FE風花雪月 神謀の黄金卿   作:伝説の超三毛猫

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お久しぶりです。リハビリなんで全然書き方のテイスト違うかもしれません。


「最初はね、気前のいいお財布みたいな人だと思ってたよ。でも、そうじゃないって早く気付かなかったら、骨までしゃぶられてたかも。」
 …ヒルダ=ヴァレンティン=ゴネリル(帝国歴1161~帝国歴1257)


18.アルビレオ家

 長旅の末、バラキエルが手配した特製の馬車が静かに停止した。

 

 御者台から異様にガタイのいい男が「おい、着いたぞ!」と豪快に扉を叩く。

 真っ先に馬車を降りたヒルダは、眩しそうに手で日差しを遮りながら、周囲をきょろきょろと見回した。

 

 ―――イメージしていたような、大貴族の豪奢な城館がない。

 そこに佇んでいたのは、見晴らしの良いなだらかな丘の上に建つ、少し大きめの、しかし普通~ちょいお金もちっぽい平民が済んでそうな雰囲気の二階建て一軒家だった。

 ヒルダは、まるで駅を下り間違えた人のような、なんとも言えない微妙な顔をしてバラキエルを振り返る。

 

「……ねぇ、ほんとにここにバラキエルのパパがいるの? どう見ても普通の民家だけど」

「気にする事はありません。我が家は実利と効率を最優先しますので。これくらいの建物の方が合理的なのです」

「えー、でもなんか、地味っていうか……同盟の隠れた大物商会って聞いてたから、もっとこう、金ピカな成金御殿を想像してたんだけどなぁ」

「貴方が私をどう思っているのか、今のでよく分かりました」

 

 金ピカの御殿とか、控えめにいってもバカの所業である。

 がっかりしたように肩をすくめるヒルダの横で、馬車のステップに足をかけたクロードが、面白そうに目を細めながら一軒家を観察していた。

 その視線は、建物の屋根から飛び出ている奇妙な形状の煙突や、庭の隅に整然と並べられた見慣れない鉄製の器具に向けられている。

 

「いちおう訊くけど、バラキエル。お前んちの商会って、普段は一体何を売ってるんだ?」

「日用品以外売ってませんが」

「日用品ねぇ……ただの鍋釜や石鹸を売ってる商人の家にしては、妙な熱気と鉄の匂いが漂ってくる気がするんだが?」

「それはきっと、気のせいです。さあ、中へどうぞ。父も姉も、皆様の到着を心待ちにしておりますから」

 

 そうなのだ。

 今は貴族にしか流通していないが、生活のレベルが向上すれば、庶民も使うようになる日用品だ。

 フォドラの人々の生活水準は、非常に低い。過去数百年、進歩は緩やかだったのだ。

 まるで、誰かに操作されているかのように。

 ちなみに、技術進歩の速度が緩やかになったタイミングは英雄戦争でセイロスがネメシスを討った後と重なるが、おそらく偶然である。

 

 まぁそんなこと誰も知る由もなく、後に続くリシテアが「あんたの言う『日用品』が普通の意味だった試しがないんですけど……」と小さな声で毒づく。

 紳士のバラキエルは、そんな声を見事にスルーした。

 

 

 バラキエルが家の扉に手をかけた。

 ―――次の瞬間。

 

 

「――あ! 帰ってきた! おかえり、バラキエル!」

 

 廊下の奥からパタパタと軽快な足音を立てて現れたのは、一人の美しい女性だった。

 バラキエルによく似た淡い髪をハーフアップにまとめ、動きやすそうな、しかし細部に刺繍の施されたお洒落な仕立てのドレスを着ている。

 

 彼女こそがバラキエルの姉、アリアドネだった。

 

「姉さん、ただいま戻りました。こちら、金鹿の学級のクロードさんとヒルダさんです」

「わあ、ようこそアルビレオへ! 遠いところをよく来てくれたね!」

 

 アリアドネは聖母のような満面の笑みで一行を迎えた。

 その瞬間、ヒルダの目がらんらんと輝き出す。

 

