鬼滅の刃 〜炭塗りの刀〜   作:サモア リナン

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那田蜘蛛山の話はかなり好き!

書けることが嬉しい!!

誤字報告ありがとうございます 


第7噺「那田蜘蛛山の家族蜘蛛」

 夜が深く、月が白い。

 蝶屋敷の廊下に、風が吹き抜けた。

 

 その風に揺れた蝋燭の影が、炭十郎の横顔を照らす。

 廊下の先では、胡蝶しのぶが静かに文を差し出した。

 

 「竈門さん、お館様からの指令です。準備が整い次第、那田蜘蛛山へ向かって下さい。鬼がいるかは不明です……ですので、先遣隊として出立して下さい」

 

 「承知した。随分と休ませて貰ったうえに……世話になった」

 炭十郎は深く頭を下げた。

 

 「はい。どういたしまして」

 しのぶは微笑みを浮かべ、しかしその瞳には真剣な光を宿していた。

 「私はここで五十嵐くんと肉蝮さんの経過を見なければいけませんので、同行はできませんが――皆さんで、無理はなさらないで下さいね」

 

 後方で将棋を打っていた陽村が眉を吊り上げた。

 「全員で行かないのでござるか?」

 

 五十嵐が駒を握ったまま口を尖らせる。

 「え……俺達は留守なのか?」

 

 肉蝮も腕を組み、むくれて言った。

 「皆、鬼討伐に行くのに私達がここで寝てるなんて……納得いかないね」

 

 しのぶはぴたりと笑みを消し、冷ややかに告げた。

 「何を言っているんですか。あなた達は“痣者”です」

 

 その声音は静かで、それでいて空気を震わせるほどの威圧感を帯びていた。

 

 「今まで発現した者は、長くとも二十五歳で命を落としています。中には自ら命を絶った者もいる……だからこそ、お館様の家系で秘匿されていた。

 ですが、あなた達が生き延びれば“痣の発現”そのものを隊の力として取り入れられる。自らの立場――自覚を持ちなさい」

 

 現柱の冷気を孕んだ声音に、二人は背筋を伸ばした。

 「「……すいませんでした」」

 

 廊下に緊張が走る。

 

 陽村の相手をしていた石野川が、細い目を開けて静かに言った。

 「ふむ、また共に戦おうぞ。して、今回は最低でも二班に分けて動く必要がある……という事だな。拙僧はどのような班でも構わんぞ」

 

 「阿呆が……しっかり自分で決めろ」

 獅子森が低く吐き捨てる。

 

 「何かあった時に誰かのせいにする気か? 覚悟の重みが変わるんだ。テメェだけの命じゃねぇ、仲間も背負ってんだぞ」

 

 「む……そうだな。すまぬ、考えさせてくれ」

 

 「応よ」

 

 雪之が肩を回し、鼻で笑った。

 「吻(ふん)……先遣隊ハ、何ノ情報モない。慎重に越した事はナイ」

 

 炭十郎はその光景を見渡し、静かに頷く。

 「……良い顔をしている。出立は明朝、午の刻。支度を整え、今夜は英気を養おう」

 

 そう告げた瞬間、外の風が障子を鳴らした。

 

パチン

 

「王手でござる」

 

 陽村と石野川の将棋に勝敗が付く。

 

 獅子森と雪之は木刀を握り直した。

 

 「拙者達が担うは重要な役目…

鬼がいたら必ず討伐するでござるよ」

 

 獅子森が鼻で笑う。

 「途中で逃げんなよ」

 

「陽村は気の入り方が弱めだもんね〜」

「おろろ?参ったでござるな」

灰崎がニヤニヤしながら腕を組んで目線を寄せ、陽村は頭をポリポリと搔く。

 

「だが!気合いが入った時は凄まじかった。頼りにしておるぞ!」

続いて朽土が褒めると背筋が伸びて照れていた。

 

 笑い声と共に、部屋の空気が少しだけ軽くなる。

 全員が立ち上がり、月明かりの中へ出た。

 

 ――風が、吹いている。

 夜の匂いの奥に、微かに血の香が混じっていた。

 

