ぼっちアートオンライン(再)   作:凪沙双海

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新しく始まりました、ぼっちアートオンライン。
感想をくれたみなさん、ありがとうございます。
改めまして凪沙双海です。
また長い間のお付き合いとなりますが、よろしくお願いします。

差し当たり、転職先への勤務開始日までの自宅待機中に書きまくるか……ではでは、始まります。


プロローグ1

「……はい、雪ノ下です」

 

 

「よう、俺だ。比企谷だ」

 

 

「っ……」

 

 

「てっきり出ないかと思ったんだがな。知らない番号だろ、お互いに」

 

 

「……由比ヶ浜さんにこれからかかってくる電話には絶対に出るようにと言われたのよ。その時点で誰からかかってくるかくらい、おおよその検討はついていたわ」

 

 

「そうかよ。まぁ、余計なやり取りがないだけいいかもしれないけどな」

 

 

冬休みに入ってすぐの週末。俺は自室で上擦りそうな声を必死で抑えていた。

電話の相手はあの雪ノ下雪乃。これからのこと、今のこと、何より俺らしからぬことにスマホを持つ手も震えている。

 

 

「……何の用?」

 

 

「来週の水曜日、空いてるか?」

 

 

「来週? ……ええ、空いてるけど……まさか、あなた私を誘うつもり? この状況で?」

 

 

「お前だけじゃねぇ。由比ヶ浜もだ。

……悪いがな、もうこんなのは終わりにしよう。お前はあのときわかってくれると思ってたと言ったな。なら、わかってやる。その代わり俺のこともわかってもらう。らしくもない、本音で話してやる。上っ面だけの付き合いなんてするつもりはねぇからな」

 

 

「比企谷くん……」

 

 

生徒会の件で、俺はいつもとは違う方法を試みた。結果としてそれは成功したが、雪ノ下に下手な仮面を着けさせてしまうことにもなった。

単なる問題の解消ではなく、守りたい、無くしたくないと思った場所を守るためのこと。まったくもって俺らしくもない。

 

 

「軽くない、どうでもよくない。奉仕部は、俺にとってなくせない場所だ。奉仕部だけじゃねぇ」

 

 

暗に、お前や由比ヶ浜のこともそうだと込めて。俺はひとまず言葉を切った。

 

 

「……そんなわけで、部長なら部員の言葉に耳を傾けてくれ。それでなおそのエセ強化外骨格を付けるならそうしろ。お前の中で俺や由比ヶ浜はその程度の存在だったんだろう」

 

 

俺は本当にそうだとしても、おそらく由比ヶ浜は違うはず。こんなことを言われて、雪ノ下雪乃は黙っていられるほど大人でも、強くもない。唯一といっていい弱点だ。

 

 

「……なるほど、伊達に半年以上同じ部活に入っていないと言うことね。いいでしょう、受けて立ちます。

何も、言いたいことがあるのはあなたや由比ヶ浜さんだけではないのよ」

 

 

「なら、最初からそうしろっての」

 

 

負けず嫌いな雪ノ下が乗らないわけがない。わかりきった答えを聞いた俺は、けれど安堵から脱力しつつ憎まれ口をきいておく。というか、ほんとこれ。

言いたいことははっきり言いましょう。俺? そんなこと言える相手もいないけどな。

 

 

「……ふふ、比企谷くん」

 

 

「なんだよ」

 

 

「――ありがとう」

 

 

「っ……まだ早いだろ。由比ヶ浜もいないぞ」

 

 

「前受け金と思っておきなさい」

 

 

「……そういうことにしておく。じゃあ、雪ノ下、一時に学校で。どうせ空いてるだろ」

 

 

「そうね。部室で待ってるわ。最後にいいかしら?」

 

 

「内容にもよる。なんだよ」

 

 

「変わらなくてもいいといっていたあなたの、この変化は何があったのか、気になったの」

 

 

「別に、大したことじゃない。平塚先生にまんまとやられた、とでも思ってればいい」

 

 

「……そう。少し、納得がいったわ」

 

 

「なら良かった。じゃあ、切るぞ」

 

