よろしくお願いします
誤字報告ありがとうございます(^^)
刀鍛冶の里は、静かだった。
山に囲まれたこの場所には、外界の喧騒が届かない。
鉄を打つ音すら、どこか穏やかに響く。
そんな里の、とある一角にて――
「……まだですか」
炭十郎は、ぐったりと座り込んでいた。
ほぼ裸の褌(ふんどし)一丁。
腕を広げられ、指の一本一本まで測られている。
「動かないでください」
刀鍛冶の男が淡々と言う。
「肘から手首まで、あと少しで終わりますので」
「……これで“あと少し”は三度目だが」
炭十郎は小さく息を吐いた。
周囲には複数の鍛冶師。
紙と筆を持ち、細かく数値を書き込んでいる。
腕の長さ。
肩幅。
掌の厚み。
指の可動域。
すべてが記録されていた。
「二刀で戦う以上、もう…誤差は許されません」
別の鍛冶師が言う。
「特に貴方のように“柱“となった者は」
炭十郎は苦笑した。
「高く評価してもらえるのは嬉しいが……」
(ここまでとは思わなかったな)
額に汗が滲む。
ある意味、戦闘よりも疲労している。
その様子を、少し離れた場所で見ていた少女が笑った。
「柱なんですから、しっかりして下さいね」
田中姫乃だった。
彼女の右腕――
そこにはカラクリ仕掛けの木造義手が装着されている。
金属と木で構成されたその腕は、彼女自身が1から考案・作成し調整中だという…数名の鍛治師に協力してもらっているらしいが…設計図に関しては彼女だけで作成したらしい。
相変わらず、とんでもない頭脳の持ち主である。
「笑ってくれるな…姫乃殿」
炭十郎がため息を吐きつつ
「次は貴殿の番だろう」
と切り返す。
「う……」
姫乃の表情が引きつる。
カラクリ義手の最終調整は明日。
それが終われば、実戦投入が可能になる。
「あれ痛いのよねぇ…まぁ…でもさ」
姫乃は義手を軽く振った。
「これさえ終われば、やっと“戦える”って感じがするのよね」
今の発言から分かるように、彼女は日常生活を営むうえでの義手は既に完成している。
今の話はさらに上の段階…鬼との戦闘に耐えうる戦闘用・カラクリ義手の“最終調整日”だと言う
「私はカラクリには詳しくないが…それは…かなり早いのではないか?」
それを聞いた鍛治師達は物凄い勢いで首を横に振っている。
「いやいやいや!早いなんてもんじゃないっすよ!」
「田中さんの頭脳が化け物過ぎて、最近…感覚がおかしくなってきました」
「私達だけだったら…縁壱零式の修繕すら出来ませんでしたよ」
「助手になった小鉄少年の成長も著しく…怖いぐらいです」
彼らの目は“ひょっとこ”のお面を被っているにも関わらず、どこか遠い目をしているのがみてとれた。
炭十郎は頷く。
「やはりか、私も田中殿は相当な傑物だと思っていた…ところで、その小鉄少年とは?」
「えへへー!褒められちゃった!」
田中姫乃は褒められたことで機嫌が良くなる。
優秀な田中の助手となる人材。
気になったため質問したその時。
外から声が飛んできた。
「炭十郎さーん!稽古しよーよー!」
「む?…この声は、よもや」
まだ会ったことはないが恋柱殿…の継子となった肉蝮かな子だった。
大柄な体に似合わず、軽快な足取りで入ってくる。
「うぅむ…炭十郎殿、測定とやらは終わったので?」
「……終わっていない」
「うっわー、大変そー…不死川師匠も刀の調整、苦労したって言ってたもんなぁ」
「はぁ!?お前の師匠って風柱様なの!?」
笑い声の後に驚いた声が響く。
石野川門。
風柱の継子、五十嵐甚兵衛。
そして――
村田むら太だった。
「…そろそろ、稽古をしたいのだが?…」
「「「え〜…」」」
測定がひと段落したため、鍛治師達に戦闘の様子を見せると言う条件で稽古の許可を得ることが出来た。
「…これも新しい刀を作ってもらうためか…征くぞ、伊邪那岐神楽 壱ノ手 禊(みそぎ)」
「よーーーーし…行くわよ!痣付ノ(あざつきの)咆哮爆息!!」
「 拙僧の斬鉄技も…強くなったでござるぞ?…禅の呼吸 弐ノ型 無二断」
「痣付ノ風呼吸! 伍ノ型 たぶん…木枯らしいぃぃ!」
「痣者はずるいです。にしても呼吸名…いい加減おぼえなさいよ!“こがらしおろし”でしょ!?風柱様が可哀想過ぎるわ!!螢の呼吸 肆ノ型 霞揺らぎ」
「はっや!?いやいや、嘘でしょ…俺だけ弱すぎじゃないか!?くっそー
ー…村田の呼吸 伍ノ型 負けん気斬り!」
シャン…ドッゴン!…チリン…ゴゥ!!……スカァ…どっかぁーん!!