 誰もまだ知らなかった。

 その山が、彼らの“運命”を変える場所になることを。

 

 

 夜が明けてすぐ朝食を食べ出立準備を始めた。玄関には肉蝮かな子と五十嵐甚兵衛…

 

そして

 

神崎 アオイ、中原 きよ、高田 なほ、寺内 すみ

 

が「頑張ってください!!」と見送りに来て激励してくれた。

 

もう1人

栗花落 カナヲ

 

と言う胡蝶しのぶの継子がいるはずだが任務のため不在で、炭十郎達がいる間は結局会えずじまいだった。

 

そして…

 

 

 

 

一行は那田蜘蛛山に問題なく到着した。

山の中、草を踏む音だけが、薄闇に沈む森を渡っていく。

 

 炭十郎を先頭に、陽村、獅子森、雪之、灰崎、赤嶺、朽土、石野川、田中――九名の影が列を成す。

 

 蝋燭の灯が届かぬほどの山道。

 霧が濃く、息を吐くたび白く煙った。

 

 「……此処が、那田蜘蛛山……」

 田中が小さく呟く。声がすぐに霧へ飲まれた。

 

 森は静まり返っていた。

 風もなく、虫の声もない。

 月光だけが、蜘蛛の糸に反射して白く光っている。

 

 「…この感じ、一方的に監視されてるな…経験がある…気味が悪りぃ」

 獅子森が舌打ちする。

 

 炭十郎は静かに周囲を見渡した。

 「風が止まっている。木々の向きが不自然だ……“何か”張っているな」

 

続いて指示を出す。

 

「そろそろ三班に別れて詮索しよう、3人1組とし発見時の伝達方法は覚えているな?」

 

「「「「応」」」」

 

だが…

 

 その時、田中が足元を見た。

 「……何か、いる」

 

 地面の落ち葉が動いた。

 いや、動いていたのは落ち葉ではない。

 無数の――蜘蛛だった。

 

 赤、白、黒、透き通るものまで、無数の小さな蜘蛛が地を埋め尽くす。

 それが一斉に、隊士たちの足元へと群がってくる。

 

 「うわっ、気持ち悪いッ!鎖の呼吸・唯一ノ型 断鎖・月牙衝!」

 「チッ!…不味そうな蜘蛛だ…焔の呼吸 弐ノ型 焔獄轟(えんごくごう)」

 灰崎が鎖を振るい、獅子森が焔を発生させそれぞれの一閃で蜘蛛の群れを薙ぎ払った…瞬間――。

 

 「――来るよッ!!」

 

 樹上から降り立った影が三つ。

 “母蜘蛛”、その傍らに、顔が人で身体が蜘蛛の“男蜘蛛”。

 そして白い肌に黒い着物を纏い、艶やかに笑う“女蜘蛛”。

 

 「母様、この人間たち……美味しくなさそう」

 「いい考えがあるわ。

  壊して潰して盛り付けて…ふふふ、お料理しましょうね」

 「流石母上だ!!ヒヒヒ、今日は豪勢な食事になりそうだなぁ」

 

 母蜘蛛と女蜘蛛が甘く笑い、男蜘蛛は涎を垂らして“食材(ひと)”を見る。

 

 炭十郎が静かに構える。

 「文字通り、私たちを“料理”するつもりなのか…魚や動物達も同じ気持ちなのだろうか…」

 

「炭十郎殿…今はそんな事を考えている時間はないでござるよ」

 陽村心太が声をかけた瞬間、背後から鋭い音が響く。

 

 ピン、と糸が弾ける音。

 ―田中は反応が間に合わず首に白い糸が絡みついた。

 

 「――っ!?」

 田中の意思に反して身体がぎこちなく動く。

 操り糸が四方八方から伸び、腕と脚を引っ張った。

 

 「姫乃!?」

 朽土が駆け寄るが、田中の腕が勝手に抜刀する。

 

 「なんで?…身体が勝手に…わたしっ!」

 

 「ぬ!?…糸が操っておるのか!」

 石野川がすぐに見抜き、目を細めた。

 

