裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す   作:棘棘生命

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混戦の中を切り拓く

 語りかける囁きが止まろうと、狂った「シウ・ゼヴァクの魔兵」も、上位種たちの襲撃も、果てには戦場をかき回すだけの裏切り者たちも止まらない。

 

 暴徒化した力ある者たちに、民は失望と絶望とを深めていた。そして対抗する善性の戦士たちと、逃げ惑っていた隣人の死に、己の最期をも悟る。

 王都は包囲され逃げ道などなく、尻が見えていても隠れるしかない。地下や家屋で暗がりを見て、耳を塞いでいれば、今感じている恐怖は誤魔化せると思いこむしかなかった。

 

 ミグゥニの囁きは、周波数があってしまった者に影響を与える。しかしその粘りつくような甘言を聞いていたとしても、戦士の上澄みたる者であれば、正気に戻る術を心得ていた。

 単純な痛み、常備している薬の飲用、予めパターン化している気つけ等。

 狩りではなく戦を生業とする者にとって、ゼシニス大陸に平穏はないことが分かっているのである。

 

 

「邪魔ぁするなあっ!この、クソ野郎どもが!」

「ううっ…まだ頭くらくらする…。ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 

 戦士ラディアは、憤怒で感情を埋め尽くされていた。飛来する虫の上位種に斬りかかった後、必ずと言っていいほどに冒険者や魔兵に妨害される。

 操られているかなど上位種は認識しておらず、次々同胞から死傷者が出ようというのに。ラディアはその愚かさに怒っていた。

 

 修練を中断し、戦に備えている際。「束ねられた腕」である冒険者の上澄みは腐敗しきり、ラディアたち矛神と浄血の騎士たちに刃を向けた。「蛇腹」のリリアナを筆頭に、新たな越境組織の主にならんと襲い掛かったのである。

 ラディアに叩かれ気つけをされたミナは、涙交じりで彼女についていく。混戦によって、浄血を謳う騎士たちやアルビン、ロオファとは分断された。ミナにとって生存できる可能性は、ラディアと共闘する以外にないのだ。

 

 

『矛神んん!死んで、更に落ちぶれろよ!』

「ちっ!てめえもかよ……燃えやがれ!」

『ひ、うあああっ……熱いい――』

 

 

 ラディアは、現れた女性冒険者へ炎を纏った拳で強打し、追撃として大剣を叩きつけた。異相付き狩りに長け、人同士の殺し合いは久方振りだったその人物は、容赦なく燃える。

 

 そして彼女は転がった状態のまま割れ、脳に蠢いていた蛆を撒き散らし命を落とす。人間から離れた蛆はすぐに干からび、死に絶えることになった。

 意識があろうと脳機能はいじられきって、もはやその女性は尖兵であった。

 

 ラディアは十分に辺りを警戒した後、作られた骸を魔力の炎で燃やし尽くす。

 冒険者として骸を見ることに耐性のあるミナであっても、虫と臓物に溢れた光景には吐き気をおさえられない。何度もその光景を見れば尚のことだ。必死で追いつき、ラディアの肩を叩いた後、彼女は家屋の近くで胃の中身を全て出すことになった。

 

 

 軽く息を吐き、ラディアは無防備なミナを守るように周囲を見渡す。どこからも硬質な得物がぶつかる音がし、低温環境であっても、倒壊した家屋からの火の勢いは増し続けている。

 燃えて崩れた建材が落下してくる。察知したラディアは、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたミナを引っ張る。どしりと重く建材は地を揺らし、ミナはすっかり腰を抜かしていた。

 

 更にミナを引き寄せたラディアは、兜がミナの顔に着くほどに近づけ、叱咤する。口端をぎゅっと結んだミナは、震える声を必死に張り上げた。

 

 

「早く立て!つけてやった修練は、無駄だったか?ああ!?」

「う、う…。もうすっきりしたし…大丈夫だってば!」

「…ふ、ふははっ!そうだ…てめえの持ち味を活かせ!このくそったれな場所に、最後まで抗うぞ!」

「ラディアが、こんなに笑うなんて…。あは…ま、こんな日もあるよね…!」

 

 

 情緒が振りきれたラディアは声を大きく笑い、ミナははみだす焦燥を心にしまい込もうとする。

 二人は共通して思っていた。モユヌエと共にどこかへ消えた「青月」と、幼き勇者のことを。現状を覆すだけの切り札がないことも。

 

 

(エドワルド、どこで何してやがる…!くそ…こんなところで、終わってたまるかよ――――あ?)

