前と比べて自分の納得行くようにキャラの感情を動かせてるかな……と。久々の執筆でダメダメ感はありますが……
徐々に上手くやっていくよう精進です!
「彼の言うことは本当です! 私も聞きました。これでもまだ信用なりませんか?」
アスナは美少女だった。そんなどうでもいいことを考えれるくらいには頭が麻痺している。
あいつ、まさか乗ってきたのか……?
「──」
こちらを見て片目を閉じるアスナ。確信犯か。
……今回ばかりはそれに救われたが。
周りがなんとなく、俺とアスナの言葉に耳を傾けている。
「キリト、アスナ」
なら、もう少し。もう少しだけ、適所から外れよう。
雪ノ下と由比ヶ浜に会うためだ。その為なら、できることならなんでもやる。
多少の危険も請け負う。その上で死なないよう立ち回る。
「時間を少しやる。こいつら立て直して一気にやるぞ」
俺は二人の更に前へ。ボスと一対一で対峙するかのようにして立った。怖いさ、怖いとも。それでも、ここで躓いて、そのせいで雪ノ下達に永遠に会えなくなることの方がよっぽど怖い。
向き合うことによる死の恐怖より、逃げることで生まれる死の恐怖の方が怖いなんて、本当にらしくない。らしくない、が。
「ハチマン、まさか!」
「無理だと思うなら早く立て直してくれよ。俺も死にたくねぇ」
「……わかった。無理だけはするなよ!」
キリトの声が少し離れる。説得と、協力を呼び掛けに行ったのだろう。アスナも同じようだ。
ああ、俺みたいなぼっちよりもあいつらの方が数倍相手にされやすい。だから、適所ではないけど、適材。
「……ったくよ、それもこれも全部お前らの産みの親のせいだ。こんなところに閉じ込められて、こんなわけのわからないことに命かけさせられて、ふざけるなよな」
だから、切っ先を決意と共に改めて向ける。
「だから、まずはお前だ。お前からだ。
──殺すぞ、化物野郎」
野太刀を振り上げたボスへ、俺は真正面から駆け出した。
俺はここにいる誰よりも速い。だからこそ、軽い。
腕力がないからアレを受け止めることはできないし、重装備でもないから食らうことも許されない。
でも、だからこそ。
「当たるかよ、そんなもん」
見るからにパワータイプなこのボスとの相性はとてもいい。
すれ違い様に首を斬りつけて、振り返ると同時に背中へ一太刀。
当たったら終わりな俺は、だからこそ当たらないようにできている。ああ、これはきっと後で振り返って黒歴史確定なんだろうなぁ……
「一撃が弱いかやっぱ。硬いと一人じゃダメージ通しづらいな」
首を狙うにしても、向こうが俺しか見てないから簡単にはいかない。
一撃離脱を繰り返す俺の戦い方はあいつと打ち合い続けるわけにもいかない。というか打ち合いにすらならない。俺が吹き飛ばされておしまいだ。
「……はぁ」
再び、俺は深く腰を落として駆け出した。
真正面からの振り降ろしは横っ飛びで避ける。そのまま一撃見舞って背後まで全力疾走。後ろから何度も斬りつけて、すり抜け様に横一文字。さっきよりは手応えありか。
残り三割から長いな……
「いい加減もう終われ──」
手応えのあった一撃に呻きながら振り回した野太刀が身体を掠る。それだけで俺の体力の三割を削り、俺は慌てて後ろへ下がった。
「わかってはいたが、直撃したら終わりだな」
……足が進まない。ポーションは飲んだ、体力も戻した。が、目に見えた死の形に、俺は恐怖していた。
「……くそ」
ここで本物のヒーローなら動けるんだが、生憎と俺はアンチヒーローだ。そういった補正が働かないからこうして徹底的に立ち回るし、無理をしない。
つまりあれだ、また自分から攻めるには少し時間がいる。