 「拙僧が断つ…禅の呼吸・参ノ型《風禅円斬》」

 円のような斬撃が風を纏い、田中の腕を絡めていた糸を正確に断ち切る。

 

 「今だ!!」

 炭十郎の声と同時に、陽村が跳ぶ。

 辰の呼吸・弐ノ型《辰風流舞》。

 刀が竜巻のように回転し、周囲の糸を一気に巻き上げた。

 

 風圧が走り、糸が千切れ飛ぶ。

 田中が倒れ込み、息を荒げる。

 「っ……すみません……!」

 

 「無事か、田中!」

 朽土が肩を支える。

 

 その時だった。

 

 ――ズブッ。

 

 背後で、肉を刺す音。

 赤嶺の腕に、一匹の蜘蛛が食らいついていた。

 「痛っ……!うわ!?

  なんだコイツら」

 

 刺してきたのは顔が人間で身体が蜘蛛の男蜘蛛に似ているが、やや小さいな異形の蜘蛛達

 

 

ワラワラワラ…

 

「ちぃ!!!…斬り払う!!」

灰崎が鎖付きの大刀を振りかぶる

 

 

だが

 

 

「「「「やめて、殺さないで……俺(私)たち人間なんだ」」」」

そう言いながらも襲いかかってくる人面蜘蛛達

 

「ナンダト!?人間がこんな恐ろしい変化をする?………血鬼術か!!」

雪之が驚き抜刀を躊躇った

 

 

そして赤嶺の顔色が変わる。

 「これ、は……毒か…!」

 息が荒くなり、膝が崩れる。刺された腕は徐々に短くなってきている。

 

 「くそ!皆……絶対に刺されるなッ!」

 

 灰崎が駆け寄る

 「赤嶺ッ!!」

 

 雪之が即座に前へ出る。

 虎の呼吸・伍ノ型《伏虎穿》。

 跳躍し、子蜘蛛達の胴を一撃で貫いた。

 

 だが、男蜘蛛は笑う

 

 「はははは!教えてやるよ!流されたのは俺の毒さ。その連中と同じように髪が抜けて同じ蜘蛛になろぜ、その苦しむ姿がまた最高なんだよ」

 

男蜘蛛から衝撃的な発言を受け皆が赤嶺を見てしまう。

身体が徐々に小さくなっていく

 

「いかん!!赤嶺ぇ!!」

 

炭十郎は焦りながら近寄るが赤嶺は手を出して制する

 

「大丈夫…とは言えんが…進行を遅らせることは出来る。早々に鬼の討伐を!!」

「血鬼術ならば倒せば止まるかもしれぬ!」

陽村は叫ぶ

 

「馬鹿が!俺が死んでも進んだ蜘蛛化は治らんぞ!

お前達人間は腕が取れても生えないのだろう?同じことだ!」

 

「おのれぇ!!」

 

赤嶺の視界が歪む。

耳鳴り、心臓の鼓動が速まる。

更に身体が小さくなっている。

 

だが…

 「舐めんな」

 両掌を合わせ、震える声で祈る。

 「祷の揖拝・一ノ式 浄火祈祷ッ!」

 

 呼吸とは違う方法で体内の毒の進行を一時的に抑え口から毒と共に吐血する。しかし、その代償とし意識を失い崩れ落ちた。

 

 

「なに!?毒が吐き出された!?」

 

 「赤嶺を下がらせろ!」

 炭十郎が叫ぶ。

 「朽土、灰崎、田中、囲いを作れ!」

 

 「「「了解ッ!」」」

 

「氷の呼吸… 陸ノ型 六花氷輪!」

「鎖の呼吸… 唯一ノ型 断鎖・月牙衝!!」

「すぅーー… 全・集・中!」

 

 

 その瞬間、広範囲の朽土と灰崎の攻撃と、ずば抜けた田中の観察眼による退路封じによって――全ての子蜘蛛は排除された。

 

男蜘蛛が歯軋りをする。

「おのれ、たかが人間がぁ!!」

 

 

 獅子森が前に出る。

 「クソ蜘蛛が!!俺様の焔で焼き払ってくれる!!」

 

ギャリィ!!!!