強い踏み込み。
呼吸は使えないが痣による能力上昇。
極みに近い呼吸。
痣と呼吸を併用した新しい戦法
…強化されたのに覚えられていない型名。
盛大に躱される音。
吹っ飛ぶ村田。
それぞれが、それぞれの強さを再確認した。
炭十郎の神楽も、その光景の一つとなった。
(……うむ)
皆、差はあるが、確実に実力が上がっている、その実感があった。
更に途中から
「おもしれぇ事してんじゃねぇか、俺も入れろ!!」
と風柱の弟である不死川玄弥も稽古に合流する。
彼は日輪刀と南蛮銃を使うのが戦闘スタイルらしいが、流石に木刀のみで戦っていた。
だが、五十嵐甚兵衛が風柱の継子だと知ってからは稽古とは言えない状況となった。
「うっわ!何で俺ばっかり狙うんだよ!?」
「うるせぇ!…なんで、何で、テメェなんかがぁ!!」
執拗に五十嵐を狙うのだ。
風柱の継子である事が原因なのは明白だ。
「(兄である実弥殿と根深いものがありそうだ…が)…これは稽古だ。そのような姿勢では学びは得られないぞ?」
「うるせぇって言ってんだろーが!!俺だって!俺だってぇ!!」
カン、カン、カン!
木刀で打ち合う音が鳴り止まない
何を言っても聞く様子がない。
どうやら、今は腹に溜まっているものを吐き出す時期のようだ。
これも柱の務めかと炭十郎は考える。
「相手は私がしよう
…教えてくれ、玄弥殿の考えを…思いを」
「〜…ッ!!? 柱だからって偉そうに!!
なったばかりのくせに!」
「うむ、そうだな。
まずは語る前に感情を吐き出さねばな。真の想いは、全て吐き出した後に見つけやすくなるものだ。玄弥殿の最も深い部分にあるのだろう…探す手伝いをさせてくれ」
「知った口を聞くなぁ!!」
「あぁ、だから今は…ただ、ひたすらに来い!!!」
ガキィィン!!!
玄弥は危うい。
感情の波が激しく本来なら炭十郎があまり積極的に関ろうとする人種ではない。しかし、全く似ていないのに炭治郎と“どこか”重なり、無視できなかった。
そして…
「ハァ…ハァ…ハァ…うぐ……
にい…ちゃん…信じれ…なくて、ごめ、ゲホ!!!