 

「ええ。またね、比企谷くん」

 

 

「……またな」

 

 

電話を切って、大きく大きくため息を吐いた。

少ししか時間が経ってはいなかったが、長い時間話していたようにも思えた。

らしくないなんて知らない。決めたなら、俺は俺の好きな俺であるためにやる。今回のこれは雪ノ下と由比ヶ浜に、この俺の言葉を伝える。それが自分の為になるからやるだけのことだ。くれぐれも上っ面だけの軽いものではない。

 

 

「――本物、か」

 

 

あの失敗を省みて、何がダメで、何がおかしかったのかを考えた。

雪ノ下の姉である陽乃さん曰く"理性の化け物"らしい俺は、なるほど感情と言うものは思考にない。

持てるものを全て利用して、自分が満足行く結果を出すために関係者の感情をも計算に入れて、打算漬けにして解を出す。必要なところに必要な役所を。その際に悪意の集約先が必要なだけで、それはボッチかつ影の薄い俺が担当するのは無駄のない采配だった。

感情に任せるから失敗して、絶望する。なら、感情など排他して、利用して計算の枠に入れてしまえばいい。

やがて、俺は感情というものに酷く鈍くなっていたらしい。そんな俺が、感情についてまだ子供のように何も知らない俺が多少でも感情に任せて動けばあんなことにもなる。奉仕部を失いたくない。僅かでもあったその感情に任せたせいで、雪ノ下をああにした。

それからずっと考えた。考えた結果、膨らみ続ける一つの感情が俺に答えを出した。

 

 

「俺は、本物が欲しい」

 

 

何かは知らない。漠然としすぎて自分でもおかしくなる。が、これは俺の求めているもので、あの二人と築きたいものである。

葉山達と関わるにつれて、上っ面だけの関係にも水面下での努力の必要を知って、上っ面だけの関係でも芯の通った関係も知って、ふと、あの二人と自分の関係に、同じものを求めてしまった。

だから、本物が欲しい。

 

 

「……ちゃんと言わないとな。約束を守らないとうるさいからな、雪ノ下は」

 

 

だから、言おう。どうなろうと言おう。

比企谷八幡が比企谷八幡を好きで居続けるために。他でもない、俺のために。

 

 

「……よし、一段落だな」

 

 

時刻は昼に差し掛かる頃。俺は机に置いてあるヘッドギアを見つめた。

雪ノ下に早めに電話をした理由でもあるのが、このヘッドギア……通称ナーヴギアだ。これは今日からサービス開始になるフルダイヴ型VRMMOのソードアート・オンラインのハードで、小町が福引きで当てたものである。

実はかなりのネトゲーマーである俺としては、あれほどの宣伝をされていて興味がないわけがない。小町様々だ。あとでやりたいと言ってたのでサービス稼働してから同にかもうひとつ工面してやりたいところである。まぁ、受験終わってからだけどな。

 

 

「そろそろか」

 

 

ベッドに横になってナーヴギアを装着する。小町には昼はいらないと言ってあるし、憂いは全て断った。

ナーヴギアの存在をギリギリまで忘れてるくらいには考えたんだ、らしくなくとも言いたいことは言うべきだ。

 

 

「よし、リンクスタート」

 

 

時間とともにゲームへとダイヴする。

――この時はまだ、まさか自分にあんなにも感情が存在するのか、奉仕部への執着が深いのか、思ってもいなかった。

そして、俺を友達と呼ぶ奴らが現れるなんてことも、思ってもいなかった――




前では結構後になって入れてた八幡の独白をプロローグへ。これによりSAO内での八幡の立ち回りに意味が増えるかな、と。
完全に僕の独自解釈が入ってます。10巻も読みましたが、なかなか雲行きが怪しく、当作品のガイル勢は原作の9巻以降とは別キャラになってしまいます。
八幡なんて、失敗しつつ9巻がなかったまま答えを見つけてしまったので奉仕部に操を捧げる状態ですし。

そして今回書いてて思ったのですが、下手するとこれ、前回のぼっちアートより文章量が多くなるぞ……

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