 

“逆”に納刀後に勢いよく抜刀することで産まれる業火と共に熱を持った空気を呼吸で取り込み技を強化する

 

 「焔の呼吸・伍ノ型《炎帝咆哮》ッ!!

 炎の衝撃波が前方一帯を覆い、蜘蛛の糸と再び現れた小蜘蛛の群れを一掃する。

 

 熱気が森を照らし、男蜘蛛を飲み込む

 

「流石だ!続くぞ、奉納…ミズカミ神楽、玖ノ型 煌天流水(こうてんりゅうすい)!」

 天へと駆け上がる流水が炎で輝き、光柱のごとく突進し相手を貫き女蜘蛛と母蜘蛛を貫いた

 

女蜘蛛は散り母蜘蛛は失った体を即座に再生しながら苦悶の表情を浮かべる

 

 「………痛いじゃない」

 母蜘蛛の声が震えた。

 その瞳には――歪んだ悲しみが宿っていた。

 

 「どうして……家族を壊すの……?」

 

 陽村は静かに答えた。

 「壊しているのは、おぬしたちだ。

 戦いを生業とせぬ民を一方的に喰らう集団

 そんなものは“家族”ではない

 

辰の呼吸… 陸ノ型 龍華円舞」

 

舞うような連撃を繰り出し、龍が輪を描き母蜘蛛を襲う

 

 母蜘蛛の指が震え、糸が再び走る。

 「違う……違うのよ……!

 だってアタシは…母は子供を裏切ってはいけないの!!

 それは家族の絆よ」

 

どこか…歪な反論だった。

 狂気の声と共に、森全体が軋む

 木々が揺れ、空から糸が雨のように降り注ぐ。

 

「オマエは…ナニを言っているんだ?肆ノ型…怒涛咆哮!!!」

 

陽村が多くの糸を切り雪之が残った糸の全てを避け母蜘蛛の首を断った

 

 

だが…

 

「強い!いや…助けてアナタ!!!!」

 

 

ドン!!!!

 

 

「グオォォォォ!」

 

 

空から筋骨隆々の人間…

 

いや…身体のみ人間ではあったが顔が蜘蛛の大男

 

先ほどの男蜘蛛とは違う歪な男蜘蛛が降って母蜘蛛の頭と身体を奪いつつ、そのまま雪之に太い腕で攻撃しようとするが炭十郎が割って入る。

 

「させぬ!!」

 

ガギィ!!!

 

拳と刀の競り合いは一瞬以上

ギシィ…

力は拮抗していたがその余波に抗えず吹っ飛ばされる雪之。

 

 

「いかん!!」

それを見た炭十郎は敢えて力を抜き勢いをつけて後退する事で雪之の救出に成功する。

 

「グッ!!…カタジケない」

「気にするな」

 

 即座に炭十郎達は構えた。

 「警戒せよ!!」

 

そして、父蜘蛛が母蜘蛛に覆い被さり

 

“喰った”

 

 

「「「は?」」」

 

 

ボコボコボコ!!!

父蜘蛛と母蜘蛛は明らかに“変化”した

 

筋骨隆々の身体が完全に巨大な蜘蛛の身体となりその背からは先ほどの母蜘蛛の上半身が…

 

メキメキ!!

と音を立てて現れた。

 

「なんて奇怪な!まるで女郎蜘蛛……!!」

 

その姿は妖怪絵巻に描かれる“女郎蜘蛛”によく似ていた。

 

 

その隙に赤嶺の呻きが霧へ吸い込まれるように消えていく。隠たちが彼を担ぎ去ったのだ。

 

…森はひどく静まりかえった――。

 

冷えた息が八人分、白くうねる。

その呼吸の乱れさえ、周囲に潜む“何か”に吸われるような気配がある。

 

炭十郎が一歩踏み出す。

その瞬間、山を覆っていた蜘蛛の巣が震えた。まるで彼らの気配に反応したように。

 

「――全員、全集中!!……来るぞ!」

 

 

スッー…と

 

 

倒したはず白い女蜘蛛が女郎蜘蛛の後ろから現れる。

混乱するが仲間同士で相談する時間など与えられない。

 

彼女はすうっと空へ片手を掲げ――空気が震えた

 

「さぁ、暴れて。ほら……下からくるわよ?」

 

 

瞬間、無数の銀糸が“雨”として降り注いだ。

 

 

「嘘です!!