「ちょっと待って、お姉さん、そのドレスすっごく可愛い! その袖のカット、ガルグ=マクの流行のやつだよね!?」

「気づいてくれた!? そうなの、ちょっとアレンジして自分で縫ってみたの。あなた、ヒルダちゃんよね? 髪飾り、ものすごくセンスいい!」

「キャー、わかってくれる!? あたしもね――」

 

 初対面とは到底思えない速度で二人の距離がゼロになる。

 そのまま「ちょっと奥で最新の試作品見せるね!」「行く行くー!」と、ヒルダはアリアドネに手を引かれて奥の部屋へとキャッキャと消えていった。

 台風のような去り際に、リシテアが呆然とそれを見送る。

 

「……相変わらず、ヒルダの社交性には恐れ入りますね」

「姉とヒルダさんは息が合うと思っていました。……さて、父さん。いつまでそこに隠れているんですか」

 

 バラキエルがリビングのカーテンの陰に視線を向ける。

 すると。

 

「う、うむ……」

 

 バツの悪そうな咳払いをしながら、恰幅のいい、しかし実直そうな男性が姿を現した。

 アルビレオ商会の現当主であり、バラキエルの父、ザカリエルだ。

 彼は上等な仕立ての上着の襟を何度も正しながら、クロードの姿を見るなり、生まれたての小鹿のようにガチガチに緊張し始めた。

 

「こ、これは……リーガン公爵家のご嫡孫、クロード様……。お初にお目にかかります、アルビレオ商会を営んでおります、ザカリエルと申します。我が家のような成り上がりの平民の館へお越しいただき、その、過分なる光栄に存じます……!」

 

 商売人としての営業スマイルを浮かべようとしているが、緊張のあまり口角が引き攣っている。

 同盟盟主の血筋を前にして、地方の商人が縮み上がるのは当然の反応だった。

 クロードはそんなザカリエルの様子に、親しみやすい苦笑を浮かべて歩み寄る。

 

「おいおい、そんなに畏まらないでくれよ、ザカリエルさん。俺はただのしがない学生だ」

「し、しかし…」

「今回はバラキエルのマブダチとして遊びに来ただけさ。そんなに緊張されたら、美味い飯も喉を通らなくなっちまう」

「は、はは、左様でございますか……! クロード君……とお呼びして良いものか……いやはや……」

 

 額の汗をハンカチで拭う父の姿に、バラキエルは小さくため息をつく。

 その時、バラキエルに衝撃が走った。

 誰かに、背中を叩かれたのだ。

 振り向けば、手の主がガタイのいい御者だったことに気が付く。

 

「おいおい、バラキエル!立ち話はいいから早く入ろうぜ!」

 

 随分態度のデカい御者だなと思ったが………フードを取ったその顔に、バラキエルは声をあげそうになった。

 彼は……その顔を知っていた。

 

「(ば…バルタザール!? なぜ……!)」

 

 少なくとも、ガルグ=マクに入る前は、彼を見ていない。

 DLCの灰狼の学級の生徒だ、いるかどうかも分からなかった。個人的に調べても決定的な証拠が見つからなかったため、存在しないか死んでいるか……その可能性も視野に入れていたが、まさかここで会えるとは…それは、とんでもない誤算だ。

 

「………………父さん。この方は?」

 

「最近雇った用心棒だ。うちで働きたいと言ってきてな」

 

 そんな都合のいい事が起こるものか。

 目の前の男を誰だと思っている?

 …だが、運命とはそんなバラキエルの現実主義的な考えを、時には粉砕するのだ。

 

「おいおい、なんだその顔は。忘れたのか? 昔世話になったんだぜ?」

「は?」

 

 バルタザールが世話になった?

 いつ? どこで?

 皆目見当もつかないバラキエルを前に、バルタザールは大笑いした。

 

「はっはっはっはっ!マジで覚えてねーのかよ!