…
にい…ちゃん…は、世界で…いちばん…優しいんだ…」
「その想い、皆が…しかと聞いたぞ」
倒れている玄弥の肩に慈愛の籠った笑顔で頷く炭十郎。
どれほどの時間が経ったのか、立つ事が出来ないほど…どころか口を動かすこと以外何も出来ないほど疲労した玄弥が語った事は、どこまでも純粋な兄への想いだった。
「「「…玄弥」」」
玄弥をみる仲間達の見る目は変わった。
そして、同時に炭十郎への見る目も変わった。
「「「「…やり過ぎです(でござる)」」」」
今の表情をする者は本当に同一人物か疑ってしまうほど、あまりにも容赦のない稽古内容に誰もが同情し、村田に至っては泣きながら目を覆っていた。
なにせ優しい語りかけで導きつつも、どんなに疲れても、倒れても休ませても貰えない、無理やり立たせられ受けなければタダで済まなさそうな勢いで木刀を振り抜かれるので文字通り“必死”で受けるしかない。
さらに
「身体の使い方を知らないのだな」
「呼吸の仕方を知らないのだな」
「他を伸ばした方が速そうだ」
など微妙に傷付く言葉を選び、
しかも炭十郎は「大丈夫、玄弥殿なら出来る」
「まずは事実として自分を知ることが大切だ」
と、それを良い事として言っているつもりなのだ。
鍛治師達もお互いを抱き合って震えていた。
「やっぱり、柱になる人はどこか変だ…」
とは、誰の言葉だったか…
ただ、この稽古で鍛治師達が知りたい情報が多く手に入ったのか早速、鍛治師は作業に取り掛かっていた。
その後も玄弥以外の稽古は続き、一段落した頃には、日が傾き始めていた。
玄弥は極度に疲労していたが、炭十郎が「今が大事な時だ」と帰らせなかった。
頭がまっさらな状態で皆の稽古を観察する“観(かん)稽古”とするため倒れながらも残らされていた。
そして
「一旦、解散にするか」
炭十郎が提案し、皆が同意する。
里の空気は穏やかとなり、先ほどまでの緊張もどこかへ溶けていく。
「そうねー」「明日もあるし」「良い頃合いでござるな」「またなー」
「ゼェ…ハァ…ハァ、なんで…あの…稽…古で、そんな…ちょっと疲れたぐらい…な感じ…なんだよ……うっぷ…」
「うむ、やり過ぎは良くないからな」
「「「「「あんたが言うな!!」」」」」
それぞれが、休息や食事、どちらかを目的に解散する。
(……充実した稽古だったな)
炭十郎は借りていた宿の温泉で汗と汚れを落とし、夕食に舌鼓を打つ。
そして…布団で充分な休息を取った。
翌日。
朝稽古として外出した先で肉腹かな子と、その師匠である甘露寺蜜璃と出会う。
「恋柱、甘露寺蜜璃殿とお見受け致します。私は神楽柱となった竈門炭十郎と申します。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
と、まずは取り止めのない挨拶から自己紹介する。
「キャー!竈門さん、話は聞いていたわ!こちらこそ、お祝いも言えずごめんなさいね。柱への就任おめでとうございます!大人の余裕があってかっこいいわぁ!!」
「師匠…そう言うの誰にでも言うのやめた方が良いですよ?(伊黒さんが可哀想だし)」
「…はは…ありがとう、甘露寺殿」
なんとなく、甘露寺蜜璃がどのような人物か分かったような気がした。
「よろしければ、朝の稽古にお付き合い頂いても良いでしょうか?」
他の柱と稽古する機会は少ない。貴重な経験として提案をすると甘露寺も大きく頷いた。
「あら?あらあらあら!?お誘いされちゃった!
嬉しいわぁ!うん、是非お願いしたいわ!
あ…かな子ちゃん、滅多にないんだから、ちゃんと見ててね」
「感謝いたします」
「じゃ、行くわね!恋の呼吸!!」
「よろしくお願いします…伊邪那岐(いざなぎ)神楽!」