上から操り糸が3528本降ってきますッ!

あとはフェイクが1万1256本…全員、

見極めて散開してください!!」

 

田中姫乃が必死に叫ぶ。

 

だが

 

「「「「分かるかぁーー!!」」」」

「「「無理ーーー(でござる)!!!」」」

 

敵の嘘と糸の数、常識外の観察力で得られる情報を理解しろと言う発言の全てに炭十郎含めて全員が突っ込まざるを得なかった。

 

 

それでも体が自然に前へ出る。呼吸が常に整ったまま乱れない。

全集中・常中―の長時間の安定。

 

それが―蝶屋敷で掴んだ新たな境地だった。

 

 

 

更に田中姫乃は蝶屋敷で胡蝶しのぶに僅かの期間とは言え師事した

 

得たのは“自分”にあった呼吸法。

それは蟲の呼吸の派生…

 

「 全・集・中。『螢の呼吸』肆ノ型 霞揺らぎ(かすみゆらぎ)」

 

田中は身体の動きを柔らかくし、

光の残像と本体の動きがズレる“視覚”に影響を与えた。

彼女自身が螢の光のように揺らめいて見え、

敵の攻撃をかわしながら機を伺う。

一瞬で四方八方の軌道を読み切り、糸の雨の中を疾走。

その細い体が残像を引き、空間に最初の“突破口”を切り開いた。

 

「姫乃、ナイスッ!!」「援護する!!」

 

 

「ヒヒッ!! させねぇ…縮んじまえよォ!!」

 

女蜘蛛と同じく討伐したはずの男蜘蛛が跳躍してくる。

顔は男人、体は蜘蛛。異形のバランスの悪さが縦横無尽に張り巡らされている糸で予測不可能な動きを実現していた。

 

男蜘蛛は毒球と更なる子蜘蛛を無数にばらまく。

夜霧に溶けるように見えにくい。

 

 

それでも、田中はその観察力を持って指摘した

 

「この鬼…さっき倒した鬼と微妙に違う!!

そうか!母蜘蛛が産み出した別個体なんだ!

みんな!この男女の鬼を産むのが母鬼の血鬼術だよ!

 

あと、男蜘蛛の毒は蜘蛛の牙にしかないみたい。

毒球っぽいのはフェイク、狙いは6524匹の扇状に広がってくる子蜘蛛の毒だよ、

木々や雑草に紛れてるから注意して!」

 

 

「あの女!!!厄介!!!」

 

「うむむ、拙僧…田中殿には脱帽でござる」

石野川が唸りながら田中の技の間隙を狙ってきた子蜘蛛達の強襲を振り払う

 

「禅の呼吸 肆ノ型 心眼無想(しんがんむそう)」

視覚を捨て、心で相手を捉える。

暗闇で、もっとも真価を発揮する型は多くの子蜘蛛と男蜘蛛の首を狩る。

 

「ぎあああああっ!? なんだよオマエぇぇ!!」

新しい男蜘蛛は一瞬でチリとなる

 

「…また、つまらぬものを斬ってしまった…」

その声は淡々と、しかし冷たく響いた。

 

炭十郎はこの機会を逃さない。

「男蜘蛛が操っていた子蜘蛛も消えた…今だ!畳みかけるぞ!!」

 

「おう!!!」

 

 

全員がほぼ同時に型を放つ。

 

「鎖の呼吸 唯一ノ型 断鎖・月牙衝!」

「氷の呼吸 弐ノ型 氷華散(ひょうかさん)」

「禅の呼吸 参ノ型 風禅円斬(ふうぜんえんざん)」

「虎の呼吸 漆ノ型 虎走嵐(こそうらん)」

「焔の呼吸 捌ノ型 業火葬送(ごうかそうそう)」

「辰の呼吸 陸ノ型 龍華円舞(りゅうかえんぶ)」

「螢の呼吸 弐ノ型 流灯(りゅうとう)」

 

