ぼっちアートオンライン(再)   作:凪沙双海

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ボス前夜祭。
前回のと比べるとアスナ側の問題がまるでないのに、ハチマンがどんどん袋小路に嵌まっていく……


Episode2,part4

──side アスナ──

 

 

「ハチマン、スイッチ」

 

 

「ん」

 

 

攻略会議を終えて、おそらく久々にパーティを組むであろう二人を無理矢理連れて私は迷宮にいた。

例え二人が攻略組トップのプレイヤーだとしても、二人してソロで動くし協調性に欠けるからとリハビリさせようとしたのに、その結果がこれだった。

 

 

「さすが!」

 

 

「大したことじゃないだろ……おい、不注意だぞ」

 

 

ハチマンくんの姿が黒く歪む。目の前にいるのにシステムでの確認が遅れる。ようやく認識できた時には彼はキリトくんの後ろにいたモンスターの背後から斬りかかって、ヘイトを自分へと向けていた。

 

 

「わかってるっての!」

 

 

ハチマンくんへ身体を向けたモンスターをキリトくんが両断する。

……片手剣で真っ二つってなんなのよ……

 

 

「やっぱりハチマンとはやり易いな。言わなくてもどうにでもなるっていうか」

 

 

「変わらねぇよ。別に」

 

 

どういうわけかハチマンくんはキリトくんへは明確に距離を置くようにしてる。キリトくんも明るく話しかけてるけど彼との距離感がわからないみたいで、難しそうな表情だ。

 

 

「あれが"影纏い"の正体なのね」

 

 

「さぁな、そもそも自称してるわけじゃないから俺自身どんなものかは知らん」

 

 

簡単な隠蔽スキルの即時発動。本来はターゲットにされてなければそのまま見つかりにくくなるもので、戦闘中に使うと少しだけターゲットの対象にされなくなる。というもの。敵にも味方にも有効なそれを発動させて、おそらく攻略組最速のハチマンくんの全力疾走。後ろを取ってバックアタックボーナスの恩恵を受けたまま首に一振り。うーん、なんていうか首斬りも影纏いも呼ばれて仕方ない気がする。

 

 

「ほんと、どこまでもソロ特化よね……」

 

 

「当たり前だろ。ぼっちが一人に強くなかったらどこで生きてくんだよ」

 

 

事も無げに言ってハチマンくんは刀を一振り。くるりと逆手に持ちかえるとゆっくり納刀した。その仕草は時代劇とかのアクションみたいで、私もキリトくんも何も言えずそんな彼をじっと見つめていた。

 

 

「……なんだよ」

 

 

「いや、なによそれ」

 

 

「納刀をちゃんとすると次の攻撃にクリティカルのボーナスが付くんだとよ。迷宮回るときは意識的にやってるんだよ」

 

 

へー、ほーと私とキリトくん。かっこつけとかかとおもっちゃったけど、あの効率重視の塊みたいなハチマンくんがそんなことするわけないか。

 

 

「しかし、本当に速いなハチマン。合わせれるけど、追い抜くのは無理そうだ」

 

 

「その分筋力とかはないからな。武器も酷使するからすぐ折れる。体術スキルもないからこれしかできないぞ」

 

 

「充分だよ、ハチマンのそれなら」

 

 

そう。キリトくんもキリトくんで体術スキルでモンスター殴り倒すわ片手剣で両断するわ、挙げ句ハチマンくんの影纏いにちゃんと対応して援護するわで、さらっととんでもないことをしすぎてる。

……やっぱり、この二人に比べるとどうしても私は見劣りしてしまう。閃光だなんて言われてもハチマンくんほど速くないし、キリトくんほど力もない。まだ、彼らに並べない。

 

 

「ハチマン。ボス戦はどういく?」

 

 

「スイッチの回数多めでいいだろ。俺もお前も基本直撃がそのまま終わりだからな、一人にヘイトを集めすぎない方がいい」

 

 

「オーケー。あとはクライン達に期待だな」

 

 

「……まぁ、せいぜい壁役を任せるさ」

 

 

