年をとったなりに時間との折り合いの付け方が上手になった気がします。
ちょっとずつ、よろしくお願いします。
「よっと」
もうずいぶんと身体に馴染んだ動作で刀を振りぬく。ほとんど抵抗を感じずにそれはモンスターの首筋へめり込みそのまま両断した。
現在攻略は二十五層、ボス部屋を探して迷宮を回っているんだが……俺はサブクエストのために二十層へと降りてきていた。俺の紙耐久でもダメージは全然受けないし、ここらの敵はもう一太刀あれば首を斬っておしまいだ。首斬りハチマンも様になってきたってか。
「しかし、意外と中層プレイヤーっているもんだな」
この辺りの層は攻略組を目指してスキルの練度を上げたりレベルを上げたりする中層クラスのプレイヤー達の狩場となっている。現にいくつかのパーティとすれ違っていて(もちろん会話だとか挨拶だとか起こるわけなく。ぼっちだからね!)、どれも上を目指す冒険者のような立ち振る舞いをしていた。それについてどうこう言うつもりはない。今いるこの世界が世界なのだ、ゲームの中に存在していて生活している以上、そっちに引かれていくのは仕方ない。俺だって決して引かれていないわけではない。
だからこうして心に強くあいつらのことを想って比企谷八幡であろうとしている。それと、このゲームを許してはいけないって感情が俺の原動力の一つだ。
話が逸れた。まぁ、とりあえずみんな命だいじに! でやってくれればいい。死んだらそれで終わっちゃうからな。
「さて、さっきのでクエストアイテムも集め終わったし報告に戻るとする──」
「わぁぁぁぁぁぁっ!!」
インベントリを見てアイテムの個数を確認していると、大きな声が聞こえてきた。
……おいおい、まさか無理矢理この層に上がってきたやつでもいるのか?
「仕方ねぇ……」
最近ちょっとずつ上げている索敵スキルを発動。
方向的にこっちか……?
「死んでるんじゃねぇぞ、頼むから」
複数の反応があった方に全速力で駆け出す。
──我ながら焦っていたらしい。良く見ればその反応の中に自分のフレンドのものがあったのに、俺は気づかずに一目散で向かったのだった。
──side キリト──
「わぁぁぁぁぁぁっ!!」
「お、落ち着けササマル! 見た目は怖いけど今の俺たちなら勝てる相手だから!」
見た目だけならめちゃくちゃごつい二足歩行のトラのモンスターの攻撃を絶叫しつつ回避しながら槍を構えるササマルにケイタが指示を飛ばす。
まぁ、俺も最初はあれ見たとき絶対強いエネミーだと思ったからな、ササマルが怖がるのもわかる気がする。
「ササマル、大丈夫だ。俺たちはちょっとずつでも確実に強くなってってる。
今のササマルなら絶対に負けないよ」
「キリト……うん、俺やるよ」
俺もケイタに続いてササマルを励まして、どうやら落ち着いたらしいササマルは深呼吸を一回。
それから槍をしっかり正面に構えて──
──トラ型モンスターが青黒い影に纏わりつかれたかと思ったらその首を撥ね飛ばされていた。
「へっ?」
ポリゴンとなって消滅するモンスター、そして影はだんだんと人の形になっていって……
「……なんでお前がここにいるんだ? キリト」
「それは俺のセリフだって、ハチマン」
我らが攻略組の中でも俺やアスナと並ぶ実力者、ハチマンが目を細めてこっちを見ていた。
☆☆☆
「なんつー紛らわしい……」
どうやらササマルの絶叫を聞いて飛んできたらしいハチマンは顛末を俺から聞いて頭に手をあててやれやれと首を振った。
やってからハッとなって自分の手を見てまたため息、何をやってるんだ……?
「あいつの癖、完全に移っちまってねぇか俺」
「ハチマン?」
「──ああいやなんでもない。とりあえず、問題はないんだな?」
「ああ、ちゃんと無理はしないようにしっかり言ってるしきっちりやってる。命だいじに! だ」
ならいい。とハチマンは立ち去ろうとする。ってちょっと待て!
「ストップ! ハチマンストーップ!」
「なんだよ、もうなんもないだろ」
「あるよ! ギルドメンバーの紹介くらいさせてくれよ!」
えー。とめんどくさそうなハチマン。こ、こいつ……俺なんかよりよっぽどソロ体質だ……わかってたけど。
「な、なぁキリト。ハチマンってことはこの人……あの攻略組の"影纏い"?」
「そうだよ。こいつが俺の友達で攻略組の"影纏い"ことハチマンだ」
「誰がお前の友達だ。……あー、ハチマンだ。
大方のことはキリトから聞いてる。まぁなんだ、こいつの言ってること聞いておけば確実に攻略組まで来れるだろうから、無理せずやっておけばいい」
頑なに友達の部分はずっと否定してくるけど、俺は諦めないからな。
ばつが悪そうに顔をそらして、ハチマンはケイタに軽く挨拶をしていた。
「ああ、キリトにはすごい助けてもらってるよ。
改めて、俺が月夜の黒猫団のリーダー、ケイタだ」
「俺はダッカー、よろしくな」
「テツオだ。さっきはササマルが迷惑かけて悪かったな」
「テツオ、そういうこと言わなくていいんだって。えっと、ササマルです。
さっきはその、勘違いさせてごめん」
「気にしてないから大丈夫だ。むしろびびってるくらいがいい」
「えっと、はじめまして。サチって言います。よろしくね」
「……は?」
サチの声を聞いてハチマンは珍しく目をぱちくりさせて、なんか信じられないものを見たような目でこっちを見てる。
なんだなんだ、サチとなんかあったりしたのか?