 

 

 ラディアは兜の裏側で歯ぎしりし、突如視界を横切る光に目を奪われる。紅色の光は、矛神の証。二十有余年の生涯において、その前提を知識として持っていた彼女は、次に現れた巨体に混乱した。

 通常の人間ではありえない背丈の鎧騎士が、上位種たちをまるで紙のように消し飛ばしたからだ。鎧騎士は竜鱗を全身に纏っていた。

 

 仲間割れかと頭の中で組み立てるラディアに、その鎧騎士は気づき足早に近づいてくる。振りかぶった剣をそのまま下ろそうとすれば、更に混乱する。

 感じられる魔力が、あまりにも透き通っていたために。

 

 

「繋がっている『糸』が、また二人…。君たち、私についてきてくれ!」

「な、なに…?」

「早く!エドワルドくんの行方を知りたいだろう!?」

「…あんた、こんなデカブツとも知り合いなのか…? お前らも。」

 

 

 困惑するミナを置いて、ラディアは鎧騎士の背後を見る。そこには鎧が傷つきながらも五体満足である、魔兵や浄血の騎士の一部が固まっていた。その内、白布を纏う妙齢の女性は、知る者が見ればシウゼヴァクを統べる女王だと分かるだろう。

 加えて傷口をおさえる冒険者らしき風貌の者に、市民たちと、隊商を作っているかのようだった。

 

 巨大な地鎧竜を従えた冒険者が、傷を負った者を守り、丁重に手当てしている。その様子と女王の姿があるだけで、集団が上位種に操られているわけではないと、ラディアには分かった。

 

 しかし、警戒は解ききれない。ラディアは現在場にいないエドに呟き、剣を抜いたままじりじりと近づく。

 安心させるため、竜鱗の騎士は兜をぽろりと剥がれ落とした。整っているが上位種のように醜悪に歪められていない、神秘的な顔立ちを晒す。

 竜鱗の騎士、ハルランは鋭い瞳で上位種を睨みつけて言った。

 

 

「確かに図体は大きいが、取って食いはしないさ。意地汚く食い散らかす侵略種とは、違う。」

「なら、喋ってねえで蠅どもをぶち殺すぞ!蛆虫どもも同じだ!」

「真っすぐな娘だ。…エドワルドくんが気に入るのも分かる。…さあ、私に続け!王都を守らんとする強兵たちよ!」

「はっ!」

「王命のままに!」

 

 

 両者、今は話し合う時間も惜しく。王都中を走り回って人々を集めたハルランと、ラディアたちは絶望的な夜空に魔法を放った。

 

 

 

 「竜血呑み」はこの荒れ果てた戦場においても、沈まず寧ろ高揚していた。砕いた己の巨角を括りつけた材木を間に合わせの触媒とし、魔法を放ってから戦場の状況を確認する。

 上位種や、人類に仇なす者たちの数は多く、常人の感性なら押されているように思える。

 しかしハルランの頭の中では違った。山の向こうの閃光に、上位種に対抗できるだけの実力者たち、力無くとも生きることを最後まで諦めない人々に、ハルランは希望を見たのだ。

 

 

 戦とは、頭脳や魔力量だけでは決まらない。不屈の精神を失わない事こそ、勝利を掴めると。ハルランは優れた頭脳を持ちながら、感情や気力、そして団結こそを重視していた。

 

 そのような思考に至ったのは、理由があった。彼女は失ってもまだ、想い人の背中を追いかけているのだ。何十何百もの「糸」に巻かれた英雄の姿を。そしてよく似た騎士が現れたとき、ハルランの情感は倍になって弾けた。

 

 「ゼシニスの眼」たる運命の読み手は、国が健在であった頃。戯れに、同じ王に仕えたハルランに力の一端を譲った。その力、運命を盗み見る業の一片は、因果を糸のようだと知覚させるに至ったのである。

 ヴォルグスを愛したのは、並外れた実力や内面の素朴さだけでなく、多くを絡めとる魔性の虜になったからだった。

 

 

(この時代しかない…ここで奴らを倒しきるんだ。手遅れになる前に、私の力を全て捧ぐ…!)

 

 

 ハルランは「魂のコテージ」内だからこそ効力を発揮していたはずの「竜血の魔法」を、戦の中で書き換える。より効率的な魔力循環、威力を出せる理論へと昇華させ、個が兵器のごとく。

 死の間際、虫の上位種たちから生存本能として撒き散らされる卵は、塵も残さず紅色の光に消える。

 

 再び装着された兜の中で光る彼女の瞳はぎらぎらとして、口元には捕食者の笑みが浮かんでいた。虫が竜に敵うものかと、油断ではなく怒りを噴出する。

 

 

(…もう少し、共有しておけば良かったかもしれない。…だが君は分かっているだろう。負ける戦いに送り込んだりしないって。…皚炎を、次の段階へ――)

 

 

 ハルランは地下室でのやり取りと、三名の顔を思い浮かべる。そして胸を擦って、体の奥深くにある魂を感じた。竜と完全に融合したハルランの異形かつ雄大な魂に、微かに別の魂が付いている。異邦の人である、エドワルドの魂だった。

