問題:炭十郎はどう立ち直るかな!?
下弦の伍、累討伐の直後。
那田蜘蛛山の中腹は一血の匂いと絶望的な慟哭に包まれた。
「う……あ……あぁぁ……あぁぁぁぁああぁああぁ!!」
竈門炭十郎の声が夜の森に響き渡る。
彼は頭を抱え、膝が震え、手から滑り落ちた日輪刀が地面で鈍い音を立てていた。
愛する娘、花子が鬼、堕摘(だつみ)として目の前に立つという、逃げ道のない現実が、彼を打ちのめし魂が砕かれそうになる。
その悲痛な叫びを、堕摘は大翼をはためかせ冷たい笑みで見下ろす。
「なんで…なんで私のキレイな名前を聞いて…そんな汚い泣き声で泣くよ!!それでも父親?信じられない!!!!」
堕摘は怒る。
漆黒の夜空に向けて広げた鷹のような巨大な翼を広げ、羽の一つひとつを刃とする。
羽を伸ばし刀のように鋭い羽を操る血鬼術が、音もなく、しかし凄まじい速度で伸びてきた。
その攻撃の標的は、完全に戦意を喪失している炭十郎、その人だった。
「死んでよ!!!今ので分かった!!
お前はもう父を名乗る資格なんてない!!
私を不愉快にさせる敵だ!!」
羽刃は炭十郎の無防備な身体めがけて迫る。
キキキキン!!!!
一歩も動けない炭十郎。
彼の視界は、ただ涙で滲んでいた。
「てめぇらぁ!!手を出すなよ?俺様の獲物だぁ!!!」
「いやああぁぉ!
目を覚ましたら、とんでもない修羅場じゃん!!
何よそれ!
やーめーてー!!
知りたくないし死にたくなあああい!……あっ…ふん……」
その刹那、獣の咆哮と悲鳴が同時に響き渡る。
嘴平伊之助が、炭十郎の前に飛び込み、二本の欠けた日輪刀を交差させた。
「獣の呼吸 伍ノ牙 狂い裂き(くるいさき)!」
荒々しい連続斬撃が、羽刃の束を数本切り裂くが、その硬度は鋼鉄以上。伊之助の刀はすぐに弾き飛ばされ、腹部に羽刃の直撃を受け、凄まじい勢いで後方へ吹き飛ばされた。
「ぐぶぅ!!!」
直後に我妻善逸が、気絶した状態で、超高速で堕摘の羽刃の根元を狙った。
「お前は…一刻も早く討伐しなきゃいけない!!!
雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)!」
一閃
善逸の刀が同時にいくつもの羽刃を断ち切り、炭十郎への直撃は辛うじて免れた。しかし、堕摘は既に次の攻撃態勢に入っている。
残りの羽刃が、伊之助を吹き飛ばした勢いのまま、善逸の腹部を横薙ぎに裂いた。
……ッ……ズバン!!!!
「ガ…ハァ…」
善逸は、激しい衝撃と共に刀を手放し、血を吐いて地面に倒れ伏す。
防御を失った炭十郎の背中を、堕摘の羽刃の残骸が掠める。
隊服が裂け、鋭い激痛が走る。
「……っ」
肉体の痛みは、精神的な絶望に比べれば、取るに足らないものだった。
しかし、その痛みが、炭十郎に現実を叩きつけ視界が広がった。
(あぁ……このままでは、私だけでなく皆が、殺されてしまう…)
彼は自分を助けてくれた二人の少年――伊之助と善逸の姿を見る。
「私は――この期に及んで…まだ…っくそ……」
炭十郎は、震える手を伸ばし、地面に落ちた日輪刀を掴んだ。
状況は、絶望的だった。累との激戦で重傷を負った隊士たちは立ち上がれず、かろうじて動けるのは、村田、田中姫乃、灰崎、捨木だけ。そして、炭十郎自身も、疲労と精神的なダメージで実力を全く発揮できていない。
「なんてこと!!皆、今のうちに動くよ。動ける隊士は、すぐに動けない隊士を担いで、山を下りなさい!」
田中姫乃が、残った腕で刀を握りしめ叫ぶ。
彼女の冷静な判断力が、この戦況を一歩でも有利に進める唯一の希望だった。
「炭十郎さん、ごめんなさい…あなたは…あの鬼を…堕摘を…せめて山頂へ引きつけて!皆が下山するまでの、時間稼ぎをして下さい!!」
「ちょっ!!判断がエグい!!
