デスマーチ中の支えであった俺ガイル。原作を読み返してたら自分の書いてたものに不満が募りすぎたことが再筆の一番の理由です。
あと、感想でご指摘いただいたキリトのスキルについては苦し紛れではありますがこのような形で取得しているということでご容赦ください。
「っと」
あれからキリトやクラインとレベル上げを続けて何時間か経っていた。俺はもちろん、クラインもソードスキルを難なく出せるようになっていた。これ、あるのとないのじゃ大違いだな。だいぶ一閃で終わるようになってきた。
「ハチマン!」
「……スイッチ」
キリトを飛び越えるようにして、隠蔽スキルを発動させたままモンスターへ飛びかかる。
そのままスキルを解除して、手に持った曲刀がソードスキルを放つべく光を宿らせた。
「そら、おしまいだ」
一閃。残り少ない体力を削るのに、俺の攻撃は充分だったようだ。
レベルが上がり、スキルポイントが加算される。
曲刀の熟練度もだいぶ上がり、滑り出しは順調と言えた。ベータテスター様々だ。
「この三人パーティ、思ったよりもいい構成してるかもな」
「ハチマンの隠蔽スキルが効くやつにはハチマンを先鋒にして、そうでないなら俺かキリトが斬り込む。だな」
「ああ。三人とも得意分野が違うから組み合わせやすい。それに弱点も補いやすい」
「俺の攻撃が通らない相手なら、キリトが攻撃する。
キリトの追えない相手なら、俺が追いかける。持久戦を要するならクラインの出番、ってところか」
「そう。索敵要員が俺しかいないのがちょっときついけど」
キリトは隠蔽よりも先に索敵を取り始めていたそうで、なるほど敵が沸いたときの反応はとても速い。
ソロで続けていくならこれも取っておいた方がいいかもしれないな。
優先はステルスヒッキーだが。
「しっかし、キリトもハチマンも凄いな」
「俺のはステ極振りだからな。キリトはベータテスターだし、そんな大したことでもないだろ」
「……こう、他の人にまとめて大したことないって括られるのはちょっと言いたいことがなくもないが、ハチマンの言う通りだよ。クラインも充分やれてる。
むしろ、ハチマンが本当にビギナーなのかマジで疑いたくなってくる」
「どうしてだよ。あんなもん、走って後ろ取って首斬っておしまいじゃねぇか」
そのための敏捷極振りだ。他のプレイヤーより痛手を貰いやすいのは仕方ない。その辺りは防具や自分の回避でどうにかする。
当たらなければどうと言うことはないってどこぞのお偉いさんも言ってたからな。わりとよく被弾してたがあれは相手が強すぎだ。
「さすがにハチマンほどの極振りはできないから、あんな戦い方はできないな……」
「いいんだよ。速さは正義。速ければ逃げるのも攻めるのも一人である程度どうにかできるからな。ぼっち勢にはこれくらいがいい」
「……お前、もしかしてネトゲはソロが多かったりする?」
「……なんだよ、悪いかよ」
「いや、同志がいた」
なんでそんな嬉しそうな感じなんだよ。もしかしてキリトもぼっちプレイヤーなのか?
話してる感じそうは思えないが……
「さて、いい感じにレベルも上がってきたし、俺は落ちるわ。ピザ頼んであってよ、それ食ったらまたインするな」
「もうそんな時間か、俺もさすがに一回落ちるか」
昼はいいと言ってあるものの、夕飯まで遅れると小町に何を言われるかわかったもんじゃない。
食ったらまたログインしてレベル上げでもするか。
「じゃあ、もしインして暇ならメールくれよ。俺はもう少し狩ってるからさ」
まじかよ。こいつやる気ありすぎだろ……あれか、廃人ってやつか。
「よし、じゃあまた後でな」
軽く手を挙げるクラインは、しかしその場から動かず、キャラも消えることなく留まり続けていた。
このゲーム、ログアウトしてもキャラが残る仕様だったっけか?
「――あれ?」
「なんだ、落ちてなかったのか」
「いや、だってログアウトの項目がなくてよ。ハチマンも見てみろよ」
「は? そんなバカな……」
ログアウトログアウト……あれ、ない……?