「サチ、知り合いなのか?」
「え、いやそんなことないはず……だよね?」
「──悪い、はじめましてで合ってる。大丈夫だ。
……知り合いに声が似ててな。あんまり似てるもんだからびっくりしちゃっただけだ」
こほん。とわざとらしい咳払いをしてハチマンは気まずそうにそっぽを向いた。……というか、
「ハチマンに、女の人の知り合いなんているのか……」
「えらいいろんな感情の籠ってそうな言い方じゃねぇか」
だってこいつ、俺以上のソロ体質のはずなのに……
「もういいか? クエストの報酬をもらいに行かないとだから行くぞ」
「あ、ああ。またなハチマン。二十五層のボス攻略はちゃんと俺も出るからな」
「その時はキリトのこと、頼む。俺たちもきっとそっちに追いつくから」
「無理はすんなよ。それに、俺がどうこうしなくてもキリトは十分に強いから問題ねぇよ。じゃあな」
そう言ってハチマンは立ち去って行った。
……そうか、俺のことちゃんと強いって思ってくれてるんだ。
「キリト、嬉しそうだね」
サチに顔を覗かれて、少し恥ずかしいけど俺は笑った。
ちゃんとハチマンが俺のことを認めてくれてるってわかって、素直に嬉しかったんだ。
「あれが攻略組の首斬りかぁ。キリトに初めて会ったときと同じくらいの衝撃だったなぁ」
「な、一瞬でモンスターの首がぱーんって飛んでって」
「ハチマンは強いよ。だから、俺も負けてられないんだ。
それにちょっと愛想悪いけど、あれで強引にいけば結構諦めて話聞いてくれるしな」
俺はそれを密かに捻デレと呼んでいる。
捻くれてるけどなんだかんだで付き合ってくれるハチマンにピッタリな言葉だと思うんだよな。
──side ハチマン──
キリトと月夜の黒猫団との遭遇から数日。俺は改めて二十五層の迷宮を回っていた。
無論ぼっちで、だ。パーティ組みたがるやつなんて数えるほどしかいないし、俺から組むことなんて基本ないからな。
「しっかし、要求たけぇなぁ」
以前ボスのラストアタックで獲得した武器である雷切丸。戦国時代の太刀を思わせるこの武器は刀なのに攻撃範囲が広く、攻撃力自体も今までの刀よりも高かった。
破格の性能ではあるんだが、いかんせん要求が高い。今の俺のレベルでも装備できない。
「今の武器でもやれはするし気長にレべル上げするしかないか」
半ば諦めて攻略を再開するべくセーフティエリアを出ようとした俺の目の前に、何人かの人影が映った。
「おや、君は……」
「うす」
最前線を攻略しているのなんて同じ攻略組しかいない。そんな見知った顔の中に一人、最近見かけるようになったやつが声をかけてきた。
確か、ヒースクリフとか言うタンクだったな。守りがとてもうまいらしくHPが全然削れないらしい。気が付けば攻略組の最前線で目立つ存在になっていた。
「君も攻略かね、ハチマン君」
「まぁな」
おそらくパーティを組んでるんだろう。後ろの連中も声をかけてくるから一応の挨拶だけ返す。
……あの、俺一層で思いっきりヘイト買うのやったと思ってるんだけど。最近なんかもう普通に攻略組の連中に挨拶されたり話しかけられたりしてるのはなんで??
「相も変わらずソロで攻略とは……そんなことができるのは攻略組でも君やキリト君くらいのものだろう」
「あんただってやればできるんじゃないか? めちゃくちゃ硬いって評判をよく聞いてるんだが」
「"影纏い"殿の耳にもそう届いてるのなら光栄だ。確かに、やってできないことはないが……時間がかかりそうだな」
「それは確かに」
「それであるならば、次のボス攻略の際は君と組んでみたいものだ」
「それは俺じゃなくてアスナとか会議のときにでも言ってくれ。必要なら俺はちゃんと組むから」
「では、そう進言させてもらおう」
返事をせず、これで会話を打ち切って俺はセーフティエリアを後にする。
実際どうなるかは別としてあいつ、俺と組むメリットあるのか?
「最近キリトやアスナにすら速いって文句言われるんだが」
攻略組最速はさすがに自負してもいいだろう。そんな俺とタンクが組んで足並みとかタイミングとか合うもんなのか……?
「今から考えることでもないか。やめやめ」
思考を打ち切って、俺は再び迷宮へと繰り出したのだった。
筆が乗ったので二話投稿でした。
乗らなくても一週間に一回はちゃんと投稿したいなって思ってます。やっぱり物を書くって楽しいですね。
では、ありがとうございました。