…それに田中さん、あんたはどうすんだ!?」
村田が、動けず意識を失った陽村を担ぎながら、姫乃に向かって叫ぶ。
「わたしは、鎹鴉で援軍を呼ぶわ!
ここから一番早く、
広範囲に応援を要請するには、全ての鎹鴉を動員しなきゃ!!」
姫乃は、自分の肩に止まっていた鎹鴉に、切迫した声で命令を下す。
「緊急事態を告げなさい!那田蜘蛛山に強力な鬼が出現した。
逃すと、より脅威となることは間違いないため迅速な討伐が必要。
可能であれば柱の派遣を依頼しなさい!」
「ヨクワカッタ!!カアアアァァァ!!」
その指令を受け、田中姫乃の鎹鴉が夜空へ舞い上がる。
姫乃は、他の隊士の鎹鴉たちにも、次々と指示を出した。
「あなたたちも、行って!!
今すぐ……実力者のみ…最低でも柄以上の階級隊士に救援要請!」
「カアァ!承知ィ!」「チュンチュン!」「コォォ!」「ヤバいヤバい」
一瞬にして、数十羽の鎹鴉が、夜空へ向かって飛び立った。彼らは、まるで黒い星の散弾のように、四方八方へと散らばり、鬼殺隊本部や近場の鬼殺隊士へ伝来に向かう。
村田と灰崎、そしてかろうじて動ける隠達が、重傷の隊士たちを担ぎ、山の中腹から急いで下山を始める。
しかし
「逃がすわけないでしょう」
堕摘は、彼らの退避行動を、冷たく見つめた。
彼女は、翼を広げ、空から血鬼術を広範囲に拡散させる。
「血鬼術・羽々ノ厄災」
1人ひとりを狙ってくる堕摘の羽刃は逃走する村田たちを追尾する。
「あ……いかん、逃げろぉぉぉ!!!」
炭十郎は、喉が潰れんばかりの大声で叫び日輪刀を構える。
そして、堕摘の追撃を阻止するために、一歩前に踏み出した。
しかし彼の呼吸は、極度の精神的負荷から、不安定で微弱だった。
「奉納神楽《ヒノカミ》壱ノ手 円舞!!」
炭十郎が、堕摘に向けて舞を繰り出す。
が、
ギイィィイン…
羽刃を斬ることが出来ない。
「ふーん、やっと動いたのに、その程度なんだ?」
堕摘は、炭十郎の神楽が、累戦で見せたような威力を持っていないことを見抜く。
「貴方は、私を斬れない。
愛があるからなのね…嬉しいわ。
最高よ、そのまま死んで」
堕摘の言葉が、炭十郎の心を抉る。
その通りだ。
斬れない。
刀を構えることはできる。
憎しみと怒りがある。
だが、刀を振り下ろす瞬間に、愛らしい娘だった花子の面影が脳裏をよぎり、手が、腕が、止まる。
キンッ!