あ、またいつものが始まった。他の人のことをなんとも思ってないように言って、それからハチマンくんはぼーっと上に視線を向ける。

ハチマンくんを見てて気づいたんだけど、こうなると彼は自分の思考に沈んでしまう。何を考えてるのかはわからないけど、やっぱりハチマンくんが心底私達を利用するだけにしか思ってないようには見えない。

キリトくんも話しかけようかどうか躊躇っていて、もしかしたらハチマンくんのこれに気づいているのかも。

 

 

「いい時間だし、俺は帰るぞ」

 

 

思考から帰ってきたらしいハチマンくんは、その濁った目をいつもより酷くして私達の返答も待たずに帰ってしまった。

残されるのは、私とキリトくん。

 

 

「なぁ、アスナ」

 

 

「どうしたの? キリトくん」

 

 

「どうすればハチマンと友達になれるのかな。俺さ、人と上手く話せないし、ああいうことになるとどうすればいいかわからないけど、ハチマンとは友達になりたいんだ。

一層で一緒にいたっきりでそれからはずっとそこまで近くに入れなかったけど……ハチマンのこと、もっと知りたいんだ。俺」

 

 

「なら、思い切りぶつかって行きましょう? キミが言ってたじゃない。ここは紛れもないリアルで、"本物"だって」

 

 

「……ああ、もちろんだ! 明日のボス戦楽しみになってきたぜ……」

 

 

「こらこら、浮かれすぎないようにね?」

 

 

「そこは大丈夫だ。油断なんてしないし、ハチマンにそんなとこ見られたらそれこそ終わる」

 

 

「言えてるかも」

 

 

顔を見合わせて私達は笑った。

最初こそ嫌悪されていた彼は、攻略組の人達にも一目置かれる存在になってる。きっと気づかないのは本人だけで、そもそも気づかないのか、気づこうとすらしないのか。

気になるあの人は、今頃どうしてるのかな。なんて思いながら迷宮の空を見上げたのだった。

 

 

──side ハチマン──

 

 

「──みんな、勝ちましょう」

 

 

一層以来続いてるボス戦前の合言葉。ディアベルが遺した勝とうという言葉はいまだにこうして使われている。

俺はもちろんおー!なんて言葉に合わせるわけもなく、腰の刀に添えた左手に力を込めた。

半年ほどで進行度は四割くらい。ここから加速するも減速するも今の俺達次第。──失敗するわけにはいかない。

 

 

「よろしく頼むぜ、影纏いさんよ」

 

 

「お前らこそ、ついてこれなければ置いてくからな」

 

 

風林火山の軽口に適当な返事をして、中へ入っていく。

隣のキリトもだが、こいつらはなにがこんなに楽しいんだ。

他の連中だってそうだ、リンドに始まり口々によろしくだの頼むだの言ってきて、そんなの俺にかける言葉じゃないだろ。

 

 

「なぁ、ハチマン」

 

 

「なんだよ」

 

 

ボス戦で集中しなくてはいけないのに、思考に乱される。

だからか、キリトへの返事も簡素なものになる。

 

 

「これが終わったらさ、俺と友達になってくれよ」

 

 

「……は?」

 

 

「というか、なるからな。拒否権とかなしだ」

 

 

「いや、おかしいだろ。どうしていきなりそんなことになるんだよ」

 

 

「俺が今でもハチマンと友達になりたいからだよ。言ったからな」

 

 

「なっ、ちょっと待て。おい」

 

 

──わかっている、キリトが、アスナが、打算も計算もなく俺に近づいていることなんて。

思考が思考を乱して、その思考が俺の心を鈍らせる。違う、関係ない。俺は帰って雪ノ下に、由比ヶ浜に会わないといけない。

こいつらがなんであろうが、無償であればあるほど、それに応えるわけにはいかない。いけないんだ。

 

 

「始めるぞ!」

 

 

キリトの一太刀がボスへ向けられ、それが開戦の合図となる。

理性を起こせ。感情に惑わされるな。俺は、俺の目的の為に。

 

 

「……やるぞ」

 

 

刀を抜いてゆっくり構える。頭の中では、まだキリトの言葉が渦巻いていた。




というわけで、次回ボス戦です。
より精神に余裕がない、けれど鈍くもないから察せてはいる。まったくもって面倒な男よのう、ハチマン。

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