【一巻発売中】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す 作:棘棘生命
大幅に加筆し、主人公がさらりと流した実は重要だったイベントも書籍に盛り込んでおります。
また番外編も投稿いたしましたので、後書きにリンクを置いておきます。事前に告知させていただきました通り、少し重たいお話ですが、本編の補完になれば幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。
双子神教の騎士たちに連れられた最終地点には、俺の知人が殆ど揃っていた。ケルは群青血の騎士たちと共におり、特にヨヌアと談笑している。ヨヌアと同じ形をした深青の兜のオズは、黙ってヨヌアの傍を守っているようだ。彼ら姉弟らしい関係性だ。
シウ・ゼヴァクの魔兵たちも巡回とは違った目的で集っている。しかし詳細は伝えられていないようで、聞こえてくる雑談では、これから何が始まるのかを予想し合っていた。
魔兵に混じって、統一感のない衣装の者たちもいる。彼らは本来双子神教に招集された戦士たちだろうか。
また、少し離れたところでラディアも準備をしているのを見つけた。
大きく鎧の形状は変わったが、兜の特徴から彼女だと分かる。不自然に体を庇っていないことから、万全になれたみたいだ。彼女の傍にはトスカがいる。元気の良い言い合いが聞こえることから、旧知との談義は快く働いているようだ。
ミウは療養中のようだが、この場にいなくてよかった。儀式に参加するなんて言い出していたら、心配が勝ってしまう。彼女の技量は確かに高いが、戦場の人間じゃない。
そして広場の中心に、二人の巨躯が立っている。
竜血の魔法の一種だろう、竜の鎧で武装した状態のハルランともう一人。圧倒的な存在感と、竜鱗をそのまま鎧にしたようなワイルドさが、矛神の頂にいる戦士とはっきり分かった。
彼が「バックスタブレイブ」作中で語られた最強。「矛神」のアデス。魔法「感知」を使うまでもなく、迸る魔力が感じられる。
「遅くなって申し訳なかった、ハルラン様! 無事エドワルドを連れてきたのじゃ!」
「――はじめましてになるか。青月エドワルド。俺は矛神の騎士団長、アデスだ。……噂に聞いていたより、気力があるようだ。吹っ切れたか?」
「ええ、はじめまして。貴方ほどの戦士にそう思われるならば、事実でしょう。良き友人のお陰です」
「そうか。敬語は抜きだ、青月。この事態に儀式へ参画できる同志が、窮屈ではな」
「アデス殿――承知した。貴方が望むなら、少し崩させていただく」
彼から突き出された左手は、握手を求められているようだった。俺はえいやっとアデスの掌を握る。ごつごつして頼もしい、岩の如き手だ。考えれば考えるほど、なぜこれほどの実力者が本編前に死んでしまったのか、疑問でならない。
ドラクシエルの分体を見たことは無いが、それほどまでに強いのか。あのソレオや、蟲の大軍以上を想像すると、これから臨む「儀式」へ緊張が走る。
元々俺は、ラーマイマに招集がかけられた時から想定していたのだ。矛神の「儀式」とは、即ちドラクシエルの分体を任意のタイミングで呼び出すことなのだから。
ドラクシエルは人類同士の争いに強く反応する。争うことを単位と考え「闘気」と呼称するなら、一定の「闘気」が場に充満した時点で、分体が送り込まれる仕組みになっているのだ。これは作中、ラーマイマの廃教会で入手できる情報である。
ゲーム内では矛神教崩壊後であるにも拘わらず、大陸外でも度々ドラクシエルの分体は発生していた。ランダムでの襲撃イベントのようなものだったが、出てくる度に周囲の「養殖された人類」が全滅するので、最悪と言う外ない性質である。
本題をアデスに確認すると、彼は腕を組み、その後顎をハルランに向けて引いた。
「双子神教の双方から聞き及んでいる。もう儀式は行えると?」
「準備は整っている、ようだ。ハルラン王に詳しくは聞くがいい。術の理論などはどうでも良くてな。話し相手になる気も起きない」
「はー……ひどいものだよ、全く。私と話してくれるのはヴァシアと、君くらいだ。イヨも最近は聞き流している。……なあエドワルドくん、魔法を学ぶのは好きだよね?」
横入りするようにハルランは嘆息する。二人の関係性を見るに、気が合うようだ。でなければ短期間でここまで気安くすることは出来ないだろう。
縦に裂け爬虫類じみたハルランの瞳には、冗談が混じっていない。ハルランの機嫌を損ねないよう、本心を口にした。
「ああ、興味深いと思う気持ちは変わらない。是非とも教えていただきたい」
「うんうん、そうだろうとも! 集まった各員にも伝えよう。アデスくんと双子神教の望む、儀式を執り行う場所の法則についてを!」
ハルランのよく通る呼びかけは、戦士たちの姿勢を正す。改まって、俺はハルランの説明を聞くことにした。横にいてくれるアイナを見やり、戻らなくていいのか尋ねる。