堕摘は、その隙を見逃さず、羽刃を炭十郎の心臓めがけて突き刺す。
炭十郎は反射的に刀で防御するが、その衝撃で体が大きく後退する。
「多吾郎ォォ!」
腹部にダメージを負ったまま、伊之助が炭十郎の名前を間違いながら堕摘に体当たりを仕掛ける。
「獣の呼吸 漆ノ型 空間識覚(くうかんしきかく)!」
伊之助は、感覚を研ぎ澄まし、堕摘の血鬼術の隙間を縫い、彼女の体幹に蹴りを入れた。
「うるさい猪頭ね!」
堕摘は苛立ち、伊之助を足で強く叩きつけ、遠くの岩壁に叩きつける。
「ピギャ!?」
伊之助は不思議な呻き声を上げ、意識を失った。
「伊之助…私のせいで……」
炭十郎は、再び絶望に飲み込まれかける。彼の刃は、愛する者を前にナマクラと化した。
その時、地面に倒れ伏していた善逸が、再び立ち上がる。
気絶したままだが、彼の目は、伊之助と炭十郎の危機を本能的に察知していた。
「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 六連(へきれきいっせん ろくれん)!」
善逸は、雷鳴と共に、堕摘の周囲を高速で駆け巡り、彼女の動きを封じる。
「ふん、少しは早い…」
堕摘は、善逸の速度に対応するため、一定の時間を防御に集中させざるを得なくなった。
その隙に、炭十郎は伊之助を背負い上げ、山頂に向けて、必死に走り出した。
「待ちなさい、どこへ逃げるの!?」
「花子!!お前も来るんだ!!」
「その名で呼ぶなって言っているでしょう!!!」
堕摘の追撃が迫り、炭十郎と善逸と伊之助を山頂の岩壁に追い詰める。
伊之助は逃走の途中で覚醒し、なんとか自分の力で炭十郎達について行くことができていた。
「もう逃げ場はないわ。ここで終わらせましょう」
堕摘は、優雅に、しかし冷酷に、翼を広げ、決着をつけるために血鬼術を最大まで高める。
炭十郎は、堕摘への愛と鬼舞辻無惨への怒りの板挟みで、もう指の感覚がなくなるほど強く、拳を握りしめていた。
握りしめた…だけだった。
「……すまない……花子……」
「炭十郎さん、諦めるな!!」
「俺様は…諦めねぇぇ!!」
善逸と伊之助は傷だかけで満身創痍だが堕摘に刃を向ける。
その瞬間。
闇を切り裂いて、二つの人影が、凄まじい速度で堕摘と炭十郎達の間に滑り込んだ。
「まったく、あなたは…年上なのだから、もっとシャンとして下さい」
胡蝶しのぶは、静かに、しかし冷たい怒りを瞳に宿して、細身の刀を構えた。
「…お前の覚悟はどうした。…心を決めた鬼殺隊士が何をしている。
…まだ、あなたに出来ることはあるはずだ」
冨岡義勇は炭十郎と堕摘の間を完全に遮断した。
鎹鴉が運んだ救援要請が、那田蜘蛛山の絶望の戦場に、早く届いたのだった。
那田蜘蛛山、山頂付近の岩壁。追い詰められた炭十郎と我妻善逸と嘴平伊之助。
そしてその前に立ちはだかった胡蝶しのぶと冨岡義勇。
「……お前が誰なのか鎹鴉から聞いた、だが…俺がやる事に変わりはない」
冨岡義勇の静かな声が響く
「はぁ…冨岡さん…なんで、そんな配慮のない言葉を使うんですか。だからあなたは嫌われるんですよ」
「…俺は嫌われていない」
「え?…自覚なかったんですか?だとしたら…すいません」
そんなやり取りをしつつ、全く隙のない2人に堕摘は襲いかかることができない。
2人は炭十郎達を一瞥し、即座に戦闘態勢に入る。
「炭十郎さん、私たちが戦線を引き継ぎますね。後は私たちに任せて下さい」
