鋼鉄大陸 カワサキ奪還編 無限光天国編 その2
アイン達に連れ去られて2日経ったわけだが……1つ分った事がある。アイン達は重度のファザーコンプレックスと依存癖を抱えている事が分かった。異様なほど懐かれているし、好意を向けられているのも分る。だがそれと同時に俺がこの家から逃げ出すのを恐れているのか基本的に3人は俺の側から離れないし、絶対に1人は俺についている。
「どうですかお父様! 可愛いですか?」
「よく似合ってるよ、オウル」
ぱぁっと花の咲くような顔で笑うオウル。眼帯をつけているので目元が見えないが、それでもオウルは非常に感情豊かだった。今もワンピースにニーソックスと可愛らしい服を自慢し来ていたが、何故かその可愛らしい服の上に司祭を名乗る屑のローブを着ているのが気になってしまう。
(オウルはお洒落好き。服や化粧品、香水を集めてる。あと少しムッツリ)
2日もいれば大体の性格なども把握出来ている。オウルは三女であり、アインとソフのまとめ役権2人を振り回すことが多い。後水着を着ればお風呂も一緒で大丈夫ですよねとか言い出したので絶対にムッツリ助平タイプだ。
「また着替えてるの? 1日なんかい着替えるのさオウル」
「私は常に可愛い姿をお父様に見せたいんですよソフ。だから何回でも着替えるに決まってるじゃないですか」
はぁーと深い溜息を吐くソフ。ボーイッシュな外見通りにかなり強気な性格をしていてオウルのブレーキ役。ゲームが好きだが身体も動かすのも好きと行動的だ。欠点があるとすれば下ネタ系のネットスラングに興味を持ってる所位だ。
「ん? どうしたアイン?」
「パパを書いてみました。どうですか?」
そして口にマスクを嵌めているアイン。性格的には穏やかでのんびりしていて1番幼い感じだ。クレヨンで絵を書く事、それとアナログの機械を作る事が趣味でソフとオウルに振り回されていることも多い。
「上手に書けてるな」
「本当ですか。良かったです」
クレヨンで俺と自分達を書いているアインだが、その中に1人だけ見覚えのない少女の姿があった。下に小さくお姉様と書かれており、大きな帽子を被っている少女が描かれている。
「アイン。このお姉様っていうのはどこにいるんだ?」
少なくともこの2日は見ていないこの少女がどこにいるのか? と尋ねる。
「お、お姉様はずっと寝てます」
「ええ、マルクトお姉様はずっと眠っておられます。お父様が戻られたので起きてくださいといつも声を掛けているんですけど……」
「でもお父さんが声を掛けたら起きてくれるかもしれないよ」
ソフの提案にオウルが少し迷う素振りを見せる中、俺はマルクトについて考えていた。
(確か第10セフィラだったか? アイン達の姉妹というよりかはビナー達の同類か?)
マルクトは第10セフィラで王国を意味したはず……アイン達もそうだがビナー達もカバラに関係している名前を冠している。
(あのクソ自販機もデカグラマトンって名乗ってたしな、それに無名の司祭の事も言っていた事を考えると……ありえるな)
黒服曰くゲマトリアの名前はかつて存在した組織の名前を借りているらしい。となると無名の司祭達が最初にゲマトリアを立ち上げた可能性が出てきた。
(少し不安要素が出てきたな)
マルクトが眠り続けている理由が無名の司祭達の何らかの思惑だとしたら、俺が接触するのは危険かもしれない。
「行きましょうお父様! お父様が声を掛けたらお姉様も起きてくれるかもしれません」
「こっちだよ」
「お姉様も起きてくれると良いなぁ……」
マルクトに会うのは危険ということも出来ず、オウル達に引っ張られるようにして家を後にする。
「なぁオウル。あの遠くに見えるのはビナーか?」
「はいビナーのレプリカです。お父様の為の王国を守る為の預言者のコピーですよ」
「ほかの子もいるから今度紹介するね!」
「皆パパを守ってくれる良い子です」
家の外から見えるビナーやほかの預言者。それに一部を除いて鋼鉄で作られた大陸の一角に俺はいた。
「風が冷たいので早く参りましょう。こちらです」
かなり冷たい風が吹いているのでレッドウィンターの近くだろうか? だが潮風の匂いがするのでレッドウィンターではないと分る。俺はどこにいるんだろうなと思いながらオウル達に先導され機械の大地を歩き出した。
「マルクトお姉様。お父様がやっと帰られましたよ」
「お姉様も起きてお父さんと一緒に暮らそうよ」
「早く起きてください。お姉様」
培養液で満たされたポッドの中で眠る長髪の少女は目を閉じて培養液の中を力なく浮いている。
「この子がマルクトなのか」
「はい、私達のお姉様です。お父様が声を掛けてくださったら起きてくれると思ったんですけど……」