 ………コーデリア領から出る馬車の時に、一緒だったろ」

「!!! まさか貴方、あの時の…」

 

 バルタザールのひと言でバラキエルは察した。

 コーデリア領が一時期、他領と交流を絶っていた時期があった。

 その時に、ひとりの青年と、父と共にコーデリア領から脱出した事を。

 彼の事情は単純だった。「ちょいと追われててな! 頼む、乗せてくれ!」―――と、図々しい頼みをしてきたことだ。

 笑いながら頼み込んできたこの男の、異様なまでの腕っぷしを、父が面白がったからだ。

 父も当時の自分も深く考えなかった。自分たちも余裕のある状況とは言えなかったからだ。

 あの時の風来坊が、まさかこの男だったとは。

 

「……あの時は、お互い名乗らなかったと思いますが」

「がはは! そりゃそうだ。俺も名乗れるような状況じゃなかったからな!…でも、恩人の顔は忘れてねえよ。久しぶりに会ったら、えらくすかした若旦那になってたもんだから驚いたぜ」

「…そうですね。では改めまして。バラキエルです」

「バルタザールだ。よろしくな」

 

 バルタザールは豪快に笑い、無造作にバラキエルの肩をバンバンと叩いた。

 バラキエルは改めてバルタザールを見た。

 成程、コーデリアから出ていくときの馬車……あの時は、バラキエルも記憶を思い出す前だから、知らなくて当然だ。

 だが知った今では、納得と同時に疑問が出てきた。

 先程のアリアドネとヒルダのことを思い出す。

 

「ところで―――ヒルダさんとは、どういった関係で?」

「うっ」

 

 バラキエルは、ここに来るまでの道中で、ヒルダの昔話を聞いていた。

 兄ホルストのことはもちろん、その際に出てきた兄の親友についても。

 ヒルダは恐らくバラキエルの家に夢中で気付かなかったのだろうが、彼の方はヒルダに気付いた上で知らないふりをしていた。

 

「あー………彼女の兄貴…ホルストが、俺の親友でよ? そのよしみでちょっと、な?」

「あのホルストさんと?」

「おい、ヒルダには言うなよ? バレたら気まずいだろうが」

「時間の問題ですよ」

「だとしても俺から言う。お前さんは口出し無用だ」

 

 さっきまで御者やってた男から、自身の正体を内緒にしろとかいう謎の相談を受け取るバラキエル。

 バラキエルとしても、さっさとクロードを抜いて闇うごの体組織で実験を行いたいのだ。

 断る理由はない。

 

「まぁ……そういうことでしたら」

「あぁ、よろしく頼むぜ」

 

 この程度なら、仮にバレたところで、バラキエルに責任はない。

 だからか、新しく気になることができたのだ。

 

 

「そういえば……父が、貴方を雇ったと言ってましたね? その……借金の肩代わりなどはしていないでしょうね?」

「がはは! まさか!」

 

 バラキエルはまさかと思って借金の肩代わりをしてもらったのかと聞いたがとんでもない。

 ザカリエルも商人だ。それも、レスター諸侯同盟だけでなく、王国や帝国にも届くレベルの。

 そんな借金の連帯保証人になる的な愚を犯すわけがなかった。

 

「ちょうどこの辺りで悪さをする野盗や、商売敵の嫌がらせを蹴散らす用心棒を探してたらしい。俺の腕っぷしなら余裕の仕事だし、渡りに船だったってわけさ」

 

 バラキエルはザカリエルの背中を見た。父の商売の護衛として、彼ほどの適任はいない。

 とはいえ、彼を抱え込むことは、ある意味で爆弾を抱え込むのと同じだ。

 その爆弾に火がつかないようにする仕事が増えたと、内心ため息をつきたいバラキエルである。

 

◇◇◇◇◇

 

 やがてヒルダとアリアドネが戻って来て、緊張の解けたザカリエルがクロードと共に席に付き、リシテアがノートをしまうと、歓迎の茶会が開かれた。

 

 バルタザールはというと、「貴族様のお茶会に御者は参加できねぇなぁー」みたいな言い訳をぶちかまして逃げ去っていた。

 自分も貴族のくせに……聞きしに勝るろくでなしである。

 

 大きな丸卓には、香り高い茶葉で淹れられた紅茶と、焼きたての菓子が並んでいる。

 蜂蜜を練り込んだ焼き菓子に、果実の砂糖漬け、小ぶりな果実のタルト………どれも派手さこそないが、一つひとつ丁寧に作られている。

 

「わぁ……これ全部、お店で売ってるやつ?」

 

 ヒルダが目を輝かせる。

 