胡蝶しのぶは、優雅に、しかし氷のような冷静さで告げた。彼女の細身の日輪刀が、月光を反射し、冷たい輝きを放つ。
堕摘は、この二人の突然の乱入に、わずかに警戒の色を浮かべた。
「ふーん…柱ね。通りで…二人揃って現れるなんて、随分と無粋ね」
「どうでも良いです。
私たちは、貴方という毒を、この世から消し去るために来ただけです」
しのぶの言葉は、表情とは裏腹に、鋭い殺意に満ちていた。
「さて義勇さん、連携をお願いします。この鬼、強靭さが異常ですから」
しのぶが声をかけると、義勇は無言で、しかし確かな信頼を込めて頷いた。
血鬼術《羽々ノ厄災》
二人めがけて一斉に羽刃が襲いかかる。
その羽刃は累の糸とは比べ物にならないほど密度が高く、硬質で、斬撃を弾き返す。
「水の呼吸 弐ノ型 改…水車・側刃(みずぐるま・そくじん」
義勇が刀を横に構え、水流のような円を描いて堕摘の羽刃を次々と受け流し、軌道を逸らしていく。
彼の呼吸は、激流のように力強く、堕摘の猛攻を正面から押し返した。
その一瞬の隙を見逃さず、しのぶが動く。
「蟲の呼吸 蜂牙ノ舞・真靡(ほうがのまい・まなびき)!」
まるで蝶が舞うように、あるいは蜂が目標に向かって一直線に突進するように、しのぶは堕摘の防御をすり抜け、その細い刀の切っ先を、堕摘の肩へと突き入れた。
チリン、という微かな金属音。
堕摘は、驚愕に目を見開く。しのぶの刀は、鬼の頸を斬るための刃を持たない。代わりに、彼女の刀には、即効性の強力な毒が仕込まれている。
「大した衝撃はない…なのに痛い!!っ、何をした!?」
「簡単なことですよ。貴方に、致死量の毒を注入しただけです」
しのぶは、にっこりと微笑む。
しかし、堕摘も微笑む
「な〜んだ、そんな事か」
堕摘は即座に解毒ししのぶに襲いかかる
「させるか!」
義勇が、その解毒の間に攻撃を仕掛ける,
「水の呼吸 拾ノ型 生生流転(せいせいるてん)!」
義勇の刀が、龍のような水のうねりを伴い、止まることなく堕摘の体へと連続で叩きつけられる。その斬撃は、毒の注入で僅かに再生が遅れた堕摘の体を、深く、深く切り裂いた。
「くっ…邪魔…!」
堕摘は吼えるが、柱二人の連携は、空を翔ける彼女に追いつき再生を許さないほどの乱撃を生む。
義勇の斬撃が、堕摘の防御を崩し、しのぶが即座に毒を注入する。この「斬撃による再生遅延」と「毒による内側からの崩壊」の循環が、堕摘の超常的な再生能力を完全に凌駕し始めた。
「ウザいウザいウザい!!!さっさと死ねぇ!!血鬼術、羽々ノ厄災・絶!!」
堕摘の渾身の血鬼術は自身の持つ全ての羽を刃と化して2人を襲う。
それは視界を埋め尽くすほどの刃、本来ならば避けようがない絶望、刃の波…
だが、
そうはならなかった。
「水の呼吸 拾壱ノ型
ーーーーーーーーーーーーーーーー
……
……ぴちゃん………
ーーーーーーーーーーーーーーーー
凪(なぎ)」
全ての羽刃は受け流され、誰にも当たらない。
「な!?」
さらに
「流石ですね…蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞 百足蛇腹」
しのぶが地を踏み締め、堕摘の羽刃すら足場にして加速、自身最大の速度で相手の懐へ入り込んだ。
「う!?……早い!?」
「…からの、蝶ノ舞 胡蝶之舞(こちょうのまい)ですよ…っと!!」
グサァ!!!
