水だけじゃなくて塩タブレットとかも。ポカリとかがやたらおいしく感じたら要注意、です。
「なんや、ハチマンか」
「鉢合わせてからいきなりずいぶんな挨拶だな……」
今日も今日とて迷宮攻略に勤しむ。毎日ひたすら同じことをしててまるで社畜のよう。
俺、ここからクリアして脱出したらまじで働かなくても許されない? だめ?
なんていつものことを考えてたら、ちょうど鉢合わせしたキバオウが不機嫌さを隠さずこっちを見ていた。
「……相変わらず一人で回ってるんやな、ジブン」
「必要なとき以外パーティプレイは性に合わないんだよ。安全はちゃんと確保して回ってる。大規模な攻略ができるお前らほどじゃないかもしれないが仕事はしてるぞ」
「んなの、わかっとる」
こいつはいつも会うたびに不機嫌なイメージしかないが、一緒に組んでるやつがこうしていたり、軍が今でも攻略組では最大規模のギルドであることを考えると意外と上に立つ能力があるのかもしれない。
一層のいざこざで特に軍の連中とは折り合いが悪かったんだが、ここ最近はそんなこともまったくなくなっていて、時間が解決するとはよく言ったもんだと思ったくらいだ。
「ジブン、よく考えて動くんやぞ。今あんさんが死んだらディアベルはんの比じゃないくらいの亀裂が入る」
「……」
驚いた。まさかこいつからこんなこと言われるとは。
「なんや、アホ面晒して。自分がどういう立場かわかっとらんなんて言わせへんぞ。
攻略組の首斬りハチマン。けったいな二つ名まで貰ってるジブンが死んだら、最悪全部終いや」
「……覚えておく。お前こそ、軍を率いる立場なんだから迂闊なことするなよ?」
「……どうやろな」
らしくない、自嘲するような笑みを浮かべてキバオウは俺とすれ違って行く。
他の連中も軽く会釈するなりして去ってくなか、一人が俺に近づいてきた。
「……今、軍は内部分裂してるんだ。聖龍連合やお前たちに攻略を先んじられて焦る幹部と、確実に攻略をしたいキバオウさん達の一派で」
「……」
そんなことが。と思ったが、ネトゲの大手ギルドあるあるというか……よくある話ではある。
「あいつら、攻略組の頂点に軍がいるってしたいみたいなんだ。だから迷宮攻略も結構無茶にやってたりして」
「お前はキバオウ派なのか?」
「ああ。キバオウさんはディアベルさんのことがかなりショックみたいだったから、あれでメンバーの安全とかにはかなり気を使ってるんだ」
人は見かけによらないとはまさにこのことか。あのキバオウがそこまで配慮できるやつだったのかと。
──いやまぁ、修学旅行のときのやり取りとかでどんなグループにもそのグループなりの苦労やらいろいろがあることは学んだ。あいつが線の内側と外側で対応が違うのも当たり前ではあるか。
「おい! いつまで話とるんや!」
慌ててキバオウの方へ駆けていく背中を見送って、俺もまた歩き出した。
しかし、内部分裂か……
「ゲーム感覚が抜けてない……じゃなくて馴染んで来てるんだろうな」
命がけなのは理解してる。単純にこの環境に馴染んで来ている。
元々ネトゲ自体もう一つ世界みたいなもんで、現実世界と同じようなトラブルなんて普通にあるし、ネットだからとトラブルが起きるハードルが現実より低いことも多い。
ここにいる
「内々で厄介事は処理してほしいもんだけどな」
俺だって例外ではない。そうであるしかないという前提を置いてもここでの生活に馴染んでいる。脳で活動しているからこその現実逃避なのか、順応性の高さなのか。
だから自分に強く言い聞かせないといけない。俺は比企谷八幡であると。止まったままの
「二十五層が終わったらまた部活動、やるか」
自分が自分であることを忘れないために。最近攻略のためにやめていた奉仕部の活動を少し再開してもいいかもしれない。
「まずはとっととこの層をクリアしてからだな」
これで四分の一。徐々に攻略組への参加プレイヤーも増えてきて攻略速度も上がってきている。
それにここのボスも二十四層から判断して、そこまで強力なボスではないはずだ。
「……絶対に帰るからな」
誰に言うでもなく、決意を新たにした。
──現実ってのは仮想だったとしてもまぁまぁ非情で、こういうフラグはちゃんと回収されるってことを身を以て体験することになるのは、ここから数日後だった。
多分昔書いてたままだったら絶対にならなかったであろう光のキバオウ。別に光堕ちさせてもいいかなってことでこうなりました。
では、また次で。