前に比べまったりペースで失礼します。
ほんと、やりたいこと書きたいこと書いてるとどんどん長くなっていきますね。
ではでは、よろしくお願いします。
「クリエイトか……」
オンラインゲームのはじめと言えばこれだよな。とりあえず顔は当たり障りのない顔にして、名前は……ハチマンでいいか。
あまり見ない名前だし、本名だと思われないだろう。
服のカラーは黒っぽい青で、と。
「見た目はこんなもんでいいだろ。で、ステ振りは……」
オンラインゲームのキャラクリエイトと同じくらい大事な要素。ステータスの割り振りだ。
とは言え、ある程度決めてはあるけど。
「とりあえず八割敏捷。残り二割を腕力だな」
基本的に俺はオンラインゲームでもぼっちだ。
リアルと違ってコミュニケーションも取れるしフレンドもいるが、チームやギルドには入らないし、ソロで活動する。
ソロは必然的に多数との戦いが増えるため、咄嗟に逃げれる敏捷を振っておくととても楽でいい。
速ければそれだけ攻撃にも使えるしな。一方的に、戦闘にすらならない。させない。そういうステ振りと立ち回りを覚えてきてるからな、俺は。
戦闘とか嫌だろ、普通に考えても。やるなら一方的だ。ガッチガチのタンクとは相性が悪いものの、そんなのは一握りだし、相手しなければいい。
ただの盾職なら、反応できない速さで攻撃してやればいい。速さこそ正義。だからその分リアルでは動きが遅くても仕方ない。八幡悪くない。
「よし、こんなところか」
武器を曲刀に選択して、俺ははじまりの街へと降り立った。
途端に視界がファンタジー風の世界に埋め尽くされて、その再現度の高さ、ポリゴンの完成度の高さに俺は言葉を失った。
こんなの、完全に異世界じゃねぇか。凄いな、日本の技術って。
「とりあえずレベル上げるか。チュートリアルも流しておきたいしな」
目の前の男のプレイヤーに手を上げられたから同じように返しておく。
俺の(ネトゲ内での)コミュ力を侮ることなかれ。リアルみたいな立ち回りしてるとあっという間に集団にPKとかされるんだぞ。嫌でもこのくらいは覚える。
だからその分リアルでよりぼっちになっても仕方ない。もう一回言う。八幡悪くない。
「さて、と」
フィールドに出て大方のチュートリアルを終えた俺はモンスターの前に立って曲刀を構えた。男なら刀だろ。と思ったものの刀がなかったので似てるこれにしてわけである。刀は初期にないってことは途中で解禁でもされるのだろうか。この手のゲームでないってことはないとは思うが。
「よっ――っとと。なんだこれ、速すぎやしないか?」
モンスターに斬りかかろうとして、自分の速さに思わず走り抜ける。いくらリアルに酷似してるとはいえゲームはゲームだろうと油断していた。
なるほど、システムがサポートしてくれるとはいえほとんど自分の身体を動かす感覚なのか。ってことはこの速さに慣れないとだな……
「――すげぇな、VRMMO」
フィクションのキャラクターよろしく人間離れしたことをここでならできる。
そんなの、男なら楽しみじゃないわけがないので、俺は思わずにやりと笑ったのだった。
―――――
「こんなもんか」
自分の身体に慣らしつつ、延々とモンスターを狩り続ける。
レベルはそれなりに上がってきて、スキルの熟練度なるものを発見した。
とりあえず使用武器である曲刀と、一つ気になったスキルの熟練度を上げることにする。
曲刀はどうも派生があるようで、手数で押すのか単発ダメージで押すのかで選べるらしい。俺は手数より一太刀派なのでそちらへ熟練度を上げていくことにする。
なんでかって? かっこいいと思ってたし思ってるんだよ、一閃で斬り捨てるって。
「にしても、まさかリアルステルスヒッキーする日が来るとはな……」
正確にはリアルじゃないが、もう一つ熟練度を振ったのが隠蔽スキルとやらで、ステルスヒッキーができてしまうスキルなわけである。索敵スキルに引っ掛かりにくくなる、レーダーに映りにくくなる、などなど。
最初の取得スキルは影を纏ってヘイトと非ロックを薄めつつ、ゲーム内での存在感を薄めるものである。
完全に上手く行くと本当に消える。エネミーが俺を探してうろちょろするのが面白い。
「で、その隙に……」
一太刀で四足歩行の犬のようなモンスターの首を斬りつける。犬のようなってだけで、犬っぽさはまるでないので罪悪感とかも特にはない。
まぁ、このゲームだと後々対人戦とかで人も斬ったり斬られたりするんだろうけど。
「こんなもんか。ソードスキルこそまだ上手く使えないが、そこそこ動けるようにはなってきたか……?」
まだ他のプレイヤーを見ないからか、どんなものかはわからないがあらかじめ定めていた動きはできてると言っていい。高望みとか別にしてないし、これだけ動けてるだけでわりと満足してたりする。
「――おっ! おいキリト、人がいるぞ!」
「マジか。もうここまで来てるプレイヤーが他にもいたなんてな」
「ん?」
曲刀を刀のように納刀して、声のした方へ振り返る。
黒づくめの男とバンダナを巻いた男が立っていた。
パーティ組んでるってのはなんとなくわかる。
「よう、お前さん一人か?」
「見ての通りだ」
「なるほどな。知ってるか? ここ、最前線らしいぜ。俺ら含めまだ数人しかこの辺りにはいないとか。お前さん、もしかしてベータテスターか?」
「いや、抽選落ちてやってねぇ。まぁ、忙しすぎて通ってもベータテストどころではなかったかもしれないが。お前たちこそ、ベータテスターのパーティか?」
「俺は違うけど、こっちのキリトがそうなんだ。こいつ、めちゃくちゃ上手いんだ」
キリト。と呼ばれた黒づくめの男は品定めをするように俺を見ていた。まぁ、ベータテスターで上手いってならそうもなるか。
確かに、キリトとやらの立ち振舞いはネトゲ初心者よそれではない気がする。
「曲刀使いなんだな。えっと……」
「ハチマンだ。手数でごり押すのは性に合わなくてな。曲刀は派生で単発攻撃も多く覚えると聞いた」
「なるほど。と、改めて俺はキリトだ」
「俺はクライン。よろしくな、ハチマン」
「ん」
見よこのコミュ力! リアルでは考えられないくらいの会話!