急所へ最大量の毒を注入するための最適角度の一点刺しを決めた。
「うぅ!?お父さん…助けて!!」
堕摘は死を感じ、炭十郎に向け、敢えて『花子』の顔となり手を伸ばし助けを求めた。
「あ………」
だが…炭十郎は善逸と猪之助を見る。そして、追いついてきた田中姫乃に着物を摘まれ、動き出すことができなかった。
一瞬「花子」の表情となったとはいえ、思い通りに炭十郎が動かなかった事で再び堕摘の表情となり罵る。
「この役立たず!!」
そして、毒によって動きが鈍った隙に義陽の渾身の一撃が、堕摘の頸へと向けられた。
「水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫…」
飛沫を上げながら近づき
「コレが…俺のできる精一杯だ…」
そう言って放たれたのは
「伍ノ型 干天の慈雨…」
…………サァァ…………
それはまるで、雨上がりの朝に穏やかに波が引くような斬撃だった。
命が在るべき場所に戻る後押しをする優しさが堕摘の頸を断ち切る。
「…あれ?痛くない…苦しくない…」
堕摘の頭部が、月夜に舞い上がる。
「う…あ……花子ーーー!!」
炭十郎は他の伸ばし涙を浮かべ、叫んだ。
「やっと謝れる…ひっく……ごめんなざい……お父さん、ありが…」
顔をクシャクシャにして、泣きながら出たその声は、鬼の冷たさではなく、あの日の温かい花子のものだった。
炭十郎が伸ばした指先は、しかし、彼女の頬に触れる直前で空を切る。
灰となって崩れゆく最愛の娘。その温もりさえ残さず、彼女は夜風へと溶けていった。
「あぁ……ああぁ……!」
虚空を掴んだ炭十郎の掌には、ただ冷たい夜の空気だけが残されていた。
堕摘の肉体が完全に消滅したのを確認すると、義勇は静かに刀を鞘に納めた。しのぶは、深く息を吐き、静かに、しかし汗を流す義勇に近づいた。
「お疲れ様でした、冨岡さん」
「……あぁ、助かった」
義勇の返答は、いつも通り短いが、その瞳の奥には、かすかな安堵と、緊張の糸が切れたことによる疲労の色が滲んでいた。
(……私達それぞれ一人では、危なかった。あの鬼の再生能力は、私の毒が効き始めるまでの時間を稼げないほどだった…特に最後の羽刃…冨岡さんの技が無ければ無事では済まなかった)
しのぶは内心、冷や汗を拭った。彼女は、鬼の頸を斬れない。毒が効くまでの間、義勇が完全に防御と牽制、そして斬撃を担い続けてくれたからこそ、勝利できたのだ。
一方の冨岡義勇も、静かにしのぶを見つめる。
(胡蝶の速さは、俺の斬撃を上回る速さで鬼を凌駕した。それに…毒の効果が無ければ…血鬼術の威力…速さが鈍らず危うかった。)
義勇もまた、二人の柱が、互いの弱点を補い合ったからこそ、この鬼に対処できたことを理解していた。
一人の力…どちらか単独では、あの鬼を討伐するのは困難だっただろう。
その時、隻腕となっている田中姫乃が数名隠と共に息を切らせて山頂に戻ってきた。
「胡蝶様!冨岡様!ありがとうございました!
お陰で、この命拾うことが出来ました」
姫乃の尋ねる声に、しのぶは厳しい顔をした。
「ちょっと田中さん!!!あなた…かなり重症じゃない!?
腕が無くなるなんて…なんて事!!…こんな所から早く離れて屋敷に行きましょう。感染症になっては大変です!」
「う…す、すいません」
「はぁ…仕方なかったのだと思いますが、もっと自分を大切にしてください…」
そう言いながら、しのぶは早急に未だ無言の炭十郎と我妻善逸、嘴平伊之助の治療を終わらせ田中の応急処置に入る。
冨岡義勇はその様子を見ながら独白する
「先ほどの鬼…目に上弦と拾壱の文字が刻まれていた」
「上弦の拾壱……新しい階位の鬼ですね」
姫乃が息を呑む。上弦の鬼といえば、柱でも討伐が極めて難しい、鬼殺隊の最大の脅威だ。
義勇が、静かに語る
「そうだ。鬼舞辻無惨は、上弦と下弦の枠を“それぞれ”十二にまで増やした。竈門花子……堕摘は、その上弦に位置付けられていた」
その言葉は、累が下弦の伍だったことを考えると、恐ろしい事実だった。炭十郎たちが直面したのは、累とは比較にならない、柱二人がかりでなければこの程度の被害での討伐は困難な規格外の脅威だったのである。
胡蝶しのぶは、立ち上がり、顔面蒼白の炭十郎に近づいた。
「竈門さん。今は…何も言いません…ただ、事実として私たちは、この事態を重く受け止めざるを得ません」
炭十郎は、瞳に涙を湛えたまま、ただ無言で、山頂の岩壁に座り込んだ。
彼は、愛する娘を鬼として討たねばならなかったという、逃れられない現実を、ただ耐えていた。
……
夜が明けた。
東の空を、静かに朝日が染め始める。
那田蜘蛛山の激戦は堕摘となった竈門花子の討伐をもって終結を迎えた。
正解:立ち直らない…ただの時間経過
怒らないで!!ごめんなさい!!!