勢いが乗っているうちに、です!
「……うす」
「こんにちは、ハチマンくん」
あれから二月ほど。二十三層に進んだこのゲームのとある場所で行われる攻略会議に俺は顔を出していた。明後日、ボスの攻略が行われる。
その為の会議だ。ボス攻略に参加する以上、こちらにも出ないわけにはいかない。
「"首斬り"も来たことだし、始めようか」
「待てやリンド、なんであんたが仕切っとんのや」
ディアベルの取り巻きAとB──キバオウとリンドが睨み合うのをよそにアスナはため息を吐いて会議を始めた。
……どうでもいいけどリンドよ、俺のこと名前で呼んでくれない? 影纏いだの首斬りだの、そんなので呼ばれると頭抱えて転がりたくなる。
それと毎度毎度ボス攻略初参加の連中が「あれが……」
とか「首斬りのハチマン……」とか、いちいち反応するのもやめよう。お前らもう少し緊張感持てよ。
「……麻痺してるのか、慣れてるのか」
どちらもだろうな。かく言う俺も自分の立ち位置自体にはそこまで悩まなくなってきている。
呼び名はともかくとしてな。恐怖心が薄れるのはいいことだが、いつ誰が死んでどうぶり返すかわからない。ゲームだけど、死ぬことだけはリアルなんだ、ここは。
何度目かわからない、自戒の言葉を心の内で吐いて俺はアスナへ視線を向けた。
「偵察隊の話によると、こちらのボスは鎧を纏った武者の姿で、武装は腰に差した刀のみ。これは他の武装を扱う可能性もあるので一概には言えませんが、戦国時代の武者と言えば皆さんには伝わると思います」
「……へぇ」
知らず、声が出た。今まで純ファンタジーを貫くようなボスが多かった中、いきなり和風か。
和風って言えば、こちらでは風林火山か。あとは見た目的に言えば俺もだろうが……
「情報収集部隊にクエストを受けてもらい、情報屋からも集めた情報によれば、取り巻きも足軽のようなモンスター。また、ボスは"強き者"を求める性質とのことです」
「それはつまり、ヘイトの管理が容易ではないと言うことか?」
「私はそう思ってます。 平時通りタンクがヘイトを集め、他で削る。とはいかない可能性があるかと」
ふむ。と自分の質問への答えに満足したのかリンドは顎に手を当てた。
なるほど、となるとキリトなんかが攻撃するとそっちへヘイトが向かうようになるわけか。無論俺にも。
これまた初見殺しが酷いもんだ。
「なので、今回の主力にはハチマンとキリトの二名を推薦します」
「……は?」
「まぁ、そうなるよな」
いや、キリト。なにそのドヤ顔。んでなんでこっちをそんなびびりながら見てくるの?
いやまぁ、フレンド切って会っても変わらず適当にあしらってはいるけど。
ってそうじゃない。
「そこのはともかく、なんで俺もなんだよ」
「適材適所よ、ハチマンくん」
「なら軍なり連合なりでいつも通りにやればいいだろ」
「今回のボス戦では集団でボスを叩きづらい以上、単身での戦闘力が頭抜けて高い二人に向かってもらう必要があるわ。だから、適材適所。二人しか、そこに当てはまらないの」
「お前自分自身はどうなんだよ。"閃光"のアスナなんて呼ばれてるだろうに。俺よりよっぽどやれそうだろ」
「……まだ、私はあなた達には追い付けてない」
なんとな標的にならないようにと言った言葉は、心から悔しそうな声で掻き消された。
いや、そんなこともないだろ。と言いたくはあるんだが、アスナの目がそれを許さない。
「……アスナさん、俺は今回はその作戦に乗ることにする。"黒の剣士"と"首斬り"。なるほど確かに信頼できる」
「……一層で俺のこと思い切り睨んでたくせによく言うよ」
「あの発言は今でも撤回して欲しいと思っているし、許すつもりはない。が、こうして力を示されている以上俺は何も言えない。助けられたこともあるからな。
……それに、今は少なからずディアベルさんの気持ちがわかってしまう。わかってしまうから、お前を全否定することができない」
「……欲に目を眩ませるなよ。全損したHPを戻す手段はさすがに無いんだからな」
理解してしまったのだろう。ラストアタックボーナスのことを。ディアベルはこれを狙い死んだ。そして、リンドも自身が攻略組のトップの一角にいることでそのメリットを覚えてしまった。ラストアタックボーナスのアイテムは基本的に強い武器や防具、装飾品だ。俺のこのマフラーもラストアタックボーナスのものであり、隠蔽スキルの発動を速くして俺自身のステータスにも隠蔽に+が加算される。
俺へのアクセサリーとしては現時点では破格の性能だ。
故に、俺も思わず言ってしまった。言ってから気づく、これは失言だったと。
「忠告痛み入る。……意外だな、まさか首斬りから心配されるとは」
「……お前が死んだら士気が終わる。自分の利用価値くらい計算しておいてくれ」
ふ。と笑われる。あーくそ、何も考えなさ過ぎた。
……二十一層で思考に嵌まって以来、こんな失言が増えた。
考え無いようにしすぎるあまり、勢いで言葉が出るようにでもなったか。くそ、やっぱり調子が狂ってるな……
「では、これには反対意見はありませんね?」
「ああ」
「……けっ、次は軍が主力パーティやらせてもらう」
俺の意思を無視してどんどん進んでいく。
キリトは気がつけばやたら近くにいて、アスナも満足そうな笑顔。挙げ句風林火山に囲まれて、ここにハチマン包囲網は完成していた。
「ハチマン、よろしくな」
「……はぁ」
こめかみに手を当ててやれやれのポーズ。こちらに来ていつからか真似するようになった雪ノ下の呆れポーズをして、俺は大きく息を吐いたのだった。
前回のと少々違いますが、前のを読んでいた方はわかるでしょう、あのボスです。
そういえば、ぼっちアートらオリジナルボスやソードスキルがぽんと出てきたりするのですが、タグに入れておいた方がいいのですかね?
最近のSAO二次創作とかも、凄い細かくソードスキルとか書かれてるのでオリジナルは表記した方がいいのかなーと少し気になったり。
ではでは。