え、どういうことだ? つまり、ログアウトができない……?
「やっぱり、無いよな?」
「……なんだこれ、不具合か? 公式は何か言ってない――っ!?」
ログアウトできない。その事実に幾ばくかの緊張を孕ませて公式からの通知を探そうとした矢先、大きな鐘の音が鳴った。
次いで画面が入れ替わり、はじまりの街の広場へと転送させられていた。
「キリトとクラインは……くそ、別のところか」
他のプレイヤーも集まっているようで、口々にログアウトできないことやこの事態について話しているようだ。
俺はと言えば、不自然なほど赤くなった空を見上げて言い様のない不安に襲われていた。
「……なんだ、あれ」
やがて、うっすらと姿を現すローブを纏った巨大な人影。
――それは、絶望の始まりだった。
―――――
「……なんだよ、それ……」
人影――このゲームの運営である茅場の言葉はこうだった。
曰く、このゲームにログアウトはない。
曰く、体力が自分の命。
曰く、それが尽きればゲームオーバー。
曰く、ゲームオーバーは現実世界での死を意味する。
100層まであるこのゲームを、デスペナルティがリアルでの死とイコールである状態で行えというのだ。
クリアさえすれば、このゲームから解放されるらしい。
それ、あと数日でできるのか?
――できるわけがない。
「俺は……俺には、約束があるんだ……なのに」
後悔。という言葉を初めて全身に受けているかもしれない。悩んだ末に出して、悩んだ末に起こした行動が、こんな、こんなゲームに打ち消される……
雪ノ下にも、由比ヶ浜にも、まだ何も言っていないのに……
「ふざけるな……ふざけるなよ……っ!」
どうすればいい。どうにもできない。
そもそもクリアできるとして、それは何年かかる。俺は――
「くそ……」
落ち着け、落ち着け。どうにかしてこのゲームから抜けないといけない。
死ぬ? 無理だ。リアルでの死が嘘には思えない。
――クリアするしか、ないのか。
「……くそが」
やってやる。否、やるしかない。
比企谷八幡は、何がなんでも雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣に会わなくてはならない。
本物を求める俺が、偽物のこの世界に、世界そのものが欺瞞であるこのゲームに留まることは許されない。
「……悪いな。雪ノ下、由比ヶ浜。思いきり遅刻しちまいそうだ。
……本当に……悪いな……」
声が震える。けれど、この震えは決意の震えだ。
例えどれほどかかろうとも、あの二人が俺を見限ろうとも、俺は絶対に、絶対にあの二人の元へ向かわなければならない。
そのためにはやるしかない。このクソゲーを、クリアする。例えどんな手を使って――
「――って、それじゃダメか。お前らはそれを喜ばないよな」
あいつらがいない以上、俺は俺らしく行動する。が、俺は外道でこそあれ人間だ。
自分の為だけに全てを犠牲にするようなやり方は、やはりあの二人は喜ばないだろう。俺も、顔向けができない。正しく、そして素直なあの二人の元へ帰るにはできる限り人間らしく振る舞わないといけない。
それこそ、奉仕部をここでも開かないといけないくらいには。
「……らしくないな、まったくもって。けどいい、今はいい。これだけが俺の指標だ」
大なり小なり変わる。ということや欺瞞に目を向けることができるようになった俺は、これくらいの指標は望むところだ。
本当なら今すぐにでもどうにかなりそうな心を保てるのは、俺らしくない感情と、この目標だけだ。
「……言うほど俺は理性の化け物でもなかったみたいですよ、雪ノ下さん」
この異常事態にあらゆるモノが麻痺していて、その末の行動や思考であることは朧気に自覚している。
けれど俺は、留まることを選ばなかった。
例え変わることがあるかもしれなくてもいいから、前へ進むべくはじまりの街を後にしたのだった。
前回との差として、八幡はあらかじめ自分で保険をかけさせています。
これからの展開も前回に比べ同じ軸を辿りつつ結構変わりそうです。
主にSAO組はハチマン攻略にとても苦労することになるでしょう。ということで(笑)
では、次回でプロローグは終わりになります。またよろしくお願いします。