そして

 

「ミズカミ神楽 陸ノ型 蒸烈龍(じょうれつりゅう)」

 

各々が広範囲の型や間を縫ってされる型を繰り出し銀糸の対処に成功する。

 

だが――銀糸の奥を割って現れた影は、常軌を逸していた。

 

女郎蜘蛛…母鬼を父鬼が取り込み怪異へ変貌した姿。

 

その巨大な腹部には、無数の巣穴。

人型とも蜘蛛型ともつかぬ小蜘蛛鬼たちが、今にも飛び出しそうに蠢いている。

 

あと数秒で無数の男女蜘蛛が放たれる事が予想できる。

 

そして

 

仲間を信じて唯一、糸の破壊ではなく女郎蜘蛛に突撃した男がいた。

 

その名は“雪之環”

 

「サッキの醜態…ココで返上する!!」

雪之の声が低く震える。

「クラエ!!!」

 

一歩も二歩も踏み出し首を斬ろうとした瞬間――女郎蜘蛛は高く跳躍し産むことに全力を費やす。

「させるものですか!!!

血鬼術… 巣母(すぼ)の胎(ふところ)… 孵巣乱舞(ふそうらんぶ)」

女郎蜘蛛は縦横無尽に駆け巡り鬼殺隊と一定の距離を保ち、男女蜘蛛を出産しつつ蜘蛛の糸をばら撒く。

 

女郎蜘蛛は必死だった。

言葉通り男蜘蛛と女蜘蛛を産む速さは今までとは比較にならなかった。

 

だが……

「そんなものに怯む我々ではない!!」

 

女郎蜘蛛の思惑通りにはならず

言葉通り、彼ら鬼殺隊は炭十郎を筆頭に女郎蜘蛛と、その歪な家族に勝負を掛けた。

 

 

 

石野川門

白鞘を逆手に持ち目を閉じる。

「…ッ!!… 禅の呼吸・伍ノ型《静禅破風》」

風とは違う斬撃の圧が円状に広がり、銀糸を一気に押し返す。

それは、まるで空間そのものが穏やかに広がるような斬撃だった。

 

灰崎壱華

鎖が軋む音が夜に響く。

「糸なんか――まとめて断つッ!鎖の呼吸・唯一ノ型《断鎖・月牙衝》」

型は同じ、ただ、その範囲と威力は今までとは桁違いに上がっていた。

大刀の柄に付属する長い鎖が唸り、視界に広がっていた銀糸を断ち仲間が突撃する“道”を作る

 

陽村心太

「斬り伏せるでござるッ!!辰の呼吸・肆ノ型《水天一碧》」

彼は納刀状態で駆ける。

必要な時にのみ刃を煌めかせる抜刀術の使い手である彼は、龍の如くしなやかに空間に曲線を描き、襲いかかる糸束を滑るように避け、切断音すら聞こえないほどの精妙さで多くの男女蜘蛛を切り伏せた。

 

雪之環

「二度も醜態を晒した…もう…逃すモノカ!!虎の呼吸・ 玖ノ型《虎王絶牙》」

あまりの悔しさに血が出るほど歯を食いしばる。

重い踏み込みから放たれる虎牙の軌跡。地の土埃を顔につけるほどの低さから繰り出される、その技はほぼ同時の上下4本の斬撃で空気が引き裂き残りの子蜘蛛の群れをまとめて粉砕する。

 

朽土由羅

「氷の呼吸・肆ノ型《氷牙穿》…よし!動き止めたッ、 今のうちに削れッ!!」

冷気が奔る。線が細い彼女は多くの女性隊員の壁となる力の無さから自ら鬼の首を切る事を諦めた隊士。だが、彼女はそれでも鬼を斬る道を進んでいる。選んだのは鬼の動きを止める、緩める、遅らせる事に特化すること。彼女の“型”と白く冷気を帯びる刀は、まさに“氷”の名に相応しかった。女郎蜘蛛の脚を瞬時に切り冷気で再生を遅らせる事で起動力を奪うことに成功した。

 

獅子森誠

「やるじゃねぇかぁ!!!