 血で染めた布が無かろうと、ハルランは彼の傍にある。魂を繋がらせることがどれだけ重い意味合いなのか、それを定義した者がもういないために恥じず。

 

 

 未だ、山陵から断続的に剣は放たれている。そしてついに、飛来する上位種の数が増えすぎた頃。ラーマイマから一騎が飛翔した。いつか天にいる邪竜を撃たんとする、“最強”が。

 

 身の丈ほどある湾曲した大刀を二振り、震える翅を叩き斬る。技術と融合した鎧の背面を駆使し、上位種を撃ち落とす。

 緊急事態だからこそ、派閥争いという名のじゃれ合いは隅に置かれ。双子神教の真価が発揮されるのだ。

 

 月が瞬き、かかっていた雲が晴れる。奇跡的に、地上の戦を凝視するがごとく、その二つは満月であった。

 

 

 

 

 虫の上位種、仮に蟲の闘士としよう。黒い甲冑を着込んだような奴は、外見に見合わず、凄まじい速度で拳を突き出す。

 途中から小柄な個体をそのままハンマーのごとく振るい始め。地面に叩きつけられる度、汚い汁が弾けた。

 体液は酸性のようで、何で出来ているか分からない地面をじゅうと溶かす。俺は掠る事が無いように避け、個体数を数えていた。

 

 

(この自律している個体が、後何百いる…?それに、ミグゥニらしき種類も…。)

(エドワルド君!こっちよ!)

 

 

 ぐいと引っ張られるような感覚と、鋭い女性の声のままに体を動かす。蟲の闘士の攻撃は、俺が先ほどまでいた場所を陥没させていた。

 俺は今、亡霊によって楽をさせてもらっている状況だ。モユヌエの助けが無ければ知覚できないはずの彼らが鮮明に感じられるのは、周囲にある魔力の糸が影響している。

 そう、ミグゥニが張った糸である。

 

 俺はちらりと、虫と肉塊で出来たグロテスクな椅子に座って並ぶ化物を視認する。同じ顔をした異形の幼子らは、目を細め口をかぱかぱと動かしていた。

 

 

『良い動きっ!』

『良い…器に相応しい戦士だ…!だがまだ足りないな?』

『そろそろ替えを出さないと!ねええー、良い子だからボクのために来てえ?』

 

 

 背後に回り込んで首を狩れば、蟲の闘士は糸が切れたように倒れる。そして瞬く間に風化し、新たな上位種が場に出された。もうこれで、二十五体目である。それでも大元であるミグゥニと聳える肉塊が残っている限り、敵には傷にすらなっていない。

 

 悪臭が何層にも重ねているはずの「魔力の薄膜」を通ってくる。ぶうんという羽音が追い打ちをかけ、不快感で俺の足をふらつかせようとする。

 疲労と不快を与えることが、ミグゥニの狙いだと理解しているのだ。その他にも企みはありそうだが、奴が遊んでいることに変わりない。

 

 尖兵ではなく上位種を相手取るとなれば、倒しきるより先に限界が来る。

 俺は知恵を得るため、亡霊たちに耳を傾けた。その作戦会議さえ、糸を吐いたミグゥニには筒抜けだと分かりながらも、出し抜く術を考えなければならない。

 

 一つ、入り乱れる言葉の中で亡霊が発した案が頭に残っている。まだ俺は、白き炎を使いこなせていないのだと。

 

 

(亡霊の皆、試させていただきたい。…このままではじり貧だ。)

(――それが現状で、最善の選択だろう。しかしケチョウめ、ここまで醜悪なモノに成り下がっていたとは…。才の果てが、虫擬きとは笑わせる。)

 

 

 クリフと呼ばれる古い亡霊が、俺の考えへ真っ先に賛同してくれる。そして彼が向ける言葉の先には、一個体だけ様子の違っているミグゥニがいた。

 最も鋭い目つきで、異質なプレッシャーを放っている。俺に対してというよりは背後、亡霊たちを嘲笑っているようだ。

 先人の見立て通りあれがケチョウならば、人間らしさは残っていない。人でなく享楽で人類を殺めるなら、この世界の敵だ。

 

 俺は悪臭に顔をしかめるのを止め、剣を振るうことだけに集中する。一切の感情を抜きにして、目の前の敵を殺すのだ。幸いなことに、俺の視界に映るのは敵だけである。

 

 技を研ぎ澄ませ、刃を届かせる。一騎打ちをさせ続けられ、切り伏せた蟲の闘士の数がついに五十になるとき、奴らは投入する数を三体に増やした。

 俺の足から、少しずつ炎が燃え上がる。肉塊の一切を焼き尽くさんために。

 

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