「半分はそうかな?」

 

 アリアドネは笑顔で首を傾げた。

 

「でも、お客さんが来る日は、私も少し作るの。」

「えっ!? これお姉さんが?」

「うん!」

 

 ヒルダは一口食べるなり目を丸くした。

 

「おいしーっ!」

「ほんと!? 嬉しい!」

 

 二人はまた意気投合して笑い合う。

 どちらも属性的には同じだ。同じ者同士、至極当然の化学反応を起こす。

 その様子を眺めながら、クロードが湯気の立つ紅茶を口に運ぶ。

 

「しかし、本当に不思議な家だな」

「何がでしょう?」

「お前は商人らしく損得で動く奴なのに、この家は妙にあったかい」

「……」

 

 クロードは意味のないことは言わない。

 一見、ただの雑談に見えても、そこから情報を得て、頭の片隅に置ける。

 それができてこそ、パルミラで生き残れたのだ。

 

「父と姉が、そういう人ですから。」

「へぇ。つまり、お前だけ突然変異ってわけか。」

「その認識で概ね間違っていないかと」

「何を言っているのだね!? バラキエルは正真正銘私の息子だが!!?」

「冗談、冗談ですよ」

 

 普通なら茶の間が凍る冗談も、そうならないのはこの場にいる全員の人徳がそうさせていた。

 

 

 茶会が一段落した頃、バラキエルはひとり、アルビレオ家に備え付けられた工房に来ていた。

 依頼したものを受け取るためなのだが、クロードが行きたがった。

 

『少し失礼します。工房に顔を出してきます』

『工房?』

『ええ。商会の職人が、依頼していたものを仕上げているはずなので。確認だけ』

『俺も行っていいか?』

『……やめておいた方がいいかと』

『なんで?』

『独特な方なので』

『独特?…変人ってことか?』

『職人気質と言ってください』

『成程ね~、ま、そういう事なら今はやめとくよ』

 

 明らかに諦めていないクロードに、複雑な顔をしたバラキエル。

 裏切るつもりが毛頭ないバラキエルの秘密を暴こうとするクロードも、なかなかの悪者である。

 彼は、必要になったら必要な情報を共有するタイプの真面目な男だというのに。

 ちなみに、リシテアは()()()()()()()()()()拒否。ヒルダも、アリアドネとの会話に夢中で、工房への興味は一瞬で消えていた。

 

 そんな彼が目指した工房は、母屋から離れた場所にあった。

 近づくにつれ、金属と薬品と、何か甘いものが混ざった独特の匂いが強まる。

 扉を開けると、熱気と共に、乱雑に積み上げられた工具と材料が視界に飛び込んできた。

 

「いらっしゃい♥ 待ってたよ、バラキエルくん♠」

 

 振り返った職人は、二十代半ばに見えた。

 長い指。飄々とした笑み。目の奥だけが、別のものを見ている。

 バラキエルは、ここに来るといつも表情が硬くなる。

 

「……お久しぶりです。他の皆さんは?」

「寝てるよ♠ それよりもリシテアちゃんはどうしたのかな♣ さっき一緒にお茶会してたのを見たけど♦」

「誘ったら拒否されました。完全に貴方の初対面の対応が原因ですよ」

「ひどいなぁ♦ ボクはただ、紋章の出方が気になっただけなのに♥」

「自業自得です」

「手厳しい…☠」

 

 もはやこいつが闇うごだろと言わんばかりの怪しさである。

 少なくともバラキエルはそれを疑い、徹底的に調べたが白だった。

 つまりコイツのこの言動は素である。

 リシテアは一度彼に会ったことがあるが、彼とだけは会うことを避けていた。

 

「まぁいいや♠ 来てくれない人は仕方ない♠ 今回はバラキエルくんに見せたいものがあってね♥ まずこれ」

 

 差し出されたのは、日本刀だった。

 バラキエルは受け取り、刃を確認した。均質な鍛造。重心の位置。柄の握り。一切の妥協がない。

 この前打ってもらった刀よりも優れていることは、目に見えて明らかであった。

 

「……完璧ですね」

「でしょ♦ 三ヶ月かけた♣ 途中でもっといいアイデアが浮かんで、一回全部壊したんだけど♣」

「……壊したんですか」

「だってもっと良くなる気がしたんだもん♥ 結果的には正解だったよ♠」

 