目が腐らず、PKされないための社交辞令を身に付ければこれくらい余裕!
リアル? あー、リアルでもPKされるならやるかもな。いや、即やられておしまいか。モブにすらなれないとかさすが過ぎだろ俺。
「ってこと、キリトはソードスキル使えるのか?」
「当たり前だろ。……え、まさかハチマン。ここまでソロで来ててソードスキル使えないのか?」
「正当率は微妙だな。この辺りのなら通常攻撃でごり押しできてるし、別にそこまでアレなことはしてないと思うが」
「……ちょっと、戦ってるの見せてくれ」
「別にいいけど、面白くもなんともないぞ」
おー。なんて捲し立てるクラインと、じっとこっちを見てるキリト。
……なんというか、やりづらい。
「まぁ、別にやることは変わらないが」
ポップしたモンスターへ駆けていく。最短距離を短い歩数で駆けるそれは、むしろ小さく飛んでいると言っている方が正しいかもしれない。
「はやっ……」
「……」
クラインの声を後ろに置き去りにして、俺は隠蔽スキルを発動させた。こちらは本来の物陰に身を隠して気配を遮断するタイプの派生とは違う、敵やPCには見つかりやすいものの、目の前にいようが姿を現していようが、ヘイトを下げて注意をそらす。というものだ。
ステルスヒッキーは隠れる必要はない。堂々と、目の前から消えてやればいい。
……実は俺ってキセキの世代入れるんじゃね?
「そら……よっと」
モンスターが俺を見失い、そして見つける頃には既に一太刀目の斬撃を首へと叩き込んでいた。
ここから隠蔽スキルは効果が薄くなるものの、使用は問題ないし、このステ振りならそもそも捕まらない。
あれだ、消化試合ってやつだ。
「――驚いた。本当にビギナーかよ」
「ソードスキル全部ミスってただろ。あれが証拠だ」
モンスターの討伐を終えてキリトに肩を竦めてやる。
通常攻撃だけじゃやっぱり一太刀での斬り捨てもできないし、格好もつかない。驚かれてるところ悪いが、個人的にはとても不服だ。
「ステ振りは見たところ敏捷極振りで、スキルも隠蔽スキルが俺より高そうだな」
「スキルの高さはともかくとして、その通り、敏捷は極振りにしてある。最初は腕力も振ろうかと思ったんだが、クリティカル出れば結構なダメージになるからな」
「そこが何より驚いたよ。ハチマン、ゲーム上手いんだな」
「……どうだろうな、ネトゲ経験はそれなりにあるが」
やめろ、褒めるな。それはネトゲ内でもあまり耐性がない!
まぁ、身体を慣らすためにレベル上げつついろいろ動かしたりはしたから、普段の身体のつもりくらいには扱えてるとは思うが。
「せっかくだからハチマンもパーティ組もうぜ。キリトにソードスキル教えてもらって、ハチマンは俺にクリティカルの狙い方を教える。完璧だろ?」
「お前はまずソードスキルを安定して出せるようにしろよ。
ハチマン、いいか?」
「構わねぇよ。ソードスキルは使えるようにしておきたいしな」
パーティ申請、及びフレンド申請を受ける。
――これが、この先に年単位での付き合いになる最初の出会いだなんて、今はまだ知るわけがなかった。
今回のハチマンは、前よりも強い理由を明確にしようと決めてあります。
その代わりの彼なりの装備の苦労とか、前より細かく書きたいなと。
案外無駄の少ない八幡の性格をステ振りやスキル振りに入れることができたらな、と思います。
では、次回にて。