朝の軽い挨拶から始まった柱稽古は実に充実した物でお互いが相手の実力を褒める言葉が止まらなかった。
「んもぉ!炭十郎さん、なんて凄いの!?感動しちゃった!特に型と型が全部繋がるなんて隙が無いし、あったと思ったら罠だなんて素敵だわ!」
「いえいえ、甘露寺殿こそ膂力と柔軟性を最大限に活かした型の数々…この領域に至るまで限界を超えて積み重ねた努力が垣間見えました…心から感服しました」
「きゃー!!おじょーずー!」
「なにこれ…いやいやいや、2人とも強過ぎ…これが“柱”…限界を超えなきゃ近づくことも出来ないなぁ…」
「あ!!かな子ちゃん!“アレ”は本当に駄目よ?」
「う…しまったぁ…分かってま〜す」
充実した朝稽古に満足する柱2名と、その様子を唯一見ていた肉蝮かな子は、その実力に空いた口が塞がらない。
そして、意味深な事を言った肉腹かな子に何やら釘を刺す恋柱…
「(私が口を出して良いことではないな)」
気にはなるが、流石によそ様の問題に口を出すほど野暮ではない。
かな子は昨日の稽古は自分たちに合わせてくれていたのだと嫌でも理解して少し落ち込んでいた。
稽古後はお互い別々に分かれて、朝食後にそれぞれの目的を遂行する。
炭十郎は昨日同様、二刀流の日輪刀作成の協力と自己鍛錬を行っていた。
その繰り返しが2日ほど続き、さらに知った顔が増えた。
「あーら、何だか知った顔がチラホラ…なによ…村田先輩までいるじゃない…相変わらず、冴えない顔してるわね」
「げ、お前…は、捨木彩子(すてぎ さいこ)!!」
「“げっ”って何よ?失礼しちゃうわ」
哪蜘蛛山で共に戦った面々が集う。
懐かしく思いつつ、これほど多くの隊士が刀鍛冶の里に来なければいけないほど鬼との戦いは身体と刀の疲弊が大きい結果だと考えると複雑な気持ちとなった。
更に炭十郎は小鉄少年と田中姫乃が改修した縁壱零式と稽古をしてみる。「確かに、動きは早く6つの腕から繰り出されるヒノカミに似た型の数々に目を見張るものがあるが…単純な動きで連携も応用も出来ない…はっきり言って申し訳ないが…戦えても下弦の鬼では通用しないかと」
と率直な意見を伝えた。
小鉄少年は「やっぱりかぁーー」
と頭を抱えてがっかりしていた。
戦闘用のカラクリ腕(かいな)の調整が終わった田中姫乃も
「むー!良いところまで出来たと思うのにー!」
と悔しそうだった。
「「いやいやいや!十分すぎるほど強いから!!!(ですわ!!)」」
とは、先に縁壱零式と2対1でボロボロになった村田と捨木の言葉である。
刀鍛冶達からも「何言ってんだこの人たち…普通の鬼と戦えるなら十分でしょ!!」
と突っ込まれていた。
その後は「炭十郎さーん!新しい刀が出来ましたよー」
と、新しい刀が出来たことの報告を受け、早速取りに行く。
カチャ…ブン…シャン…
太陽が沈む間際の夕方、新しい二刀で舞う姿はその場に居合わせた者全員の目を奪うほどのものだった。
「ちっ!!あんなもん見せられちゃ…俺は…」
「むう、流石でござるなぁ」
「炭十郎さんと実弥師匠だったらどっちが強いんだろ」
「こら!そんな事聞いちゃダメだからね?」
「うわぁ…無駄がないってこう言うことなのね」
「お師匠との朝稽古は差がわかるほどの“実践形式”じゃなかったから、どっちが強いか分かんないなぁ」
「え!?かな子、柱同士の稽古見たの?」
「うん」
「「「羨ましい!!」」」
などなど
賞賛の声が上がっていた。
惜しみない拍手は受けて悪い気はしない。
むしろ、気分を高揚させ、自然と笑顔となる。
が――
その時。
一時…風が止んだ…気がした。
誰も気づかないほど、わずかに。
嫌な“間”…炭十郎は顔を上げる。
(……何だ?)