焼け焦げやがれぇッ!!焔の呼吸・陸ノ型《赫灼連斬》」

ギャリィ!!!

抜刀時に鳴る耳障りな音…同時に刀に溢れる焔。

熱を伴った空気を吸う事で実現する業火のような斬撃の連斬は攻撃的な性格に合っていた。だが、その呼吸と型は文字通り“身を焦がす”。その代償で得た威力は他とは一線を画する…赤い残光が暗闇に軌跡を残し、母蜘蛛の腕を切り飛ばし、焼け焦げた肉片が霧の中で散っていく。

 

 

 

そして⸻

 

 

竈門炭十郎

「これで終いとする…来世で本物の家族になり皆が幸せになる事を祈る。

奉納神楽《ミズカミ》参ノ手 日輪水車(にちりんみずぐるま)!!」

 

 

ザン!!!!

 

 

女郎蜘蛛の首は飛ぶ

だが…彼女は崩れながらも微笑んだ。

 

「……あぁ、強い……痛い……けど……いいの……悔しくはないわ」

 

いつの間に膨らんでいた胎が破けそうなほど脈動している。

 

ミチ…ミチ…

 

と、嫌な音が響く。

 

「いかん!!!」

 

陽村の叫びが飛ぶ。

だが、間に合わない。

 

女郎蜘蛛は震える声で呟く。

 

「あぁ…やっと解放される…

わたしは“息子”に作られた…“母”…次はあなた達が“あの子”の家族になるの…精々苦しみなさいな」

 

女郎蜘蛛は笑いながら腹が裂けた

 

白い腕が這い出る。

続いて白い髪が振るわれる。

血のような紅い瞳。

 

少年が、静かに生まれ落ちた。

 

ボト……

 

女郎蜘蛛は笑みを浮かべたまま、塵となる。

「じゃあね、累……」

 

 

生まれたばかりの少年は、静かにこちらを見渡す。

 

「邪魔しないでよ。

あぁ…なんて不幸な産まれ方…こんなんじゃダメだ。

やり直そう。

また…母さんを作らなきゃ

また…“僕”を産んでもらわなきゃ

また…新しい“家族”を作るんだ」

 

声は幼い。

 

だがその奥、底なしの孤独が燃えている。

 

 

そして、明らかに先ほどの女郎蜘蛛とは一線を画す相手だった。

 

時間を与えてはいけない。

その想いから陽村と雪之と獅子森が同時に地を蹴る。

 

塁の糸は白く細い。

だが、切れない、しかも切れたとしてもすぐに再生してしまう。

 

斬って、避けて、捌いて――

それでようやく互角。

 

「この糸……硬すぎる!!」

 

「くそっ、速さも再生も桁違いだ!」

 

鬼殺隊各々が奮戦している。

 

その様子を塁は淡々と見ている。

 

「……ふうん。少しは…強い家族になれそうだ」

 

 

塁が、指を一本だけ立てた。

 

ピン、と。

 

空気が震えた瞬間――

糸が“赤”に変わった。

 

赤い糸は、白糸の“上位互換”。

強度も斬れ味も圧倒的。

 

次の瞬間、

 

パキィー…ーン

 

陽村、雪之、獅子森、灰崎、朽土、石野川、田中――

 

「「「「!?!?」」」」

 

全員の刀が…斬られた

 

 

炭十郎だけが残り、時間を与えまいと累へと迫る。

 

 

累は静かに言う。

 

「ふぅん……君、強いね」

 

 

仲間全員が刀を破壊された。

半分ほどの長さは残っているが…それだけだった。

 

赤糸の猛襲を受けるたびに短くなっていく。

 

逃げ場も無い。

 

塁の糸は森を檻に変えるように張り巡らされ、

逃げれば“切り刻まれる”のが分かる。

 

灰崎が叫ぶ。

 

「炭十郎さん、 私達は気にしないで!!

