かくいう私は肺炎寸前まで行きました(笑)
というわけで、はじまりはじまり。
──side ハチマン──
「はっ……」
一撃、二撃──振る毎に足軽モンスターの首を斬っていく。
今キリトがボスと決闘をしており、俺はあいつを解放する為に湧いた雑魚を掃討すべく走っていた。
「ハチマンくん、ちょっとハイペース過ぎじゃ……」
「いや、こうでもしないとまずい」
斬り捨てたモンスターの近くにいたアスナの心配そうな声に被せるようにして答える。
あんな軽いノリでやり取りしたものの、俺とキリトはここに来て弱点を晒している。だから、時間はかけられない。
「遅くなればなるほど、キリトや俺の死亡率は上がる」
「それってどういう……」
「ポーションがもう少ししかないんだよ、俺らは」
俺もキリトも超攻撃型のアタッカーだ。こんなボスでもない限りタンクと共に全力で削る。そしてタンクがいてもなお、俺のポーションの消費は多い。おそらくキリトもそうだろう。
「俺の持ってるポーションはもう十個を切ってる。あいつも少ないだろう。ここからは気軽に消費できないんだよ、俺らは」
それ故の弱点。被弾は避けられないボス戦において、俺達は攻撃的過ぎる。
「……わかったわ。ごめんハチマンくん。背中預けていい?」
「……知らん、こっちはこっちでどうにかするから、そっちはそっちでどうにかしてくれ」
まだ、そこまで慣れない。雪ノ下や由比ヶ浜からもきっと何かしら信頼は受けていたと思う。が、ここまで素直に信頼されてしまうと、どうもありのままに答えることができない。
違う、これは
ハチマンも、こいつらの実力には一定の信頼を置いているわけだから。
「はぁぁぁっ!」
閃光の異名たる理由の、アスナの突きがモンスターを貫く。
なんだあれ、もうビームじゃねぇか。
「初めてまともに見たけど、お前のそれえげつないな」
「む……首斬りさんには言われたくないんですけど」
俺へと振り下ろされた攻撃を回避して、そのままに首を斬り飛ばす。
ほら。なんてアスナの声は無視することにする。
……前よりか余裕が出てきたのが自分でもわかる。わかるからこそ戒める。これは、ハチマンのものだと。何も比企谷八幡をハチマンと結びつける必要はないと。
だから、身体が少しばかり軽く感じるんだろう。ここでまた思考の深みに嵌まるくらいなら、今はこれでいい。
「そこっ!」
アスナの刺突が一度に何度も刺さったとしか思えない速さで決まり、モンスターはポリゴンへ還っていく。
ちょうど全部終わったのか、壁が消滅して俺はそっちへと駆けていった。
「早かったな、ハチマン」
「随分余裕そうだな」
あれと一対一でやりあったキリトは変わらずに俺と並んだ。体力もまだまだ余裕があるし、化物かこいつは。
さすが攻略組トッププレイヤーというか。
真正面からの戦いでこいつより上手く戦えるやつはそういないだろう。
「まぁな。って言っても、もうポーションほとんどなくなっちまったけど」
「なくなったらおとなしく下がれよ。俺もそうするから」
「わかってるって」
とはいえ、奴のライフバーは残り少し。この攻撃特化パーティなら削りきれる範囲内だ。
攻略にかかる時間も、このままいけばかなり早い。まったくもって性に合わないが、踏ん張り所のようだ。
「さて、と」
再び俺は駆け出した。もう最高速から落とすつもりはない。
ただひたすらに駆け回り手当たり次第に斬りつける。隙を見つけたら首に斬りかかって、いつでもその首を飛ばせるんだと意思表示してやる。
「うおおおおおおおっ!」
キリトの雄叫びが後ろから聞こえてくる。
ここにきてもう一段階攻撃のギアが上がったと言うか、おそらく手数重視の攻め方に変えたのだろう。あのバカ力であの手数か……どんな火力になってるんだか。
「……シッ」
それでも俺は俺のまま。俺にはアスナやキリトのような刹那に多数の攻撃を叩き込むような戦い方はできない。
が、それでいい。俺にはこれがある。
死角から、認識されるよりも速く一太刀。認識されても、反応される前にもう一太刀。人間観察の賜物か、俺は狙いをつけた場所へ攻撃するのは得意なようで、それは俺だけの戦い方。
「こいつでぇぇっ!」
回転を加えつつ振り抜かれた剣が、鎧ごとボスのわき腹を抉る。
