ぼっちアートオンライン(再)   作:凪沙双海

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難産だった……かつまだちょっと納得できてないところもあったり……
書きたいものをそのまま文章化するってほんと難しいです。
というわけで、どうぞ。


Episode2,part6

──side ハチマン──

 

 

「っと……あぶねぇな」

 

 

被弾は今のところ無し。とは言え安全第一でやってるからこっちの攻撃も大して入ってないけど。

 

 

「っは」

 

 

当たれば即終わり。こっちが当ててもいつまで続くのか。気が狂いそうな時間と場所で、俺は今動いてるであろう脳細胞の全てをあのボスへと向けた。

 

 

「当たるか……よ……っ!」

 

 

キリトのようなギリギリの回避はできない。

俺は確認したら回避動作を取って、そのまま背後から一太刀浴びせる。

こんな緊張感、くそくらえだ……

 

 

「ちっ」

 

 

何度目かわからない舌打ちをして、刀を肩に担ぐ。

ダメージは確実に与えられてはいるが、倒すにはまだ遠い。

嫌な緊張感が纏わりついてくる。何より、ボスと対峙しているのが俺一人というのが、この緊張感を加速させている。

 

 

「……あほか。集中しろ」

 

 

先程まで周りに、背中に、隣にいた存在が例えどれ程大きかったとして、そんなもの意味はない。あるはずがない。

 

 

「ぼっちはぼっちらしく」

 

 

切っ先をボスへ向けて、大きく息を吸う。ここでは大して意味のない行動だが、落ち着くにはこれが一番いい。

 

 

「ハチマン! 無茶だけはするなよ!」

 

 

「……無茶なんて、最初からしっぱなしだ」

 

 

きっと俺の返答はキリトに聞こえてないだろう。聞こえるように言ったつもりがないからな。

ゆらりと下段に構えて、いつでも斬りかかれるように準備をしておく。

 

 

「そらよ……っ!」

 

 

目の前に行って、下段から切り上げ一閃。一対一である以上、ソードスキルを不用意に出すのは良くない。

だからこうして通常攻撃で攻めて、隙を見計らってソードスキルを確実に入れていく。

 

 

「おせぇ」

 

 

横へ振られた刀を後ろへ飛んで避けて、そのまま返すようにソードスキルをぶつける。

時間はかかるが、なんとかやり過ごせそうだ。

──そんなことを思いながら、俺は後ろへ吹き飛ばされていた。

 

 

「なっ……に……?」

 

 

何をやられた? 低下した体力は半分ほどで減少を止めて、俺は混乱する頭を整理すべく左右へ首を振った。

……まさか──

 

 

「カウンターか……」

 

 

あの通常攻撃にソードスキルで返した俺は、おそらくその硬直にボスのスキルを受けたのだろう。

がしゃり、と目の前に立つボスは、なるほど戦で首を取る武者そのものだ。

 

 

「くそが……」

 

 

最悪なことに、俺は転倒させられたらしい。

少しの間自由を奪われるこれは、つまり──

 

 

「──あ」

 

 

もがくことすら許されず、ボスの刀は俺へと振り下ろされたのだった。

 

 

「させ……るかぁっ!」

 

 

死を刻まれるよりも早く、俺の目の前に黒い人影が割ってきた。

そいつは今回のパーティ。同じアタッカーの剣士……

 

 

「……キリト」

 

 

「間に合って良かった……ハチマン、動けるか?」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

ボスの刀を追い払ってひとまず下がったキリトは俺に振り向いたかと思えば、こつん。と俺の胸に拳を軽く当てた。

 

 

「無茶すんなって、言ったろ」

 

 

「したつもりはなかったんだが」

 

 

「嘘つけ。死ぬとこだったんだからな、ハチマン」

 

 

言葉こそ軽いが、その目は真剣そのもので。

視線を外したいのに、キリトから視線を外せない。

 

 

「俺さ、ハチマンが死ぬなんてやだよ。そんなの、絶対に嫌だ」

 

 

「……どうして、そこまで」

 

 

「俺の役を取られちゃったからな」

 

 

「は?」

 

 

「一層でかっこよくソロプレイヤーになってやろうと思ったのにさ」

 

 

「役って、あれは別にロールプレイしたわけじゃないんだが」

 

 

「どうだろうな」

 

 

へへ、とキリトはにやりと笑って、

 

 

「そうだとしても、そうでなくても。俺はハチマンのことが知りたいんだ。

俺は今、このゲームにいる。ここにいる。ハチマンもここにいる。ここは、少なくても今の俺にとって真実で、この気持ちも思いも全部本物だ。だから、その気持ちのままにいこうって思ったんだ。だから、まずはその一歩」

 

 

……本物。俺が何よりも欲しているもの。そんなもの、こんなゲームの中にあるはずがない。あってはいけない──

 

 

「みんなハチマンのこと、凄いやつって思ってるんだぜ。俺もそうだしな」

 

 

「……」

 

 

──が、わかってる。少なくともこいつらは、キリトは俺に何の打算もなく話しかけてくると。こいつだけじゃない。

今の攻略組において、命がけのここで、戦略的な打算こそあれど全部が全部リスクリターンを管理して動いてるやつなんていない。だから、こうして必死に戦っている。

……悔しいが、生きている。俺達はここにいる。

比企谷八幡は、ハチマンとしてここにいてしまっている。

 

 

「……構えろ、キリト。お喋りの時間は終わりみたいだぞ」

 

 

そして、それは俺だけではない。全員が全員そうだ。

目がどうとか、今までがどうとかじゃない。初対面なんだ。

……トラウマって凄いよな。あらかじめあらゆる保険と保身の方法を咄嗟にやらせてくる。

が、ここにいるハチマンにそれは関係ない。比企谷八幡ではないから。影纏いだの、首斬りだの呼ばれるハチマンだから。

 

 

「ハチマン、終わったら友達になるんだからな!」

 

 

「お前な、戦闘中にそういうこと言うなって。旗がきっちり立って死んじゃうかもしれないだろうが。

……だからまぁ、そういった話は終わってからな」

 

 

「……! ほんとか!?」

 

 

「嘘ついてどうするんだよ」

 

 

多少、吹っ切れた。俺はここでも比企谷八幡でいる必要はない。

ハチマンとしてここではいよう。いてみせよう。

……ああ、ますます生きて帰りたくなった。早く、早くあいつらに、小町に会いたい。あいつらはハチマンを、俺を見てなんて言うだろうか。

──何も言わず優しく笑ってきそうで、俺は一人苦笑いを浮かべた。なんだこれ、俺あいつらのこと好きすぎだろ。

いやまぁ、本物を欲してる相手ではあるが。

 

 

「じゃ、続きやるか」

 

 

「ハチマン……? どうしたんだ? なんか変わったけど……」

 

 

「いろいろあるんだよ。いいからやるぞ、あんな化け物、

とっとと殺すに限る」

 

 

少しばかり身体が軽くなった気がする。バーチャルなここで何言ってんだって話だが。

息を吸って吐く。また刀を下段に構えて、さっきはいなかった黒の剣士を再び隣に立たせて、俺はボスを睨み付けたのだった。




ようやく八幡がハチマンになりました。と同時にここからがハチマン攻略組のスタートになりますが。
うちのハチマン、いろんなもののドツボに嵌まってるというか、なんともちょろい。ちょろいはずなのに無駄に難易度が高い。
そして何よりも書くのが難しい。とても楽しいですけどね(笑)
というわけで、ではまた。

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