 バラキエルは刀を鞘に収めた。

 この男の才能は本物だ。

 そしてこの男の言動は、アルビレオ商会以外では確実に居場所がない。

 それもそのはず、かつてこの職人は他の場所を「違和感が拭えない」という主観的かつ曖昧な理由で追い出されまくり、各地を転々としていたのだから。

 

「次にこっち♠」

 

 続いて彼が取り出したのは、小ぶりな装飾箱だった。

 蓋の表面に、細かな花の透かし彫りが施されている。内側には深紅の布。

 宝石を収めるための仕切りが、無駄なく配置されていた。

 

「……ジュエルケースですか?」

「そう♣ 宝石の配置にこだわったんだ♦ あの()、こういうの好きそうだったから♥」

「あの娘…………リシテアさんですか?」

「ううん♣ そっちじゃない♦ アリアドネさんと話していた、ピンクの髪のお嬢さんの方さ♠」

 

 ここで、バラキエルに疑問が生じる。

 ヒルダと目の前の怪しい職人は出会ったことがあるのだろうか。

 

「……貴方、ヒルダさんと会ったことがありましたか?」

「いや?♥ さっき、アリアドネさんと一緒に話しているのを見た♠ アレをみれば雰囲気で分かるよ♣」

 

 バラキエルは何も言わなかった。

 この職人については、深く掘り下げない方が双方のためだという経験則が、すでにある。

 半歩引いているように見えるのも気の所為だ。

 

「それから……手紙にあった追加の依頼の件だけど♦」

 

 職人は棚の奥から、布に包まれた細長い箱を取り出した。

 

「試作品が出来たんだ♠ 見る?♥」

 

 中に収まっていたのは、見慣れない形状の器具だった。

 金属製の筒と、精密な目盛りが刻まれた部品。

 バラキエルが図面を渡して依頼していた、蒸留器の改良部品の一つ。

 

「……思っていたより早い」

「面白い設計だったからね♣ 徹夜しちゃった♦」

「ありがとうございます」

「お礼はいらないよ♦ 面白いものを作らせてくれたお礼は、こっちが言う側だから♠」

 

 バラキエルが頼んだのは、ただの蒸留器にあらず。

 これがあれば、蒸留の精度がさらに上がる。

 このノウハウがあれば、リシテアへの実験環境の整備も整う。

 戦時の火薬原料———あるいは、それ以上のものの精製という意味でも。

 

「次の依頼とか、あったりする?♥」

「なぜそれを…………まぁ、良いですが例のごとく内密に」

 

 懐から図面を取り出す。

 職人が受け取り、広げた瞬間、目の奥が変わった。別のものを見る目だ。

 バラキエルはそれを知っている。この男が本気になった時の顔だ。

 

「……これは♣」

「ガラスを使用した実験道具です。詳細は図面に。難しければ、段階的に…」

「難しくない♠ むしろ…」

 

 職人はしばらく図面を眺めると、バラキエルを見た。

 

「バラキエルくんって、どこでこういうこと思いつくの?♦」

「旅先で情報屋から買いました」

「嘘だ♠」

「…証明できない事実は嘘と変わりませんか?」

「くくく…別にいいんだよ♣ 面白いから♦ すぐに仕上げてみせるさ♠」

 

 バラキエルは頷き、工房を出た。

 扉を閉める直前、職人がすでに図面に向かっていた。

 独り言のように何かを呟きながら、指で空中に線を引いている。

 あの集中力だけは、毎回、純粋に羨ましいと思っている。

 

 

 その日の夜、淡い髪の男と銀の髪の少女が工房の中に入っていき、遅くまで明かりがついていたというが、邪推されるような真似は一切していないことをここに明記しておく。




この職人さんですが、ビジュアルと言動が某ピエロなだけです。
この日のあとで、ヒルダやアリアドネの会話に出ていた淑女・婦人用グッズがアルビレオ商会から販売されて、またひと盛り上がりしたそうです^^

訪れる運命の難易度は

  • イージー
  • ノーマル
  • ハード
  • ルナティック
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