鬼滅の刃 〜炭塗りの刀〜   作:サモア リナン

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第17噺です!
よろしくお願いします。(やっと書けたぁ〜)(泣)


第17噺「実る前の希望と過ぎ去った絶望」

陽村たちに導かれ、炭十郎たちはとある屋敷の塀の前に立ち止まった。

 

「…陽村殿?」

 

「大丈夫でござる。」

 

あまりにも意味のわからない行動につい、疑うような発言をする。

 

「はん、まぁそらそうなるだろ」

「巫ゥ…コトバ足らずにも程がアル」

 

獅子森と雪之が塀は幻で、ここを潜った所に病院があると教えてくれた。

 

「え?うっそぉ…」

「なんという…摩訶不思議だな」

 

そして、3人が言った通り塀を越えると、そこには外観は古びた一軒家がありつつも清潔感が漂う場所へと移り変わった。

 

炭十郎、そして灰崎と朽土は、あまりにも突然の変化に驚きを隠せない。

 

更に敷居を跨いだ瞬間、空気が変わる。

 

湿り気のある薬草の匂い。

清潔に整えられた床。

どこか、戦場とは切り離された静かな世界。

 

「…お帰りなさい陽村さん、獅子森さん、雪之さん…と、言えば良いのかしらね?…ふふ、意地悪を言ってごめんなさいね。分かっています。新しい怪我人ですね。どうぞこちらに」

 

奥から現れた女性は、穏やかな声で言った。

 

淡い色の着物。

静かな眼差し。

その奥に、底知れない理知があった。

 

「珠世殿という。拙者達も随分と世話になった…特に獅子森」

「…うるせぇ!」

陽村が小声で告げるが、獅子森に聞こえていた。どうやら知られたくなかったらしい。知らない間に全身に包帯が巻かれている状態となっているが、それでも元気そうに動けているのは彼女のおかげなのだろう。

 

彼女隣で、猫のような目の青年――愈史郎が腕を組んで睨んでいた。

 

「ここを知る者を増やしやがって……」

 

「愈史郎殿…すまぬでござるな」

「愈史郎、そんなことを言うものではありませんよ」

 

「ちっ」

 

 

陽村が謝り、珠世がたしなめても、彼は舌打ちを飲み込まなかった。

 

「……中へ。特にそこの女性の2人…重症とお見受けします。急ぎましょう」

 

――

 

灰崎壱華と朽土由羅は奥の部屋へ運ばれた。

 

仮面が外される。

 

二人とも、強がってはいたが顔面蒼白で呼吸が上手く出来ないでいた。

 

すぐさま治療に取り掛かる。珠世の手は迷いがない。

傷口を見て、すぐに眉を寄せる。

 

「これは……斬撃ではありませんね」

 

灰崎の胸部。

朽土の脇腹。

 

皮膚の下に、わずかに異物の気配。

 

愈史郎が札で麻酔を掛け、鋭利な器具を持ってくる。

 

「……斬った後に取るぞ。いいな?動くなよ」

頷く2人。

 

淀みない動きで切開し、最小限の血が流れる。

 

その中から――

 

白く、細い“骨片”が摘み出された。

 

瞬間、空気が変わる。

 

珠世の目が鋭くなる。

 

「……これは」

 

愈史郎が顔色を変えた。

 

「これ…鬼の骨だ…が、太陽に晒されてたのに消えてないだと!?!?お前ら…どんなとんでもない鬼と戦ってたんだ…」

 

骨は、まだ脈打っている。

 

「太陽を克服した鬼の骨………」

珠世の指先は震え小さく…低く…呟く。

 

「一体どんな鬼なのか…教えていただけませんか」

 

炭十郎の背筋が冷える。

 

「……私の息子…竈門炭治郎のものだ」

 

部屋が静まる。

 

珠世は炭十郎を見る。

 

その視線は、責めでも同情でもない。

 

ただ、真実を求めている。

 

「……詳しく、聞かせていただけますか?」

 

炭十郎は、しばらく沈黙した。

 

そして、静かに話し始めた。

 

「私は……鬼になった子達を討つために、鬼殺隊に入った」

 

愈史郎が目を見開く。

 