死ねない。という強い意思ならいい。死にたくないという消極的な意思は俺の足を止めるには効果覿面だった。
このままではいたずらに時間だけが……
「ハチマン! 待たせた」
「……おせーよ」
そこでようやく、ようやくキリトがやってきた。
ぞろぞろと周りのやつらもやってきたようで、俺は曲刀を持った手をおろした。
「あとは任せたわ、キリト」
「ああ、ありがとう! お前ら行くぞ! クソ運営に目にモノ見せてやれ!」
おおおおおお! なんていう怒号と共にキリト他多数が突撃していく。
それを見つめながら俺は大きく息を吐いて立ち尽くすことにした。
「ありがとう、ハチマンくん」
すっかり美少女になったアスナが俺の隣へ立って、こちらへと笑いかける。
──やめろよ、勘違いしちゃうだろ。って普段なら言えるんだけどな。やっぱり、俺もどっか狂ってるらしい。
「美味しいとこはいくらでもやるから、もっと人使いを優しくしてほしいもんだ」
「ふふ。──ねぇ、ハチマンくん」
「あ?」
「ハチマンくんは、破滅願望ってない?」
「なにさらっと恐ろしいこと言ってるんだよ。あるわけないだろ」
「そっか。この状況に諦めたりとかってしなかったの?」
「諦めれるかよ。絶対に。これだけは諦めるわけにはいかない」
敗けしか知らない俺の、ただ一つ敗けるわけにはいかないこと。
どうしたんだこいついきなり。ボス戦はまだ終わってないってのに。
「キミは、強いんだね」
「はっ、そんなわけあるか」
こいつ、なんか勘違いしてないか? 俺が強かったとして、それはここだけでの話だぞ。
「ううん、一度でも折れてしまった私に比べればよっぽどだよ」
「……お前、意味わからない奴だな」
「あ、ひどい!」
何が楽しいのか、アスナは笑っていた。
アスナだけじゃない、キリトも、他のプレイヤーも。どういうわけかみんなどこか笑っている。
──ああ、そうだ。それが持つものの役割だ。リーダーシップと言うのはそういうものだ。俺が先陣切って一対一でやったくらいじゃできない。リーダーシップを取れる人間が持つ個性みたいなもんだ。
「これで、トドメだぁぁぁっ!」
俺の目の前で、キリトの一撃がボスを斬り裂いて消滅させていた。
「……勝った、な」
人知れず、俺は左手をグッと強く握ったのだった。
行ける。これなら、進むことはできる。
雪ノ下、由比ヶ浜、悪いな。遅れるけど、約束は絶対に守るから。待っていてくれ。
─────
「キリト」
「ハチマン! やったぜ!」
「ああ」
ラストアタックボーナス。トドメを刺した者に与えられるアイテムを入手したキリトは早速それを装備してこちらへと小走りでやってきた。……弟でもいたらこんな感じなのか。いや、小町みたいになつくか怪しいから一概には言い切れないが。
「……その、助かった」
「キバオウ……」
それだけ言って、キバオウは後ろへと消えていった。リーダーを失ったんだ、かける言葉はあるわけがない。
「ハチマン、俺らいいコンビになりそうだな」
「バカ言え、俺とお前とじゃ立ち位置が違う。お前はこれからこいつらを率いる身で、俺は率いられる身だ。こういうのは今回限りだ」
「ええ……そんなこと言うなよ。俺、ハチマンとは本当に友達になれると思ってるんだぜ」
「……もうフレンドだろうが」
気軽にそんな言葉を言わないでくれ。その言葉は、今の俺には──重い。
「そういう意味じゃなくってだなぁ──」
「何故だッ!」
それでも何か続けようとするキリトの言葉を、誰かの言葉が遮った。
モーゼよろしく人垣が割れて、そこにいたのはディアベルのお供の一人……名前は忘れた。そいつを先頭に何人かがこちらを──キリトを涙を浮かべ睨み付けている。
「何故、あのときにディアベルさんをすぐ助けなかった!
