ぼっちアートオンライン(再)   作:凪沙双海

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長らくお待たせしました。
これからはしっかり書き続けていけると思いますので、またよろしくお願いします。


Episode1,part4

「じゃあ、パーティを組んでくれ。当日はそのパーティで戦おう」

 

 

騎士のような男──本人もナイトを意識してるらしいディアベルの言葉に全員が思い思いに動き始める。

取り巻きのキバオウとかいうツンツン頭が少し問題を起こしかけたものの、黒人スキンヘッドプレイヤーのエギルとかいうのが介入して事なきを得た。

ベータテスターを排斥しようというキバオウの発言が場を呑まなくて良かったと安堵する。

現状、ここでキリトが動けないのはまずいからな。

 

 

「ハチマン、パーティ組もうぜ」

 

 

「おう。いいぞ」

 

 

基本ぼっちプレイヤーな俺とキリトはこうして二人パーティを組んで終わり。

さっきまでオドオドしてた姿はなくなり、いつもの調子に戻っている。

──さっき、あの空気をどうにかするために無理やりいつもの解消法を使いそうになったが、やらなくて良かったようだ。こいつは感受性豊かだからな、変に背負い込まれて攻略に影響が出ても困る。

 

 

「あとは……」

 

 

基本パーティはフォーマンセル──四人一組だ。と言っても俺はもちろん、キリトもコミュニケーション力に溢れる奴ではなく、故に……

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

進むわけではない。まぁ、変なの拾うくらいならこいつと組んでた方がいい。幸いボスはあの葉山っぽい奴──ディアベルの隊が受け持つようで、俺らは雑魚の処理が主な仕事だ。

死ぬリスク少なくボス攻略ができるならそれに越したことはない。

 

 

「……あ」

 

 

キリトがぽつりと声を出して向かった先はあのフードの細剣使い。あいつ、その場から動いてなかったのかよ。

 

 

「あのさ、良かったらパーティ組まない?」

 

 

「……」

 

 

こくり。俺の位置からでも見えるようにぺこりとお辞儀をして、細剣使いはキリトと何やら話をしている。

やがて、俺の視界の左下、パーティメンバーが映るそこにキリト以外の名前が浮かんだ。アスナ……か。

 

 

「ってことは、あいつ女か……?」

 

 

だからどうってわけでもないが、ここにいるのはみんな男ばかり。女だてらにというやつか、それとも廃人ネトゲーマーか……そもそも男の可能性もあるが。女キャラを作る男は名前もちゃんと女キャラにするからな。

 

 

「鼠みたいな例もあるから、どれも可能性があるか」

 

 

それなら姫プレイしないでくれさえすればいい。邪魔にならなければ。

 

 

「アスナ、こいつがハチマン。俺が知ってる中で一番強い曲刀使いだ」

 

 

「一言余計だ。──よろしく」

 

 

「……よろしく。あなた、迷宮にいた人よね……?」

 

 

「そりゃ、ここにいる奴はみんな迷宮にいた奴だろうよ」

 

 

「……そうよね、よろしく」

 

 

俺の知るこいつの印象は死にかけてた時の印象しかないが、ここにいるってことはそれなりにはできるんだろう。

確かに手を汚したり汚い方法を使うつもりはないが、邪魔と判断したら切り捨てる。

死を見捨てるつもりはないけど、俺は俺の目的の為に利用できるものは何もかも利用する。

 

 

「──と、どうやら解散らしいな」

 

 

「じゃあ、パーティの動きとか確認したいし少し一緒に行動しよう。二人とも、いいか?」

 

 

ただいまのパーティリーダーであるキリトの問いに頷いて、俺は席を立った。普段の俺なら無視して帰るところだろうが、相手はこのフロアのボス。これは遊びじゃない。間違えればリセットもコンテニューも効かない終わりだ。

……ゲームであって遊びではない。茅場の声が頭に響く。

ああ、ずいぶんなクソゲーだ。これなら現実世界の方が何倍もマシだ。

 

 

「……まずはお前からだ」

 

 

まだ見ぬボスへ恨み言を吐いて、俺はキリトについていったのだった。

 

 

──side アスナ──

 

 

「ハチマン! スイッチ!」

 

 

私達のパーティリーダーの彼──キリトくんの声に反応してハチマンくんが無言で躍り出る。

エネミーの目の前まで走って、それから彼の姿がブレて消える。

 

 