「妻を喰ったのも、子供達だ」

 

空気が、重く沈む。

 

「戻す方法があるのではないかと……探していた」

 

拳を握る。

 

「だが、分からなかった」

 

声が、僅かに震える。

 

「すでに二人……鬼となった子は、仲間に討たれ、そして、私が討ち…亡くなっている…残りの子は…4人」

 

六太の笑顔が脳裏をよぎる。

 

「……私は、父でありながら、救えなかった…斬ることしか、出来ていない」

 

沈黙。

 

珠世は、骨片を見つめたまま言う。

 

「それは…私が軽々しく物を言って良い事柄ではございませんね…しかし…」

 

静かな声。

 

「この骨は、極めて特殊です」

 

愈史郎が続ける。

 

「通常の鬼より、明らかに異質で強すぎる。だが……」

 

彼は眉を寄せる。

 

「不安定だ」

 

珠世が頷く。

 

「鬼舞辻無惨とはまた違う…新しい鬼の王と言っても過言ではないですね。それは、確かに脅威…しかし揺らぎがあります」

 

「あなたは鬼舞辻無惨を知っている?…いや、揺らぎとは?」

炭十郎が食いつく。

 

「はい…今からお伝えすることは、せめてもの誠意としてお受け取りください。私は鬼舞辻無惨に鬼にされた者です。しかし、ヤツの呪縛から逃れています。彼…愈史郎は私が鬼にした唯一の人間です。」

「間違えるなよ?俺は望んで珠世様に鬼にしてもらったんだ」

 

「なんと!?」

 

「そして、私は鬼を人に戻す研究をしています」

珠世は、炭十郎を真っ直ぐに見た。

 

「…人に…戻せるのか?」

 

「可能性は…あります」

その一言。

 

炭十郎の瞳が揺れた。

 

「……本当に?」

 

「はい。ただし――」

 

珠世は慎重に言葉を選ぶ。

 

「非常に危険です。成功例は、まだありません」

 

愈史郎が不機嫌そうに付け足す。

 

「この骨は研究を大きく進める。上弦級以上の因子だ。解析できりゃ……突破口になる」

 

珠世は静かに微笑んだ。

 

「あなたのお子さんを救えると、断言はできません」

 

「ですが、完全に諦める段階でもありません」

 

炭十郎は、息を吸い込む。

 

胸の奥に、微かな火が灯る。

 

(……まだ、希望があった……)

 

強く、拳を握り、しかし涙ご自然とこぼれ落ちた。

 

その話を聞いていた灰崎が治療を受けながら弱々しく笑う。

 

「……炭十郎さん、軽々しい言葉でごめん

…だけど言わせて…よかったね…」

 

朽土も目を閉じたまま言う。

 

「…うむ…希望だな」

 

「あぁ」

そして炭十郎は、珠世に深く頭を下げた。

 

「珠世殿……どうか、力を貸してほしい」

 

「もちろんです」

 

即答だった。

 

「鬼を人に戻す。それは、私の願いの“最終段階”なのですから」

 

 

――

 

 

これは確実に今まで無かった希望だった。

 

しかし、その同時刻…炭十郎と陽村、獅子森、雪之、灰崎、朽土の鎹鴉達が重大な報告のため珠世の屋敷に降りてきた。

 

愈史郎の血鬼術がかかっていたならば見つけられなかったが今は日が刺している時間。

 

それはつまり、珠世の存在を産屋敷が認知するには十分な情報となった。

 

 

鎹鴉・ヤマト達が飛び込んでくる。

「タンジューロー!」「しんたー」「まこっちゃん!」「ユッキー!」「イチカチャーン」「由羅殿!」

 

珠世と愈史郎は隠れ家の場所がバレたことを察する。

 

しかし、その内容は非常に重かった。

 

嫌な予感が走る。

 

「「「「「「報告(ほうこく)!!」」」」」」

 

一拍。

 

「音柱――宇髄天元が」

 

空気が凍る。

 

「蟲柱、胡蝶しのぶと協力して上弦の祿と交戦」

 

誰もが、息を忘れた。

 

「相打ちにて――宇髄天元死亡を確認、胡蝶しのぶは軽傷!!」

 

言葉が、落ちた。

 