「まだ駄目なのかな……」
「ひぃん……どうして」
「まだ眠り足りないのかもな、ここは少し寒い。家に戻ろう」
名前を呼んでみたがマルクトの目は開かれる事はなく、落胆して今にも泣きそうなアイン達を連れてマルクトが眠っている区画を後にした。
「……」
だがカワサキ達がポッドの前から離れて数秒後、眠っていたマルクトの顔が動き、瞼は閉じられたままだがその視線はカワサキの方へと向けられていたのだった……。
パパが声を掛けてくれたらお姉様は起きてくれる……そう思っていたけど、お姉様は起きてくれなかった。
「そうか、オウル達が起きた頃からずっとマルクトは寝ているのか」
「はい、デカグラマトンは起きるまで待つしかないと言っていましたけど、もしかしたらって思ったんです」
「皆で暮らせたら楽しいと思ったんだけどなぁ……」
ソフとオウルも気落ちしているのが分る。私達はお姉様が眠っているのはパパがいないからと思っていたから余計にガッカリしてしまった。
「所でオウル」
「はい! 何ですかお父様」
「オウルは三女と言っていたが、マルクトは次女か長女か、どっちなんだ?」
パパの疑問はもっともだが、その疑問は出来れば聞いて欲しくなかった。思わずソフとオウルと顔を見合わせる。
「……お姉様は次女です。長女は……別にいます」
お父様に嘘は言いたくないのか、オウルは搾り出すように長女は別にいると告げた。
「名もなき神々の王女……今はアリスでしたか、彼女が一応私達の長女ですが……アリスとケイは姉妹ではないので、アリス達は私達の長女であり、長女ではありません。お父様に失礼な事は言いたくありませんが、これ以上は話したくありません」
名も無き神々の王女はお姉様だが、アリスとケイは姉と認識でないので別物というのが私達の決定でした。もしも王女に戻ったのならば迎え入れる事もあると思いますが……今はありえない事です。
「もー暗い話は終わり! お父さん遊ぼうよ! ほらこれ、キャッチボール? ってやつ私やりたいッ!」
ソフが強引に話を切り替えようとしている。それならと私もそれに乗ることにした。
「グローブとボールもありますよ」
「良いですね! お父様。私達はキャッチボールをした事はないので教えてください!」
無理矢理だが、話したくない事なので無理矢理話を切り上げパパを外に連れ出す。
「てやーっ」」
「お、ソフは上手だな」
「えへへー♪ でしょでしょ!」
ソフは言いだしっぺだからやっぱりキャッチボールもある程度出来ていたけど……。
「い、行きますよー!」
オウルの投げた球は明後日の方向に飛んで行ってしまうし……。
「はうッ!?」
「アイン!? 大丈夫か」
「ひぃん……い、いたいれす……」
パパが山形に投げてくれたボールも受け取れず、私は頭にボールが直撃してしまうし……ソフには悪いけど私は全然楽しくなかった。
「やめ! これはやめです! 面白くないッ!」
「えー♪ オウルとアインがへたくそなだけ何じゃない?」
「い、意地悪……ッ! もっと別の事をして遊びましょうパパ」
ソフしか楽しくない遊びだったのでこれは駄目と私とオウルでいうとパパは何かを考え込む素振りを見せる。
「じゃあお昼は外で食べるか? あんまり風がない寒くない所で散歩して行って、そこで食べるのはどうだ?」
「ピクニックですね、私は良いと思います」
「私も賛成です。えーっとじゃあ寒くない所を探して、お父様が通っても危なくないコースを探しましょう!」
「賛成! じゃあ早くコースを決めようよ!」
ピクニック――これもずっとやってみたかったことだ。1回私達だけでやってみたけどあんまり楽しくなかった……だけど。
(パパがいるなら前よりずっと楽しいよね)
パパがいれば絶対前よりも楽しいという確信があった。
「じゃあ皆でサンドイッチ作ってみるか」
「え、料理を教えてくれるんですか!?」
「やる! やりたい! やりたいッ!」
「私もやりたいです!」
しかもピクニックだけではなく、料理の作り方も教えてくれると聞いて、私達は早く、早くとパパを急かしながら家への帰路を急ぐのでした……。
お父さんの提案でピクニックを予定したけど、場所決めやルートを考えると当然ながら今日は無理だ。だから今日は予定を決め、明日ピクニックに行く事になったのは良いんだけど、その後がよろしくなかったと私は思う。部屋の隅で頭を抑えて鼻を啜っているオウルの姿に呆れてため息が出てくる。
「そりゃ拳骨されるでしょうよ。オウル」
「私もそれは駄目だと思う」
水着を着ていればお風呂も一緒にOKという超理論を言い出したオウル。まぁお父さんとお風呂というのも悪くないかなと大きなお風呂を作っていたので水着(スクール水着)で突撃したのは私もアインも同じだ。だけどタオル剥ぎ取ろうとするのは絶対に駄目だと思う。