遠く。
知りもしない里の外縁。
何かが、蠢いた気がした。
更に…カン、と。
どこかで金属が鳴る音がした。
誰も反応しない。
炭十郎だけが、聞こえて…いや、“感じて”いた。
(嫌な気配だ)
その夜。
静寂の底で――
壺が、ひとつ。
音もなく開いた。
それから数刻…
■小鉄のからくり工房
炭十郎と田中姫乃は、縁壱零式専用の小鉄の工房へと足を運んでいた。
中では、小鉄が忙しなく動いている。
中では木を打つ音と歯車の音が、絶えず鳴り続けていた。
「来ましたか!」
小鉄が振り向く。
「ちょうどいいです!田中師匠!絡繰義手の確認をさせて下さい!」
「まだやるのか……」
炭十郎が小さく呟く。
姫乃は苦笑した。
「あはは…小鉄くんって熱くなると止まらないのよね、さ!やるわよ」
彼女は義手を外し、作業台へ置く。
小鉄の目が鋭くなる。
「師匠譲りですよ!今日は最終調整後の経過観察ですもんね。どんなに耐久性の高い戦闘用絡繰義手だとしても摩耗するものは必ずあります。それを見極めて代替品の選定もしくは予備品の作成基準の骨子を作成するのが今日の課題です。継戦能力を高めなければ意味はない…聞いた時は愕然としましたが、本当にその通りです。どれだけこの水準の性能を維持できるのか…死活問題です!」
「なるほど?」
口早に、なんだか難しい言葉が出てきたため、意味はよく分からなかったが、空気が変わったのは肌で感じた。
軽口は消え、2人は職人の顔となる。
炭十郎はその様子を見ながら、新しい二刀を軽く振る。
(…なにやら難しい事を言っているな、それはさておき…うむ、戻ったな)
身体の傷は癒えた、刀も新しく打ち直してもらった。
ここに滞在したお陰で万全となった。
後は戦いに行くのみ。
(明日からは、また戦いの日々だな)
この調整の後、田中姫乃から絡繰義手の性能確認のため、模擬戦を依頼されている。
それが、この里で出来る最後の役目だ。
明日には去ることとなる。
少し、寂しい……
そんな気もした。
「んー、やはり関節部分の摩耗が激しいなぁ、とは言え…この樹液を固めたもので保護すれば、かなり抑えられますね。…よし!今日はこんなもんですかね!!」
小鉄が呟く。
姫乃の義手が、滑らかに動いた。
指が開き、握る。
違和感はない。
「私1人じゃこれほど早くここまで至らなかったわ。流石、小鉄くん……いける」
姫乃が言う。
「姫乃師匠に教えて貰わなきゃここまで出来なかったですよ。…本当に…絶対に…間違いなく…」
その目には、田中姫乃への尊敬の眼差しが込められていた。
「やーねー!言い過ぎよ」
そう言いながら嬉しそうな田中。
炭十郎は頷く。
「では、さっそく試してみるか?」
「「はい!」」
2人が元気よく返事した、その時だった。
「「「ん?」」」
ポタ……
何かが落ちる音。
炭十郎は音のした方を見る。
床には水。
いや。
天井から粘ついた液体が落ちている。
ゆっくりと、上を見る。
そこに。
「……壺?」
見慣れない壺が、ひとつ。
逆さに張り付いていた。
次の瞬間。
ヌルリ、と。
中から“何か”が動いた。
「鬼だ!」
「うそ!?入り込まれた!」
「そんな!!」
壺から出てきた鬼は名乗りをあげる。
「上弦の伍・玉壺である」
空気が重くなる。
炭十郎はその場でいつの間にか、静かに抜刀していた。
玉壺が嗤う。
「おい女…その腕を渡せ…美しい……壊すのが惜しいと思うほどに」
玉壺は田中姫乃の絡繰義手を見てうっとりしていた。
炭十郎は静かに構え姫乃も抜刀しつつ義手が唸った。
「上弦の伍…嘘でしょ…!!」
「田中殿、下がりなさい」
「えぇ…悔しいけど、私は足手纏いね、だから」
「「「「ギョギョ、ギョギョ、ギョギョ!!」」」」
「この気持ち悪い魚達の対処をするわ!小鉄くん、縁壱零式を起動して!」
「もうやったっス!」
炭十郎は頷いた。
「流石だ、そちらは任せた」
3人と一体で上弦を迎え撃つ。
――
■宿舎
肉蝮かな子は、畳の上で大の字になって寝転がっていた。
「はぁ〜……やっと、筋肉痛が治ったぁ…師匠の訓練は厳しすぎる〜…」