部屋の温度が、さらに下がった気がした。

 

「「「「な!?」」」」

「アレほどの柱でも…上弦には相打ちとなるのか!」

 

陽村が目を伏せる。

 

獅子森は、奥歯を噛み締めた。

 

雪之の指が震える。

 

灰崎と朽土は余りの衝撃で固まっている。

 

ヤマト達は続ける。

 

「生存者は――栗花落カナオと、神崎アオイ、そして応援に駆けつけた胡蝶しのぶのみ」

 

静寂。

 

貴重な一柱と多くの命が失われた事を意味していた。

 

炭十郎は目を閉じる。

 

(なんと言う事だ…)

 

同時に。

 

(今回のことでどれだけの絶望と悲しみが生まれたのか…だが、それでも…まだ)

 

守るべき者がいる。

 

救えるかもしれない者がいる。

 

炭十郎は失われた者へ精一杯の哀悼を行い、顔を上げた。

 

瞳の奥に、静かな決意が戻る。今ここにいることでできること。

 

「……珠世殿、厚かましくも…お願いがあります」

 

「………」

 

「竈門炭十郎!キサマ、まさか!!」

 

珠世が俯き、愈史郎は激昂する。

 

「私は戦うことしか出来ない、斬る事でしか救う手段のない愚か者です。しかし、あなたは違う…鬼でありながら人のために尽くされている…解決策が我々とは異なる。先ほどは私の個人的な協力の申し出でしたが…今は状況が変わりました……より多くの人を救うため…鬼殺隊に協力していただけないでしょうか?」

 

炭十郎は深々と頭を下げる。

 

それは土下座と言われるものだった。

 

柱まで上り詰めた者が土下座までする。

 

その事実は愈史郎の言葉を詰まらせるには十分な衝撃だった。

 

「……考えさせてください。」

 

炭十郎は頭を下げながら、拳を握った。

 

「早ければ早いほど救われる者が増えます。子供のために…いや…人のために…残りの人生を、使い切りたいのです。できることは何でもしたいのです。」

 

それは誓いだった。

 

失った者のために。

 

まだ、失われていない者のために。

 

そして――

 

人に戻せるかもしれない、

わが子だけではない…他の鬼にされた人のために

 

 

珠世は震える両手を握り、答えた。

 

「そう…ですね。分かりました…」

 

 

かくして、鬼舞辻無惨により生み出されし悲しき鬼は鬼殺隊へと合流する事となった。

 

 

 

 

蝶屋敷にて。

 

整えられた庭。

風に揺れる藤の花。

薬草の匂い。

 

血の匂いは、ない。

 

だが、その静けさは決して平穏ではない。

ここは戦場の裏側。

生き残った者が、かろうじて命を繋ぐ場所だった。

 

 

病室の中。

 

二つのベッドが並んでいる。

 

そこに横たわっているのは

栗花落カナオ

そして

神崎アオイ。

 

二人とも眠っている。

 

だが、それは安らかな眠りではない。

 

全身に巻かれた包帯。

胸の呼吸は浅く、時折苦しげに震える。

 

部屋の中央で胡蝶しのぶが静かに立っていた。

 

普段とはあまりにも異なる表情。焦燥・疲労・不安

 

その瞳には、影があった。

 

「……縫合、もう一度確認します」

 

声は穏やかだった。

 

しかし、その手は一切の迷いなく動く。

 

糸を結び、傷口を整える。

薬を塗り、包帯を巻き直す。

 

その動きは、まるで儀式のように正確だった。

 

その横で、三人の少女が必死に働いている。

 

「キヨ、止血薬」

 

「は、はい!」

 

小さな手が震えながら薬瓶を差し出す。

 

「ナホ、脈拍」

 

「安定しています……でもまだ弱いです」

 

「すみ、冷却を」

 

「はい!」

 

三人とも顔色が悪い。

 

しのぶなど続けて三十時間。

 

ほとんど休まず治療を続けていた。

 

それでも誰一人、弱音を吐かない。

 

しのぶは静かに言った。

 

「……もう少しだけ、頑張りましょう」

 

それは命令ではない。

 

祈りに近かった。

 

カナオの胸に手を当てる。

 

