これで終わると言ったな、あれは嘘だ。
……次回で終わります。
「おはよう」
「あー、おはよう……?」
広場で会うなりいきなりアスナに挨拶された。どうしたんだ? あいつ……
まぁいい、今日はボス戦だ。昨日、あんなにも身体に纏わりついていた恐怖心は沸き上がることもなく、コンディションもそれなりだ。
この恐怖心を誤魔化せているだけかもしれないが、それでもいい。最初から躓くのだけは避ける必要がある。
「みんな、よく来てくれたね。首尾よくクリアしよう。そして、全員で生きて二層への扉を開くぞ!」
おぉー! という声がたくさん響いて、俺達は歩き始めた。
俺? もちろん言うわけないだろ。
─────
ボス部屋は、広く作られた空洞だった。洞窟と言えばいいのか、鍾乳洞と言えばいいのか、いかにもファンタジーな所ではある。
「キリト、アレとはやりあったことは?」
「ベータテスト時代はあいつ倒すまでで終わりだった。って言っても、ゾンビアタックしてたから参考にはならないけどな」
「まぁ、普通はそれが正解だからな」
ボスの名前や簡単な情報が現れて、次いで取り巻きの雑魚が複数現れる。
ディアベルの掛け声に合わせて、俺達は抜刀した。
「 キリト、アスナ」
「ああ」
「うん」
やる。やってやる。お前らなんて、俺があいつらの元へ帰るための最初の障害だ。足踏みなんてしてられるか。
そんなことしてる暇あるなら、その足で踏み潰してやる。
「っ……来るぞ」
俺は、一息で前へと駆け出した。
──side other──
「っは……」
取り巻きのモンスターを任された集団から弾かれたように青い影が躍り出た。それは誰の目にも止まらぬまま、影を伸ばしてモンスターの首もとに纏わりついて、その首を撥ね飛ばした。
「はやっ……」
そう呟いたのは誰か。影が人の形を作る頃には、彼に続いて二筋の光が舞った。
ソードスキルが発動している証であり、それらは影の主──ハチマンに続きモンスターを消滅させる。
呆気に取られていた他の攻略者達も、慌てて彼らに続いていた。
「一番手はハチマンだな、やっぱり。速すぎるぞ」
「ならお前ももっと敏捷に振ったらいいだろ」
「いや、無理」
力強い太刀筋がキリトの目の前に立つモンスターを切り裂く。片手で放たれたそれは、モンスターを左右へ分断していた。
「……バカ力か、お前」
「その言い方は酷くないか?」
「二人とも、集中して」
アスナの刺突により穴の空いたモンスターがポリゴンへ還り消滅する。
明らかに殲滅スピードの早いこの三人へ、他の攻略者達の視線が向くのも無理はなかった。
「とりあえず第二波も終わりだな」
「今のうちにポーション飲んどけよ。……あれだけしか被弾してないのにキリトより減ってるのか、俺」
「ハチマンくん、大丈夫?」
「見ての通りだ。死ななきゃ安い。ポーションあるうちだけな」
昨夜の出来事が頭から離れないアスナとしては、そう言った心配ではないもののハチマンが気づくはずもなく、彼は曲刀を肩に担いだ。
それからボスと戦うディアベル一派を眺めて、キリトへ視線を向ける。
「向こうも、攻略組で名前をあげてるだけはあるな。そう思うと、お前がここにいるのは宝の持ち腐れにしか思えないが……」
「どういうこと?」
「攻略組の盾無し片手剣士。あれ、こいつな」
チラリとキリトを見て言うハチマンに、少しの驚きを見せつつも納得気味のアスナ。
キリトの戦いぶりを見て、合点がいったらしい。
「そういうハチマンこそ、勿体ない」
「あ?」
「攻略組の青い影。あれ、ハチマンのことなんだぞ?」
「は?」
「えっ?」
反応こそ若干違うものの、キリトを見つめてハチマンとアスナが固まった。
そして、アスナはそのままハチマンへ顔を向けた。
「ハチマンてば全然気づかないんだもんな。自分が攻略組のトップに名を連ねてるって」
いたずらが成功したと言わんばかりのキリトに対して、ゲーム内での過剰な感情表現も相まってか顔を青くするハチマン。かつての自分の黒歴史時代を思い出してしまったらしい。彼は天井を見上げため息を吐いた。
「じゃあ、あなたが私を助けてくれた人……なの?」
