恥ずかしながら帰ってきました。
歩くようなはやさで。少しずつまたよろしくお願いします。
──side ハチマン──
「あのな、別にそんな完全包囲しなくたって今更逃げたりしねぇよ」
ボス討伐後、二十四層の解放はリンド達に任せて俺はキリトと風林火山、あとアスナの面々に囲まれて二十三層の飯屋に連行されていた。
右にクライン、左にキリト、風林火山のメンバーをさらに両脇に並べ向かいにはアスナ。あんまりな包囲網に両手を挙げて降参の意を示したのだが、目の前の攻略の鬼は不服だったらしい。
「どうだか、キミの速さを以てしたらそれでも逃げきれてしまいそうだけど?」
「んなことしたらお前ら地の果てまで追っかけてくるだろ」
「もちろん」
まぁ、なんていい笑顔。こんなくだらない感想を浮かべる余裕がある辺り俺も急に余裕ができたもんだ。
──認めたくなくて、俺は目の前の女から視線をそらすことにした。
そうこうしてるとピコンとアラートが鳴って、改めてキリトからフレンド申請が送られてくる。左からの視線もとんでもないことになっている。
「……わーった、わかったから」
言い聞かせたのは誰に対してか。観念して申請を受けると大きなため息が聞こえてくる。
まったく、本当に調子が狂う。
「ん……? キリト、お前ギルドに入ったのか?」
フレンドになったキリトの情報をチラ見していると所属ギルドが空欄ではなく"月夜の黒猫団"という文字で埋まっていた。
なん……だと……? こいつ、俺と同じソロを貫くぼっちプレイヤーじゃなかったのか。なんならパーティメンバーの選定とか俺より厳しいまでありそうだったのに。
「そうなんだよ。高校生の友達で作ったらしいギルドでさ。みんな今攻略組を目指して鍛えてる最中なんだ。
みんないいやつでさ、凄い居心地がいいんだ」
「そう、か……」
心底嬉しいのだろう、自分のギルドの仲間たちのことを話すキリト。居心地がいい、か。
「なら、なくさないようにしないとな」
「え?」
「今、攻略組を目指してるんだろ? お前がついてるからある程度までとんとん拍子で進むと思うが、必ず安全第一にしておいた方がいい。少しの無理が命に関わるからな」
キリトだけじゃなく、アスナも風林火山の連中も呆けた顔でこっちを見ている。俺がこんなこと言うなんて思わなかったんだろう。
だけど、言葉を止めようとは思わなかった。
「失敗しちゃった。で済まないからな、その喪失は全部お前にのしかかる。守りたいなら強さだけじゃなくて、言葉も尽くした方がいい」
「お、おう……ありがとうハチマン」
俺はあと少しでその居場所を失う直前までいった。あまりにも耐えられなくてどうにかしたくて、結果あんな行動に出た。
命に関わることじゃなくてあんなに痛いのに。もし命を失うような出来事で居場所をなくしたら俺はきっと壊れるだろう。それはきっと、自意識過剰でなければあいつらも同じはずだ。
だから、俺は死ぬわけにはいかない。生きてこのゲームをクリアして
「はいはいそこまで、しんみりした話はいいだろ! ほら食うぞお前ら! 今日は俺の奢りだ!」
クラインの声で場の雰囲気が一気に変わる。さすがというか、こういう空気の変え方とかは大人だからこそできることだなって思う。
大人になっても俺は空気を凍らすことしかできなさそうだけど。何それ悲しすぎるだろ。
「ほらハチマンも好きなもの頼め! ボスドロップもお前が獲得したんだからその祝いも兼ねてだ!」
「やめろ肩組むな、ぼっちには適切な距離感を保ってくれ!」
ぐいぐい近づいてくるひげ面のおっさんから離れるようにする俺の姿を、対面のアスナはじっと見つめていたのだった。
──side アスナ──
「はぁー、疲れたぁ……」
ハチマンくん達と別れて自分の宿に戻ってシャワーを浴びてからベッドに飛び込んで大きくため息。今は誰も見てないからベッドに飛び込んだって大きく息を吐いたって大丈夫。
また一つ、私たちは階層を上がることができた。それに、あの二人もまた前みたいにできそうだし。
「キリトくん、本当に嬉しそうだったなぁ」
私に声をかけてきたときにはもうあの二人でパーティを組んでたから、きっと付き合いだけで見たらゲーム開始くらいからの付き合いなんだろうな。
和解とかってよりは観念した感じだったけど、あれならハチマンくんももう無理矢理離れないだろうし元通りになるのもすぐな気がする。
「にしても、意外だったな……」
ギルドに入ったって言ったキリトくんへのハチマンくんからの忠告にも似た言葉。まるで自分の経験談のようだった。
ううん、多分本当に経験談。きっと彼にも居心地のいい場所があって……そこがなくなったのかなくなりそうになったのか。それで、その時に言葉を尽くしたのか。
「それが、キミのゲームをクリアしたい理由?」
あのとき、キミはここではないどこかを……誰かを見てた。きっと直接聞いたら答えてくれない問いを、私は一人呟いたのだった。
Episode2.Fin
とんでもない久しぶりの投稿でEp2が終わるという。
この10年間で変わった自分の感性や思考でどんな解釈やお話になっていくか自分でもわかりませんが、既存の話もちょこちょこ手を加えたりするかもしれません。
すっかりおじさんになりましたが、ちょっとした趣味としてまた投稿できたらいいなと思います。ありがとうございました。