鼓動はある。

 

かろうじて。

 

「宇髄さんが…須磨さんが、まきをさんが、雛鶴さんが…守ってくれたお陰で、この2人は生きている…」

 

小さく呟く。

 

戦場の最後。

 

音柱・宇髄天元は二人を庇いつつ、妓夫太郎の首を狩り…そして事切れた。

 

その記憶が、まだ鮮明だった。

 

しのぶは目を閉じる。

 

胡蝶は宇髄がこの2人を連れて行ったと聞いたとき、居ても立っても居られなかった。だから…自分も遊郭に向かった。

 

追いついた時はみんなボロボロだった。しかし私が合流した事で戦略に大きな幅が生まれた。宇髄さんと私で妓夫太郎を抑えて、カナオと恐怖を乗り越えたアオイが堕姫を相手にしていた。宇髄さんの奥さん達と隠の支援のお陰で有利に戦闘を進める事が出来ていた。

 

余裕とまでは言わないが、『それだけ』ならば宇髄は死なずに勝てる状況だった。

 

…新しい上弦の撥(はち)さえ現れなければ…

 

(……あの上弦が血鬼術を使って戦況が変わった…)

名前は分からない、しかし妓夫太郎の血鬼術とは違う広範囲攻撃型の血鬼術だった。

 

しかも、血鬼術を発動直後に周りの一般人を盾にしつつ、死なない程度に喰い散らかしながら逃走したため、妓夫太郎を相手にしながら追うことは、ほぼ不可能だった。

 

(…今度会った時は…絶対に逃さない、確実に毒で討伐してやる)

 

 

あまりにも悔しい出来事、しかし今は涙を流さない。

 

「まだ、終わっていませんからね」

 

包帯を結びながら言う。

 

「この子たちは生きています」

 

だから――

 

止まれない。

 

キヨが小さく言った。

 

「しのぶ様……少しだけ休んでください」

 

しのぶは微笑んだ。

 

「大丈夫ですよ」

 

だが、その目の下には濃い影があった。

 

それでも手は止まらない。

 

カナオの指が、微かに動いた。

 

「……!」

 

キヨが息を呑む。

 

だが、それはただの痙攣だった。

 

まだ、目は覚めない。

 

しのぶは静かに布団を整える。

 

「今はまだ眠っていてください」

 

「起きたら、きっとまた忙しくなりますから」

 

 

――

 

 

場所が変わって珠世邸の別室。

 

炭十郎は机に向かっていた。

 

筆を握る手が止まる。

 

宛先はただ一人。

 

鬼殺隊当主、産屋敷耀哉。

 

しばらく迷い、筆を走らせる。

 

「――拝啓、産屋敷様。

 

先の戦にて、

音柱・宇髄天元殿が上弦の鬼と相打ちとなり殉職された事、

深い哀悼を捧げます。

 

私は現在、ある協力者を得ました。

 

鬼舞辻無惨の呪縛から逃れた鬼、

珠世という者と、その助手・愈史郎です。

 

彼女らは鬼を人へ戻す研究を行っており、

今回の戦闘で得た私の息子、炭治郎の鬼の因子が、研究の突破口となる可能性があります。

 

どうか、珠世殿と愈史郎殿の研究を

鬼殺隊の協力のもと進めさせていただけないでしょうか。

 

さらに――

 

もし可能であれば、

一度だけでも夜中の面会の機会をいただけませんでしょうか。

 

無理を承知の願いであることは重々理解しております。

 

しかし、この研究は鬼殺隊の未来を変える可能性があります。

 

どうか、ご検討いただきますよう、お願い申し上げます。

 

敬具

竈門炭十郎」

 

炭十郎は筆を置き深く息を吐く。

 

封を閉じると、鎹鴉ヤマトが静かに降りてくる。

 

「タンジューロー……」

 

「頼めるか」

 

鴉は羽を広げた。

 

「任せろォ!!」

 

窓から夜へ飛び立つ。

 

炭十郎は椅子に深く座った。

 

静かな屋敷。

 

遠くで薬を煎じる音が聞こえる。

 

戦いは、まだ終わっていない。

 

だが――

 

希望もまた、確かにそこにあった。

 

 




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