「あ? ──あー、まぁそうか。あれはアルゴに頼まれてついてった先でお前がいたからな。助けた、って言うには語弊がある」
いつかの出来事を思い出してか、ハチマンは頭を軽く掻いて肯定する。
フード越しで顔が見えてないとは言え、自分に顔が向けられていることが嫌なのか、露骨にバツの悪そうな顔をしてハチマンはそっぽを向いた。
「話はおしまいだ。次が来るぞ」
そう言って話を打ち切って、ハチマンは再び黒い影となってモンスターの群れへと走り出したのだった。
──side ハチマン──
もうどれくらい戦っただろうか。何回目かの雑魚の殲滅の後、ボスが大きく咆哮した。見れば、体力は残り三割を切っておりあとわずか、と言ったところだ。
「武器が切り替わるぞ、気を付けろ」
「……そうなのか?」
ディアベルの叫び声に、俺はキリトへその事実を確かめた。
あいつももしかしてベータテスターか? なんだよそれ、ならキバオウの首ちゃんと繋いでおけよ……
「ああ」
短く肯定したキリトから、またボスの方へ視線を向ける。
野太刀を取り出したボスへ、ディアベル達は突撃していた。
「っ! バカ! 武器が違うぞ! 気を付けろ!」
「え?」
キリトの叫び声と、ボスの周囲に赤い和ができたのはほぼ同時だった。
ああ、あれは知ってる。見覚えがある。主に自分のスキルとして。
「うわっ!」
「ぐぁっ……」
範囲攻撃。しかも、食らった全員が座り込んだところを見るとあれは転倒の異常付きらしい。
盾で防いだディアベルを除き、全員が転んでいる。
「みんな、体勢を立て直して下がってるんだ! あとは俺がやる!」
「は? いやちょっと待てよ」
おかしいだろ、あと少しだからこそ万全を期すべきで、あいつ……何か狙ってるのか?
「これで終わらせてやる! でやぁぁぁぁっ!」
「やめろディアベル! 引け!」
キリトの叫び空しく、突撃したディアベルは宙へと浮き上がり、そして──
──ポリゴンとなって消滅した。
「……ぁ、ああ……」
「ディアベルはん……うそや……?」
止まるのはこちら。止まらないのは向こう。
最初の獲物を屠ったボスは、次の獲物に目をつける。そう、ディアベルのパーティへ。
「っ! おぉぉぉぉっ!」
俺よりも速く、キリトがボスの太刀を受けた。続いてアスナが、エギルがディアベルのパーティを後ろへ下げる。
この状況下で、戦うことはできる。できるが……
「無理だ……ディアベルがやられたら、俺達には……」
「やだ、死にたくない……あんな……」
士気は最悪。一対一でリーダーがやられた以上、この士気の低下は免れない。
「何言ってるんだ! ここでやらなきゃ、進めない!」
「そんなこと言っても、無理なものは無理だろ……どうするって言うんだよ……」
キリトが言葉を返せば、誰かが嘆く。ネガティブと言うのはポジティブよりも伝達しやすい。絶望。その二文字が場を支配していた。
「……いいかお前ら、よく聞け」
……ならば、やるしかない。適材でも適所でもない。俺はキリトやアスナに早々に退くと宣言していたはずなのに。
負けることには慣れているのに。敗けが当たり前なのに。
「ディアベルに万が一があったときに言えと言われてた言葉を伝える。証拠なら……そうだな、俺はベータテスターだ。これで奴に信頼される理由になるだろ」
「ハチマン……?」
「もしもディアベルに何かあれば、そこのキリトを筆頭に続け。それがあいつの言葉だ。信じるか信じないかは任せる。が、信じておけ。ここで勝てなきゃ俺らはどうせ死ぬぞ」
死人に口無し。嘘も誰も気づかなければ本当になる。
悪意の集束ではない、他の意思の集束。こんなところで上手く言えるとは、なんていう皮肉だろうな。
「けど……」
「でも……」
それでもまだ一押し足りない。まだ──
「全員! 注目!」
そんな俺の思考を遮ったのは、アスナの大声で。俺の視界に入ったのはフードを投げ捨てたアスナの姿だった。
プログレッシブだったり原作だったりオリジナルだったり。なんかいろいろごっちゃですが、それがぼっちアートだということでご容赦ください。
ガイル11巻早く買わねば……