お前、ボスが持ち変えた武器がベータテストの時と違うことに気づいていただろう!」
「……それ、は……」
「実はラストアタックボーナスが欲しくて、ディアベルさんを見殺しにしたんじゃないのか!? なぁ!」
「おい、変な言いがかりはやめろよ。キリトはディアベルの遺言通りに──」
「それがおかしいんだ! お前達、全員グルになってるんじゃないだろうな? おかしいだろ、この層であの強さも」
……空気が、気持ち悪くなっていく。
ああ、これは知っている。よく経験したし見てきたし受けてきた。
出る杭は打たれる。異端の抹殺。日本人特有のくだらない和という奴だ。そして、ここはネットゲーム。リアルに近いとは言え、しかしゲームだ。
「……まさか、本当に……」
「あいつら……」
一人が声を大にして叫べば、疑心がある奴は勝手にその心を肥大させていく。
ましてやゲームの中じゃ、リアルにはない嫉妬や羨望が混ざる。
強い自分を見てほしい、自分はこんなにも戦える。それがどうだ、さっきまでボスに必死だったが終わってみれば活躍したのは一握り。そのうちの特に目立った者へそう言った負の感情が向くのはわかりやすいことだった。
「……はぁ」
キリトが何か深く落ち込んでいるようで、しかし次第にその口元を笑みの形へ変えていく。それで、なんとなくこいつの思考が理解できた。
……無駄なところでやろうとしてることが同じというか、それをこいつにやらせるわけにはいかない。キリトはこれからアスナや他のプレイヤーと共に攻略組の先頭に立たないといけない。そういった悪意の集束先は適任がここにいる。
「──悪いな、二人とも。戻ったらなるべくやらないようにするから、ここでは許してくれ」
悲しそうな顔でこちらを見る雪ノ下と由比ヶ浜が見えた。
あの二人の顔がなんであれ思い出せることに、俺は場違いな安堵を覚えていた。
「あのな、お前らバカか? なんでディアベルが死んだかって、アホみたいな単騎特攻したからだろうが。
仮にキリトがベータテスターだったからとは言え、ディアベルが死んだ理由にはならない。あいつが立場も実力も弁えなかった結果だ。現に俺はこうして生きてる。あいつと一対一でやりあってな」
「ハチマン……?」
「揃いも揃って情けないな、お前ら。ここはゲームなだけじゃないんだよ、失敗したらゲームオーバー。リセットもコンテニューもできない。弱ければ死ぬし、攻略できなければやっぱり死ぬ。ディアベルはおそらくラストアタックボーナスを知ってたとかじゃないのか? だからあんな特攻をやらかして、案の定散ってった」
「きっさま……」
「そろそろまともな言葉で反論してくれ。人を呼んで睨むだけなら誰でもできるぞ」
そう、これでいい。これが俺。
比企谷八幡の一番得意かつコストが少ない常套手段。
「示してくれよ、頼むから。これから先もこんなじゃいつか終わるぞお前ら。俺は攻略したくてここにいる。お守りしに来てるんじゃない」
この場において、ボスと一対一で戦った俺の言葉は重い。
奴らが俺をトッププレイヤー扱いしてくれるなら、せいぜいその肩書きも利用してやる。
「……なんだ、言いたいことあるなら言えよ」
全員の視線が俺に向く。これも知ってる。外敵を認識した時の視線だ。
いい、それでいい。
「安心しろよ、これから先攻略はしっかり進めてやるしボス討伐にも参加する。指示あれば従ってやるし役割は果たしてやる。
が、弱い奴のお守りまでは知らない。利用してやるから、せいぜいお前らも俺を利用してくれよ」
じゃあな。と切って終わりにする。
これだけ煽ればキリト達には悪意は向かいづらいだろうし、上手くすれば攻略組の水準も上がるだろ。
殺されそうにでもならない限りは俺は俺のポジションを貫こう。
どの和にも入らないイレギュラー。材木座の好きそうな言い方だな、これ。
「ハ、ハチマン……」
「あー、キリト。お前ももういいわ、そこそこ役に立ったし。そういうわけでもう用済みだから関わんな」
最後の仕上げをして、俺はその場を後にする。ボス部屋から出て、そこでフレンド欄を開いてキリトを指定。
──俺、ハチマンとは本当に友達になれると思ってるんだぜ。
「……悪いな。フレンドですらないぞ、俺とお前は」
フレンド削除。最後に残ったクラインは、どこかでなんとかやってるだろう。
こいつは別にいいか。攻略組に来るかもわからないしな。
「こんなことですら後ろめたく感じるなんてな」
何度目かわからないあの二人への謝罪を心で済ませ、俺はその場を後にしたのだった。
Episode1.Fin
前回と比べ、ハチマンは原作のアスナ的な思考に、アスナはプログレッシブ準拠な思考に。
めんどくさいキャラが一人消えたくせに一人のめんどくさいキャラが更にめんどくさくなったという罠。
キバオウの扱いも、こちらの方が先の展開に無理なくいけるということでプログレッシブ側に。
さて、次からエピソード2です。また改めてよろしくお願いします!