その隣で、石野川門が静かに刀の手入れをしている。
手入れすら無駄のない動き。
呼吸すら一定だ。
「師匠が柱で稽古を付けてもらえる…拙僧としては羨ましい限りだ、文句は言うべきではないでござる」
かな子が横目で見る。
「そうなんだけどさぁ…甘露寺師匠には腕相撲でも勝てないし、女としても負けてる気がするし…“奥の手”は禁止されてるし、精神的にも参っちゃうのよ…と言うか、アンタはどうやって、そこまで強くなったのよ?」
「柱とはいえ…かな子殿に単純な力で勝つ…でござるか?うむむ…果てしない…、拙僧は…鬼殺隊以外の仲間が出来たのだ。毎回ではないが自称、大泥棒と銃の達人と行動する事がある、そのお陰でござるかな」
「甘露寺師匠は私以上の特別だからねぇ…ねぇ?それって大丈夫なの?」
「卑怯で卑劣な者しか相手にせんから大丈夫でござる」
「え〜…そうなのかな?なんか、ヤバそうな事してるね」
そこへ、襖を開けて五十嵐甚兵衛が入ってくる。
「風呂、空いたぞ」
「やった!!もー!遅いよ」
「すまん、すまん」
その後ろから
「ヒィ〜〜〜…申し訳ございません、お許し下さい…恐ろしいぃ〜」
突然、泣きながら這いずり部屋に入ってきた鬼がいた。
不自然なのに自然と……
あまりにも不気味な年老いた鬼
その瞳には“上弦・肆”の文字
肉腹かな子が跳ね起き、石野川門と五十嵐甚兵衛は連携して放った抜刀術で鬼を十字に切り裂いた。
瞬間…
4つの肉片がそれぞれ人型の鬼へと変化した。
積怒(せきど)
可楽(からく)
空喜(うろぎ)
哀絶(あいぜつ)
「ヤバい!!」
かな子が危機を感じ取り石野川と五十嵐の襟を掴んで、一緒に強制的に外へ退避した。
振り返る間もなく
………ドッー……ゴォォォォォオン!!
今までいた宿舎は原型が分からなくなるほど破壊される。
「「うわあぁぁ!!」」
「キャー!!」
雷と暴風、超音波が同時に襲ってくる。
そして…
「…とても、悲しい…」
そんな台詞と共に空中に投げ出された肉腹の腹部を槍が貫いた。
■里の外れ・木陰
村田むら太は、地面に座り込んでいた。
「はぁ……疲れた……」
その前で、不死川玄弥が黙々と木を殴っている。
ドン、ドン、と鈍い音。
拳は既に赤く腫れている。
「お前さ……」
村田が言う。
「休めよ」
「うるせぇ」
即答だった。
玄弥は止まらない。
「強くならなきゃ意味ねぇんだよ」
その言葉に、村田は何も返さなかった。
葉が揺れる。
その音に混じって――
“もう一つの呼吸”があった。
村田が顔を上げる。
「……隠れずに出てきなよ」
「いやだわ!何でばれたのかしら」
木陰から出てくる捨木彩子
「お前の“気配”特徴的だからなぁ」
「「気配?」」
村田むら太の言葉に首を傾げる2人
さらに
「今……他に誰かいなかったか?」
村田が質問する。
捨木は
「いいえ?私だけですわ。あなたの無様を見てたのは」
「お、お前なぁ…」
いちいち毒を吐く捨木
その後ろ…森の奥。
何もいない…はず…だが。
村田の冷や汗は止まらない。
「いや、本当にふざけてる場合じゃなくてさ」
その時、
ザッ……
背後で、土が踏まれる音。
玄弥と村田が振り向く。
「……誰だ」
玄弥の台詞に返事はない。
だが、そこに“立っていた”。
人の形。
だが、人ではない。
顔は見えない。
ただ、歪んだ圧だけがある。
村田が息を呑む。
「……なんだ、あれ」
鬼。
だが、これまでのどれとも違う。
「なん…だ、この圧…まさか…?」
玄弥が呟く。
その声には、確信があった。
「冗談はやめて欲しいですわ…でも、この感じ…前戦った下弦の鬼が可愛く感じますわね……」
「って事は…上弦なのか?嘘だろぉ……」
不死川玄弥、村田むら太、捨木彩子、誰もが絶望を感じる。
影は無邪気に笑う、その瞳には“上弦・漆”
「ねぇ…お父さんはどこにいるの?おねぇちゃんと弟を殺したんだよ、許せない…絶対に父親失格だよ。だから…僕が食べてあげるしかないんだ」
――
その瞬間。
里の三箇所で、同時に。
三体の上弦との戦いが始まった。
読んで頂きありがとうございました!