 討伐に集中して!!本気で戦ってくださいッ!」

 

炭十郎は首を振る。

「…すまぬ…それはできない」

 

静かだが、絶対に折れない意志。

 

なぜなら炭十郎が一度でも“護る”事を怠れば、鬼殺隊員の誰かは死ぬ。

そう確信出来るほどの猛攻だった。

 

 

塁の糸が振り下ろされるたび、

炭十郎の体が切り裂かれ、血が飛ぶ。

 

「どうして……守るの? 弱いくせに。」

 

「弱いからこそ……守らねばならん」

 

炭十郎の呼吸が荒くなる。

刀を握る手が震え、膝が沈む。

 

 

「―奉納神楽―《ヒノカミ》一三ノ手 無限!!!」

 

赤い焔が風に揺らぐ。

 

灼熱の円が赤糸をまとめて焼き切る。

森の空気が一気に乾き、熱波が巻き上がる。

 

塁の目がわずかに見開かれた。

 

「……やっぱり、強いね。コレなら、どう?

血鬼術…刻糸輪転」

 

赤糸がさらに増幅し、“檻”が形成される。

 

逃げ場などない。

 

炭十郎の傷が増え、片膝をつきそうなほどだ。

 

仲間達が叫ぶ。

 

「炭十郎さん!!」

 

炭十郎は、微笑んだ。

 

「大丈夫だ……私は……まだ折れない」

 

累が静かに指を上げた。

夜気がひやりと凍りつく。

 

「――終わり」

 

 

 その呟きと同時に、四方八方から張り巡らされた赤い糸が震え、獲物を締め殺すために収束する。

 

「コレで生き残ったら“家族”にしてあげる」

 

 炭十郎の仲間たちが一斉に叫んだ。

「炭十郎さん!!」「逃げろ!」「来るぞ!!」

 

 絶望が襲う。しかしその声すら赤い檻の中で押し潰されるようだった。

 

 

 

 ――その時、夜の静寂を切り裂く、場違いなほどの軽い声が響いた。

 

「ラッキー!

弱そうな子鬼じゃん。私は楽に鬼を討伐して早く昇進したいのよ。

さぁ、雑魚はどいたどいた!」

 

場違いなほど軽快な声と共に、森の濃霧を裂いて、二つの影が飛び込んできた。

 

 

白い羽織を纏った一人の隊士――捨木彩子(すてぎさいこ)が、炭十郎と塁の間に、まるで雑踏を掻き分けるように乱暴に入り込む。

 

その顔には、戦場には不似合いな、獲物を見つけたかのような軽薄な笑みが浮かんでいた。

 

彼女は抜刀するなり、周囲の赤い糸の幾筋かを、まるで邪魔な雑草を払うように一閃する。

 

「破調の呼吸 壱ノ型 彩飾斬り(さいしょくぎり)!!」

 

ギギギン!!

 

切先がブレて幾重にも斬撃があるように誤認させたが、そもそも赤糸を斬る力がなく弾かれてしまう。

 

「え、ちょっと待ってよ!この糸、硬すぎない?…ていうか、何で皆、刀が折れてんのよ!だっさ!こんなとこで手間取ってる場合じゃないんだから、早く退いてよね、私の手柄とらないでよね」

 

 

彼女の背後から、もう一人の隊士が慌てた様子で駆け寄る。その顔は、彼女の言動に心底呆れ返っている。

 

「捨木! 何を言っているんだ、この状況で!いくらなんでも失礼だろ!…申し訳ない、あいつ…実力はあるんだけど言葉悪くて」

 

もう1人の隊士――村田は、刀を構えながら、目の前の惨状と炭十郎の姿を見て驚きに目を見張る。

 

「いや……助かった」

 

炭十郎は、わずかに目を見開き、そして深く息を吐いた。

 

捨木の破天荒な登場と村田の真面目な声が、凍りついた空気に暖かさを取り戻し、貴重な一息をつくことが出来た。

 

 

「変なやつ…お前はいらない。この僕の家族には、相応しくない」

 

累は前髪を上げると“下弦” “伍”の文字が刻まれていた。

 




捨木さんはサイコロステーキ先輩の女性版です(笑
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