ライフバーはあと一割あるかないか。そこにきて、ボスは再び咆哮した。
「……最後の決闘ってわけか」
先程攻撃したキリトはそのまま駆け抜けて行ったので奴の視界にはいない。つまり、相手は必然俺となる。
俺は飛び跳ねるのをやめて、下段に刀を構えた。
「ハチマン、ポーションはあるのか?」
「あと五つはある。まぁ、お前らがあいつらとっとと全滅してくれれば大丈夫だろ」
「了解。って言っても、別にハチマンがアレ倒しちゃってもいいんだぜ?」
「おい、俺に死亡フラグ立てるな。俺には補正なんてかからないんだからな」
と、軽口はここまで。あと少し、もう少し。
「ハチマン、いってくる」
「……ん」
キリトが離れていく。さっきはやらかしたが、今は大丈夫だ。
心も、随分と落ちついてる。
「命だいじに、ではあるんだが。それでも俺の根本は揺るがない。
何度だって言ってやる。お前を殺すぞ、化物野郎。俺は俺に戻る為に、俺である為にこの俺を肯定する。
……これだけは、こんなふざけたゲームにだけは負けねぇ」
強く刀を握って、俺はボスを睨み付けた。
──side other──
先に動いたのはハチマン。先程の予備動作をなくしても尚その速さは攻略組最速と呼ばれるだけあり、最初の決闘からでは考えられないくらいの速度でボスへ斬りかかっていく。
「おせぇ」
ブンと横に払われた一撃は、ハチマンに当たる数拍前から空振りが確定している。何故なら、ハチマンはそこにいない。
真横からボスへ斬撃が入り、その反対側にハチマンが現れる。
「……」
最低限当たってはいけない攻撃にだけ意識を強く向け、基本的に回避重視で攻撃する。
大きく息を吐いてボスを見据える。ボスの体力ももうあとわずか。ハチマンはそこで、初めて口元を笑みの形にした。
「……お前をハチマンの最初の勝ちの相手にしてやるよ」
下段に構え、両肩を脱力させる。元々猫背なこともあってより低くなる体勢に、だらりと下がった手に握られた刀の刃が地面についた。
「……行くぞ」
らしくないことは本人が一番わかっている。小さく出た声はそれでもゲーム内ではこうあろうと思った彼の決意の現れであり、そのまま一目散にボスへと駆け出した。
先手は絶対的にハチマン。キリトが攻撃したであろう斬り跡の残る鎧のわき腹部分へ横薙ぎを放った。
「そら……よっ!」
背後に回り込んで振り向き様に一太刀浴びせる。ボスは、自分にまとわりつく影を振り払うように大きく手を振り回して距離を取ったハチマンへと振り返る。
「ポーションはあと四つ……」
手持ちの回復薬を確認して、再び駆け出す。
その巨体に似合わずボスの太刀筋は速く鋭い。よこへと一閃された攻撃を突撃しつつも回避したハチマンだが、ゲームとしての判定はヒットだったらしい。削られる自分の体力を見ながらも彼はその手に持った刀を振り下ろした。そのまま斬り抜けるようにしてボスの攻撃を回避して背後へと着地して、彼は回復薬を飲んだ。
「あと三つ。……いけるか」
少しでも体力が下がれば即死圏内。だからこそ油断なく、自分に恐怖を感じさせないように回復薬の使用は躊躇わない。
「……はっ」
思考時間少なく、得意の隠蔽スキルを発動させて影を纏い走り出す。
ボスの左手に現れて刀身を光らせて上から一閃。そこでボスに姿を認識されるが、構わず踏み込み斬り上げの一閃。
「これで、終われ……っ!」
反撃のソードスキルが横を通っていく。完全な回避はできなかったものの、その体力は半分ほどで減少を止める。
そして最後の一太刀。三連撃の最終段を、ボスの首へとありったけの力を込めて放った。
「……やった」
聞こえたのは誰の声か。ようやく視線を剣先へ向けたハチマンは、ボスの首が宙へ飛び上がりポリゴンへ還っていくのを確認して、討伐成功を現す文字が中空に出現するのを見つめていたを
「──我々の、勝利だ!」
歓声がそこかしこから上がる。
一度刀を軽く振って流れるように納刀したハチマンは、背中から聞こえてくる自分の名前を呼ぶ声を聞きながら深呼吸をして、肩の力を抜いたのだった。
これにてボス戦は終わり、話もあと二つほどやってエピソード2も終わりになります。
これからまたこんな頻度で書いていきますので、どうかよろしくお願いします!