「足と手が滑っただけで故意じゃないです」
「嘘だー。めっちゃ棒読みだったじゃん」
警戒していたのか腰にタオルを巻いていたお父さんに頼んで一緒にお風呂に入り、髪を洗って貰った所でオウルがめっちゃ棒読みで足と手が滑ったーと言ってお父さんのタオルを剥ぎ取ろうとしたのだ。
「あれはお父さんも怒るよ」
「うん。怒る」
「でも水着はいてたじゃないですか! なら拳骨は酷いと思います」
だがまぁお父さんの方が1枚上手でタオルの下に水着を穿いていたのでタオルを剥ぎ取られると同時に拳骨、そして説教のコンボを喰らったオウルはめでたく部屋の隅で体育座りをする事になったわけだ。
「くう……これは明日のピクニックで挽回します」
「それは良いけど、今日はオウルはお父さんの横駄目だからね」
「なんでぇ!?」
「いや、何で良いと思ったの?」
今日はお父さんの横は私とアインだ。お父さんのタオルを剥ぎ取ろうとしたオウルは有罪なので今日は少し離れた所で寝るのが決定している。
「朝から抜け駆けしてたよね?」
「うぐ……ッ」
「私とソフを出し抜いて1人だけ甘えようとしてたの?」
「ち、違いますよ!? あれはたまたま偶然です」
「だとしても抜け駆け、お父さんのタオルを剥ぎ取ったので有罪」
「控訴は!?」
「認められません」
そんなと崩れ落ちるオウルだが至極当然の結果なのでこのまま反省して欲しい物である。
「何を騒いでるんだ?」
「お父さ……ぐえっ!?」
お父様と叫んで飛びつこうとしたオウルの服の裾をアインと同時に掴み、失速して落下するオウルを何してるんだ? という目で見ているお父さん。
「気にしないでオウルの奇行だから」
「そうか? まぁほどほどにな?」
若干引いてるかもしれないけど、姉妹は仲良くな? と言いながらお父さんは机の近くに腰を下ろした。
「明日ピクニックだが、どこか遊ぶ所とかはあるのか?」
「あー……どうだろう? アインどう?」
「ネっちゃんに頼めば拡張してくれるかも?」
鋼鉄大陸の元になっている預言者――ネツァクに頼めば遊ぶ場所くらいは作れると思うんだけど……。
(どうしようかな……)
ミレニアムの三賢人と先生がこっちに向かって来ている。多分お父さんがこっちにいる事は知らないと思うし、お父さんも知らないとは思うけど……。
(予想進路じゃない方向に創って貰うほうが良いよね)
今はまだティファレトからの物資の供給も続いているし、まだ先生達もこっちに来るには時間が掛かるだろうけど、戦闘音や光が見えると不味い。これはアインとオウルも重々承知している筈だ。
「遊ぶ場所とかどんなものでしょうか?」
「んーそうだな、長い滑り台とか、ターザンロープとか?」
「絵を書いてもらっても良いですか?」
「絵か? 俺あんまり絵は上手じゃないんだけどなぁ……」
「それでも良いよ! お父さんの絵が見て見たいだけだから」
「はい、お願いします」
「私も見たいです」
「ハードルを上げられると困るんだけどなぁ」
まぁやってみるかといってペンを走らせるお父さんの手元を3人で見つめる。明日のピクニックも楽しみだけど、そこでお父さんが私達と遊ぶ為に何を用意してくれるのか、それが楽しみで楽しみで仕方ない。ずっと、ずっと長い時間を待っていた。お姉様は寝ているし、お父さんには会えないし、本当にお父さんがキヴォトスにもう1度来てくれるのかも心配だった。だけどそんな不安も、寂しさも全部全部消えてしまった。
「お父さん」
「ん? どうしたソフ」
「明日楽しみだね!」
「ソフが楽しみにしてくれているなら良かったよ」
明日――それは今までは呪いの言葉だった。明日ならお姉様が起きるかな? 明日ならお父さんが来てくれるかな? と期待し、何も起きない何の変化もない日々だった。だけど今はお父さんがいるから嫌いだった明日って言葉が祝福の言葉に思える。
「私も楽しみです。皆でお弁当を作って、散歩して……本当に楽しみです」
「寒いから温かい格好をしていきましょうね」
アインとオウルも心から笑っているのが分る。長い間互いに励ましあった姉妹なのだから2人が笑っていると私も嬉しい、まぁそれでも喧嘩はするけれど、それもコミュニケーションの一環だ。
「本当に明日が楽しみだね。アイン、オウル」
「うん、明日が楽しみ」
「ええ、本当に明日が楽しみです」
私達の呪いだった明日はもうない、その事が本当に嬉しくて不思議そうな顔をしているお父さんを見ながら私達は心からの笑みを浮かべているのだった……。
鋼鉄大陸 カワサキ奪還編 無限光天国編 その3 へ続く