「私と部下たちの任務は、聖者様たちをシウゼヴァクまで護衛することっす。聖都の司令官から次の話が来るまでは、フリーですから。先輩に協力します」
「……心強い。だが無理はしないでくれよ」
「何言ってるんですか……久しぶりに眠れてから、すぐに有事なんて、無理してるのはエド先輩の方っすからね」
むっとした顔つきで、アイナは返してくる。だがこれは崩して言えばボランティア活動であり、危険に晒されること自体が間違いだ。俺はただ頭を下げて彼女に礼を伝え、そこからハルランの説明に集中した。
興が乗ると、ハルランは難しい話をそのまま垂れ流す性格のようである。魔法の理論を齧った程度では理解しがたい。
大枠はこうだ。
普段出入りしている「魂のコテージ」。その場所とは、安全性を確保するために意識だけを飛ばしているに過ぎないそうだ。
元々世界を切り取って、異世界を作る技術なのだから、実体のまま入ることもできると。
ただその場合、魂のコテージ内で死ねば、疑似的なものとしては片付けられなくなる。
メリットとしては、完全な別世界とするため、外界への影響を無効化できることだ。儀式の内容は、矛神教を信奉する不特定多数に、危害が及ぶ可能性がある。生死は保証できないが、別視点での安全性はより高まったと言えよう。
魂のコテージを更に分割した空間へ、生身で入るというわけだ。
「――以上だ。防戦で、君たちの気分も盛り下がっていることだろう。私たちの兵力、騎士団の実力を存分に試す絶好の機会だ。アデスくんに、エドワルドくんの全力も見られる。ここまで聞いて、得物を再び抜ける者は!」
ハルランの言葉に、戦士たちはざわつく。つまりハルランは、この儀式を「祭り」だと言っているのだ。戦いを好む者のための褒美、シウゼヴァクの名誉を挽回する術と。
脅威を恐れず、士気を高めることに使う。彼女の豪胆さには恐れ入った。
目論見は上手くいったようだ。俺の周囲で次々と手が挙がる。思い違いか、俺に注がれる視線が少しずつ増えている気がする。
「矛神騎士団長の全力っ……これほど望んだものはない」
「約束通り、カネさえ貰えりゃあ良いさ。依頼はしっかりこなすぜ」
「ハルラン王、万歳! シウゼヴァクの名誉のため、この身を尽くします!」
異なる陣営から声も上がる。凍った国の雪解けが目に見えるようだ。活気が高められていく様に、俺の心も昂った。
必ず、次に繋げる。上位種からこの大陸を守るのだ。
◆
歓声の上がる中、ラディアはエドの傍で手を叩いているアイナを凝視していた。任務のため、再度シウゼヴァク訪れたトスカと話しながら、ラディアはピンとくる。優れた嗅覚は、アイナの凄まじい才覚を感じ取ったのである。
開花できず、燻らせているわけではないことも分かる。
先の戦いが起こったルヴネトでは、交流する機会がほぼなかったとしても。アイナの頬に火照る熱が、エドワルドに向ける念の強さと、同じ方を見ていることを理解するには十分な証拠だった。
「……リシディア騎士にも、あれほどの奴がいるのか」
「……? あの紺色の髪の方でしょうか」
「そうだ。てめえ、何も思わないのか? すました顔してやがるが、皮の裏には獣がいるぜ。昔のお前みてえにな」
「嗅覚はありませんが……見過せません。師匠に、くっついている。見ない内にまた一人と、毒牙は恐ろしいです」
「はあ……真剣な声でふざけやがって。ちっ……何でこうも、まともに話せねえ奴ばかりなんだ」
自分のことを棚に上げ、トスカの荒い鼻息にラディアはげんなりとする。だが療養中の暇な時間を取りもどすようなやり取りは、楽しくあった。
「あ、そういえば、積み荷に甘味を乗せてきました。お代はいただきますが、一箱いかがですか? 美味しいですよ」
「いらねえよ。おれが、どれだけ食うもんを考えてるのか知ってるだろうが」
「そうでしたか。では干し肉の詰め合わせを。ルヴネトに戻ったら、リィートイさんに渡してください」
「そういうのは、青月がやるんだよ! てめえはそろそろ儀式に集中しろ!」
そしてくだらない話をしながら、エドとアイナを視界におさめ、彼女は竜鱗の二人の後を追う。「儀式」の全貌を知れば、矛神の本質をも掴めると予感していた。
◆
びょおと、木枯らしが吹くように荒涼としている。分かりやすい足場もなく、虚空に立っていると錯覚する、ありのままを曝け出した空間だった。
「――剣神の名の下に、これより儀式を執り行う」
剣を顔前に立てるように構えるアデス。俺の周囲で、矛神騎士とヴァルミ騎士がペアとなって、それぞれの得物をぎりと握る音が聞こえる。
リューンにいるときは、冗談半分に思っていた。だが今俺は「最強」と対面している。
その溢れ出る闘気は、今まで戦ったどんな戦士よりはたまた化物よりも、濃く研ぎ澄まされていた。
これはただの手合わせでなく、自分自身でかけていた枷を取っ払わなければ儀式は成り立たない。
空間を蹴破る勢いで、アデスの足から風圧が来る。俺は「霊月の後脚」をすぐさま展開し、魔力を鋼に込めて強化してきた直剣で魔剣を止める。
「闘気」が練り上げられるまでの、持久戦が始まった。