 

ミシィ……

 

尾骨を受けた自分の腕からは嫌な音が聞こえる。

 

2刀で全力で受けているのに地に押し付けられている。

 

本体である炭治郎を見ればすでに禰豆子の横に炭治郎が四つ這いで寄り添っている。

 

 

(くっ……ここまでなのか)

 

 

討つチャンスを逃した。

 

いや、今まで討てると思っていたのが間違いだったのだ。

 

 

他の2人も限界だった。

 

 

『負ける…』本気で、そう思った。

 

 

そのとき――

 

空が、白み始めた。

 

「……朝日」

 

炭治郎は即座に動く。

 

禰豆子を抱え、背を向ける。

 

「炭治郎!!!!」

 

炭十郎が追おうとする、しかし足が言うことを聞かず膝から崩れ落ちる。

 

「炭十郎殿……!」

 

壱華も由羅も、なんとか刀を支えに立っている。

 

――(もう…見えないところまで行ってしまった…追いつけん…いや、そもそも、仲間を置いて行くわけにはいかない)

 

炭十郎は、歯を食いしばる。

 

朝日が差し込む中、

炭十郎は、もう炭治郎が去った方を振り返らなかった。

 

ただ、

禰豆子を庇うようにして、

森の奥へ消えていった姿が強く印象に残っていた。

 

(私は…なにを勘違いしていたのか…なんと弱い…)

胸の奥で、そう呟いた。

 

(……残りの人生をかける覚悟が足りない)

 

 

…………

………

……

 

 

 

三人は、鎹鴉に案内されつつ朝日に照らされる山を下りた。

 

街に近づくにつれ『戻ってきた』感覚になる。

人の声、生活の音。

 

灰崎と朽土はホッ…とため息のように息を吐く。

 

たが、微弱ではあるが――異質な気配を感じた。

 

「まて」

 

炭十郎が手を上げて、灰崎と朽土は警戒する。

 

その先。

 

三人の剣士が立っていた。

 

いずれも共に戦った事がある仲間達

 

雪之環。

獅子森誠。

陽村心太の3人だった。

 

「竈門カ…」

 

「……炭十郎?」

 

「久しぶりでござるな」

 

互いに警戒を解く。

 

とは言え、再会を喜ぶ雰囲気ではなかった。お互いが余りにもボロボロだったからだ。とは言え、陽村達は治療が終わったような様相だった。

 

「お互い…命からがらでござるなぁ…」

陽村と雪之は丁寧に巻かれた包帯をし、獅子森は以前会った時より包帯が増えて、もう…誰なのか分からないぐらいだった。

 

「フン…テメェら…楽はしてねぇみてぇだな」

 

声と話し方で分かるのは…なんと言うか、獅子森らしい、と心配しつつも笑みを浮かべた。

 

「ハァ…コレは無視出来ないナ、タマヨに頭を下げに行クカ」

「…で、ござるなぁ」

 

3人は今まで治療を、受けていた場所を紹介してくれると言う。

 

「なんと…治療院を探す手間が省けた、かたじけない」

 

仲間の温かさを感じつつ、提案に甘えることとする。

『タマヨ』と言う名前からして女性…灰崎と朽土が治療を受けるには抵抗が少なくて良いと安心する。

 

3人に連れられて日の当たらないジメジメした場所に一軒家の様な治療院があった。

 

 

「珠世殿!愈史郎殿!!先程、もう会わぬかもと言いながら出て行った手前申し訳ないでござるが、大切な仲間が傷ついている。治療してもらえないでござろうか?」

 

「陽村!獅子森!雪之!お前ら、舌の根が乾かぬ間に、よく戻って来れたなぁ!?」

ドタドタと、大きな音を立てて玄関に向かって走ってきたのは、まるで猫の様な目をした男だった。




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