「これで終いだ」

 

 

いつの間にか首を跳ねられたエネミーはそのまま青い光になって消えていく。

その姿を濁った目で見つめて、ハチマンくんは曲刀を納めた。

 

 

「……相変わらずおっかねぇな……ハチマンのそれ」

 

 

「こんなもん、ポリゴンの塊だろ。俺らとは訳が違う。容赦するだけ無駄だろ。むしろどうでもいいのは無視するまである」

 

 

キリトくん、ハチマンくんの二人はとても強かった。

キリトくんは私に追い付きそうなくらい速いくせに、凄い手数と力でごり押して行くし、ハチマンくんは私でも追い付けれないくらい速くて、容赦がない。武器の性質と合わせて真っ直ぐ走ることに特化してる私だけど、彼はどの方向へ走るのも速い。代わりに、弱点部位を付けないとあまりダメージが出ないみたい。だから容赦なく首を狙うのかもしれない。

 

 

「こんなもんか。アスナ、だいたいわかった?」

 

 

「ええ、問題ないわ」

 

 

「じゃあ解散だな──と、言いたいとこだが。最後に確認したいことがある」

 

 

「どうしたんだ、ハチマン」

 

 

「ディアベル一味が全滅したときだ」

 

 

「「!?」」

 

 

驚く私とキリトくんを尻目にハチマンくんは表情を変えずに続けた。

 

 

「……まともじゃいられないだろうからな。俺は早々に退く。お前らも頭の中には入れておけよ」

 

 

じゃあな。と歩き去っていく彼を見つめてから、私はキリトくんと顔を見合わせたのだった。

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

眠れない。明日ボス戦だと思うとやっぱり緊張する。

私達のパーティは人数のこともあって末端のボスの取り巻き担当。だから、何もないはず。けど、やっぱり落ち着かない。

私が泊まる宿のある村は夜になると人がまったくいなくなって、その中にいるせいか、余計に孤独を感じる。

 

 

「……向こうはどうなってるのかな」

 

 

心配してくれてはいると思う。けど、体裁を保つことも考えてると思う。

こんな風に考えてしまうこと、それと──こうして必死に戦っている今の方が生きている気がして、なんだか悔しかった。

 

 

「……うん?」

 

 

夜の村を、何かが横切った。普段なら見えないはずの暗さでも、ゲームの中の私の目はそれが誰だか認識させてくれた。あれは……

 

 

「ハチマンくん……?」

 

 

同じ村だったのね。なんて思いつつ、彼がどこへ向かうのか気になって後を追いかける。気づかれるかな? と思ったけど、そんなことはなくて、彼は森の中で向かってくるエネミーを片っ端から斬って捨てると、その奥にある休息場所で立ち止まった。

明日に向けての練習かな……?

 

 

「……くそ、くそ……」

 

 

がくり、と膝をついて小さな声が聞こえてくる。それは、あの何を考えてるかわからないハチマンくんの、私が初めて理解できた感情だった。

 

 

「怖がってる場合か……死なない。絶対に帰る……あいつらに会うまで死ぬわけにはいかないんだよ……くそ」

 

 

恐怖。それは、今の私ですら少し麻痺してしまった感情。

あんなに強いハチマンくんは、その恐怖に怯えていた。

 

 

「やる、やってやる。そのためにここまでやってるんだ」

 

 

無機質に見えた彼は、実は誰よりも人間らしいのかもしれない。

そう思えて、気が緩んでしまったのか。私は木の枝を踏んでしまった。変にリアルなこのゲームは、それでちゃんと音がする。

 

 

「っ、誰かいるのか?」

 

 

全速力でその場を後にする。彼の足の速さならすぐに追い付かれるだろうけど、それでも走る。あんなのを盗み見られるのなんて、絶対嫌に決まってる。だから、私はそこから逃げた。

幸いにも、ハチマンくんは追いかけてこなかった。

 

 

「……明日、がんばらないと」

 

 

知ってしまった一つの真実に、私は決意を新たに宿へと戻ったのだった。

 




今回、以前のぼっちアートとは違う、アスナ視点からのハチマンを見せてみたりと復帰早々違う試みをやってみたり。感想で教えていただいたやり方で──がちゃんとできてとても気持ちがいいです。
次回はようやくボス戦。そのままエピソード1の終わりになると思います。またまたよろしくお願いします。そしてこれからもお付き合いください。では、また。

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